93話 嫌い! ぴえん!
オオモリ・ダンジョン管理施設に到着して一足先に探索用の装備に着替えた俺は、女性陣二人の着替えというかキャロルの着替えを待つ間に色々と事務手続きを済ませて、待合室のベンチで待っていた。
なあケシー、と俺は心の中で呼びかける。
『なんです?』
ジャケットの胸ポケットに入っているケシーは、ポケットの覆いをペロリとめくり、顔は出さずに答える。
再開したとはいえ以前のゴブリン脱走騒動で一時封鎖されていた管理施設は、ツアーや見学などの商事業が軒並みキャンセルされた影響で人気がない。だからといって妖精と普通に会話するわけにもいかないので、俺はそのまま脳内で会話することにした。
……本当に、どうしたの? 何かあった?
『別に、なんでもないですけど?』
いやだって、明らかにテンション低いじゃん。
『うーん。いや別にそんなつもりないんですけどー。うーん、まあ強いて言えばですねー』
なんだよ、とりあえず言ってみろよ。
『あのー……うーん……なんていうか……あんまり乗り気になれないなあみたいな』
乗り気って?
『いやあその、ズッキーさんが色々頑張ってるのはわかるんですけども……なんかなあ、みたいな。そーんな頑張らなくてもいいんじゃないかなあみたいなー』
ええと……どういうこと?
『まあぶっちゃけ、私たちが政府に拘束されるかもって話ですけどもね。たぶんそんな、牢屋とか研究施設にぶち込まれるみたいな……人権ガン無視みたいな話にはならないと思うんですよね。いっても行動が制限されて、最悪軟禁くらい?』
まあ、そうかもしれないが。
『ケシーちゃん的には、別にそれでもいいかなーみたいな……ズッキーさんとテレビみたりユアチューブ見たり、そんな感じでゆるゆる過ごせればいいかなあみたいなですね。だからあんまり……こういう危ないこととか、忙しくしすぎて無理して欲しくないなあみたいな……』
……急に変なこと言い出すなよ。お前は俺の母親か。
『でも一蓮托生的な感じではあるわけですから』
……まあ俺だって、お前のために色々考えてるんだ。
放っておいたら危険だからって、好き勝手にされるのは嫌だろ。
そういえば。
こいつって、俺がREA入るのも地味に反対してたよな……。
俺はふと、そんなことを思い出す。
『今回もですね、エクスカリバーとかなんとか、変な話じゃないですか。危なそうじゃないですか。今まで私たち、何とかこうとか修羅場を潜ってきましたけど……こんなことばっかりしてたら、いつか本当に死んじゃいません? 前のキマイラだって、ほぼ死んでたんですから』
…………ケシー、あんまり心配するなよ。
俺はベンチに座り直しながら、ステータスからスキル欄を開く。そこにズラリと羅列されているのは、今までとは比べ物にならない量のスキルの数々だ。
あの事件以来腹を括ってキャロルとREAとの連携を強化した俺は、彼らが冒険者パーティーとして保有している大量のスキルを譲り受けていた。ここに並んでいるのは『火炎』や強化系スキルの予備で、もはや弾切れの心配は無い。さらにスキルブック本体には、新しく『電撃』や『氷撃』、その他回避、防御スキルの数々をカード化して取り込んでいる。
「スキルブックも覚醒して……今の俺は、前よりもずっと強い」
心の中ではなく実際に呟いてしまったことに気づいて、俺は思考会話に切り替えた。
俺は今、この壊れスキルを使いこなしてる。
少なくとも、使いこなそうとしている。
ケシーに何かあったら俺が守る。どんな奴が来ても、跳ね返してやる。
それに。
こういうのは、これが最後だ。俺たちはこれから、使われる側じゃなくて使う側に回るんだからな。
『いやうーん……ですから……』
それでも納得しない様子のケシーは、ついに顔をピョコンと出してきた。
『ズッキーさんが前向きになったのは良いんですけどー、行きすぎて微妙に違う列車に乗り始めてるというかー、陰キャが頑張って陽キャになろうとしてるみたいな無理感があるというかですねー』
……いや、なんだよそれ。
若干ムッとしながら、心の中で返す。
だからさ……俺は別に大金持ちになりたいとか、権力が欲しいとか、そういうために動いてるんじゃ無いだろ。俺とケシーが普通に、誰にも邪魔されずに過ごせるように、色々考えて動いてるんだろ!
『だからー! もー!』
ついにテレパシーの声を叫んだケシーは、ポケットを閉じて中へと閉じこもってしまう。
『なんでわかんないのー! ズッキーさんのおたんこなす! 嫌い! ぴえん!』
「……………なんだよそれ」
怒ってしまったケシーに何を返す気にもなれず、俺はそんな悪態をついた。
脳内でそんな喧嘩をしていた俺は、そこで、待合室に4名ほどの集団が入って来るのに気付く。
「…………?」
その集団を見て、俺はいささか驚いた。
それは日本人ではなく、明らかに多国籍の集団。
欧米系、アラブ系、黒人……。
ポリコレへの配慮が疑えるほど人種も性別も様々だが、女性も含めた全員が屈強そうな体格と雰囲気をしており、その厳つさは軍隊系のバックグラウンドを感じさせる。それはちょうど、キャロルが率いるREAの隊員たちのようだった。
しかし、最大の問題はそこではない。
その精強な集団を率いている、一人の男。
俺はそいつに、見覚えがありすぎたのだ。
「…………っ」
一瞬、言葉を失う。
なぜここに?
集団の中で唯一探索用の厳つい装備を身に纏っていないその男は、シャンパンゴールドの高級スリーピースを身に纏い、ポケットからタバコとジッポライターを取り出して、待合室に隣接する喫煙室に入って行こうとした。
しかしその直前で、待合室のベンチに座る俺に気付き、細い目をやや広げる。
「……おや?」
彼は俺のことを注視すると、口角をやや上げた。
そのニヤケ面は、あの時以来見ていなかったものだ。
「誰かと思ったら……水樹君じゃないか。奇遇だね」
「誰かと思ったら……上村支店長じゃないですか。奇遇っすね」
一月近く更新止まってごめんなさいです。
〆切などなどやばくて閉じこもってました。




