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特別な関係  作者: 夜明け
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九笑 俺と彼女の思い違い

 ふぅと俺は、明日香ちゃんの隣で息をついた。明日香ちゃんを挟んで右側には、光樹君がいる。

 やっぱ、きついな、転校してくると……。

 別に、友達が誘ってくれるのは嫌じゃない。ただ、あまりにもいきなりで、決めることが出来なかった。だったら、知り合いと一緒に過ごしてた方がいいし。

 それに――いやいや、それはない。だって、まだ、会って一週間も経ってないぞ。すぐになるわけじゃないじゃん。その、す、“好き”なんてさ。


「どうしたの、二人とも。無言なんだけど……」


 俺が悩んでいると、明日香ちゃんが沈黙の空気に耐えられず、話しかけてきた。どくんと心臓が跳ね上がった。


「別に、いつもこんな感じじゃね?」


 光樹君がそっぽを向いたまま言う。明日香ちゃんは、そんな光樹くんを見て、光樹君の顔を覗き込むように、一歩前に出た。


「何か、光樹、機嫌悪い?」

「別に」

「えー、何かあったんだろ? 幼なじみのあたしに白状しろよー。お? それとも好きな人ができたとか?」


 明日香ちゃんが冗談が混じったような声で言う。しかし、光樹君は顔を真っ赤にして否定した。


「ちげーよ! ば、ばっかじゃねーの!」

「バカというな、バカと! あ、さては、理沙ちゃんに振られたか?」

「はあ? 理沙だと? んなわけねーだろうが。俺はとっくに冷めてるっつーの」

「へー。もったいないなぁ。あんな、可愛い子いないよ? ま、性格はちょっと純粋すぎるけど」

「絶対ない」


 光樹君が素っ気無く否定する。気のせいか、ちょっと残念そうだった。


「ま、いいや。まだ、時間あるし」


 なんだ? 今の明日香ちゃんの言葉、かなり意味深なんだけど。

 俺は眉をひそめて明日香ちゃんを見るが、明日香ちゃんはそのまま話を終わらせて、俺に話を振ってきた。


「ねえ、慎ちゃん。あたしばっかりに付き合ってちゃいけーねーよ?」


 どこかの威勢の良いおっさんの真似をして明日香ちゃんが言う。


「はい?」

「だーかーら、いくら仲いいからってあたしと一緒にいたりしたら、変に意味を取られるし、せっかく話しかけてくれてるからさ、親友の一人や二人――」

「明日香ちゃんは嫌なの?」


 明日香ちゃんの言葉を遮って、俺は明日香ちゃんに言った。明日香ちゃんは顔を固まらせ、立ち止まった。光樹君も唖然とする。

 あれ? 俺、何でこんな事言ってるんだろ? 明日香ちゃんは心配してくれてる。なのに、口は止まらない。


「明日香ちゃんは、俺と一緒じゃ嫌なのか? 俺と変な噂がたっちゃ嫌なの? 変な噂って付き合ってるとかそういうのでしょ? 言いたい奴には言わせればいいじゃん。俺らは、ただの昔の小学校からの付き合いなんだし」

「お、おい、片桐」


 光樹君の声にはっとなり、明日香ちゃんを見た。明日香ちゃんは立ち止まったまま、うつむいている。

 やがて、明日香ちゃんは口を開いた。


「嫌だね」


 と。そのあと、明日香ちゃんは眉をひそめて、怒りの表情を見せて俺を睨んだ。


「慎ちゃんと変な噂になるの嫌だ。あたしは、あんたを心配して言ったんだけど。それに、ただの昔の小学校からの付き合いって気に食わない。あたしさ、けっこう慎ちゃんを特別に見てたんだけど。前の小学校が同じってありえないじゃん。だから、特別な友達だなって思ってたのにさ。あたしらって“ただの”付き合いだったんだ。へー、そう。じゃあ、あたしもそれでいいや。あたしはあんたをもう、特別に見ない。あたしはあんたを普通の友達としてみるよ」


 明日香ちゃんが始めて、俺を“あんた”と呼んだ。そして、“ただの”という部分を強調して言った。どくんと、心が震える。

 俺は口をぱくぱくあけて、明日香ちゃんの話を聞いていた。明日香ちゃんはふうと息をつくと、また話し始めた。


「あたしは、慎ちゃんと前、同じ小学校だったんだよって自慢したかったんだよ。慎ちゃん、それなりに顔いいし、みんなにもててたんだよ。だから、あたし、けっこう得意になっちゃってたのに。でも、あんたはあたしとは“ただの”が着いていいほどの軽い関係だったんだ。いいよ、別に。でも、そんなあんたとあたしが付き合ってるなんていう噂――ううん、嘘なんかたってほしくない」


 明日香ちゃんがまた、一つ息をつく。それから、にっこりと笑って、


「はい、これで、話はおしまい。自分で言いたいことだけ言っちゃって終わらせたけど、許して」


と言った。光樹君も俺と同じように唖然と明日香ちゃんを見ている。しかし、明日香ちゃんはそれを気にせず、分かれ道の真ん中に立った。


「んじゃ、ここでお別れだよね。それじゃね、片桐」


 明日香ちゃんが軽く手を振って俺に背を向けた。今、明日香ちゃんは俺を“片桐”って呼んだ。あんなに恥ずかしかったのに、なんとなく寂しくなる。

 光樹君はしばらく俺らを交互に見たあと、俺に駆け寄り、耳打ちをした。


「あれは、お前が悪い。明日香はもう、お前を“慎ちゃん”なんて呼ばないぜ?」


 俺が言葉を返そうとした時には、もう光樹君は明日香ちゃんに駆け寄っていた。

 そのまま小さくなる二人の影が見えなくなるまで、俺は呆然と立ち止まっていた。

うむむむむ……。また、時間通りできなかった。誰か、助けてください……。

最近、調子に乗りすぎて、借りた本が溜まってしまった。これはヤバイ……。

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