二十四笑 片思いと夏祭り
慎ちゃんの家に行って二日後。夏祭りの日がやってきた。あたしは、紺色の生地の花柄の浴衣を着て、集合場所に行った。
「お、隼人」
「白石か」
居たのは隼人のみ。隼人はあたしに気付くと軽く手を振った。
隼人は黄色い半そでに短パンという素っ気無い格好をしていた。
「あんたにしちゃあ、早いじゃん」
「それって褒めてねーよな」
「まあね」
「おい」
隼人が腕時計を見る。あたしも覗き込んで確認した。ぴったりだ。
みんな遅いなー。
「ねえ、隼人。さき回っちゃわない?」
「お、いいな。そうすっか。みんなおせーし」
「おう。ほんじゃ、行こうぜ」
あたしは、隼人の前に行って先頭で歩き出した。隼人も後ろから付いてくる。
あることを思い出し、あたしは止まった。
「ん? どうした?」
「……」
「白石? 忘れ物か?」
「……はあ。あんた、何か言う事ないの?」
「は?」
隼人が首をかしげる。……女心が分かってねーなあ。
「あたし、これでも、女ですが」
「ん? ……ああ! 浴衣似合ってんじゃん」
「おそっ」
「お前が女だってこと忘れてた。ってか、お前、男じゃなかったっけ?」
「アホか!」
あたしは、思いっきり、下駄で隼人のサンダルを踏んだ。「ぬおおおおお」と隼人の悲鳴があがる。あたしはそんな隼人を見て、鼻で笑った。
「へっ。綺麗な薔薇には棘があるってな」
隼人はまだ悲鳴をあげている。あたしはおかしくて、笑った。
大声をあげて笑い、思わず涙が出る。
「ざまーみろ」
「……お前なあ」
「じゃ、いこっか」
あたしは、小走りで人ごみの中に入った。「おい待てよ」と隼人も後ろから同じように小走りで追いかけてくる。
「おい、男なんだから何かおごれよっ!」
「はあ!? それ、男も女も関係ねーだろ!」
「あっ! あたし、綿飴がいい!」
「おい、話聴聞け! しかも、たけー!」
「フライドポテトでもいいよ!」
「太るぞ!」
「うるせー! あ、射的やろ!」
「それも、俺の金だろーが」
もう一度、声をあげて笑う。隼人も笑っていた。
すっごく楽しい! こんな毎日がずっと、続けばいいのに。
あたしは、心の中で「好きです」と呟いた。
夏祭り編です。多分、林間学校編と同じくらいの長さだと思います。(ちょっと、夏祭りの方が長いかも)
笑い要素ゼロですみません。