第26話ドラゴンの里と少女5
大洞窟を舞台にした「あて鬼」ならぬ「あてデミリッチ」で私と子竜たちが疲れて動けなくなった頃、大人の竜がこちらに戻ってきた。
『ソル・メグミ殿、こちらにおいでください』
疲れているから、あまり動きたくなかっけど、私は案内役の竜に連れられ竜王様が座る岩棚の下まで行った。
『失礼します』
竜が私を大きな前足でつかむと、宙に浮く。
あっという間に、岩棚の上に着いた。
高いのが苦手な私は、壁際に下がり、じっとしている。
『ソル・メグミ、こちらへどうぞ』
竜王様が翼で自分の横を指すけれど、それは岩棚のかなり前だから、私には無理だ。
『竜王様、メグミは高いのが苦手なんです』
ピーちゃんが説明してくれる。
『おかしなことよのう。
人族の習慣かの?』
習慣ではありません、と言いたいが、怖くて目を閉じている私には、その余裕がない。
『しょうがないのう』
竜王様が、後ろ向きで、何歩かこちらに下がってくる。
ズシンズシンと岩棚が揺れるので、私は生きた心地がしない。
グゥオオオオっ
こ、ここでその声はダメ!
私は、岩棚が崩れるんじゃないかという心配と、鼓膜が破れそうな音に、気を失いそうになった。
『みなよく聞け。
ここにいる偉大なるアルポークの息子は、次期竜王と決まった。
よって、今日からドラゴンプリンスとなる』
ぐおおおっていう、竜たちの声が洞窟に響いた。
『そして、ソルに選ばれたメグミは、ドラゴンロードとなる』
竜王様は、前足に引っかけているペンダントを私の前に差しだした。
それは、うすいピンク色でアサリのような形をしており、二か所に穴があった。
『まさか、この魔法具を使う時が来ようとはな』
ペンダントがあまりに綺麗だったので、私は怖いのも忘れ、それを手に取った。
『お主がそれを吹けば、我らが駆けつけよう』
竜王様は、そう言うと、頭を三度下げた。
下にいる竜たちから、ふたたび、ぐおおおという声が湧きあがった。
こうして、ピーちゃんは、ドラゴンプリンス、私はドラゴンロードになった。
◇
私は、ピーちゃんに案内され、子竜たちが生活する「竜の里」に来ていた。
そこは、大洞窟からほど近い、山あいの盆地にあり、なぜかそこだけ豊かに木々が茂っていた。
しかも、その木は、すごく大きいものが多い。
特に大きな五本の周りには、入れないように柵がしてあった。
「ピーちゃん、あの大きな木は何?」
『ああ、神樹様だね。
父さんの話だと、この世界を守っているらしいよ』
「へえ、すごい木なのね」
『うん、お話もできるんだよ』
ピーちゃんが言う、お話というのが何か分からなかったが、とにかく巨大な木からは、何かエネルギーのようなものが感じられた。
『メグミおねーちゃん!
来てくれたの?』
『みんなー、メグミお姉ちゃんが来たよー』
『『『わーい!』』』
アッという間に子ドラゴンに取りかこまれる。
『今日も、デミリッチ遊びしてくれる?』
小さなドラゴンが私を見あげる。
「今日は、新しい遊びをしましょう」
『『『わーい!』』』
「新し遊びの名前は、『かくれんぼ』だよ」
『かくれんぼ?』
「そう。
私が百まで数えるから、その間にみんなはどこかに隠れるんだよ。
私に見つけられたらその人は負けだね」
『うわー、ワクワクするー!』
『早く早くー!』
「デミリッチ遊びと同じで、空を飛ぶのはナシだよ。
強く叩いたり、火を吹くのもダメ。
分かった?」
『『『分かったー!』』』
私は声に出して百まで数えると、さっそく子竜たちを探しにかかった。
最初見つけた竜は、一番小さな子で、地面に丸まって石のふりをしている。
可愛い目が、きょろきょろこちらを見ている。
「さあ、どこにいるかな~。
この辺にいそうだな~」
私は、わざと周囲を歩いて、その子が十分ワクワクするのを待った。
「あっ!
ここだねっ!
見つけたー!」
『あー、見つかっちゃった』
「じゃ、お姉ちゃんと一緒に、他の子を探しにいこう」
『うん!』
子竜たちは、最初の子のように地面に丸くなっている者が多く、すぐに見つかったが、私はかならず、「どこかな、どこかな~?」ってしてあげた。
「残っているのは、誰?」
『『『プリンスー!』』』
最後に残ったのは、ピーちゃんだけのようだ。
私たちは、みんなで手分けしてピーちゃんを探した。
森の中も探したが、なかなか見つからない。
鬼役の私が降参しようかなと思ったとき、ピーちゃんのテレパシーが聞こえてきた。
『メ、メグミー、助けてー!』
◇
ピーちゃんは、木の上にいた。
彼は、木の幹に爪を立て、太い枝の上に登ったらしい。
けれど、その太い枝の上には、たくさんの木の枝が張りだしていて、翼を広げるスペースがなかった。
登った時のように爪で木につかまり、降りればいいようなものだが、ドラゴンの体は、そういう動きができないらしい。
みんなが見まもる中、私は木のぼりを始めた。ピーちゃんがいる太い枝に着くと、心細かったのか、ピーちゃんが私の胸に顔を埋めた。
ピーちゃんが、落ちつくまで待ち、ピーちゃん袋に彼を入れ、下に降ろす。ピーちゃん袋を吊るヒモには、テントに使っていたものをより合わせたものを使った。
ピーちゃんの救出が終わると、もう日が暮れはじめた。
私は、せっかくだから、帰る前に神樹様の所に手を合わせに行く。
神樹様の前で手を合わせていると、身体がぽかぽかしはじめた。
胸に吊るしていた、ピンクのペンダントがうっすらと光っている。
『そこな少女よ、我が声が聞こえるか』
すごくゆっくりしたその声は、神樹様のものだった。




