変化者への試練 3
ゆっくりと、ラディが目を覚ます。
さっきまで、青と黄色の世界にいたはずなのだが、目の前は、真っ赤だった。
今、ラディは丸いテーブル状の岩の上に寝ていた。
岩の下では、赤い何かがぼこぼこと音を立てている。絶対落ちたら、駄目だと分かる色と姿であった。
ガランと、向かいの大きめの岩が赤い何かに沈んで行くと、ジュッと音を立てて岩が消滅した。
「はは。溶けるのかよ」
その姿を見て、冷や汗を流すラディ。
ゆっくりと体を起こす。
どのくらい、寝ていたのかはわからないが体の傷は治っていた。
足場は悪く、あちこちの岩場は崩れかけている。
ラディは、体や腕をぐるっと回す。
「こういう時は、異常な回復って便利だよな」
そう呟くと、ラディは大きい足場へと跳び移った。
ラディが着地したとたんに、地面が揺れ出す。
バランスを崩して、しりもちをつくラディ。
岩場を取り囲むように、何本も火柱が上がる。
そして、その火柱がラディの真上で集まり一気に落ちてきた。
「だあっ」
力いっぱい地面を蹴り、その場を飛び退く、ラディ。
地面を真っ赤にしながら、地面に溜まった赤い水溜まりは空中に戻っていき、て長い蛇の形を作り始める。
「また、長いやつかよッ!」
愚痴を叫びながら、赤蛇の形が出来る前に、ラディは拳で殴った。
「があぁぁっ」
全く手応えがなく、疑問に思った瞬間。凄まじい痛みが走る。見れば、右手はぼろぼろに焼け爛れ、黒ずんでいた。
「殴れない相手?」
完全な形になった空中に浮かぶ蛇を見つめるラディ。
右手は早くも白い煙を出して、回復を始めている。
蛇が口を開け、塊を吐き出す。
あわてて、避けるラディ。足場は少しだけ赤くなり、すぐに黒く固まっていく。
「飛んでる相手は、もともと苦手なんだよなっ」
近くに転がっていた、ちょっと大きめの石を投げるも、赤い蛇を貫通し、はるか向こうまで、飛んで行った。
うねうねと、空中をうねる蛇。
「全く効かないとか、勘弁してくれ」
ラディが弱音を吐いた時、蛇はラディの真上で、トグロを巻く。
嫌な予感がしたラディは、両腕で顔をおおい、後ろに跳んだ。
真上から、無数の火炎弾が降り注いだ。
「あちっ!無理無理っ!」
叫びながら、耐えるラディ。
黒い体に火がついたかのように白い煙と、赤い火が立ち上ぼり出した。
「ちょっと、限界かも。動けなくなっちまう」
じりじりと範囲外に逃げようと後ろに下がるラディ。
すると突然、火炎の雨が止み、蛇は、ラディに突撃してきた。
身体中が焼けてしまっているラディは避けきれず、吹き飛ばされた。
足場の外へ。
「があっ!」
岩場の下にある崖のような岩に右手を突き刺し、落ちるのを防ごうとする。
しかし、右手は今までのダメージでぼろぼろになっており、落下の勢いに耐えれずちぎれた。
「っがああああああ!」
凄まじい痛みに襲われるラディ。しかし、落下は止まらない。
「死ねるかぁっ!」
ラディは自分の背中の角を左手でむしりとり、壁に突き刺した。
数メートル落ち、落下は止まる。
そのまま、あまりの痛みに意識を失うラディ。
しかし、すぐに目を覚ます事になった。
赤い池から蛇が上がって来たのだ。ラディにぶつかり、ラディを飲み込んだまま。
あまりの痛み、熱さに叫び声も上げれず、再び岩場に落とされる。
体の黒は、炭化したものなのか、もともとのモノなのか、分からなくなる。
ラディの中で、時間の流れがゆっくりになる。
「死ぬのか。ごめん。アム」
もうろうとする意識の中、ラディは女性の姿を見た。
顔も分からない、人間と思われる女性。
すっ。と女性がある方向を指差す。
再び、蛇が空中でトグロを巻き始める。
指差された先に、青い宝石のような光を放つ、丸い機械が見えた。
何か分からないが、ラディは全ての力を込めて、獣のように3つ足で力いっぱい飛ぶ。
「がッああああああああ」
左手もボロボロになっているため、頭でその青い光を叩き割った。
その瞬間。蛇の動きが止まり、わずかな時間を開けて。
空中の蛇が溶けるように崩れていき、赤い池に落ちていく。
光りに包まれる中、ラディはゆっくりと女性にその頬を撫でられる。
「かあ、さん?」
ラディは、光りに包まれたまま意識を失うのだった。




