五十笑 彼女からの俺
明日香ちゃんは、俺のことを恋愛感情として見てなかったらしい。
急に胸が苦しくなって、俺は教室を飛び出した。すぐに、胸は楽になったけど、教室に入りにくかった。
「ああ、どうしよう……」
声に出して呟いてみているが、答えなど返ってこない。
その代わり頭に浮かぶのは、明日香ちゃんの言葉。
――あ、あたしは……慎ちゃん、好きじゃないから。
悲しいけど、涙は出てこない。ああ、答えは分かっていたからか。
ふうと溜息をつく。
さて、もうすぐ、チャイムが鳴るけど……このままさぼっちゃおうかな。
自分で考えて、驚いた。さぼる? そんな考え、出てこなかった。俺は、一度もさぼりなんかやったことないのに。
「変だなあ」
「ほんと、変だよ」
声に出して言うと、今度は返事が返って来た。びっくりして振り返る。そこにいたのは、光樹君だった。
「光樹君」
「よお」
軽く返事をして、光樹君が俺の横に並ぶ。
「さっきの聞いてたぜ」
「そう。……振られたよ」
「そんで、教室を飛び出したんだ」
「うん、まあ」
「よわっちいなお前」
「え?」
光樹君は、俺のほうを見て苦笑するように言った。
「俺なんか玉砕しまくりだぜ? お前はまだ、お前の口から告白してねーじゃん」
確かに、光樹君は一度、明日香ちゃんに振られている。でも、諦めていない。
「強いんだ、光樹君」
「おうっ。そんなんじゃ、野球部のキャプテンなんか、勤まんねーよ」
「そっか」
沈黙が続く。その後に、言葉を続けたのは光樹君だった。
「俺は、お前を一番の好敵手だと思ってたのになあ」
驚く一言。ライバル? なんの?
「このままだったら、俺が勝つかな」
「何に?」
「俺が、先に明日香を取るってこと」
「え?」
「お前、引越すっつったけどな、遠距離恋愛とかあるんだぜ? もうすぐ引越すやつをライバルって思わないなんてありえねえもん。油断ならねーな」
光樹君が淡々と言う。
「お前はもう、諦めんのか?」
最後に問われて俺は、戸惑った。足も自然に止まる。
「俺は……」
どうしたい? このままで終わっていいのか? せっかく、初恋なのに。自分から告白もせずに引越していいのか?
「俺は、諦めないよ」
そういうと、光樹君はにっと笑った。
「そっか。じゃ、かえろーぜ」
俺らはUターンし、教室の方へ向かった。
早くも50章です。早いですね。
まだ、最初の始まりを覚えています。って、これは、最終回に言う台詞ですね。(笑)