第34話神樹と少女7
その日の内に、私はティーヤムの城下町に飛んだ。
飛んだというのは文字通りで、ピーちゃんに連れてきてもらったのだ。
城下町は、高い壁に囲まれており、その周囲に草原、そのまた周囲に森が広がっていた。
空から人気のない草原に降りた私は、ピーちゃんを袋に入れ、街に向かった。
街を囲む壁の外には、木で作った粗末な小屋が立ち並んでいる。
私が集落の中を歩くと、子供たちが驚いたような顔でこちらを見ていた。
それがこの辺りの衣装なのか、大人も子供も、みな生成りのワンピースを着ていた。
「ねえ、ボク、お城に行くにはどう行ったらいいの?」
なぜか私の後をついてくる男の子に尋ねてみる。
「ねえちゃん、お城に行くのか?」
「ええ、そうよ。
あと、カジノの場所も分かる?」
「カジノは分からないけど、お城には南の門からまっすぐ入ったら行けるみたいだよ」
「ありがとう」
「お菓子でできたみたいなお家が見えてきたら、お城の近くだから」
「助かるわ」
私は、マジックバッグからナッツを生地でくるんだお菓子を出し、それを男の子に渡した。
「えっ?
これくれるの?」
「ええ、どうぞ」
「やった!
ワンワン団のみんなにも分けてやろう」
「他の子にあげるなら、もう少し渡しとくね」
私は、男の子が抱えられるだけのお菓子を持たせてやった。
「お姉ちゃん、ありがとう!」
「どういたしまして」
「お礼に途中まで案内するね」
こうして、小柄な男の子に案内され、私とピーちゃんは街の中に入った。
◇
「リーシャばあちゃん、お姉ちゃんにもらった」
街に入ると、男の子は割と大きな木造の家に私を連れてきた。
「あらまあ、ありがとうございます。
こんなに沢山もらって」
おばあちゃんが、しわしわの顔をほころばせる。
「あの、私この町は初めてで、行きたいところの場所が分からないんです」
「おやおや、嬢ちゃんはどこに行きたいんだい?」
「カジノとお城です。
ああ、それと、ギルドにも」
「そりゃまた、変な組みあわせだね。
ああ、そうだ、ちょうどいい人が慰問に来てるから案内してもらうといいよ」
「えっ?
いいんですか?
では、お言葉に甘えます」
おばあさんは、男の子と建物の中に入っていったが、すぐにローブ姿の人を連れて出てきた。
「ここは、孤児院でね。
この方は、時々慰問に来てくださるのさ。
あんたがお城に行くなら、力になってくれるよ」
ローブの人は、フードを目深にかぶっているから、男性か女性かもよく分からないが、おばあちゃんの言葉に頷いているようだった。
「カジノ、ギルド、それからお城に行きたいそうだよ」
「分かりました。
では、まずカジノから行きますか」
声からすると若い男の人みたいだが、もしかすると女の人かもしれない。
「ありがとう。
よろしくお願いします」
◇
ローブの人は、街の事がよく分かっているようで、裏道を通ったり、公園を突っきったりして、私をカジノまで、連れてきてくれた。
カジノは、石造りの大きな建物だった。
「メグミ、カジノには、何の用?」
「そうですね。
ここを潰せたらいいかなって」
「はははは、面白いことを言うね。
じゃ、今からここで遊ぶんだね?」
「ええ、賭け事をしようと思います。
私の年齢でも大丈夫でしょうか?」
「この国の成人は、十五才だから、君なら大丈夫だよ」
「よかった」
「ボクは、一度お城に帰ってくるから、君は好きなだけ遊んでいるといいよ」
「ありがとう」
「お金は大丈夫?」
「ええ、大丈夫です」
「じゃ、後で迎えに来るから」
今の会話で、男の人だと分かったローブ姿の人は、あっという間に姿を消してしまった。
「なんか、魔法みたいね」
「魔法じゃなくて、あれは魔術だね」
「えっ!?
ピーちゃん、分かるの?」
「分かるよ。
周囲の人に気づかれにくくする魔術だと思うよ」
「へえ、そうなんだ」
私は、カジノの建物を見上げると、ゆっくり歩いて中に入った。
◇ (カジノでの出来事は、プロローグ参照)
「嬢ちゃん、最高だったぜ!」
「うふふ、あの支配人、コテンパンね」
「ぜひ息子の嫁に来ておくれ」
カジノから出てるとき、私はお客さんみんなの祝福を受けた。
だけど、カジノがつぶれちゃったけど、これからみんなどこで遊ぶんだろう。
私がそんなことを考えていると、目の前に白馬二頭に引かれた綺麗な客車が停まった。
客車の窓から、すごく綺麗な若い女性がこちらを見ている。
周囲の音が消えたので、振りかえると、カジノに来ていたお客さんが、みな平伏していた。
いったいどうしちゃったんだろう。
「メグミ、乗るといいよ」
ああ、ローブを着ていた人だね。声を聞くとやっぱり男の人かな。
私が見たままの年齢なら、恋に落ちていたかもね。
「ありがとう」
私は、お言葉に甘えて客車の中に入った。
中は、すごく素敵な造りになっていて、綺麗なレースや彫刻で飾られていた。
馬車が走りだすと、後ろでお客さんたちの歓声があがった。
◇
「あの、お名前は?」
「ああ、そうだね、シューって呼んでくれる?」
「分かりました。
シュー、この馬車はどこに向かってるの?」
「ああ、言うのを忘れてたよ。
君が行きたがっていたギルドだよ」
「あ、そうだったんですね。
ありがとう。
でも、どうして私に親切にしてくれるんですか?」
「リーシャおばあちゃんの頼みっていうのもあるけど……。
君ね、ボクの友達と、どことなく雰囲気が似てるんだ」
「友達?」
「うん、今はどこか遠い所にいるはずなんだけど。
その人は男で、しかも君とは全く違うタイプなんだけどね」
「それでも、雰囲気が似てるんですか?」
「うん、口ではうまく言えないけど」
「そうですか」
「ああ、そういえば、カジノはどうだった?」
「潰しておきました」
「はははは、君はやっぱり彼とは違うね。
彼はそんな冗談を言わなかったもん」
私は、本当にカジノを潰したのだけれど、彼の勘違いを訂正しないことにした。
馬車が、ゆっくり停まった。
「はい、ここがティーヤムギルドだよ」
次話、明日午後三時ごろ投稿予定です。




