三十四笑 好きな彼女と帰る道
「明日香ぁ、悪い。今日、悪いけど部活あるんだ。だから帰れない」
放課後、光樹くんが明日香ちゃんに言っていた。今日は先生の会議で部活はある人はあるがない人もいるらしい。
光樹君の所属する野球部はあって明日香ちゃんの所属するソフトボール部は無いらしい。
「オッケー。つーか、あたし、子供じゃねーんだから一人でも帰れるっつーの。拝むな気色悪い」
「ちっ。いつも嫌々ながら俺様がお前のガードマンしてやってんのに。少しは感謝の言葉とか無いわけ? ホント、口悪いよなぁ、お前。星野さんを見習え」
「うっせー。じゃあ、理沙ちゃんのガードマンでもすればいいじゃねーか」
「なっ。家が逆方向じゃねーか!」
光樹君とのいつもの言い合いも終わり、光樹君が教室を出る。それに続いて明日香ちゃんも鞄を持った。
そのタイミングを見て、俺は明日香ちゃんに声をかけた。
「ねえ、明日香ちゃん。一緒に帰らない?」
「え? ああ、慎ちゃんか」
「俺で悪かったな」
「そういう意味じゃねーって。いいよ、一緒に帰ろう」
「うん」
俺の小さな冗談に明日香ちゃんは苦笑した。うーむ、光樹君や隼人君のように笑ったり言いかえしたりしてくれないなぁ。
ちょっとむくれながら帰り道を歩く。
「そういやさ、慎ちゃんって班長だったっけ?」
突然、明日香ちゃんが言った。班長といえば、三日後にある街探検のグループの事だ。俺が先頭に明日香ちゃん、上田さん、隼人君、光樹君、小坂さんが同じグループで確か四丁目のあたりを周って、帰ってきてから、地図にピンポイントなどを記していく。できたものは、来年入学する小学生へあげるらしい。
「そうだけど」
「めんどくさいけど、がんばれよ、班長」
「え、あ、うん」
明日香ちゃんがにっと笑う。それから、立ち止まった。
「ねえ、慎ちゃん。真似なんかしなくていいんだからね」
「え?」
「慎ちゃんは、そのままで良いんだよ」
「どういう意味?」
「慎ちゃんさ、何か知らないけど、無理に冗談とか言おうとしてるじゃん。夏祭りに行ってから。光樹や隼人を見習っているようだけど、あんなのを見習っても駄目になるだけだよ?」
それは、明日香ちゃんを笑わせるためなんだよ。明日香ちゃんとたくさん、話すためだよ。
俺はそう心の中で呟いた。こんなクサイ台詞、恥ずかしすぎて言えない。
「見習うならさ、あたしとか?」
「……え?」
「あー、ここは、突っ込んでくれないと。やっぱあたしはボケできないのかなぁ。やっぱツッコミ派かぁ」
「何の話してるの?」
「え? ツッコミ派かボケ派かって話」
明日香ちゃんは将来漫才師でもなるつもりなのだろうか。明日香ちゃんが漫才しているところが目に浮かび、俺は思わず笑った。相方はやっぱり光樹君で、ちょっとむかっとしたけど、それはそれで面白いなと声をあげて笑った。
明日香ちゃんは不思議そうに首を傾けた。
「何で一人で笑ってんの?」
「何でもないよ。あー、面白い」
「何か、変だよ。慎ちゃん」
「ただの思い出し笑いだよ」
そういうことにしといて。と俺は誰にも聞こえないくらいに小さく呟いた。
明日香ちゃんはますます首をかしげた。
いつも、サブタイトルをつけるのに、苦労します。凄く簡単になったり、こったりしたり。サブタイトル『班決め』なんて、あとから見て、思わず吹きました。変えようと思ったんですが、決まらないので、あのまま放置しています(汗)