変化者の反撃
「さらに所属不明機接近中!」
コロニーに接近し続ける不滅船。
「一斉射で、落とせっ!」
モニターを見ながら、叫ぶギウ。
しかし、モニターの先では、船は前方にバリアを張ったまま、こちらにまっすぐ走って来る。
無数の光線が走る中、バリアの上に別の三角形が生まれる。
「前方の船に高エネルギー反応ありっ!」
操作室の中で、人間の一人が叫ぶと、目の前を凄まじい光りが通り過ぎて行った。
船の上部にできた三角の真ん中から、光りの柱が生まれたのだ。
遅れて来る、衝撃。
「電源施設、破損!コロニー上部、消滅しましたっ!」
悲痛な叫びを聞いた、ギウは、
「何しとるかぁ!俺に殺されたくなかったら、あの船を沈めろっ!!!」
と今までの余裕を捨て去り、怒鳴り散らすのだった。
「バカっ!このポンコツっ!あそこには、アムがいるんだぞっ!」
ストリゴイの中でも怒鳴り声が響いていた。
バリアを張り、突進したら一斉砲撃を受け、何発か機体を掠めて行った。
幸い、ストリゴイは、二階建ての日本の家程度の大きさしかない。
野球場100個以上の大きさを誇るコロニーからして見れば、バリアを張った今、本当に当てにくい対象と化していた。
しかし、光りが止む事はなく、反撃できますとシャルが言うため、許可を出すと。
今バリアを張っているビットが追加で生まれ、機体上部で三角形の形を作り、その中心から、この船よりも大きな光線が走って行ったのだ。
間違いなく、直撃したら大爆発を起こしていた。
『ちゃんと、狙って外したんですけど、以外と威力調整がうまくいかなかったみたいです』
てへぺろをするシャル。
ラディでなくでも、怒りたくなる姿であった。
「もう、あれは絶対撃つなっ!」
ラディが叫んだ時、船が激しく揺れた。
『あら、本気にさせてしまったみたいです』
見れば、数百の船が自分の船を取り囲んでいた。
『全船出て来ましたか』
シャルの声が少し固くなる。
全ての船の砲台はストリゴイを向いていた。
『対ショック姿勢!全方位からの砲撃きます!
回避行動と同時にバリア広域展開!』
ラディは突然、激しく動き出した船の中で転がって壁に体を打ち付けた。
モニターも一時的に全て落ちる。
『反撃行動開始、エネルギー不足を確認。ビット数が足りません。反撃不可。防御に徹します』
全く余裕のない、シャルの声を聞きながら、ミキサー状態はしばらく続いた。
話す余裕もなく、ラディは意識が飛ぶまで、あちこちにぶつかり続けるのだった。
いくら時間が経ったのか、ラディが目を覚ますと、船は真っ暗だった。
「俺は死んだのか?」
『私と、同じくらい、しぶとい、あなたが、死ぬ事は、なかなかないと、思いますよ』
ラディが呟くと、疲れた声が響いた。
モニターのほとんどが壊れ、敵の位置と、自分の位置が記された地図みたいな物だけが、表示されている。
『破損率、60% 外部モニター8割破損。ビット残り2機。
バリア展開不能。かなりピンチですね。本当にしつこいくらい撃ちまくってくれました』
シャルが呟くように現状を伝えて来る。
モニターの一部が外を映した時、周りの船の砲台が再びこちらを捉えるのが見えた。
『トドメを刺す気ですか』
シャルが悔しそうに空中を睨んだそのとき。
目の前の船が光り爆発した。
『「!?」』
二人が絶句した時、メールが入って来た。
[間に合わせてやったぜ。時間稼いでやるから、行って来い。命の木陰 一同]
「間に合ったな」
5機しかない、船を引き連れて、ガウスは空に上がって来ていた。
今の現状で5船も動けるように出来たのは奇跡だった。
頑張りすぎるほど頑張って、倒れたロミュの事を思い出し、帰ったら、しっかりご褒美を与えてやらなきゃいけねぇなぁと考えながら、口元が緩む。
そして、笑みを消すと、ガウスは怒鳴るように叫んだ。
「全機、攻撃開始! 盾役はエネルギー全開!あの船を、走らせろっ! ここが、散り際と思いやがれっ!」
一気に火線が走り、突っ込んで来る船。
完全に不意討ちの形になり、慌てふためく、数百機。
あわてて方向転換をして、お互いにぶつかるなど、大混乱をおこす。
『助かりましたね』
「本当にな。シャル行けるか?」
『もちろんです。不滅船の名前、伊達ではないですよ』
「よし!行くぞっ!」
ラディの声に、ストリゴイは大爆発を起こす。
半分をパージし、ビットが、前後に展開する。
半分になったストリゴイは、ビットから光りを走らせ、ラグビーボールのような形になる。
『最終突撃形態っ。ストリゴイ行きますっ!』
回転しながら、今までの倍以上のスピードで、ストリゴイはコロニーに突っ込んで行く。
「一気に押しこめっ!態勢を整えられたら、終わりと思えっ!」
ガウスの叫びに、さらなる火線を生み出す、命の木陰の5船。
モニターの中で、囲まれていた船が爆発をおこし、小さくなり、さらに突っ込んで行くのが見える。
「ここ一番のあがき、お前そっくりじゃあねぇか。なぁガラム」
その昔、一緒に酒を飲んだ悪友を思いながら、ガウスは攻撃指示を続ける。
しかし、混乱は混乱を生み出し、同士撃ちまで始めた巨大船団に小さな船団やさらに小さな船などもう見えていなかった。
「役立たずがっ!」
いきなり、目の前で始まった同士撃ちに激昂するギウ。
「こちらの通信が聞こえていない様子です」
冷静に状況を伝えるオペレーターをにらむと、右手を振った。
オペレーターの頭が音もなく飛ぶ。
「この私に、これだけ屈辱を味会わせてくれた、あの船を迎えに行ってやらねばな」
ギウはそれだけ言うと、オペレーター室から出て行った。
後は、静かに明かりが明滅するモニターだけがここに人がいた事実を伝えていた。




