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変化者の唄  作者: こげら
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変化者と理解者

「動かない、、だと?」

「申し訳ありません。転送時の問題なのか、元から不完全な状態であったのか、起動しないようです」


検索した結果、機械は動かない事が判明し、バタバタと多くの人間が走り回っていた。


「できる限り、修復しろ。我々、[原初の知恵]が世界を作り変える、第一歩だ。つまずくわけにはいかん」

「はっ。全力を尽くします。[知恵の身は我らに]」


「知恵の身は、我らに」


合言葉とともに、また、機械に向かって走り出して行く、人々。



そして、忙しく人間が走り回っている中、アムは、鍵のかかった個室の隅でうずくまっていた。


首には、放射能の拡散を目的とした。首輪がはまっていた。


変化者の力を恐れた人間が昔に作った、変化者の力を抑えつける装置である。 装置者の許可がなければ、変化する事はできず、また、強力な中和作用を発動させ、首輪をつけられた者の命をも取る事ができる、変化者専用の奴隷用の首輪である。



「ラディは無事かしら。私よりも強いから、心配はないと思うけど」


アムも変化者である以上、変化を封じられてしまえば、鍵のかかった、鉄の扉の前には、何もできなかった。


 この部屋で、目が覚めて、数回の食事をもらっていた。

今が、朝なのか、夜なのか、何日たったのか、全く分からない。

ただ、手持ちぶさたになると、壁に指で想い人の名前を書く。


 文字は、ラディに教えてもらった。彼の名前が書きたくて、とにかく、頼みこんだのは、良い思い出であった。


彼が好きなのだと、自分が気がついたのは、数年前。今では、彼の子供以外はいらないと本気で思うくらい、大好きになっていた。今すぐ、彼の子供が欲しいと思うくらいには。


ただ、彼は自分の事を子供扱いしかしてくれない。彼の中では、自分は妹みたいな立ち位置になっているのは、知っていた。

 それでも、一緒にいたい。一人になると、すさまじく、寂しい。


「ラディの馬鹿。助けに来てくれるわよね」


アムはボソッと呟きながら、壁に指でラディの名前を書くと言う、意味は特にない動作を続けていた。



「アムっ!」

叫びながら、ラディはベッド(・・・)から体を起こした。


周りを見渡すと、暗い部屋であった。天井の明かりが時々、明滅していた。


「地下工場?」

ラディが呟く。手を見ると、人間の姿になっているのがわかる。そして、緑の服を着せられていた。


「あら、もう動けるのね。あれだけ殴られていたのに、さすが変化者と言うべきかしら?」


扉が開き、金髪の20代半ばくらいの女性が入って来る。

ただ、腕に放射能中和装置のブレスレットをしている。


「誰だ?」


「そう、警戒しないでちょうだい。心配しなくても、私達はあなたを排除しようとは思わないわ。この部屋も私達、人間にはちょっときつい放射濃度だしね」


じっと、女性を見つめる、ラディ。


「はあ。まあ、警戒して、当然よね。まあ、ちょっとついて来てちょうだい。あ、私の名前は、ロミュ。一応、あなたを助けたメンバーの一人よ」


 女性につれられて、別に部屋に入って行くと数名の人間が、モニターを見つめていた。

 その中で、髭を延び放題にさせた、一人の男がラディを見た。


「を、もう動けるのか。さすが、変化者というべきかな。私はここ、[命の木陰]のリーダーをさせてもらっている、ガウスと言う。よろしくな」


ラディに握手を求めて来る、ガウス。

ラディはその手を見て、戸惑っていた。

 初めてであった。変化者に握手を求めて来る、人間など。


「はは。俺達は、種別を一切気にせず、ただ、地上で暮らしたい。それだけの為に集まって活動している。まあ、酔狂の末裔だな」


 苦笑いを浮かべるガウス。


「まあ、すぐに信用してくれるとは、思ってないが。これだけは、信じて欲しい。俺達は君に悪い事はしない。あと、君が寝ていた部屋は自由に使って欲しい。あの部屋だけでね。放射濃度が高く出来る部屋は」


「その代わり、異形者じゃなければ、掃除も出来なくてね。管理が大変だから、使って貰えると、とっても助かるの」


ロミュも笑いながら、話しかけて来る。


ラディには、新鮮だった。人間が、普通に話しかけて来る事が。


「とりあえず、助けてくれたみたいで、すまない。助かった。ただ、何が何だか、全く分からないで、混乱しているんだ」


「まあ、今起きたばかりだしね」


そんな状態のラディをつれ回している、張本人のロミュ。


少し、ロミュを睨む、ラディ。

「で、何があったのか、知りたいんだが、後、俺の連れもいなくなって、探したいし、助けられて、何時間経ったんだ?」


「あ~。言いにくいんだが、もう、お前が運びこまれて、4日くらい経っててな。死にかけてたから、とりあえず、あの部屋に寝かせたってのが、本当のところなんだ。俺達も、お前と一緒で、あの機械を壊そうと思って、侵入したんだがな」


「はあ? じゃあ、アムは?女の子はいなかったか?」


「いなかったな。俺たちが見たのは、ガーディアンにボコボコにされてた、お前だけだった」


「っく! すまない、世話になった。すぐに探してやらないと」


最後の言葉は小さく呟き、すぐに外に出ようと走り出そうとした瞬間。めまいがして、倒れ込みそうになった。

 ロミュに支えられるラディ。


「無理よ。まだ、体は治りきっていないのよ。もう数日は寝てないと」


「ありがとう。でも、大丈夫だ。あいつを探さないと」

再び、ロミュを振り払い、出ようとする、ラディ。


すると、その後ろ姿に声をかけるガウス。


「そのアムて娘は、もしかしたら、機械の転移に巻き込まれたんじゃないのか?だったら、俺たちも、今世界中の仲間と連絡を取って探している最中だ。ここにいて、しっかり体を治したらいい。あ、信用してないな、まあ、こちらも、切り込み役がいてくれた方がやり易いからな。お前に、切り込み役をやってもらいたい、だけなんだよ」


 裏表のなさそうな笑みでいい放つ、ガウス。

ラディはなんとなく、ガラムを思い出していた。


面倒見のいい、父親のような、おっさんを。


「ここなら、世界中の情報が入って来る。一人で、探し回るより、見つかる可能性は、早いと思うぞ」


その言葉に頭は納得する。しかし、感情は、ついて来ない。


「まあ、恋人探しも任せてくれや、全力でやらして貰うぜ」


その一言に。


「すまない、助けて欲しい。あいつを探してもらいたい、です。」


ラディは、ゆっくり頭を下げる。

にこやかに、ガウスはもう一度、手を差し出した。


その手をしっかり握りながら、ラディの目からは涙が溢れていた。

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