第16話ドラゴンと少女2
「やかましいぞ、おめえらっ!」
大きな男の人がギルドの奥から出てくる。
「いってえ、なんの騒ぎだ!」
茶色い髪をポニーテールに束ねた大きなおじさんが、部屋を見まわす。
「おう、嬢ちゃん、すまねえな。
こいつらが騒いで……」
おじさんの視線が、ピーちゃんに向く。
彼は、ドスンと床に腰を落とした。
床が揺れる。
「ド、ド、ドラゴン……」
床に倒れたおじさんが震える声を出した。
◇
しばらくして、やっと立ちあがったおじさんが、話しかけてくる。
彼の手には、サウダージさんからの手紙があった。
「じょ、嬢ちゃんが本当にメグミでいいんだな?」
「はい、私がメグミです」
「で、そっちがドラゴンの『ピーちゃん』だな?」
「はい」
彼の大きな手が、カウンターに置いてあった布包みを開く。
中からは、金色に輝くギルド章が出てきた。
「今日から、メグミは金ランク冒険者だ。
おう、お前ら、いいか。
この娘は、金ランクだ。
敬意を示せよ」
「「「はい」」」
やっと落ちついてきた冒険者たちが、そう答えた。
サウタージさんが、私を金ランクにしてくれたらしい。
「しかし、嬢ちゃん、お前、その年だから冒険者になったのは、最近だろう?
どうやって金ランクになったんだ?」
大きなおじさんが尋ねてくる。
「それより、おじさんはどなたです?」
「おお、こりゃ、悪かったな。
ワシが、ここスティーロのギルドマスター、ヒューだ」
「初めまして、ヒューさん。
さっきのお話ですが、おっしゃる通り、私は冒険者になって、まだ一か月くらいです」
この世界の一か月は、三十日ということだから、それで間違っていないと思う。
「……で、どうやったら、一か月で金ランクになんかなれるんだ?」
「最初の採集依頼で、金色のキノコを採りました」
「おおっ!
黄金ダケ採ったってのは、お前さんだったのか」
「それで銀ランクになって、その後、ラストークダンジョンをクリヤしたくらいですが……なんで、金ランクになったんでしょう?」
「ラ、ラストーク……」
ヒューさんは、なぜか黙りこんでしまった。
「おいおい、ラストークってったら、死のダンジョンって、あれか?」
「ああ、まだ、第一層すら、誰もクリヤしてねえって話だぜ」
「入るのさえ禁じられてるダンジョンだわね」
冒険者たちが騒ぎだす。
「で、お前さんは、その第一層をクリヤしたのかい?」
ヒューさんが、やっと話しだした。
「いえ、私がクリヤしたのは、一番下の第十層です」
「じゅ、十層……」
ヒューさんが、また黙りこんでしまった。
「げっ!
あそこ十層もあったのか。
第一層のマップさえまだ作れてねえはずだが……」
「おいおい、それって何か月かけたんだよ」
「第一層だけで何か月もかかるはずだと思うわ」
冒険者のおじさんやお姉さんが騒いでいる。
ヒューさんは、また聞いてきた。
「おい、最下層をクリヤしたってこたあ、もしやダンジョンボスも倒したのか?」
「はい、デミリッチを倒しました」
「「「……」」」
なぜかみんなが黙りこんでしまった。
私は受付にいたおばさんに連れられ、奥の部屋に案内された。
◇
「こんないい部屋を貸してもらっていいんですか?」
私が案内されたのは、ギルドにあるとは思えないほど豪華な部屋だった。
「気にせずお使い。
金ランクは、ここを使ってもいいことになってるのさ」
受付のおばさんは、にっこり笑うと部屋から出ていった。
ふかふかベッドに横になると、疲れていたのか、私はすぐに眠ってしまった。
◇
「メグミ、もう起きなさい」
私は、受付のおばさんの声で目が覚めた。
「良く寝てたね。
もう、お昼前だよ。
よっぽど疲れてたんだね」
ふかふかのベッドのせいだと思ったけど、それは言わずにおいた。
「お早うございます」
私は半分身体を起こした。
ピーちゃんは、いつもの寝息を立てながら、私のお腹にくっついて寝ていた。
彼を起こさないように、そっとベッドから降りる。
「おばさん、お名前は?」
「ああ、昨日の騒ぎで自己紹介もまだだったね。
あたいは、エマってんだ。
昨日、あんたが会ったギルマスのヒューは、あたいの旦那さ」
「へえ、ギルマスの奥様でしたか」
「奥様っていう柄じゃないからね。
あたいのことは、エマって呼んでおくれ」
「分かりました、エマさん」
「ギルドの食堂は、毎日、夜明け前からやってるよ。
休養日はやってないから、気をつけな」
この世界は六日で一週間。その最初の日が休養日だ。
「ありがとう」
「あとね、ギルドの食堂で食べれば、酒以外は無料だよ。
まあ、あんたはまだ酒が飲める年じゃなさそうだが」
「へえ、すごいですね。
ベラコスじゃ、食堂は、お金がかかりましたよ」
「ああ、それは、あんただけだよ。
金ランクになると、無料になるんだ」
「そうだったんですね」
私は、サウダージさんに心から感謝した。
すると、身体がぽかぽかして、温かい気持ちになった。
◇
私が身だしなみを整えているうちに目を覚ましたピーちゃんを連れ、テーブルがある部屋に出ていく。
「嬢ちゃん、おはよう!」
「おはようさん」
「メグミちゃん、おはよう」
冒険者のおじさんやお姉さんが、挨拶してくれる。
「さあさあ、ここにお座りよ」
綺麗なお姉さんが席を立ち、私をそこに座らせてくれた。
「ありがとう」
「ここの食事は、なかなかのもんだよ。
ちょいと高いんだけどね。
おすすめは、朝告げ鳥の卵料理だよ」
お姉さんが微笑むと、すごくカワイイ顔になった。
この人は、きっとモテるに違いない。
「じゃ、それを食べてみます」
お姉さんは、食堂用のカウンターに顔を突っこむと、中に声を掛けていた。
彼女は、もう一つのテーブルから椅子を持ってくると、私の隣に座った。
「メグミ、ラスタークでの冒険を聞かせてもらってもいいかい?」
「話せるところだけでもいいですか?」
デミリッチとの闘いやお宝の事は秘密にするよう、サウダージさんから言われている。
「ああ、ぜひ聞きたいね」
お姉さんの目がキラキラする。
「いいですよ」
私がそう言うと、部屋中の冒険者が周りに集まってきた。
私は、『赤い棘』の人たちにダマされ、魔法陣に乗せられたところから話した。
「ひでーっ!」
「死のダンジョンに置きざりって、殺人だよな」
「まだ討伐に行ったこともない女の子にそんなことをするなんて、マジ許せない!」
綺麗なお姉さんが、目を吊りあげて怒る。
「良く生きてたね」
「ピーちゃんと一緒だったから、何とかなりました」
私は、メッシュの蓋をかぶせているピーちゃん袋を指さした。
「そ、その袋にあのドラゴンが入ってるの?」
お姉さんが、おびえるような顔になる。
「入っていますけど、ピーちゃんは大人しい子だから、怖がらなくてもいいですよ」
「そ、そうかい?」
「ええ。
ね、そーだよね」
私は袋に話しかける。
『理由もなく襲ったりはしないよ』
「ピーちゃんも、そう言ってます」
「ド、ドラゴンと話ができるのかい?
あたしには、何も聞こえなかったけど」
えっ!
そうだったのか。
ピーちゃんの声って、私にしか聞こえてないんだね。
『そうだよ』
ふーん、ピーちゃん、それで寂しくない?
『ボクはこの方が楽なんだ。
だから、気にしないで』
分かったわ。
そこで、私が注文した卵料理ができたから、それを取りにいく。
食堂用のカウンターから、野性的な顔つきの若い男性が顔を出した。
「君がメグミちゃんか。
金ランクの冒険者に料理が出せるなんて光栄だよ。
この街にいる間は、なるべくここで食べてくれると嬉しいな」
お兄さんは、とてもいい声をしていた。
「はい、ありがとう」
卵料理は、ものすごく美味しかった。卵がちょうどいい半熟になっていて、それと干し肉を焼いたのが絡むと、卵の甘みとお肉の塩味が溶けあい、舌の上に味の花が咲くようだった。
「これ、すごく美味しいですね」
私が言うと、なぜか綺麗なお姉さんが赤くなった。
「でしょ、私もこの料理が大好きなの」
お姉さんは、カウンターの方をチラリと見た。
綺麗なお姉さんは、自分の名前がジェーンで、シェフの名前がダンテだと教えてくれた。
◇
冒険者たちが討伐や採集で部屋からいなくなると、私はピーちゃんと散歩に出かけた。
スティーロの町は、最初思っていたよりずっと大きく、活気があった。
石畳に人々が生活する音が響いて、私はあこがれていたヨーロッパに来たような気持になっていた。
屋台で串肉を買うと、それをピーちゃんと分けあって食べた。町の人がピーちゃんに驚くといけないから、人気のない場所でだけど。
下着や石ケンを買ってから、ギルドに戻る。
着替えてからテーブルがある部屋に出ていくと、顔を赤くした冒険者たちがいた。
「おい、腰抜け。
誰か、このジェリコ様の相手をする者はいないのか?」
テーブルの上に、ブロンドの髪を肩まで伸ばしたキザな若者が立っていた。




