第25話ドラゴンの里と少女4
私は、ピーちゃんの家族が住む洞窟に案内された。
体育館を二つ合わせたくらいの洞窟の床には、場所ごとに違うものが置かれている。
まだ緑の葉をつけた木がおいてあったり、何かの骨が積んであったり、何かよく分からないものが重ねられている場所もある。しかし、それは目的をもってきちんと分類されていると感じられた。
竜王様より少し小さな黒い竜が二体、私に近づいてくる。
『ソル・メグミ殿、ウチの息子が本当にお世話になりました』
左側のやや大きな竜が、頭を下げる。これがピーちゃんのお父さんか。
『ウチの子が、ご迷惑をおかけしませんでしたか?』
こちらが、お母さんか。
ピーちゃんが、私の腕からぴょんと飛びおりると、お母さんの足に身体をすりつけた。
「いえ、いっぱい助けてもらいました」
『本当かしら。
ねえ、本当なの?』
『本当だよ。
メグミと一緒に、「試しの洞窟」をクリヤしたんだから』
『ウチの子は、こうでしょ。
きっと迷惑かけたと思うの』
「お母さま、ピーちゃんと私が『試しの洞窟』をクリヤしたのは、本当ですよ」
『で、でも、あそこのボスはデミリッチで、歴代の竜王でさえ倒せていないのよ』
「間違いありません。
本当にデミリッチを倒しました」
『ほ、本当なの?』
お母さんドラゴンが、足元のピーちゃんを翼でなでる。
『うん、本当!』
『あなた、これは大変なことになったわね』
『ああ、どうするかな……』
そんな夫婦の会話に、何がどう大変なのか分からない私は、首を傾げるだけだった。
◇
ピーちゃんのお父さんとお母さんに、二人の旅について話していると、案内役の竜が、私たちを連れにきた。
『ソル・メグミ、そして偉大なるアルポークの息子よ、「集いの間」におこしください』
ピーちゃんの家族と私は、その竜に連れられ、昨日、たくさんの竜が集まっていた部屋にやってきた。
今日も部屋には、竜がたくさんいた。いや、昨日よりも多い。よく見ると、身体の小さな竜がいる。今日は子竜も参加しているのだろう。
グゥオオオオっ
竜王様が棚の上で吠えると、ざわついていた部屋が静かになった。
『偉大なるアルポークの息子が、里の外へ出た罪だが、「試しの儀」によりそれは消えた。
今、我らが考えねばならぬのは、ソルに選ばれたこの者たちにどのような地位を与えるかだ』
『しかし、偉大なるアルポークの息子はよいとして、そちらは人族ですぞ』
私の近くにいる竜が、翼でこちらを指した。
『そうじゃ、そうじゃ』
『しょせんは、人族よ』
『我らから見ればアリンに劣るわ』
『あはははは、心小さきものどもよ』
『なんですとっ!』
『侮辱ですぞ』
『いくら竜王といえ、言ってはいけないことがあります!』
『なら聞くがな。
ソル岩は、我ら竜族が、この地に棲みつく前からソル山にあった』
そこで、竜王様は、部屋の中を見わたした。
『我らの誰かが、ソルに選ばれたか?』
『……』
『誰も選ばれてはおらぬ』
『し、しかし……』
『まだ分からぬか。
のう、ソル・メグミ殿、そなた、「試しの儀」の場で何か言いかけたの?』
えーっと、なんだったっけ?
『デミリッチの事じゃ』
「ああ、ラストークダンジョンの事ですね」
『そのラストークなにやらというのは、なんじゃ?』
「あなた方の言葉では『試しの洞窟』でしたね」
『お主、あそこで何をした?』
「ピーちゃんと一緒に、デミリッチを倒しました」
部屋が、もの音一つしないほど静かになった。
『ピーちゃんとは?』
『この子です』
私は、お母さんドラゴンの足元にいたピーちゃんを抱きあげた。
『あんな子供が、「試しの洞窟」をか!?』
『信じられん!』
『馬鹿な!
デミリッチだぞ!?』
『ソル・メグミ。
何かその証になるものを持ってはおらぬか?』
「デミリッチは跡形もなく消えましたからね……そうだ!」
私は、思いついてマジックバッグを逆さにした。
心の中で、全部出てこいと念じる。
この出し方に気づいたのは、旅の途中でだ。
宝石や金貨、お宝が山となる。
「きゃっ!」
私は、叫ぶと、自分の下着類の上にうつ伏せになる。
「こ、これは見てはダメっ!」
私は、洗濯ものをバッグに放りこんでいたのを忘れていたのだ。
『人族は、変な事を気にするのう』
『しかし、このお宝なら、話は本当のようじゃな』
『本当に「試しの洞窟』を制覇したのか……ソルの祝福を受けたお方は、とてつもないの』
竜たちは、みんな集まり、竜王様の足元で、なにやら話しあいをはじめた。私の周りには、小さな竜が寄ってきた。小さくても、私の身長より大きな竜が多かったけどね。
『ソルのお姉ちゃん、遊んでー』
『遊んでー』
『私もー』
竜が使う遊び道具なんて持っていなかったので、私は「あて鬼」をすることにした。
まず、ルールの説明をする。
「いいわね、鬼になったら他の誰かに翼で触れるのよ。
そうしたら、その子が鬼になるの」
『お姉ちゃん、「オニ」ってなに?』
私の腰くらいしかない小さなドラゴンがキラキラした目で私を見る。
「ああ、そうだったわね、デミリッチよ」
『デミリッチか、触れられたらデミリッチになるんだね』
「そうよ、空中に飛んだらダメよ。
あと、強く叩くのも、火を噴くのもだめ。
そんなことしたら、ずっとデミリッチよ」
『『『分かったー!』』』
小さなドラゴンたちのテレパシーが重なる。
最初のデミリッチ役は私が引きうけた。
「さあ、デミリッチだぞー。
捕まえてやるぞー」
『きゃー♪』
『こわい~♪』
『逃げろー♪』
私たちは、デミリッチ遊びに夢中になった。




