第59話戦乱と少女4
私、ピーちゃん、アクアは、隣国の偵察兵が操る馬の後ろに乗り、南に向かっていた。
「あそこが、駐屯地です」
そちらを見ると、原野の中に、大型テントが一つと、それを取り囲むように小型テントが多数あった。
見張りの兵士がこちらに気づいて声を掛けてくる。
「おや、ダレン、お前、今朝偵察に出たばかりだろう」
「ああ、重要な用件で、将軍に会いたい」
「おや、その娘は何だ」
「今は言えん。
将軍に会って話す」
「ふん、よく分からんが、お前のことだ、きちんと考えがあるのだろう。
将軍には、話を通しておくから、三番のテントで休むといい」
「かたじけない」
兵士は、足早に大型テントの方へ向かった。
「メグミ殿、こちらへ」
馬から私を抱え降ろした兵士は、小型テントの一つに入った。
中には、十六、七に見える若い兵士がいた。
「ダレンさん、お帰りなさい」
「トーメ、この方は、大切な方だ。
粗相がないように」
「どなたですか?」
「今は、まだ言えん。
お茶を出してさしあげろ」
「はい、すぐに」
トーメと呼ばれた若者は、カメから組んだ水を壺に入れ運ぼうとしたが、何もないところでつまずいてしまう。
下に敷いてある皮が濡れてしまった。
「しょうがないやつだな」
ダレンという名だと分かった偵察兵が、お茶の用意をしようとする。
「あー、お茶の用意はいらないわ」
私は、さっき用意しておいたお茶をマジックバッグから出した。マジックバッグに入れておけば、お茶もこぼれないし、冷めることもない。
出した椅子に座り、お気に入りのお茶をゆっくり飲む。
呆れ顔で眺めていたダレンとトーメだが、私がお茶のセットをマジックバッグにしまうと、話かけてきた。
「そ、そのカバンはなんです?
魔法のカバンですか?」
トーメは、目を丸くしている。
私の代わりにダレンが答えてくれる。
「ああ、恐らくマジックバッグだろう。
メグミ殿、そうですよね」
「私は冒険者だから、そういった質問には答えられないの」
「な、なるほど」
「ね、ねえ。
そっちのカバン、動いてない?」
「私の友達が、入ってるからね」
「へえ、友達かー。
ペットか何かですか?」
「だから、友達。
ペットじゃないの」
「ふーん、ボク、魔獣や動物が、好きなんです。
触ってもいいですか?」
「おい、トーメ、やめておけ!」
「でも、少しぐらい……」
「いいわよ」
私は、トーメを手招きする。
「うわ~、何だろう。
このサイズだと、ハーフラビットかなあ。
それだと、もう少しだけ小さい気がするけど」
「ピーちゃん、この子が挨拶したいんだって」
「うーん、ちょうどお昼寝しようとしてたのに」
ピーちゃんが顔を出す。
トーメの後ろでは、ダレンがブルブル震えている。
「へえ、見たことない魔獣ですね」
「魔獣じゃないわよ」
「失礼なヤツだなー」
ピーちゃんも、不満顔だ。
「これ、なんていう動物です?
初めて見ますね」
「ドラゴンよ」
「へえ、ドラゴンですか。
……ええっ!?
ド、ドラゴンっ!」
急に顔を遠ざけた勢いで、トーメは尻もちをついてしまった。
「う、嘘ですよね。
だって、ドラゴンなら、もっと大きいはずだから」
「ああ、これは、ある事情があってね。
本当はもっと大きいんだけど、今は小さくなってるの」
「じゃ、ほ、本物?」
私が頷くと、彼はばっと後ろを向いた。
ダレンがガクガク、首を縦に振っている。
それを見たトーメは、もう一度こちらを向き、ピーちゃんと目を合わせると、そのまま白目になり、気を失った。
「だから、やめておけと言ったのに。
メグミ殿、こやつの失礼、私が代わりに謝ります」
ダレンが頭を下げる。
「気にしないで、いつもの事だから」
そのとき、テントが開き、二人の兵士が入ってきた。
◇
兵士に案内された私は、大型テントに入った。
ダレンも一緒だ。
大型テントのまん中には、丸いテーブルが置いてあり、その周りに数人の将校らしき人が座っていた。
一番太った初老の将校が、声をかける。
「ダレン、報告を聞こうか?」
「えー、任務を達成いたしました、モスコー将軍」
「なに?
どういうことじゃ?」
「今回の任務は、ティーヤムにおいて竜騎士の動向を探るとともに、できるなら、帝都へ連行するという事でした」
「そんなことは、お前から説明されんでも分かっとる!」
このおじさん、気が短いみたいね。
「この方が、竜騎士メグミ殿です。
皇帝陛下への拝謁をご希望です」
「な、なんじゃとっ!
たわけたことを申すなっ。
そんな小娘が、竜騎士のはずがなかろうっ!」
「あのー、私が竜騎士なのは、間違いないようですよ」
「お前は、黙っとれっ!」
「えっ、だけど、本人……」
「お前なんぞを竜騎士として扱えるかっ!」
太っちょおじさんが、席を蹴り、立ちあがった。
彼は、さっさとテントを出ていった。
「竜騎士殿、申し訳ない」
ダレンが、私に頭を下げる。
彼は、私の手を取ると、ざわつく将校を尻目にテントから外に出た。
「あなたは、すぐにここを立ち去る方がいいでしょう」
ダレンの言葉に、しかし、私は頷くことはできなかった。
「それが、そうもいかないの。
私はなんとしても、皇帝に会わなくてはいけないから」
「そうですか。
このままだと、ずっとここに足留めされることになるかもしれませんよ
とにかく、今日は、寝所を用意いたしますから、そちらでお休みください」
こうして、私たちは、荒野の中に張られたテントの一つに滞在することになった。
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