五十二笑 バレンタインの彼女
ううっ……失敗したなあ。
バレンタインデーの日の朝、俺は思い切って積極的に行こうと、明日香ちゃんにチョコをくれと言ってみたが、どうやら、逆効果だったようだ。
そして、放課後。だんだん人手が少なくなった教室で光樹君の声がした。
「おい、明日香、帰ろうぜ」
今日は部活が無いらしい。光樹君はいいなあ。俺も、一緒に帰れればいいのに……。
「ん、いいけど」
明日香ちゃんも光樹君の誘いには乗っている。こんなんじゃ、月とすっぽんの差だ。
「あ、光樹。ねえ、そういや義理チョコ作ったから食べてよ。もう、澪と隼人には渡したんだ」
「まじ? さんきゅー」
「お返しは三倍返しだぜ?」
「ええー……」
ちらりと光樹君たちを見ると明日香ちゃんが光樹君にチョコを渡していた。
いいなあ……二人を見る。おれもほしかったな。
バレンタインチョコはたくさん貰ったけど、明日香ちゃんのがほしい。
「お? 片桐、まだいたんだ?」
急に光樹君がこちらを向き、俺を見た。俺は立ちあがって言う。
「もう、帰るところ」
「ふーん。んじゃ、一緒に帰ろうぜ。いいだろ、明日香」
「え? あ、うん……」
明日香ちゃんがうつむき、少し頬を赤く染めた。
まだ怒ってんのかな……。
それを見た光樹君が面白くなさそうにふんと鼻をならした。
「ほら、帰ろうぜ」
明日香ちゃんは我に返ったように少し慌てて立ち上がった。
「ねえ、慎ちゃん」
「な、何?」
もしかして、怒られる?
なんて思い身構える。明日香ちゃんは不思議そうな顔をしていた。
「何やってんの?」
「え、さっきのこと、怒ってるかなって思って」
「え? ああ、もう全然いいよ。それに慎ちゃんのせいじゃないし、こいつが悪いから」
「いたっ」
明日香ちゃんがバシンと光樹の背中をたたく。「何でたたくんだよー」と光樹君が喚いた。
「そうじゃなくてさ、ほらこれ」
明日香ちゃんが鞄の中を探る。その中から出てきたのは、可愛くラッピングされた箱だった。
「あたし、お菓子作るの好きなんだ。んで、義理だけど作ったから食べない?」
「本当!?」
義理って言うところに胸が疼いたけど、嬉しかった。
「ありがとう!」
「いや、そんなに喜んでもらえるなんて、あたしも嬉しいけど、おおげさだなあ」
「こいつ、でも、ホワイトデーの時怖いぜ?」
「そ。三倍返しだから」
「三倍!?」
そんな風に笑って一緒に帰る。すっごく嬉しかった。
俺の胸は小さく明日香ちゃんに気付かれないように高鳴っていた。
もう、本当に最終回に近いです。既に書き上げ済みで、第二作目に取り掛かっております。良かったら、そちらも読んでください。




