第27話ドラゴンの里と少女6
『そこな少女よ、我が声が聞こえるか』
私は、「竜の里」にある森で、神樹様の声を聞いていた。
「聞こえます」
『我は神樹という。
お前の名はなんじゃ?』
ものすごくゆっくりした、深いテレパシーが、私の中に入ってくる。
「はい、メグミといいます」
『お主、この世界の者ではないな』
「はい、分かりますか」
『分かるとも。
世界は繋がっておるからの』
言葉の意味は、よく分からないが、私は神樹様に嫌われていないと分かり、ちょっとホッとしていた。
『お主と竜とのやりとりは、ここで見せてもろうた』
神樹様は、そんなこともできるのか、本当にすごいわ。
『ドラゴンロードとなりし少女メグミ、お主に頼みがある』
「何でしょう?」
『我が仲間が、今、危機に瀕しておる。
仲間を救うてはくれぬか?』
「それはいいですが、そのお仲間は、どこにいますか?」
『上を見よ』
見あげると、神樹さまの枝から、フワフワと何かが落ちてくる。手で受けると、それは羽子板で使う羽根のような形をしていた。
神樹様に言われ、ひらひらした外側の皮をむくと、中から青い玉が出てきた。
『その玉の光る方へ進めばよい』
「分かりました。
やってみます」
『お主、褒美を求めぬのか?』
「神樹様のお友達が困っているなら助けるだけです」
『ホホホ、珍しき人間よの。
じゃから、理を超えた力を手に入れたのじゃろう』
「ことわりを超えた力?」
『お主、自分が幸運じゃと思うたことはないか?』
そういえば、この世界に召喚される前、地球ではあんなに不幸続きだったのに、今は楽しい事ばかり起きているような気がする。
「幸運かどうか分かりませんが、今は生きていて幸せです」
『ホホホ、その気持ちがさらなる幸運を呼ぶのじゃな。
まあよい、とにかく褒美は前渡ししておこう』
私は、自分の体が、さらにじんわりと温かくなるのを感じた。
『では、頼むぞ』
それきり、神樹様はなにも話さなくなった。眠ってしまったのかもしれない。
◇
私は、ピーちゃんの家族が住む洞窟に帰ると、神樹様の所であったことを話した。
ピーちゃんのお父さんが、慌てた感じで洞窟の外に出ていった。
少しして帰ってくると、緊張した声でこう言った。
「メグミは、すぐに神樹様のお仕事をしなければならない。
息子よ、今のうちに、お別れをしておけ」
あれ?
何かおかしいぞ。
「メグミと別れたくない!」
「わがままを言うな、神樹様のお言葉は絶対だ」
「……」
私は、やっと何がおかしいかに気づいた。
竜の言葉が理解できてる!
「ええと、みなさん、私の言葉が分かりますか?」
「それは、テレパシーだから、当たりま……おや?
何かおかしいぞ」
「そうなんです。
私、テレパシーを使わないでも、あなた方とおしゃべりできるようになったみたいです」
「ソル・ロード、どういうことでしょう?」
ピーちゃんのお母さんが、驚いた顔をしている。
「神樹様が、私に竜と話せる力をくださったみたいです」
「す、すごいわ!
神樹様にそこまで認めてもらえるなんて」
「本当ですよ。
お世話をしている我々でも、めったに神樹様とお話しできません」
ピーちゃんのお母さんとお父さんが、感心したように言う。
「メグミ、行っちゃうの?」
「神樹様のお仲間を助けるためだからしょうがないわ」
「ボ、ボク、行ってほしくない」
私は、ピーちゃんの頭をそっとなでる。
「お仕事がすんだら、必ず帰ってくるから」
「どうしても、行っちゃうの?」
「ピーちゃん、分かってね」
「ふんっ!
もういいっ!」
ピーちゃんは、部屋の奥にある小さな洞窟に飛びこんでしまった。
「ウチの子がごめんなさい」
「ソル・ロード、申しわけない」
ピーちゃんのお母さんとお父さんが、しきりに頭を下げた。
◇
神樹様とお話した次の日、私は朝早く、ドラゴンの洞窟を出発することにした。
私を運ぶのは、なんと竜王様だ。
竜王様は、私のために、身体に馬具のようなものを着けていた。
体を低くしてくれた竜王様の後ろから、尻尾の上を通り、背中に上がる。
鞍のようなものに腰かける。
「ソル・ロード、用意はよろしいか」
「ええ、いいわ」
竜王様は、体をゆすりながら、大洞窟の出口へ向かう。
背中に乗っている私は、前にある綱をしっかり握り、振りおとされないようにした。
「ロード、お元気で」
「我ら一同、いつでもお帰りをお待ちしています!」
「何かあれば、ぜひ我らをお呼びください」
「「「お姉ちゃん、また来てねー!」」」
背後から見送る竜の声が聞こえる。
手綱を握るのに必死の私は、一瞬だけ右手を挙げた。
背後から、すごい歓声が沸く。
結局、ピーちゃんは、見送りに来てくれなかった。
私は、少し寂しかったが、これから待っている大切な仕事に集中することにした。
一つ大きく翼をはためかせると、竜王様は一気に空へ上がった。
なぜか、この乗り方だと、ちっとも怖くない。
むしろ、すごく気持ちいい。
手綱の効果だろうか。
竜王様は上空で一度呪文を唱えたが、それは結界を通りぬけるためだろう。
下に緑の草原が見えてくる。その中を一本の道が通っていた。
進む方向は、昨日のうちに大洞窟で確認してある。青い玉は、正しい方向へ向かうと点滅するのだ。
竜王様は高度を下げ、草原に降りた。
「ソル・ロード、それでは、神樹様のお仕事、よろしくお願いいたします」
「うん、やってみる」
「危険があれば、必ず笛を鳴らしてください」
「ありがとう!」
「では、これにて失礼します」
巨大なドラゴンは、一瞬で空に上がるとぴゅーっと姿を消した。
私は、草原から道に踏みだすと、どこまでも続くその道をゆっくり歩きだした。
悲しくないのに、なぜか涙が止まらない。
私は、空になっても下げているピーちゃん袋をそっと撫でた。
草原の心地よい風が、私の髪を揺らし、空へ昇っていった。




