変化者の試練 2
暴力 胸クソ表現があります。 苦手な方は飛ばし読みしてください。
ドサッと砂の上に何かが落ちてきた。
「痛っ。」
あまりの痛みに砂の上を転がる事しかできないラディ。
左腕からは、白い煙がすさまじく立ち上ぼり、ゆっくり肉が盛り上がって来ていた。
さっきの場所に比べたら、放射線が濃いのか、ラディの回復速度は早い。
付け根近くからなくなっていた腕が肘まで生えて来ていた。
「っっ!!」
痛みの限界超えに、叫ぶ事もできず、転がり続けるラディ。
「なっ!」
そして、2の腕近くまで腕が生えてきた時、ラディはほぼ無意識にその場に起き上がり、空中へと跳んだ。
下の砂漠から、人間くらいならひと飲みにできそうな、巨大なワームが飛び出してきた。
さっきまで、ラディがいた場所を砂ごと喰らい、口を開けたまま、ラディに向けて飛び上がってくる。
「このっ!嘘だろっ!何でそんなに飛べるんだよ!」
悪態をつくも、事態は悪いまま。
空中では、避ける事もままならず、ラディはワームの口の中に吸い込まれてしまった。
そして次の瞬間、ワームの背中を引き裂いて、出て来る。
ワームは暴れ、ラディを振り落として、砂の中に消えて行った。
「うえっ。気持ち悪っ」
べとべとした液体に全身濡れながら、復活した、自分の両手を振るう。
べたっと音を立てて、黄色い砂の上に粘液が落ちた。
疲れからか、地面に仰向けになるラディ。
思わず、息を飲んだ。
空は、青かった
どこまでも、透き通る青に、白い何かが流れている。
ただただ、澄んだ青の中、まぶしい光の塊が浮かんでいた。
「綺麗だ」
何故か、ラディは涙が止まらなくなっていた。空の青さに。綺麗さに。 感動とはまた違う、言葉に言い表す事すらできない、感情に、泣いていた。
見渡せば、どこまでも、黄色い砂しかない世界。水もなく、木もない。
生物には、過酷としか言いようがない世界。
しかし、そこには色があった。
「本当に綺麗な場所だ。アムにも見せてやりたいな」
ラディはもう一度周りを見回して、呟く。
自身から立ち上ぼる白い煙はうっすらとしたものになっている。
それを確認していた時、立ち止まっていた足元から、ぶわっと煙が上がった。
「本気かっ!」
力いっぱい、横に飛ぶラディ。
さっきのワームが地面から、白い煙をまとって飛び上がってきた。
「再生持ちかよっ!」
ラディは再び、地面に向けて突っ込んできた、ワームを避けながら、叫ぶ。
自身が再生できる以上、再生持ちの厄介さは身にしみて分かっていた。
はるか昔の吸血鬼のように、心臓を破壊したところで、死ぬ生き物では無いのだ。自分を含めて。
両手で拳を一回叩くと、地面を蹴りつけるラディ。
しばらくして、地面から、何かが上がってくる振動を感じとる。
「虫の癖に、しつこいんだよっ!」
地面をおもいっきり殴る。
一気に周りに砂が舞い上がる。ワームも空中にその体を一部さらしていた。
「だぁりゃっ!」
ワームの体に拳を突き刺して、おもいっきり、上に振り上げる。
暴れながら、さらに体を地面に出すワーム。
ボトボトと粘液が砂に、落ちていく。
「バラバラにしたら、数年は復活できねぇだろっ!」
さらに、ワームの体を殴り削る。
暴れ続けていたワームは、口をぱっくりと開け、目に見えない速度で、砂を吐いた。
砂はラディの体にあたり、ラディの体の表面を削り取る。
それは、砂の嵐。しかも、一回ではなく、何度も砂がばらまかれる。
ラディは顔を守りながら、立ち止まって耐えるしかなかった。体中から再び煙が上がりはじめる。
何分吐き続けたか、しばらくしてワームの動きが鈍くなってきた。
「こっちも、特殊な体なんだ。相手が悪かったなっ!」
ラディは再び、ワームを殴り削る。
一撃で、ワームの皮膚はちぎれとび、あたりにべとべとを撒き散らす。
そして、ついにワームの巨体が砂の上に倒れた。
ラディも砂の上に倒れこむ。
ワームは完全に体が二つにちぎれ、ボロボロになっていた。
ワームも再生してはいるが、復活までかなりの時間を必要としそうであった。
「本当に綺麗だ。けど、ちょっと限界、かも」
どこまでも透き通る青い空を見ながら、ラディはゆっくり目を閉じていた。
「二度と生意気な口が聞けないようにしてやる」
男は、ただそういい放ち、アムを引きずり倒した。
アムは最近、日常になり始めた、男のうさばらしをされていた。
いきなり入って来て、問答無用で叩かれ、何もしていないのに殴られる。
変化者は人間からすれば、何をしてもいい存在。そして、力を封じられた変化者は本当に無力であった。
「たすけ、て。ラディ」
アムの切ない、呟きはまだラディに届かない。
とある一室にて、
「船を捜す」
決定事項として、異形の者たちに指示をとばす人物がいた。
「けど、動く船は無いんじゃないですか?」
人間の女性がその言葉に、反論を返す。
「確かに、生きている船はないかもしれない。だが、伝説の家と伝説の船があったのなら、まだ壊れた船は数機くらい、あるかもしれないだろ?」
茶目っ気たっぷりで、笑って話すガウス。
しかし、ふと真顔になると、
「ずっと、あいつらの動きを追ってたのは、俺たちだ。最後のステージに立てないって言うのは、ナシにしたいとは思わないか?」
「今回の事件で、何かが動くと思われるのですか?」
「ただの感だ。だが、世界が変わる何かが始まる。そんな気がするんだよ。あの坊主たちによってな。頼んだぞ。ロミュ」
じっと真剣な目で見つめるガウス。
「わかりました。全力を持って、任務に入ります」
頭を一つ下げると、ロミュは部屋からすぐ出て行った。
顔が火照っていた。
「真剣な顔を見て、ドキドキするなんて、私っておじさん好きなのかしら」
と自問自答しながら。




