三十五笑 これはやきもちですか?
帰り道。夕日に照らされながら笑った慎ちゃんの顔はとても綺麗だった。
――トクンッ。
あ、あれ? 顔が熱い。
あたしは思わず、慎ちゃんから顔を背けた。
「あ、あたし、こっちだから。バイバイ!」
「え? あ、うん。ばいばい」
いつの間にか着いていた分かれ道で慌てて手を振ってあたしは慎ちゃんとは別の方向に歩いた。
まだ、頬が火照ってる。思わず、慌てながら頬を両手でおさえた。
う、嘘。あたしは、隼人が好きなのに……。
慌てれば慌てるほど慎ちゃんの笑顔が焼きついて離れず、胸が高鳴る。
「どうしよぉ……」
あたしは独りで呟いた。
手を顔から外し、空を見上げ、一つ深呼吸。
「あたしが、好きなのは、隼人で合ってるよね?」
誰からも返事が来ないのを知りながら、あたしは言った。無論、返事は返って来ない。
あたしはもう一度深呼吸して、前を向いて歩き出した。
街探検の日。今日まで、あたしは慎ちゃんの顔から目を逸らし続けた。気がつくと、慎ちゃんを見ていて、驚いて目を逸らす。そんな事を繰り返した。
慎ちゃんの方は、あたしの異変に気付いていないらしく、それよりかあたしたちから離れて、他の子と遊ぶようになっていた。
「じゃあ、街の捜索だけど、まず、こっちから行ってみよう」
慎ちゃんが指示して歩き出す。あたしは慎ちゃんの後ろに並んで、澪と話していた。慎ちゃんの隣には、上田さんが並んで歩いている。
「ねー、片桐くーん。今日も暇ぁ?」
思いっきり猫撫での声を出して上田さんが慎ちゃんに話しかける。
慎ちゃんは困ったように首をかしげた。
「えっと……」
「みんな来るよぉ。と言っても女子四人と男子二人だけどねぇ。男子は鈴木と渡辺でぇ」
「うーん……あー、いいよ」
「本当!? 嬉しいなぁ」
むかつく。別に、慎ちゃんにべたべたしてるからじゃない……と思う。わたしは慎ちゃんが大好きですぅっていうオーラを出しているのがむかつく。
「あー、白石さーん」
上田さんが振り向く。勝ち誇ったような笑顔だった。
「片桐君、今日も借りるわ」
「……なんで、あたしに言うの?」
「別にぃ」
「そう。関係ないから、いちいち向かないで」
「やーん、片桐くーん、白石さんがこわーい」
カチンとくる。ほんと、今時の女子って意味が分からない。というか、あたし、慎ちゃん別に好きじゃないんだから。
「明日香ちゃん」
慎ちゃんが話しかけてくる。
トクンと心臓が鳴った。
でも、今のあたしは機嫌が悪い。ときめいている暇がなかった。
「何?」
「この場所って行ったほうがいいよね」
「……行ったほうがいいと思う」
「やっぱり!」
「片桐くん、そんな冷たい人ほっといて、話そうよぉ」
ムカッ。ってかウザッ。
「待って。ねえ明日香ちゃん」
「……あたしばっかりじゃなくて、上田さんのところに行ったら?」
「え?」
きょとんとする慎ちゃん。あたしはそれを無視して、澪に話しかけた。
「あ、明日香」
「いいよ。慎ちゃんと話したいって言ってる人がいるんだから、そっち優先した方がいいよ」
「……明日香ちゃん」
慎ちゃんがあたしを呼んだのが聞こえた。でも、あえて無視をする。
この方がいいんだよ。上田さんも、あたしも、慎ちゃんも。
ここらへんで、起承転結の転の辺りになりました。
特にないので以上です。