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神の気まぐれに振り回された私のこれまでの実績です

初めての作品で緊張してます。

お手柔らかにお願いします。

 皆様、お初にお目にかかります。

 私はメディアナ国クリューメイ侯爵の長子、ルクレツィア・ルイーズ・クリューメイ様に仕える侍女、ジャンヌと申します。


 乙女ゲーム『王冠の薔薇』に出てくる黒薔薇姫のお付きと言えば存じ上げる方も多少はいらっしゃると思いますが……え、いない?

 左様でございましたか。大変失礼致しました。


 いえ、ルクレツィア様方は皆ご存知の様子でしたので、皆様も存じていらっしゃるものとばかり……。我々が考えている以上に知名度が低いゲームであったのかもしれません。


 それでは先にこの世界の説明をさせていただきます。


 この世界には有数の国が存在していますが、それらの国王を統べる『薔薇の女王』なる方が存在しています。薔薇の女王には実質的な権力はありませんが、その権威は何者にも脅かされない絶対的なものとして、世界の頂点に君臨されています。北海に眠る魔王の封印を担うのが女王の役目なのです。

 その女王の世代交代の時期がやってきた事からゲームはスタートします。

 並外れた魔力を持つ十代から二十才までの少女達は次代の女王候補として各国の王子達も通う『アウラ・カリエラ学園』に身を置き、次代の王達と交流しながら、女王としての教養を磨いていきます。そして最終的に各大陸の代表権を持つ国の王子達の推薦を貰い、次代の女王が決まります。

 知力・体力・魔力だけが必要なのではなく、政治力も必要となってくるこのゲーム。

 プレイヤーは白薔薇の乙女となり、各ステータスを上げていき、逆ハーレムエンドを迎えて薔薇の女王となるのです。

 勿論各国の王子とのロマンスもございます。

 攻略対象は全員で六人。大陸を代表する王子が五人と隠れキャラですね。

 薔薇の女王となる為には一定数の好感度が必要となりますが、誰か一人に偏ればたちまち候補者から外れます。女王候補としての使命と、愛する人への恋心との板挟みになる心情、そこからどう解き放たれるのかはプレイヤーの選択次第。

 薔薇の女王候補という時点で身分の差は無いものとされ、元はただの村娘が大国の王妃になるというのも夢がありますね。

 しかし恋には障害がつきもの。

 白薔薇の乙女の好敵手である黒薔薇姫ルクレツィアが立ちはだかるのです。

 と言ってもルクレツィアは本来の目的である薔薇の女王を目指すようにと注意しているだけなのですが、残念な事に彼女の口調は高圧的に聞こえてしまうのです。


「王子に媚を売るなんて、自らの力では女王になれないと宣言しているものではなくて」


「わたくしは貴女とは違います。男を捕まえたいからここに来たというのなら、今から村に帰りなさい。元女王候補という肩書だけでも引く手あまたでしょう。貴女の望む通りの生活が待っているわ」


「王子が悩んでいるから助けてあげたいですって? 貴女は何様のつもりなのですか。女王になってからでもその態度を貫けるというのなら、どうぞご自由に。それが女王として相応しい行いだと、貴女が思うのであれば存分になさればいいのよ」


 この様に、正論ではありますが、ルクレツィアの場合一言多いのが難点でして、これを聞いた王子様方の反応は捺して知るべし、というものでございます。

 最終的に、白薔薇の乙女がどの殿方の手を取ったとしても、ルクレツィアは国へと返され、女王を虐げた者として貴族の令嬢としては悲惨な末路を辿ります。

 良くて社交界追放、相手が悪ければ封印の贄として殺害されるという末路。

 我が主であったルクレツィア様方は皆様そのような最後を回避するために孤軍奮闘されておりました。

 ルクレツィア様『方』というのは間違いではございません。私がお世話させていただいたお嬢様がおられます。皆様、ルクレツィアお嬢様と呼ばせていただいておりますが、お嬢様に存在する魂は皆様別々の方々でいらっしゃいました。

 私はこの王冠の薔薇の世界でありながら、そうではない世界の見届け人を務めさせていただいております。

 神がホイホイとルクレツィアお嬢様に転生させた乙女の魂が幸せに生きるのを見守る役目を仰せつかっているのです。

 何故、神がそのような事をなさるのか。

 それは一重に神が「悪役令嬢ものを浴びるほど見たい」と仰ったからです。全く、これっぽっちも人の迷惑は考慮されておりません。

 神にしてみれば人の命は悉く神の為にあるものとお考えのようで、無論、それに付き合わされる私の事も似たような扱いになっております。

 人とは違う神の手によって作られた所謂『御使い』でも神からすれば等しい命であるのでしょう。

 神はこの世界を作る上で決まり事を作られました。


 一つ、物語の終焉は見届け人の私が心からの笑顔を見せた時ということ。

 ハッピーエンドに終わる話で笑顔になる者はいないという判断から、神は私が笑顔になった時を終着点にされました。私が心からの笑顔を浮かべた時点で時が遡り、また新たなお嬢様様との生活が始まります。


 二つ、見届け人の私はお嬢様に神の事に関して話してはならない。

 神が見たいと望んでいるのは異世界から転生されたお嬢様がどう生きるのか、どうハッピーエンドに持ち込むのかという過程ですので、私が余計な事を言わないための保険を掛けた、というお話ですね。理不尽ですが、神はそもそもこういうものです。乙女ゲームをクリアし、悪役令嬢ものが読みたいとみみちい事を口にしますが、神とはこういうものでございます。


 当初の決まり事はこの二つでした。神が王冠の薔薇の世界を作り上げ、別世界からの死にたての乙女の魂をルクレツィア様に移植したのを見届け、私もその世界に降り立ちます。

 機を見てお嬢様の専属侍女となり、お嬢様が覚醒なされたら、本編の始まりです。

 本来のルクレツィアの魂はどうなっているのか疑問に思う事もありました。神の仰ることによるとお母様の胎内に命が宿った時点で上書きされているので、この世界には元からルクレツィアの魂は無いものとして考えられています。

 前世の記憶を思い出すタイミングは人それぞれで、早ければ生後半年、遅ければ断罪されている最中に思い出す方もいらっしゃいました。

 覚醒した後の行動は多種多様で、人の数だけ物語はあるものなのだと、感心する次第です。


 一人目のお嬢様はそもそも学園に通うことを拒みました。

 メディアナ国の侯爵令嬢として、平凡な一生を遂げようと考えられたようです。周囲がどれほど次期女王の話をしても笑顔で聞き流す胆力の持ち主でした。

 魔力を魔王の封印だけでなく国民を豊かにするものに活用する案を考え、魔力を持たない平民であろうとも、魔力の恩恵を受けられるシステムを考案したのです。これにより、メディアナ国があるアッセンブル大陸の勢力図が変わり、メディアナ国王太子が支持する薔薇姫と白薔薇の乙女の候補者対立へと発展していきました。

 メディアナ国が支持する薔薇姫を女王にすべくお嬢様は陰ながらに各大陸とも連携を図り、メインの攻略対象を失墜させる事に成功。

 かくして薔薇の女王は白薔薇の乙女ではなく、名も知らぬ薔薇姫のものとなり、お嬢様は幼馴染みであった王太子と結婚されることになったのでした。


 神はこの終わり方にたいそう満足されましたが、最初のお嬢様は少しやり過ぎてしまったようです。神は次のお嬢様の魂を移植する時、世界に手を加えました。


 二人目のお嬢様は「女王となるべく育てられた環境下」からのスタートでした。

 お嬢様のご両親の仲も少しばかり細工され、政略結婚で冷めた夫婦愛に。

 お嬢様にも幼い頃から厳格な教育を施され、学園への道は一直線に延びていました。

 歩き始めた頃に前世の記憶を思い出されたお嬢様は授業の合間をぬってご両親の心を温めていき、徐々に夫婦仲を改善されました。お嬢様が学園に入る年には貴族としては奇跡的に家族仲の良い家として有名になられたのです。何度も顔を合わせていた王太子もお嬢様に興味を持ち、フラグが立ちました。

 学園生活においても、王太子はお嬢様を女王にすべく暗躍なさって下さり、白薔薇の乙女を推薦する王子達と対立する程の立場を確立なさいます。

 代表者投票ではなく、学園全体の投票を呼びかけ、見事お嬢様が次代の薔薇の女王となるのです。

 薔薇の女王が伴侶を持つ事は禁止されています。魔王の封印を生涯の役目とし、俗世には帰れません。

 王太子とお嬢様のお別れは涙ながらには見れないものでした。想いあっているというのに、心を通じ合わせることは立場が許してくれません。私が心からの笑顔を浮かべる事なく物語が終わったのはこれだけでしょう。


 神は「攻略対象の逆ハーだったら魔王ルートが開放されるのに……なんでこいつ(王太子)モブの癖にフラグ立ってるんだ」と仰っていました。神がそれを言ってくださるまで魔王ルートがあった事すら知りませんでしたわ。


 三人目のお嬢様……この方は私の不注意で残念な結果になってしまい、本当に申し訳ないと思います。

 神の手心はまた厳しくなり、今度は王太子にフラグが立たない様にされました。

 今度のお嬢様はルクレツィアというキャラクターの性格が何故あのようになったのか、とこの環境を見て納得されたようです。

 教育に次ぐ教育。それを文句一つ言わずに受け入れる幼いお嬢様の姿は不憫でなりませんでしたが、このお嬢様もなんだかんだ言いつつ神に選ばれし魂をお持ちでした。時折屋敷を抜け出してお忍びで気晴らしをされていました。

 そこで出会うのがまたお忍びで街に降りていた王太子。城で顔を合わせる時のすましきった顔と、街に降り立った時のギャップに惚れ込んでしまったようです。神の手を掻い潜り、フラグを立てる運命力の強さは計り知れません。

 それと同時に王太子付きの護衛が私に色気付きました。心からの笑顔がこの物語の終焉と言うことで、普段から笑わない様にしていた事が仇となったようです。

 王太子とお嬢様のお忍びデートの時に何度も口説かれると次第に絆されると言いますか……。

 お嬢様が学園へ行かれる前日、お嬢様と王太子が結託し、私と護衛の休日を合わせたのです。普段から口説かれていましたが、その日は最後とあってか、普段よりも真面目な護衛の方の姿に不覚にもときめいてしまい。告白された時に微笑んでしまったのです。

 微笑みならまだセーフと思っていたのに、彼がその直後本当に嬉しそうに、「想像以上に可愛い天使の笑顔だ。俺の天使はここに居た」と言ってくれた事が、嬉しくて、私は笑顔を浮かべてしまったのです。


 物語が始まる前に物語が終わるという最悪のパターンを引き起こしてしまい、号泣する私に、神は流石に反省したのか、私に笑う事を許しました。

「そもそも物語はハッピーエンドだけじゃなく、後日談も見てこそだった」

 とのことでしたが、それなら私の笑顔をエンディングにしないで下さいまし。


 四人目のお嬢様は断罪されている最中の覚醒でした。しかも一番質の悪い魔王封印の生贄エンド。一人で北海に突き落とされるお嬢様に追いすがり、私も海に身を投げたら、魔王の直属の部下である黒竜に助けられるというパターン。

 そのまま魔王に御目通りが叶い、黒竜の庇護の元、魔界で暮らして行くことに。

 黒竜は何かと私達を気にかけて下さっていたのですが、彼との接触がお嬢様の生贄エンドのトリガーだったという事もあり、どういう対応をすればいいのか分からないお嬢様。

 どうやら生贄エンドに向かう中で黒竜はお嬢様の事がお気に召した模様でした。お嬢様も人型の黒竜の姿に即落ち。イケメン補正は強いですね。

 人型になれば魔王と瓜二つの黒竜は魔王の影武者だというのです。魔王は魔界から一歩も出てはいけないという、制約の抜け道として用意されたのが影武者というシステム。魔王の姿をしたものが魔界にいれば、魔王は外に出ることも可能とか。

 薔薇の女王の役割は魔王に無償の愛と言う名の魔力を注ぐこと。それにより、満ち足りた魔王は外に出る理由もなく、世界は平和に保たれている、と。逆ハーレムエンドには逆ハーレムにしなければいけない理由があったのですね。

 しかし、次代の薔薇の女王が決定したというのに、新たな薔薇の女王が魔界に降り立つ気配はなかなか訪れませんでした。

 焦れた魔王が黒竜を影武者にし、地上に上がった時に、入れ替わるようにして白薔薇の乙女が降り立ったのです。

 黒竜を挟んでお嬢様と白薔薇の乙女の愛憎劇は魔王が帰ってきたことにより更に悪化。封印は解き放たれ、世界は混沌と化し、一時はどうなる事かと思った所で、先代薔薇の女王が登場し、魔王を正気に戻しました。

 白薔薇の乙女は世界を混乱に陥れたとして、もう一度薔薇の女王の選定が行われることとなり、お嬢様は黒竜と魔界で末永く幸せに過ごされることとなりました。


 これまで、悪役令嬢ものには転生ヒロインが付きものとして、白薔薇の乙女にも異世界の魂を転生させていたのですが、神はこの物語で満足したのか、次の物語では転生ヒロインを作らないと宣言なさいました。

 そして次で終わりにするとも仰ったのです。

 きっと神の事ですから、飽きたのだと思われます。


 次の物語では、どんなお嬢様がやってこられるのでしょうか。

 お嬢様をヒロインとして輝かせる為に、私は頑張りたいと思います。

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