☆新規章【書籍版】53話 お前羞恥心無いから意味なくない?
演習前に、やらなければならないことがある。
そのために俺は車を走らせて、多智花さんを自宅まで迎えに行った。
彼女のアパートは大守市の中心地近くで、ここいらでは平均よりやや上、という感じの清潔さと新築感が漂う建物だった。おそらく家賃手当を利用して割安で住んでいるのだろう。彼女は札幌から出向してきているらしいから、その辺の手当ても出ているのかもしれない。
水樹了介:着きました 【既読】
到着したことをSNSで知らせると、送信と同時に既読が付いて5秒と経たずに玄関の扉が開かれた。私服姿の多智花さんは、全身無難な色合いで纏めたUNIKURO感漂うファストファッション。その脇には二泊三日のキャンプにでも行くかのような、大き目のスポーツバッグが抱えられている。
「どうも、水樹さん! 今日はありがとうございます、お願いします!」
「いえいえ。後部座席に座ってもらえますか?」
窓からそう呼びかけると、多智花さんは車の後ろドアを開いて、そこにスポーツバッグを滑り込ませた。そのまま後部座席に座り、シートベルトを締める。すると彼女は、助手席に座るもう一人の存在に気付いた。
「お前がタチバナ・マキだな?」
先に助手席に座っていたキャロルは、腕を組みながらやや威圧的な雰囲気でそう尋ねる。
「へっ?」
16歳の金髪少女に突然威嚇された多智花さんは、目を丸くしながらきょとんとした。
「そ、そうです、が……」
「私はキャロル。キャロル・ミドルトンだ。所属はR・E・A、その部隊長をしている」
「ロイヤル……えっ?」
「今日はミズキと共に、探索に同行させてもらう。なお今日の探索にて知りえた情報は、一切外部に漏らさないように。わかったな?」
「は、はい……」
「おいキャロル。あんまり威嚇するなよ」
見かねてキャロルをいさめると、彼女は憮然とした雰囲気で腕を組んだ。
「威嚇などしていない」
「彼女は一般人なんだから。ケシーも大丈夫だって言ってる」
「特別扱いはしない」
「そうじゃなくてだなあ」
駄目だこれは。
キャロルは俺に対しては心を開いてくれているとはいえ、こういう排他的な所がある奴だった。多智花さんに対して微妙に敵対心が漏れ出ているキャロルを見ていると、この金髪少女と最初に出会ったときの刺々しい態度を思い出す。
車に乗り込むなり謎の外人少女から圧をかけられる羽目になった多智花さんは、怯えた様子で震えていた。
「あの……微妙に、状況がわからないのですが……」
「ええとだな、多智花さん。この子はイギリスの有名な冒険者で、今回の探索に協力してくれるんだ。言ってなくて悪かった。こいつは秘密主義なもんで」
「冒険者……? えっ、この子が!?」
「そうは見えないと思うけど、これでも滅茶苦茶強いんだ。俺より強い」
「タチバナ・マキよ。前もって言っておくがな」
助手席からズイと身を乗り出して振り返ったキャロルは、多智花さんのことを指さす。
「ミズキは私と婚約している。お前の入り込む余地は無いことを理解しておけ」
「えっ!? こんな小さな女の子と!?」
「いや違う、誤解を招くな!」
「なにが誤解か。私の裸をあれだけ眺めておいて」
「えっ!? こんな小さな女の子と!?」
「いや違う、誤解を招くな!」
『ズッキーさんも大変ですねー』
最後の台詞は、外出時は俺の胸ポケットと頭の中が定位置と化しているケシーである。
◆◆◆◆◆◆
本日の目的は、多智花真木のステータス化であった。
ステータス化というのは……『さあさあケシー様にお任せ!』よし、頼んだケシー。『ステータス化とは、ダンジョンの法則に晒された地球産の人間種に生じる珍妙な現象のこと! ダンジョン内に一定以上滞在した地球の人間種には、HPやMP、能力値やスキルといった別世界の“概念”が植えつけられるわけですね! これを通称ステータス化というのですが、これまでバリバリ普通の一般市民として生きてきた市役所職員デカパイ幸薄多智花さんが、そんな概念を植え付けられているはずもなく!』その通り。色々とその通り。
『でも彼女は国の新制度によって、ダンジョンの重要な管理監督役に成り行きとはいえ就いてしまったわけでありまして。そして就いてしまったからには、彼女自身がステータス化していないのは問題があるわけですねー。ところでどんな問題があるんでしたっけ?』前提として、アドバイザーにはそれぞれペアの冒険者が、多智花には俺が居るのだから、厳密にはステータス化する必要はない。『なら問題ないのでは?』つまり、これはマスコミ対策に近い。『マスコミ対策?』つまり、「もしかして……USBをご存じない?」と弄られるIT大臣のような二の舞を避けるために、『洞窟管理主任』なる役職名を拝するからには、形だけでもステータス化しておく必要があるのだ。『IT宰相様はよくわかりませんけど、そういうことなんですねー!』
オオモリ・ダンジョンはいまだ工事中だが、新たに更衣室が準備されていた。俺は探索用の装備に着替えた後に、脳内に常駐しているケシーと思考会話をしながら、通路で女子2人を待っている。
工事中のダンジョン施設には、普段は見ない警察関係者らしき姿が散見された。ニュース速報にもなっていた、ゴブリン脱走の可能性とかそういう奴の調査をしているのだろう。事実、現在このダンジョンは一時封鎖を検討中らしく、とりあえず新規の探索申し込みは止められている。事前に申し込んでいて助かったわけだ。
そんな光景を横目で眺めていると、まずは多智花さんが女子更衣室から出てくる。彼女は素っ気ない紺色のジャージ姿で、とりあえず動きやすい服装に着替えました、という雰囲気だった。
「こんな感じで、大丈夫ですかね?」
「全然大丈夫ですよ。戦闘とかは全部、俺たちがやるんで。むしろキャロルがやってくれると思うので」
「キャロルさんって、そんなに強いんですか?」多智花さんは、やや半信半疑な眼差しを俺に向けてくる。「私には、15、6歳の女の子にしか見えないんですが……」
「ああ見えても、あいつはイギリス最強パーティーのリーダーですから」
「R・E・Aですよね。私も役所の方で、話だけは聞いてましたが……まさかあんな女の子だとは……」
「まあ、誰だって最初はそう思いますよ」
「でもアレですね……」
多智花さんは俺のサバゲーか傭兵じみたタクティカルな装備を眺めると、やや上目遣いで俺のことを眺めた。
「水樹さんって、本当に冒険者なんですね……」
「まあ、端くれですが」
「今日も私が居なければ、ガッツリバチバチに稼いでたんですよね……めちゃくちゃ機会損失ですよね……もう本当に、どうお詫びすれば良いものか……」
「あー、大丈夫です。ほんと想像してるようなもんじゃないですから。今日の申請も、稼ぐっていうよりは練習とか確認のために潜ろうと思ってただけなので」
そう。今日に探索申請を出していた目的は、マジでスキルブックの練習・調査以外の何物でもない。彼女が想像しているような、スキルやアイテムを集めて売ってボロ儲け、みたいな目的では全然なかった。
「だから、全然気にしないでいいですよ」
「なんだかよくわからないですが、ありがとうございます……」
そんなことを話していると、更衣室からキャロルが出てくる。
「待たせたな、ミズキ。行こうではないか」
彼女はこちらへ真っ直ぐ歩いてくるなり、その薄い胸を張ってそう言った。
「待てキャロル」
「どうした?」
「お前……また新しいアーマーを買ったのか?」
「買ったがどうした?」
そう言って首を傾げるキャロルは、前回とはまた違ったビキニアーマーを身に着けていた。それはアーマーというより、もはやエロ系の水着。赤と白のスクール水着的な形をした……甲冑? だった。腕周りと脚周りにはゴツゴツとした手甲足甲が装備されているものの、胸と肩、それに股間周りは露出されている。その恥部を隠しているのは赤色の紐パンめいた装飾のみで、そこから伸びた無駄にデザイン性の高いスタイリッシュな紐装飾が、首元でクロスしながら乳首だけを隠す形で走っていた。
「言っておくが、今回のはただのコスプレアーマーではないからな」
ふんと鼻を鳴らしたキャロルが、誇らしげに説明する。
「これはれっきとしたダンジョン産の装備で、装備することで強化が得られる。ただただ卑猥なだけの装備ではない。実用性のある卑猥な装備なのだ」
「実用性があって卑猥でない装備はなかったのか?」
「卑猥な方がミズキは嬉しいだろう?」
キャロルは紐デザインの布地を、指で軽く引っ張りながらそう言った。胸から下のお腹回りは光沢のある白布地で覆われていて、乳首と股間を隠す赤紐に囲われる形になっている。
「一応聞くけど……どんな強化なの?」
「羞恥心を感じるたびに攻撃と行動速度が強化される」
「お前羞恥心無いから意味なくない?」
「傷つくぞ?」
「ごめん」
「あと、汗で塗れると布地が透ける機能も付いている。運動量が増えると段々透けて色々と露わになってしまうので、羞恥心の加速に役立ってくれるのだ」
「でもそれ、羞恥心無いと意味なくない?」
「普通に傷つくぞ?」
「冒険者の人って、色々すごいんですね……」
多智花さんが、キャロルの変態装備をまじまじと眺めながらそう言った。
「こいつだけだから、あんまり参考にしないでくれ」
「段々私の扱いが雑になっていないか?」
『ビキニアーマーは性癖に刺さらないんです?』刺さらないが単純にエロいとは思う。『素直でよろしい!』




