第23話ドラゴンの里と少女2
ドラゴンによって巨大な洞窟に連れてこられた私は、そっと地面に降ろされた。
テントに包まれていたので、空を飛んでいる時、周囲が見えず、それほど怖くなかったが、あちらこちら布が破れているから、それは、もう使いものにならないだろう。
身体に巻きついていたテントから外に出る。
ドーム球場がすっぽり入りそうな、その空間には、数体の大きなドラゴンが座っていて、洞窟のあちあらこちらに開いた穴から、次々にドラゴンたちが出てくる。
大きな部屋は、地面が見えないほどドラゴンで埋まってしまった。
部屋には、お線香をたいたような独特の香りがただよっている。もしかすると、それがドラゴンの体臭かもしれない。
洞窟内が明るいのは、壁に埋めこまれた板のようなものが光っているからだと気づいた。
板の光はちょっと地球の照明っぽかった。
洞窟の壁に、一か所だけ出っぱった場所があり、そこに一体のドラゴンがたたずんでいた。
そのドラゴンは、一際大きく、他とくらべ色が黒かった。
グゥオオオオっ
洞窟の壁がびりびり震える声を、そのドラゴンが出す。
他のドラゴンも、それに続き、同じような声で答えた。
あまりに大きな音に、私は思わず両手で耳をふさいでしまった。
『みなのもの、よく聞け。
ここの所、みなで探していたアルポークの息子がやっと見つかった』
洞窟のあちこちから、安心したような竜の唸り声が聞こえた。
『彼が帰ってきたのは喜ばしいが、里の掟を破ったことに違いはない』
これには、竜たちから賛同の唸りが上がる。
私は、ピーちゃんと暮らすうちに、竜の唸り声を聞き分けられるようになったらしい。
『罰を与えねばならぬが、誰かよい考えはないか?』
洞窟が静かになる。
やがて、一頭の黒く大きな竜が、咆えた。
『まだ年は満たぬが、「試しの儀」を行えばよい』
何体かの竜が、悲鳴のような細い声を上げる。
『うむ、しかし、それはちと厳しすぎぬか』
『竜王よ。
ここで、甘いことをしては、他の子竜に示しがつかぬ。
あなたの甥だからといって、かばうつもりはないのだろう?』
ピーちゃんは、あのでっかい竜王様の甥だったのね。
『うぬ……仕方なかろう。
人族の娘はどうする?』
『その者も、禁を犯したは同じ。
「試しの儀」の結果を待ち、罰を与えればよい』
『よかろう。
では、「試しの儀」の相手じゃが……』
『意見を出したのは私だから、私が相手しよう』
『な、なにっ!』
『竜王、どうされたのです。
私が試しの儀をするのに何か不都合でも?
まさか、甥だからといって、手加減するつもりはないでしょうな?』
『……ぬう、お主に任せる』
◇
私は、一体の竜に案内され、小さな洞窟にやってきた。
小さいと言っても、体育館くらいはある空間だ。
竜は私をそこに入れると、どこかに姿を消した。
そこも、大きな洞窟にあったような光る板で照らされており、本があれば、その字さえ読めそうだった。
敷物が無かったので、床に使い物にならなくなったテントを敷き、マジックバッグから取りだした毛布や枕を置く。
テントに座り、ダンテさんが焼いてくれたアイアンホーンのステーキを出し、それを食べる。
私のマジックバッグは、その中で時間が経過しないのか、ステーキが焼きたてのままだ。旅の途中でピーちゃんに尋ねたが、マジックバッグでも、普通は中に入れたものが腐ったりするそうだから、これは本当に特別だと分かる。もしかすると、ラストークで手に入れたお宝の中で一番価値があるのはこのバッグかもしれないわね。
熱々のお茶を飲むと、私は毛布にもぐりこんだ。
◇
夜中に目が覚める。毛布の中に何かいるのだ。悲鳴を上げようとした私は、手に触れたものの感触で冷静になる。
「ピーちゃん、どうしたの?」
『しー、竜はみんなテレパシーが使えるから、心を落ちつけて話して』
「ピーちゃん、『試しの儀』って危なくないの?」
『危ないなんてもんじゃないよ。
今のボクなら確実に殺される』
「じゃ、逃げなきゃ!」
『落ちついて!
他の竜に気づかれちゃう』
「ピーちゃん、ラストークに行くときは、秘密の抜け道を使ったって言ってたでしょ。
それを使って逃げればいいじゃない」
『ああ、あの抜け道は、もう封鎖されちゃったんだ。
それに、内側から外に出られないように張られた結界が強化されたんだって』
「ピーちゃんのせいね」
『そ、そうだけど。
とにかく、メグミなら人族だから、その結界は関係ないんだ。
ボクが結界まで連れていくから、そこから逃げたらいいよ』
「ピーちゃんは、どうするの?」
『ボクは、「試しの儀」を受ける』
「ええっ!?
なんで逃げないの?」
『すでに結界で逃げられないようになっているし、小さくなったこの体じゃ、逃げてもすぐつかまるからね』
「でも、殺されるって分かってて、どうして『試しの儀』を受けるのよ?」
『君も大洞窟にいたから見たでしょ。
あの「試しの儀」を提案した黒い大きな竜』
「ええ、竜王様と同じくらい大きかったね」
『あいつは、マズルっていうんだけど、竜王選定で、今の竜王様と戦って負けたんだ』
「ふうん」
『それでね、今でも竜王の座を狙ってるの。
ボクが「試しの儀」を受けないと、それをネタに、ヤツが反乱を起こしかねないんだ』
「なるほどね。
とんでもないヤツね」
『メグミが逃げるだけなら、ヤツもそこまでの事はできないと思うよ』
「なんで?」
『竜にとって、人族はアリンみたいなものなんだ?』
「アリン?」
『すごく小さな虫だよ』
私は、すぐにアリを思いうかべた。
「失礼ね!」
『でも、力の差を考えると当たり前でしょ』
「そうかもしれないけど、やっぱり失礼だわ」
『そういうことだから、とにかく今すぐ逃げて』
「イヤ」
『頼むから』
「絶対イヤ!」
『どうして、そんなに分からず屋なの!
そうするしか、生き残る方法はないんだよ!』
「でも、イヤ」
『メグミの馬鹿っ!
もう君なんて、友達じゃないやっ!』
ピーちゃんは、そう言うと、さっと洞窟を出ていった。
私は、さっきまで腕に抱いていたピーちゃんのぬくもりが消えて、すごく寂しくなった。
もう、ピーちゃんは、私を友達だと思ってくれないかもしれない。
だけど、私には、もう心に決めたことがあった。
私は、ピーちゃんのぬくもりが少しだけ残った毛布にくるまり、横になった。




