第21話ドラゴンと少女7
ヒューさんの家で食事した日、私とピーちゃんは、そのままそこにお泊まりして、次の日ギルドに帰ってきた。
ギルドでは、冒険者が私たちを歓迎してくれた。
「嬢ちゃん、よくジェリコをやっつけてくれた!」
「やっぱり、ドラゴンテイマーは違うねえ」
「さすが、金ランクだぜ、メグミちゃん!」
「いやー、メグミのお陰で、ずっと胸につかえていたものがスッキリしたわ」
「そうだ。
ジェリコたちはどうなりました?」
みんなに聞いてみた。
「それがよう、奇跡というか、神様のいたずらというか。
あいつら、かすり傷程度で済みやがったんだ」
「まったく、その通りよ。
あんなヤツ、どうなってもよかったのに!」
「全くだわ。
神様も、要らないことしてくれるわ!」
「ただ、ジェリコのやつが魔術を使えなくなったのは、よかったな」
「ああ、町長も、ぼーっとして、仕事ができる状態じゃないらしいからな」
「噂じゃ、トーラスの旦那が、新しく町長になるらしいぜ」
「あの人なら、この町も安心ね!」
その時、入り口から、ジェーンさんとダンテさんが入ってきた。その後ろには、ヒューさん、エマさん、ニコラもいる。
「お姉ちゃん、どうしていなくなっちゃったの?」
ニコラが私に飛びついてくる。
「ああ、ごめんね、ニコラ。
お姉ちゃん、まだしなくちゃいけない事があるの」
『ボクのお父さんに会いにいくんだよ、ニコラ』
「あ、そうなんだ、ピー……」
ピーちゃんと話せることは秘密だって、そう約束したのを思い出したのね。ニコラは、慌てて口を押えてる。
「そうか、お仕事があるなら仕方ないね」
ニコラはそう言うと、にっこり笑った。
ダンテさんが、大きな声でみんなに呼びかけた。
「みんな、ちょっと聞いてくれ。
俺とジェーンが結婚することになった。
それで……」
ダンテさんは、まだ何か言ってたようだけど、冒険者のみんなが歓声をあげたから聞こえなかった。
男の人たちは、ダンテさんの所へ行って、彼の背中を叩いている。
女の人たちは、ジェーンさんの周りで笑っていた。
「それでだな。
みんなを結婚式に招待したい。
来てくれるかな?」
「「「おおー!」」」
ダンテさんは、やっと言いたかったことが言えたようだ。
「あとな、これを機に俺とジェーンは、食堂を始めることにした。
名前は、『竜の恵み亭』だ。
ギルドのキッチン同様、ごひいきに頼むよ」
「「「おおー!」」」
それを聞いた私は、ピーちゃんと話して、みんなにお祝いをプレゼントすることにした。
「えー、ちょと聞いてください」
私がそう言うと、急にみんな静かになった。なんでだろう?
「結婚のお祝いと、ギルドへのお礼に、私からプレゼントがあります」
私が、赤いハンドバックから、それを出すとみんなから驚きの声が上がる。
「お、おい!
あれってマジックバッグじゃ……」
「す、すげえ!
俺、初めて見た!」
「素敵なバッグねえ!」
私が手に持ったものをピーちゃんがくわえて飛び、一つをヒューさん、一つをダンテさんに渡した。
二人は、それが何か分からないから、けげんな顔をしている。
それは、お盆くらいの大きさをした薄くて丸いものだった。
「それは、竜のウロコです。
どうか、私とピーちゃんからのプレゼントを受けとってください」
なぜか、誰もしゃべらなくなる。
一人、ニコラだけがニコニコして、ピーちゃんと私に話しかける。
「ピーちゃん、お姉ちゃん、ありがとう!」
それを聞いて、一斉に声が上がった。
「「「すげーっ!!」」」
「おい、みんな。
今日からここは、『スティーロギルド』から、『スティーロドラゴンギルド』に改名だ!」
ヒューさんの声で歓声が上がる。
「最高だっ!」
「国中に自慢できるな!」
「俺、お嫁さん、いっぱい来ちゃうかな?」
「あんたには無理よ。
でも、ほんと自己紹介の時が楽しみだわね!
『私、ドラゴンギルドの冒険者です』
な~んて、今からワクワクするわ!」
エマさんが、私とピーちゃんをハグしてくれる。
ピーちゃんと私にお礼を言う、ジェーンさんとダンテさんの目には涙があった。
◇
その後、スティーロギルドは、国内どころか国外にまで「ドラゴンギルド」として、名前を知られることになる。
そして、ジェーンとダンテが開いた『竜の恵み亭』は、壁に飾ってあるドラゴンのウロコとその味の良さで、いつもお客が列をなす店になるのだった。
◇
私とピーちゃんは、また二人だけになり、山道を歩いている。
『メグミ、だけど、本当によかったの?
結婚式って人間にとっては大切な行事なんでしょ?』
私たちは、ジェーンさんとダンテさんの結婚式を待たず、ギルドを出発した。
「いいのよ。
あの町で私たちができることは、もう無いしね」
『そうかな~。
ボク、エマさんに、まだまだぎゅーってしてもらいたかったのに』
ピーちゃんは、エマさんにハグしてもらったことが、よほど嬉しかったらしい。
「ハグなんて、私がいっぱいしてあげるわよ」
『え~、メグミか~』
「なによ、その言い方は。
ダンテさんが焼いてくれたアイアンホーンのステーキ、もうあげないわよ!」
『そ、それは困るっ!
メグミのイジワルっ!』
「そういえば、ピーちゃんのウロコって、なんで生えかわるとき大きくなるの?」
『ボクの体から離れると、魔法が解けて、元の大きさに戻るんだね』
「ふーん、そうだったの。
だけど、ウロコの大きさから考えると、ピーちゃんって本当はすごく大きいのね」
『そうだよ。
だってドラゴンだもん』
こうして私たちは、ピーちゃんのお父さんが住んでいるというレッドマウンテン目指し、旅を続けるのだった。




