二十二笑 弟のお気に入り
夏祭りかあ。
俺は勉強机にひじをついて、シャーペンをくるりと一回転させた。
目の前には夏休みの宿題。うーん、ここ分かんない。
「兄ちゃん」
ガチャとドアノブの回る音がして俺を呼ぶ声。椅子を回転させ、俺を呼ぶ声の声の方を見た。
ドアから、ケイが顔を覗かせている。
「何だよ。宿題を教えてもらいたいのか?」
教えるの面倒くさいなと思いながら訊く。しかし、ケイは首を振った。そのまま俺の部屋に入ってくる。
次の言葉は兄の俺にも予想外な言葉だった。
「お姉ちゃんは?」
「はあ?」
お姉ちゃん。こいつがこう呼ぶのは一人しかいない。
「明日香ちゃんが何だよ」
「遊ばないの?」
「遊ぶ?」
「だって、この頃、お姉ちゃん家も行かんし、僕ん家にも来ないんだもん。つまんないよ」
ケイが頬を膨らまして、俺のベットの上にどかりと座った。
ケイは、明日香ちゃんがかなり気に入ったらしく、俺の部屋に来るたびに「お姉ちゃんと遊ばんの?」と言ってくる。明日香ちゃんと喧嘩したのを見抜いたこともあった。
俺は、小さく溜息をついた。
「明日香ちゃんだって忙しいよ。多分」
「むー、遊びたい。電話してみればいいじゃん」
「あのなー」
「じゃあ、僕が電話する」
「はあ? 駄目だってば。俺だって宿題あんだぞ。現代の中学生は忙しいの」
「じゃあ、一緒に宿題やればいい」
こいつ、本当にしつこいな。
俺が、眉間に皺を寄せてケイを睨むように見ると、ケイはベットから降りて部屋を出て行こうとした。
「じゃあ、僕が電話するから」
「な、待て!」
俺は慌てて止める。冷静になれば、別に止める必要などないが、このときの俺は暑さのせいかテンパっていた。
「分かった! 俺が電話する!」
俺が言うと、ケイは振り向いて、にっと笑った。
はめられたと気付き、俺は大きく息を吐いてから、電話に向かった。ケイも後ろからついてくる。
「一回だけだからな。出なかったら諦めろよ」
「うん」
学級の連絡網表から、明日香ちゃん電話番号を押す。
プルルルルル――……
一回、二回、三回とコールが鳴る。やっぱ居ないかなと五回目のコールが鳴った時、ガチャリと音がした。
『はい、もしもし。白石です』
うわ、出ちゃった。ちらりとケイを見るとケイはにやにや笑っていた。
「あ、明日香さん居ますか?」
『明日香ですけど。慎ちゃん?』
「あ、うん」
『遅くてごめんねー。ちょっと、家に誰も居ないこと忘れててさー、誰か出ると思ってたんだよね』
「それはいいけど。……あのさ、今、暇?」
『おー、宿題と格闘中さー』
「あ、そうなんだ。じゃあえっと、無理、かな?」
『いや、暇だけど』
「じゃあさ、俺ん家で宿題やんない? それから、遊ぼう。ケイが五月蠅くて」
『ん、いいよ。久しぶりだなー、慎ちゃんと遊ぶの。それと敬ちゃんに会うの』
「そうだね。じゃあ、俺ん家集合で」
『はいはーい。じゃあ、バイバイ』
ガチャン。電話を切る。切ったのを確認してから大きく息を吐いた。
「やっぱり、暇だった」
ケイが横で息を吐く俺を見ながら言った。
すぐに夏祭りじゃつまらないかなと思い、書きました。
いっつも思うんですけど、サブタイトルと本編、全然関係ないですよね……。




