14話 おはこんにちは! 詩のぶチャンネルへようこそー!
「あっ。アポなし訪問、失礼します。水樹了介さんですね」
片手に小振りなビデオカメラを握ったその少女は、俺に向かってビデオを回しながらそう言った。
突撃時のテンションとは打って変わり、その口調は常識的かつ落ち着いたものに一瞬で切り替わっている。
「そうだけど……なに? なにこれ?」
謎の女子高生のテンションの上げ下げに付いて行けず、俺は若干怯えながらそう聞いた。
「あっ。カメラは回してますけど、後でちゃんとモザイクかけるんで。心配しないでください」
「そうじゃなくてだな」
「……もしかして、顔出しオーケーですか?」
「いや、違う。なんだそれ。詩のぶチャンネルって言ったか?」
「そうです。わたし、YourTuberの姫川詩のぶって言います」
あっ、ちょっと待ってくださいね。
詩のぶと名乗るその少女はそう言うと、カメラを自分に向けて、俺と一緒に写るようにした。
「おはこんにちは! 詩のぶチャンネルへようこそー! 今日は、ダンジョン攻略企画第一弾! 現役冒険者のおうちにお邪魔しています! イエイ!」
「…………」
「…………」
数秒無言で待った後で、詩のぶはまた俺にカメラを向ける。
「ということで。オープニング2種と編集点撮ったんで大丈夫です」
「きみ、なんかテンション全然違うね!」
◆◆◆◆◆◆
「えっ。水樹さんって、冒険者じゃないんですか?」
「違う」
「ええー。マジですか」
素がダウナー系の女子高生に、勝手に期待されて勝手に失望されるのは若干堪えるものがあるな。
「せっかく後を尾けて来たんですけどね。こんな田舎にも、冒険者っているんだ、って思って」
「それはお前の勘違いだからな。俺のせいじゃない」
居間のテーブルに向かい合って座る詩のぶは、ビデオを止めて「ちぇっ」と舌打ちした。
どうやらこの詩のぶは、今日の昼にハンバーガー屋で俺のことを見かけたらしい。
ちょうど、あのヒースという男と話した時だ。
それで俺がステータス画面を表示させたのを見て、勝手に職業冒険者だと思い込み、俺の後を尾けて住所を特定した後に、家から撮影機材を持ってきたのだと。
「にしても、なんで突然? 取材かなんかのつもりだったのか?」
「ですから、わたしYourTuberやってて」
詩のぶは黒いリュックから小さい11インチのノートパソコンを取り出すと、それをササッと操作して、画面を俺に見せた。
「詩のぶチャンネルっていうんですけど、これです」
「なるほど。まあ、見せられなくてもわかるよ」
「ちゃんと登録者数も見てください」
「3万人か」
「3万二千四百人です」
「端数はどうでもいいだろ」
はぁ、と詩のぶはため息をついた。
「これだから大人は駄目ですね。この二千四百人っていうのが、どれくらい大きな数字かもわかろうとしないんですからね」
どうして俺は、勝手に尾行されてアポなし訪問を食らわしてきた女子高生に説教を喰らってるんだ?
「いいですか? YourTubeで3万人も登録者がいれば、サラリーマンの月収くらいは軽く稼げるんですよ」
「わかった、わかった。お前は大した奴だよ」
実際、高校生でそれくらい稼げてるなら大したもんだ。
「それでちょうど昨日に、ここにダンジョンが出来たじゃないですか」
「まあそうだな」
「凄いホットなニュースですよね。だから、あのダンジョンの探索動画が撮れれば、絶対バズると思って」
「それで、職業冒険者っぽい俺に頼もうとしたわけか」
「です」
たしか資格同伴者がいれば、冒険者資格を持たない人でも条件付きでダンジョンに入れるらしいからな。
「動画撮れれば良いなと思ったんですよ。だって新ダンジョンの探索動画なんて絶対数字取れますし、登録者も伸びますし、ステータス化できれば色々動画撮れますし」
「言ってることと考えてることはわかったよ」
「冒険者資格、取らないんですか? 今ならもう、ステータス化さえしてればかなり緩い感じで取れるって聞きましたけど」
「もう申請中だ」
「マジですか」
ハンバーガー屋に行った後に、俺はすでに市役所とネットで申請書類を提出済みだった。
冒険者資格も昔はかなりの厳しい審査と試験があり、宇宙飛行士のパイロット並みと言われていた時期もあったのだが。
現在はダンジョン資源を巡る世界的な競争の中で、市場の活性化のために色々な制度が整えられて、資格の発行も簡便化されていた。
といっても、収入の無い無職や一定額以上の貯金等が無い人には発行が下りないとか、色々あるのだが。それはダンジョンの攻略に人生一発逆転を賭けて、危険な真似をさせないための審査でもある。まあ、俺はすでに気分は無職でも属性的にはまだ会社員なわけだから。
「いつ、いつ証明書届くんですか?」
「何回か面接とか受けてからだけど、近いうちに届くらしい」
「それじゃあ冒険者になったら、わたしも連れて行ってくれますか?」
「嫌だよ」
「ええー」
詩のぶはそう言って、顔でも「ええーっ」という表情をした。
ネガティブな方向には表情が多彩な奴だ。
「なんでですか?」
「協力する理由が無いからな」
「詩のぶチャンネルの準レギュラーにしてあげますよ」
「してもらいたくねえよ」
「なんでですか? 人気YourTuberになりたくないんですか?」
「全人類がYourTuberを夢見てると思ったら大間違いだからな」
それに今のところ、俺には秘匿しておかなければならない色々な事情がある。
こいつに付きまとわれると面倒だし、変に有名になるなんてもってのほかだ。
……そもそも冒険者資格取るってこと、こいつに言わなきゃ良かったな。
俺は軽く後悔した。
女子高生と話していて、ややテンションが上がってしまったのかもしれない。
「ということで、訪ねて来た事情はわかったよ」
「連れて行ってくれませんか?」
「それは無理だ。親御さんが心配する前に帰りな」
「あっ、待ってください」
詩のぶは付箋にペンでサラサラと何かを書きこむと、それをペタリとテーブルに貼り付けた。
「これ、わたしの電話番号とLaineIDとTmitterアカウントとYourTubeチャンネルです」
「情報量が多すぎる」
「気が変わったら連絡してください」
「変わらねえよ」




