四十九笑 いつの間にか。
「白石さん」
「え? 上田さん?」
あたしは急に上田さんに声をかけられた。本当に急だし、上田さんとはそこまで接点も無いはず。だから余計に驚いた。
しかも――
「片桐君が白石さんのことを好きらしいけど、付き合っちゃえば」
「は?」
上田さんは変なことを言い出し、あたしが唖然とした。まさに、開いた口がふさがらない。
今、上田さんは『慎ちゃんがあたしを好き』って言った? な、何それ……。
「今、何て……」
「だから、片桐君は白石さんが好きなんだってば」
「な……」
ちらりとあたりを見渡す。クラスメイトの視線がこっちに集まっている。みんな、何故か頷いていた。
「そんなの嘘でしょ?」
「嘘じゃないわ」
突然の告白。慎ちゃんのほうを見ると、慎ちゃんは顔を真っ赤にしていた。
本当……なの?
「あ、あたしは……慎ちゃん、好きじゃないから」
クラスの空気が固まった。息を呑む音がする。
あたしはそのまま続けた。
「同じ小学校に通ってた事があってそんな出会いなんかないだろうなとは思ってるよ。すっごく特別な人。でも、好きとか……そういうのは……」
「そう」
「それに、こんな可愛くも無くて、性格も悪いあたしを好きなるわけ無いじゃん」
「分かったわ。だそうよ、片桐君」
上田さんが慎ちゃんのほうに顔を向ける。慎ちゃんは、うつむいていた。そしてそのまま慎ちゃんは教室を出て行った。
まるで何事も無かったようにクラスの空気が動き始めた。みんなあたしを責めたりしない。気遣ってくれてるのかな。
「明日香」
「澪?」
「大丈夫?」
澪が心配そうな顔であたしを見た。
「何が?」
「え、さっきのこと」
「え? 全然、大丈夫だよ。はあ、慎ちゃんは何でそんな嘘ついたのかなぁ」
「嘘じゃないと思うよ」
「……そうかな。だとしても、ぞういうのは自分でしてもらいたかったな。多分、答えは一緒だけど」
「そう。ねえ、明日香」
「何?」
あたしが返事すると、澪は耳元でそっと呟いてきた。
「――――」
その言葉にあたしは驚いて、それから、笑った。
「そんなことないよ」
澪はただ「そう」と言ってあたしから離れていった。後三分でチャイムが鳴る。あたしは席に着いた。
これでいい。あたしは、このままの関係がいいんだ。
慎ちゃんが引越しても、この関係のまま保ちたい。だから、付き合えない。
あたしは、一時間目の教科書を取り出した。涙が出てきそうになって、慌てて目に力を込めた。
本当は、本当はね。
あたしは心の中で呟いた。
――――あたしも慎ちゃんがいつの間にか好きになっていたんだ。
こういう形で本当に告白されたことがあります。その時の返事は
「嘘だぁ。別に好きじゃないし」
でした。でも、本当はその頃その人を好きだったんです。
絶対に罰ゲームとかだと思ってました。
でも、その好きな人が転校してから、色んな人に聞くと、一人、その好きな人に振られた人がいるんですけど、その時の振られた人への言葉が
「○○←(自分の名前)が好きだから、ごめん」
と言ったそうです。全く知らなかったんですよ。
明日香にはそういう思いをしてほしくないです。