表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
壊れスキルで始める現代ダンジョン攻略  作者: 君川優樹
1章 【WEB版】壊れスキルで始める現代ダンジョン攻略①
15/110

15話 動画が面白かった! って思ってくれた人は、チャンネル登録とブックマークをよろしくね!


 詩のぶチャンネル 登録者32,438人


『詩のぶが選ぶ、今年のベストバイ10選【だらだら紹介】』

 1.5万回視聴・1日前

『【神回】山岳行動でJKがオフ〇コに誘われるwww』 

 8万回視聴・3日前

『JKユアチューバーの部屋紹介【親フラ!?】』

 1.2万回視聴・5日前

『コンビニスイーツ、全部食べてみた!【ベストランキング】』

 9478回視聴・7日前


 大体そんな感じだった。


 うん、なんかそれだけだな。

 正直、特に言うこともないし、文句を付けるつもりもない。

 こんな感じで頑張っているのだろう。


 試しに、一番上の動画を再生してみる。ダンジョンツアー会社の広告が数秒流れた後に、本編が始まった。


『おはこんにちわー! 詩のぶチャンネルへー、ようこそ! 今日は、詩のぶが買った今年のベストバイを紹介したいと思います! いやー、今年もね、』


 そこで視聴をやめた。

 別に面白い面白くないではなく、俺から彼女に対する興味関心が純粋に薄すぎるだけだ。


 まあ、そういうものなんだろう。

 というか、この時期にベストバイを発表してどうするんだ? なんか、こういう動画を撮りたかっただけなのでは?


「さてと。ケシー、俺ちょっと冒険者資格の面接行ってくるから」

「おっすでーす!」


 テーブルの上でテレビを見ているウチの妖精が、俺に顔は向けずに手だけを振ってそう返した。

 ケシーは相変わらず、テレビに夢中になっている。小さな醤油皿の上に砕いたカントリーバームを置いて、俺が録画していたバラエティ番組の特番を見てケタケタ笑っている。松山人志が出ている番組が特にお気に入りらしい。


「そんなかからないと思うけど、人に見つからないようにしろよ」

「大丈夫ですよーだ! あーっ! 外に出るんでしたらー! ビデオ屋で『笑っちゃったらいけない』シリーズ全巻借りて来てくれませんかー!?」

「お前、この世界に順応しすぎだろ。物質世界の虜になりすぎだろ」



 ◆◆◆◆◆◆



 必要な書類を入れた革鞄を手にして、外へ出る。


 田舎都市とはいっても、俺が借りたアパートの周辺は、店や役所などがいくらか纏まっている地帯だった。しかし何故だか、冒険者資格の面接はここから離れた別の会場で受け付けているようで、歩いて向かうには遠すぎる。


 マップで場所を確認して、驚愕したものだ。この大守市は人口こそ少ないものの、その面積は思っていたよりもずっと広い。そのせいか、東京では考えられないほど住宅地や市街が拡散して散らばっており、その隔絶された距離は原子核の周囲を回る電子を思わせた。


 北海道の都市は、どこもこうなのだろうか? デカすぎるというのも考え物だ。


 駐車場に停めている愛車に向かって歩いていくと、車の隣に、見覚えのある女の子がスマホを弄りながら立っているのが見えた。


 げっ、と俺は思った。

 昨日の……というかさっき動画で見た、詩のぶじゃねえか。


 彼女は俺が降りて来たことに気付くと、スマホを弄ったままで俺のことを待ち構える。


「おや。奇遇ですね、水樹さん」

「これが奇遇だとしたら、お前の日常生活はどうなってるんだ」


 アプリを終了するような仕草をして、詩のぶはパーカーのポケットにスマホを仕舞い込んだ。


「なんだ、もしかしてずっと待ってたのか?」

「そんなわけないじゃないですか。たまたま通りかかって、ちょっと待ってたら来たりしないかなー、と思っただけですよ」


 詩のぶはそう言って、コンビニのビニール袋を持ち上げてみせた。


 しかしそんな、偶然を装って片思いの子を出待ちする初心(うぶ)な高校生みたいなこと言われてもな。

 いや、みたいというよりは、こいつは実際に高校生だったか。良いなあ。

 在りし日の青春時代を思い出して、不意にセンチな感情がよぎる。


「何の用だ?」

「あれから調べてみたんですけど、やっぱり大守市って職業冒険者居ないらしいです。当たり前ですけど」

「職業冒険者が、わざわざダンジョンの無い都市に住む理由は無いだろうからな」

「ですから。やっぱり水樹さんしか居ないわけですよ」


 はぁ、と俺はため息をついた。

 こいつ、まだ諦めてなかったのか。


「学校はどうした?」

「あんまり行ってないんです。YourTubeで稼げてるんで」

「よくねえ考え方だぞ」

「一緒にダンジョンに連れて行ってくれたら、通ってあげてもいいですよ」

「あんまり大人と社会を舐めるな」


 俺は彼女を無視することに決めた。

 ドアを開けて車に乗り込むと、閉じようとしたドアに肘鉄を入れて、詩のぶが割り込んでくる。


「あのですねー。インタビュー動画だけでも撮らせてもらえませんか? ステータス化した経緯とか、ダンジョンのお話とか。顔と名前は隠しますから」

「インタビューされるようなことはしてねえよ」


 いや、嘘だ。


 たぶん俺は、世界中のダンジョン研究者が喉から手が出るほど欲しいであろう情報を、いくらか持ってしまっている。もし打ち明けるのであれば、相応のギャラとセキュリティとプライバシーの保全を、CIAレベルで完璧にしてもらいたいものだ。


「ドアから手を離して、大人しく家に帰って、そして学校に行け」

「それじゃあ、家まで送って行ってもらえませんか?」

「歩け。俺は未成年を車に乗せて、何らかの罪で書類送検されたくない」

「大人のくせに、ケチのビビりなんですね」


 詩のぶはそう言うと、ドアから身体を離してパーカーのポケットに両手を突っ込み、背中を見せてスタスタと去って行った。


 俺の周囲に現れる女性というのは、どうしてこうも口が悪いんだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 今のところ面白い [気になる点] このYouTuberがヒロインだったらやだなぁ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ