第7話 薬と少女
私たちがベラコス近くの森で「黄金タケ」を見つけたという話は、またたくうちに広まった。黄金タケを探す大勢の人がベラコスを訪れ、街の宿屋は満員になった。
私は、冒険者のおじさんたちから、何かあるたびに握手を求められるようになった。
幸運な私にあやかろうとしているのだとサウタージさんが教えてくれた。
黄金タケがあれほど高価なのは、『エリクサー』という薬の材料になるからだそうだ。
その薬を作る他の材料は、高価なものはあっても入手できないことはないのだが、黄金タケだけは、その希少性から手に入らないそうだ。
今日、私は町はずれのルエラン君の家に来ている。
彼がどうしても来てくれと頼むので、断れなかったのだ。
サウダージさんも一緒に来ると言ったので、ルエラン君と三人でここまで来た。
彼の家は、森の魔女ダレーヤさんの家より小さく、そしてボロボロだった。
屋根には、雨漏りしそうな箇所があちこちある。
家の中に入って天井を見ると、やっぱり空が見える穴がたくさんあった。
家と同じようなボロボロのテーブルに着く。椅子は足が壊れているのか、座るとぐらぐらした。
奥のドアが開き、初老の女性がヨロヨロと入ってきた。ルエラン君が身体を支えないと、すぐにも倒れそうだ。
「サウタージさん、メグミさん、この度はウチの息子が本当にお世話になりました」
弱々しくそう言ったお母さんは、すぐに激しく咳こみ、ルエラン君に背中を撫でられている。
「母は『石肺病』なんです」
サウタージさんは、それで全て分かったようだった。
「そう……。
だから、メグミが黄金タケを分けてくれることになって、あんなに泣いてたのね」
「そうです。
たとえお金を積んでも、石肺病の病人にエリクサーを分けてくれる人など誰もいません。
それなのに石肺病には、エリクサーしか効かないんです」
「エリクサーは蘇生薬だからね。
すぐに命を奪わない石肺病に使おうなんて人はいないわ」
「そうです。
でも、石肺病は、ゆっくりと命を奪う病気です。
その間の苦しみはひどいものです」
ルエランは、慎重な手つきで懐から筒を取りだした。
ふたをポンと開けると、椅子に座らせた母親のあごを少し上に向け、彼女の口にそっと筒を触れさせた。
「さあ、母さん、飲んでごらん」
ルエラン君のお母さんは、弱々しく口を開け、青い水薬を少しだけ飲んだ。
「どう?」
お母さんの顔色が、みるみる良くなっていく。それはまさに魔法の薬だった。
「ど、どういうことだい、これは!?
ちっとも苦しかないよ!」
「よかった!」
ルエラン君が涙を流し、お母さんに抱きつく。
サウタージさんの目にも涙があった。
「メグミちゃん、ありがとう!
お母さんを治せた!
ボクにはもう残りの黄金タケは必要ないから、お返しします」
「ルエラン君、それはもう君のものよ。
好きに使えばいいの。
とりあえず屋根の修理なんてどうかしら」
私がそう言うと、サウタージさんが笑った。
「あははは、そりゃそうだ。
ルエラン、お前の負けだな。
次はお前が誰かを助けるといいさ」
「あ、あり、ありがとう……」
ルエラン君が言葉を続けられないくらい泣きだしたので、私とサウタージさんは、彼の家を後にした。




