第15話ドラゴンと少女1
私は、肩から下げた革袋に入れた小さなドラゴン、ピーちゃんと一緒に、草原の中を通る一本道を歩いていた。
革袋は、ダークウルフの革でサウダージさんが作ってくれた。
私がギルドを出発するとき、みんなが笑顔で、でも涙を流しながら見送ってくれた。
『メグミ、本当にボクのためにギルドを離れてよかったの?』
「うん、気にしないで。
いつでも帰ってきていいよ、ってみんなが言ってくれてたし」
『父さんが住んでるレッドマウンテンまでは、強い魔獣も出るし大変な旅になるよ』
「気にしなくていいよ。
それに、魔獣が出てもピーちゃんがやっつけてくれるんでしょ」
『それはそうだけど……』
「なら、この話は、もうお終い。
それより、ピーちゃんが今までどうやって育ってきたか教えてくれる?」
『何でそんなことを知りたいの?』
「だって、私たち友達でしょ。
友達の事を知りたくなるのは、当たり前じゃない」
「そうなのか。
でも、あまり話すことはないよ。
ボクたち竜は、子供のときは、里から外に出ないから」
「里?」
「竜が棲む里があるんだよ。
竜のみんなは、『ドラゴニア』って呼んでる。
竜は大昔に他の世界からここに来たんだって。
その世界にあった竜の故郷がそういう名前だそうだよ」
「へえ、『ドラゴニア』かあ、いつか行ってみたいわね」
「メグミは変わってるね。
普通の人間は、ドラゴンって聞いただけで、すごく怖がるのに」
「だって、ピーちゃんがドラゴンだからね」
「な、なんかボクが大したこと無いみたいに言われてる気がする」
「気のせいよ。
それより、レッドマウンテンまでは、まだ遠いの?」
「うん、まだかなりあるよ。
だから、この前、ダンジョンから町まで帰ったときのように、ボクがメグミを運べば早いのに」
「あれは、もう絶対にいや」
「どうして空が怖いのかな。
気持ちいいのに」
「人それぞれなのよ」
「まあ、歩くのはメグミだから、ボクは構わないけど……」
こうして、私とピーちゃんは、青空の下をどんどん歩いていった。
◇
「おじさん、ありがとう」
途中で乗せてくれた荷馬車のおじさんに、お礼を言う。
「この街は、荒っぽい奴も多いから、嬢ちゃん、気をつけてな」
「ありがとう」
私たちの前には、山の斜面に広がる町があった。
町のあちらこちらから、煙が昇っている。
活気がある町のようだ。
「さて、どうしよう。
サウタージさんは、この町に着いたら、まずギルドに行くようにって言ってたけど」
『ギルドの場所を人に聞けばいいんじゃない?』
「そうね、そうしてみる」
ピーちゃんのカバンには、メッシュのフタが付いていて、今はそれを閉じている。
ドラゴンを見たら驚く人もいるだろうから。
私は、脇に桶を抱えた女の人に道を尋ねることにした。
「あのー、すみません」
「あら、綺麗なお嬢ちゃん、なんだい?」
「この町のギルドって、どこにありますか?」
「ああ、お父ちゃんが、そこにいるんだね。
この道をそのまま歩いていくと、左側に大きな二階建てがあるからすぐに分かるよ。
屋根にドラゴンの風見鶏があるから、間違えようがないよ」
「そうですか、ありがとう」
◇
ギルドは、ベラコスのものより、かなり小さかった。
私は両開きの扉を押しギルドの中に入った。
二つあるテーブルに座っている男の人や女の人が、ジロリとこちらを見る。
ベラコスのギルドに比べ、みんなの表情が暗い気がした。
「おい、嬢ちゃん。
来る場所を間違えたんじゃねえのか?」
革のチョッキを着た、痩せたおじさんが声を掛けてくる。
チョッキの前が開いてるから、肋骨が浮かんだ胸が見えていてカッコ悪い。
「ここは、ギルドですよね?」
「そうだぜ」
「じゃあ、間違えじゃありません」
私はそう言うと、誰も並んでいない受付の前に立った。
「おや、お父さんかお母さんに会いに来たのかい?」
受付にいた、ふくよかなおばさんが、そう言った。
「私、メグミと言います。
これをお願いします」
「これは?」
「ベラコスギルドのサウダージさんから預かってきました」
私は、手紙と布に包まれた品物を分厚い木のカウンターに置いた。
「じゃあ、見せてもらうよ」
おばさんは、手紙をまず開くと、それを読んだ。
「なんだって!
金ランクの冒険者が来るのかい。
嬢ちゃん、お父さんはどこだい?」
「私、一人です」
「そんなはずはないだろう。
メグミって金ランクの冒険者がいるはずだよ。
嬢ちゃんのお父さんじゃないのかい?」
「だから、メグミは私です。
でも、私は銀ランクですよ」
私の後ろでガタガタっと音がする。
振りかえると、二つのテーブルに座っていた何人かが立ちあがっていた。
「おい、お前みてえな小娘が、銀ランクのはずねえだろう!」
さっき話しかけてきた、痩せたおじさんが、床にぺってツバを吐いた。
汚いなあ、もう。
「でも、本当だもん」
「そんなはずは……ねえさん、どうした?」
おじさんが、驚いている。彼の視線は、私を通りこして、受付を見ていた。
振りむくと、おばさんが、まっ青な顔をしている。手に持った手紙がプルプル震えている。
「ド、ドラゴン……」
「ねえさん、ドラゴンがどうした?」
痩せたおじさんが、もう一度尋ねた。
「そ、その娘……ドラゴン」
「この小娘がなんだって?」
「ド、ドラゴンを連れてるって」
部屋の音が消えた。
次の瞬間、みんなが爆笑した。
「ははは、エマねえさんは、冗談が上手いって前から思ってたが、これは傑作だな」
「だいたい、ドラゴンって、連れて歩くにゃでっかすぎるだろう、ガハハハ」
「エマさん、最高、あははははっ」
みんな、おばさんと私の方を指さして、すごく笑っている。
お腹を押さえて床に膝をついてる人がいるくらいだ。
しょうがないから、私はカバンの蓋をぱらりと開けた。
こちらを見ていた皆の目とピーちゃんの目が合う。
「「「……」」」
みんなが、笑った顔のまま動きを停めた。
そのまま、五分くらい時間がたった。
水が落ちるような音がしたのでそちらを見ると、笑った顔のまま停まっているお姉さんの足元に水たまりができている。
おしっこ漏らしちゃったのね。
失礼だなー。
私がもう一度、受付のおばさんの方を向くと、後ろでもの凄い騒ぎが起きた。
もうそれは気にせずに、おばさんに話しかける。
「私、さっき言ったように、銀ランクです」
ところが、ピーちゃんの方を見たおばさんも動かなくなってしまった。
私が困っていると、大きな声がした。
「やかましいぞ、おめえらっ!」
奥の部屋から出てきたのは、見あげるほど大きなおじさんだった。




