三十笑 帰り道と夏祭り
「楽しかったぁ」
明日香ちゃんが呟いた。光樹君が頷く。
俺は、今、明日香ちゃんと光樹君と帰っていた。
「そうだな。特に射的にお化け屋敷は楽しかった」
「あ、わかるっ。ホント、意外に光樹って射的上手いんだねぇ。しかも、怖がりだし」
「うっせぇ! お前だってそうだろうが!」
「あたしは、誰かさんのように強がってなんかいなかったけど?」
「くっ」
光樹君と明日香ちゃんが笑う。俺はちっとも面白くなかった。『お化け屋敷』と『射的』っていう単語を聞くだけで体が反応する。
俺は深く息を吸って言った。
「……ねえ、明日香ちゃんさ、今日集合するとき隼人君と何をしてたの?」
俺は立ち止まって明日香ちゃんを見た。隼人君の表情が曇っていく。
俺は今日、明日香ちゃんと何も回れなかった。おごることも、こけた時に助けることも、お化け屋敷で走ることも。何もできなかったのが、すっごく悔しい。
「おい、そんなこと、関係ないだろ!」
光樹君が俺に向かって叫んだ。俺は怯まずに光樹君を見る。
「だって、気になるだろ。本当に夏祭りの下見だけだったのか」
「そ、それは……」
光樹君が引き下がる。俺はそれを確認し、明日香ちゃんに向き直った。明日香ちゃんは溜息をついた。
「本当に下見に行っただけだけど」
明日香ちゃんが俺を見る。その顔が少し、残念そうだった気がした。
「本当に何も無かったよ。何して遊べるか見て回っただけ。あ、わたあめをおごってもらっ
たっけ」
「本当に?」
「ここで嘘ついてどうすんだよ」
「……そうなんだ」
俺は溜息をついた。俺、何ビクビクして訊いてんだろう。
「じゃあ、逆にあたしが訊くよ。慎ちゃんたち、あたしらがお化け屋敷行ってる間、何があったの?」
「え?」
明日香ちゃんが俺を見たまま、訊いてきた。光樹君が目を丸くしている。
何で、わかったんだ? だって、隼人君と小坂さんは普段どおりに笑ってたのに。
「あたしと澪があったのは去年の小学校六年生のときで、日はかなり短いけど、ずっと、一緒だったんだよ。澪、少し怒ってた。何で? 慎ちゃんが何かしたわけじゃないよね?」
鋭い。何でこんなに鋭いんだよ。俺らが明日香ちゃんを好きって気付かないのに、何で人の表情を見てわかったんだ?
「確かに、あったよ。小坂さんと隼人君がちょっと言い合ったんだ。でも、これ以上はなんとも言えない。俺も、何で切れたのか分かんないから」
「そう。慎ちゃんのせいじゃないならいいよ。くれぐれも、澪を泣かせないように! 泣かせたらぶっとばすから」
どこかで聞いた台詞だな。
明日香ちゃんが笑った。ついでに俺の胸に拳でトンと叩いた。俺は曖昧に頷いた。
「おい、明日香。もう暗いから早く帰ろうぜ。じゃねーと幽霊でんぞ」
「はあ? お前、幽霊なんか信じてるわけ?」
「うるせー! 信じてるか、そんなもん!」
「はいはい。ほんじゃ、またね」
「え? あ、うん」
いつの間にか分かれ道だった。明日香ちゃんが俺に手を振る。俺も手を振った。
明日香ちゃんと光樹君が小さくなっていく。
やっぱり、光樹君と隼人君は俺の恋敵だ。絶対に負けないから。
ハァハァ……やっと帰って参りました。
向こうにも何故かノーパソがありまして、更新しようかなと思ったんですけど、祖父、祖母が見てるときにできないじゃないですか。
え? なぜかって?
いや、そりゃ、その……恥ずかしいじゃないですか。