十七笑 林間学校!3
慎ちゃんと澪がさきに出発した。その後に、光樹と理沙ちゃん。二人とも頑張れよとあたしは小さく呟いた。
五分後、光樹と理沙ちゃんペアが見えなくなると、あたし達も出発した。
「じゃ、いこっか」
「うん」
隼人が前に立ち、あたしがその後ろに続く。あたしは、あたしより大きな背を見つめた。
無言の状態が続く。
「……なあ、白石」
「ひゃぇ!」
突然呼ばれて、あたしは変な声を出した。それから、平静を背負って、訊き返す。
「何?」
「いや、お前って片桐が好きなのか?」
「はい?」
片桐? ああ、慎ちゃんか。
「何で、突然?」
「え、いやさ、この前、好きな人いるって言ってたし。そうかなーって思っただけだけど」
その話か……。
あたしは、小さく、溜息をついた。
「……違うよ、全然」
「そうなのか? じゃあ、嘘?」
本当に気付いてないんだ。あたしは、ずきりと胸が痛むのを感じた。
「知ってどうすんだよ」
「いや、どうもしないけど?」
やっぱり、隼人はあたしを友達としてしか、見てないんだ。いや、分かってたことだし、本当は友達のままの方が良いのかもしれないけど。
「……そう。嘘じゃないよ。これ以上は何も言わない」
「そっか。嘘じゃねーし、片桐も違うんだな?」
「だから、そうだってば」
「ふーん」
ここで会話が終わる。あたしは溜息をついた。
「あ、みんなだ」
隼人が呟く。あたしは、隼人を抜かして、澪のところに走った。
隼人を通り過ぎる前に「バーカ」と聞こえない程度に呟いて。
「ふへー、一番だぁ」
澪が大きく伸びをした。あたし達はゴールに到着した。まだ、誰もついておらず、静かな草原が広がっていた。
「んじゃ、弁当にすっか」
隼人が声をかけて、地面にシートを引き始める。あたしたちもシートを引いた。隣に澪、反対側には、慎ちゃん、正面には隼人という形で。
「お、白石、から揚げくんない?」
あたしの弁当を見るなり、から揚げを箸で指す隼人。あたしは、「駄目」と言ってひょいと自分で食べた。
「あー」と嘆く隼人を笑って自然に横に視線をずらすと、慎ちゃんとぶつかった。あたしは慌てて目を逸らす。慎ちゃんも逸らした。
光樹は、むすっとしたまま、弁当を食べる。時々、理沙ちゃんと話していた。
「あー、えっと、明日香ちゃん」
しばらく、和んでいると、隣で慎ちゃんが小さく呼んだ。あたし以外誰にも聞こえないくらいで、みんなは普通にしゃべっている。
なんとなく、話しにくくて、あたしは聞こえない振りをした。
「……明日香ちゃん」
もう一度、慎ちゃんがあたしを呼ぶ。あたしは仕方なく、慎ちゃんのほうを向いた。
何も、話さずに、だけど。
慎ちゃんは「うーん」と唸ってからあたしに言った。
「そのさ、ごめん。前のこと」
あー、まだ、気にしてたんだ。ま、そうだと思ってたけど。
あたしは、小さくうつむいた。慎ちゃんは話を続ける。
「その、本当にごめん。俺さ、明日香ちゃんのこと、どうでもいいなんて思ってないからさ。俺も、前の小学校の子と会えるってことを喜んでたし、女子で仲良くできる友達って嬉しかったし、どうでもいいなんて、思ってないんだ」
その後の言葉は言いにくいのか、言葉を濁らせる慎ちゃん。あたしは、その後の言葉をじっと待った。
だって、あたしが一番、聞きたい言葉だったから。
「だから、その、俺にとって、明日香ちゃんは“特別”な存在なんだ。だから、明日香ちゃんも俺をクラスメイトとしてだけじゃなくて、その……」
あたしは、にっこりと微笑んだ。そして、その後、何故か笑いが込み上げてきて、あたしは大笑いした。
「分かってる。もう、平気だから。“慎ちゃん”」
久しぶりに慎ちゃんを呼んだ。なんとなく嬉しい。すごく簡単なことなのに、当たり前のことなのに、嬉しくて、戸惑ってたあたし自身が面白い。
慎ちゃんは笑い転げるあたしをしばらくしてから、慎ちゃんも笑った。
四人が不思議そうにあたしたちを見るのも気にせず、大声をあげて笑った。
「あ、そう。あのさ、光樹君のこと許してあげてね。俺のために切れてくれたんだし」
あたしは、深呼吸をすると、笑いを止め、光樹を見た。
「いいよ。でも、自分から言ってよ。そういうことは」
光樹は一瞬びくっと体を震わせたが、それからうつむいて小声で言った。
「……ごめん。俺も悪かった」
あたしは満足げに頷いた。
『終わりよければ、全て良し』ってね。
東京から帰ってきました……。やばいくらい人ごみが多く、足がフラフラな状態です。。。(笑)