十九笑 林間学校!5
「こんなつもりはなかったのになぁ」
あたしは、瞬く星を見上げながら、言った。立とうろしても、足をひねって立つ事ができない。
「慎ちゃん、大丈夫?」
「え? ああ、なんとか。足、ひねったみたいだけど」
横を向くと、慎ちゃんは足を伸ばしていた。暗くて表情までは見えない。
助けくるかな。ってか、次の人遅いし。確か、光樹たちだったよね。帰ったら、先生に怒られるよなー。
あたしは小さく溜息をついた。
さて、なぜ、今この状況なのかというと少し前に戻らないといけない。
……………
…………
………
……
…
ペアを決め手から十分後。やっとあたしたちの番になり、あたしたちは、ゴールを目指して林なのか森なのか分からない、ともかく、ナイトウォークの道を進み始めた。
はあ。全く、もてる男ってつらいねー。
あたしは、隣で一緒に歩いている慎ちゃんを見ながら心の中で呟いた。
周りは暗くて、かろうじて木が見えるくらい。上を見上げれば、星が光り輝いている。
あたしは、少し驚かそうと、歩くスペースを遅めて慎ちゃんの背後に回った。
「わっ!」
あたしが大きく叫ぶと、慎ちゃんはびくりと肩を震わせ、振り向いた。
顔が真っ青になっている。でも、あたしを見ると、ほっと安堵した。
「あ、明日香ちゃん。驚かすなよ……」
「へー、慎ちゃんってこういうの苦手?」
「まあ、けっこう苦手だなあ」
「ふーん。男なのに、珍しいね」
でも、さすが美少年。苦手っていうのが別におかしくもなんともない。光樹だったら笑い転げてるかもしれない。
半分くらいまでくると、ますます辺りは暗くなった。しかも、冷えている。あたしは腕を擦りながら歩いた。
「うわっ」
ぱっと視界が暗くなった。懐中電灯の光がなくなったのだ。
「あれ? 慎ちゃん?」
懐中電灯を持っている彼に尋ねる。もう、慎ちゃんの顔さえ、見えない。気配は伝わるが。
どうやら、慎ちゃんは振り返ったみたいで、小さく言った。
「懐中電灯の電池が切れた」
「……まじで?」
慎ちゃんがこくりと頷いた気がした。
「どうしよう」
慎ちゃんの怯えた声がする。ところで、あたしはこういうのは平気だ。お化け屋敷もスタッフさんをみると大爆笑したくなるほどだ。こういう場所では「とうりゃんせ」も歌いたくなる。
「ともかく、落ち着こう。あんまり動かない方が――」
「うわっ」
あたしが言い終わる前にジャリと音がした。それから慎ちゃんの短い悲鳴が聞こえた。
「お、落ちる!」
「慎ちゃん!」
慎ちゃんの言葉に反応してあたしは大きく手を伸ばした。見えなかったけど、人の手の感触がした。そのまま握る。
しかし、体重を支えきる事ができずあたしは、前に倒れた。顔面を思いっきりぶつける。それで終わればよかったものの、そこは雑木林の中で道がない場所だったらしく、急な坂道であたしは、勢いが止まらず、転がった。
途中で、小枝で頬を切ったり、木に頭をぶつけたりして、やっとの事で止まった。
そして、今の状況に戻る。
「ごめん。本当に」
慎ちゃんのうなだれている声がした。あたしは見えないと思うけど、小さく手を振って、「全然いいよ」と言った。
ここからと上との距離は短いが、立ち上がることが出来ない今、大声で叫ぶしかない。何度か叫んだが、まだ、人が通っていないようだ。
「俺、バカだよな。明日香ちゃんまで巻き込んじまって。本当にごめん」
「だからいいって。それより、早く、光樹たち来ないかなぁ。その後、確か、澪たちだったから、四人にたすけてもらうしかないか」
「……うん」
慎ちゃんがいまいち元気にならない。あたしは話題を変えることにした。
「あのさ、慎ちゃんさ、今更だけど、上田さんと行かなくて良かったの?」
「え?」
「せっかくの友達だったのに。あたし、止めちゃって」
返事は返って来なかった。逆に、慎ちゃんは質問してきた。
「明日香ちゃんは、俺がいないほうが良かった?」
「はい?」
意外な質問で、あたしは間抜けな声で聞き返した。それから、小さく笑う。
「んなわけないじゃん。言ったじゃん、あたしにとって慎ちゃんは特別なんだってば。もし、いなくても良かったら、あたし、止めたりしないよ」
「……そうだね。ありがとう」
どうしたんだろうね、急に。あたしは疑問を持ちながら、慎ちゃんの答えを待った。あたしの質問にまだ、答えてもらってない。
しばらく無言が続くと、慎ちゃんが口を開いた。
「俺は、明日香ちゃんと回りたかったから良かったよ」
え? 嘘、それって。
あたしは今、真っ暗でよかったって思った。顔が今、ものすごく熱い。
それって、その……。
「慎ちゃん、それって」
「あ、えっと、俺にとっても特別だしさ」
慎ちゃんが急いで弁解してきた。その言葉も充分、誤解するのだが、あたしはその前の台詞があってか、少し悲しいようなでも安堵した気持ちになった。
「そっかぁ、びっくりした。あたし、誤解しちゃうところだったよ」
あたしは息を吐いた。
同時に、ジャリと土を踏むと音が上から聞こえた。人だ。多分、光樹たちだろう。あたしは大きく叫んだ。
「ちょっと、そこの人ー! 助けてー!」
すると、懐中電灯の光があたしたちの方に向いた。
えー、皆さんに謝りたいことがあります。
この小説のタイトル『素直じゃない二人』ですが、どうやら、かぶっていた小説があったらしく。どちらかというと自分がパクっているような感じになっていました。
だから、小説名を『特別な関係』に急遽変更させていただきました。
長くすみません。