四十四笑 あたしと光樹
冬休みの前日。あたしは思いっきりあくびをした。やっと終業式が終わり、教室に戻って二時間目の支度をする。
「おい、明日香」
「あん?」
机に突っ伏していたあたしは起き上がって振り向いた。
「成績、勝負しようぜ」
「いいけど」
光樹が片手で拳を作り、あたしに見せる。光樹はあたしが振ってから特に変わった様子もなかった。いつものようにからかってくる。
あたしはそんな光樹を見て安心した。罪悪感があるわけじゃないんだけど。
「白石」
光樹と笑いあっていると、後ろから隼人が声をかけてきた。
振り向いて返事をする。
「なんだ?」
「おー、冬休み暇だろ?」
「なんで、勝手に決め付けてんだよ」
隼人は普通の友人だ。もう、好きじゃないんだ。
光樹を振ってから、あたしは考え、言い聞かせてきた。だんだんと好きな気持ちも薄らいだ気がする。そんなもんだったんだ、あたしの恋は。なんて考えたときもあった。
今じゃ、普通に話すことができる。光樹の「それでいいのか」という言葉が頭に響くけど。
「えー。暇だろう?」
「うっせ! どうせ、暇ですよーだ」
「じゃ、遊ぼうぜ。つーか、スケートのチケットがあまってるんだ。行こうぜ」
「おう、んじゃ、行くわ。光樹、お前も来る?」
「ああ、んじゃ行くわ」
光樹が返事をする。どこか、暗いような……やっぱり前のこと引きずってるのかな?
「光樹」
「あ?」
「あんた、もしかして――」
「ちげーよ」
あたしが言い終わる前に光樹はにっと笑った。ずきんと心が応える。
あたしは光樹に伸ばした手を引っ込め、拳を作って握った。
ごめん、光樹。
光樹はもう一度にっと笑って、席についた。あたしも隼人に挨拶してから光樹から目を逸らしながら席に着いた。
丁度、二時間目のチャイムが鳴った。
「ふーん、成績で負けたんだ」
「まあね」
「あれ? いつもなら、畜生ぉって叫ばないの?」
部活も終了し、あたしはエナメルバックを背負いながら、真理ちゃんと話していた。
「まあ、今日はテンション低いというか……」
真理ちゃんにはあたしが光樹に告白されたことは言ってない。だから、あたしは、曖昧に言った。真理ちゃんは「ふーん」と言いながらもあたしを不思議そうに見てくる。
「明日香ちゃんが高橋の事でテンションが低くなるなんて珍しすぎでしょ」
「そうかなぁ」
あたしは首をかしげる。真理ちゃんがあははと笑った。
横に目を逸らすと野球部が練習している。光樹、いんのかな。
しばらく見ているとコロコロと弱い力で野球ボールが転がってきた。あたしはそれを拾う。
「すみません」
どこかで聞いたことのある声。あたしはその声の方へ向いた。
「あ……」
「おう、明日香。ちょっと、今日は遅くなるわ。だから帰ってて」
光樹がにっと笑ってグローブを軽く振る。ボールを返してくれという合図だ。
あたしは軽く投げて返した。パシンといういい音がグランドに響いた。
「サンキュー」
「……おう」
「今度キャッチボールしようぜ。それから――」
光樹が後ろを向いて帽子を深くかぶった。それから
「俺はまだ、諦めてねーんだぜ?」
と言って走り去っていった。
あたしは、しばらくぽかんと小さくなる光樹を見ていたが、やっと光樹の言った意味が分かり、噴出した。
後ろで、真理ちゃんのあたしを呼ぶ声がした。
昨日、投稿できずにすみません。大会で、疲れて眠りこけてしましました……。