二十九笑 友人関係と夏祭り
明日香ちゃんがお化け屋敷の中に入って行く。俺は小さく手を振って見送った。
「お化け屋敷ってデートの定番だよねー」
小坂さんの台詞に体が反応する。俺は、思いっきり拳を握った。デート、やっぱり光樹君は明日香ちゃんが好きなんだ。
「ねえ、片桐君。あたしも慎ちゃんって呼んでいい?」
「え?」
急に小坂さんが声を掛けてくる。俺はドキッとして一歩後ずさった。
「だってさ、慎ちゃんって言いやすいじゃん」
「え、えっと、それは……」
俺は戸惑った。別に断る理由もない。でも、明日香ちゃんに呼んでもらえる『慎ちゃん』は特別で――――
「小坂、こいつの仇名は明日香がつけたんだぜ? 一人一人が別の名前で呼んだ方が分かりやすいだろ? こいつだってさ、まだ、クラスの人とか覚えてねーんだから」
「村井君はキューピットって噂を聞いたんだけど」
俺が戸惑っている時に隼人君がたすけ舟を出してくれた。ほっと安堵する。小坂さんは睨むまで行かないが、鋭い目で言った。口は笑ってるけど、目が笑っていない。
「生憎、俺は男子専用のキューピットなんだ」
「自分のことはいいわけ?」
「はあ? 俺? 恋愛には無縁なんで」
「あんたって明日香に負けないくらい鈍感だよね」
「それってどういう意味だよ」
明日香ちゃんに負けないくらい鈍感って……。
険悪なムードが流れ始めたとき、お化け屋敷の方から悲鳴があがった。みんなが、一斉にお化け屋敷をみる。
「お化け屋敷、光樹君と行けていいなあ」
星野さんが呟いた。悲鳴がだんだん大きくなる。小坂さんがはあと溜息をついた。
「やっぱ忘れて、片桐君。村井君」
「あ?」
「あんた、今日は許すけど。その鈍感さがどこまで持つか。あたしの親友泣かしたらマジ殴るから」
「はあ? おい――」
「あー、やっと終わったぁ」
隼人君が小坂さんの肩を掴もうとしたとき、明日香ちゃんたちが出てきた。何故か、明日香ちゃんは顔に泥がついている。
隼人君は肩を掴もうとした手で拳を作り、明日香ちゃんの方に向いた。
「悲鳴がすっげー聞こえたぞ」
「大丈夫?」
何事もなかったように隼人君と小坂さんが笑った。何も知らない明日香ちゃんと光樹くんは二人で顔を見合わせて言った。
「「すんげー怖かった」」
その息ぴったりな台詞に胸が疼いた。
明日香ちゃんに、俺、光樹君、隼人君、小坂さん、ついでに星野さん。俺らの関係は砂の城のように脆いことを俺は知った。
な、なんとかの投稿です……。
普通は、ここは明日香の視点で書くんですが、今回は慎之介の視点です。
今まで、春期講習行ってきまして、疲れました。
ではでは、母の実家で楽しんできます。