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第13話ダンジョンと少女6

 ダンジョンから出ると、いつの間にか朝だった。

 丸一日、ダンジョンにもぐっていたことになる。


「さあ、問題はここからどうするかね」


『ふわ~、それはここから町までどう帰るかってこと?』


 私が抱いている小さな竜、ピーちゃんがあくび交じりに言った。


「そう、それが問題なの」


『そんなことなら簡単だよ』 


「えっ?

 どうするの?」


『こうすればいいんだよ』  


 ピーちゃんは、抱えていた腕の中から空に飛びたつと、私の後ろに回りこんだ。

 いきなり、背中がぐいっと引っぱられる。


「きゃっ!」


 私は、冒険者用の丈夫なベルトをピーちゃんにつかまれ、宙に浮いていた。


『じゃ、道案内おねがいー』


 ピーちゃんは、そう言うと高度を上げた。


 ◇


 ギルマスのサウダージは心配で胃が痛くなっていた。

 メグミが姿を消してから、もう一日以上たつ。


 彼女の部屋には荷物がそのままになっているから、突発的な何かが起きたとしか考えられなかった。


 せめてもう少し早く町に帰っていたら。

 彼女は、結婚式後のパーティに自分を強引に連れていった叔父のことを、うらめしく思いはじめていた。


 とにかくじっとしていても始まらない。

 もう一度、冒険者たちに確認しておこう。


 彼女は、ギルマス用の部屋を出ると、冒険者たちが集まる待合室にやってきた。


「おい、お前は昨日いなかったな。

 メグミがいなくなったんだが、何か知らないか?」


 ベテランの冒険者に尋ねてみる。


「ああ、嬢ちゃんなら、ダンジョンにでも行ったんじゃないかな?」


「おいっ!

 どうしてそう思う?」


「ダンジョンに行くならどんなものが必要か、聞かれたから教えたんだけど」


「そ、それはいつだ?」


「三四日前だよ」


 ちょうど、自分が結婚式でここを離れていた時だ。


「くそう、誰か何か気づいたことはないのかい?」


 サウダージが声を張りあげる。

 冒険者たちは、首を左右に振るだけだ。


 珍しくこの時間にテーブルを囲んでいる『赤い棘』のメンバーにも尋ねてみる。


「お前たち、メグミを見なかったか?」


「さあ、知りません」

「「「右に同じー」」」


 メグミが心配で気が気でないサウダージは、普通ならおかしいと思ったであろう女たちのニヤニヤ笑いに気づけなかった。


 サウダージが、捜索隊の結成を呼びかけようとした、その時だった。

 ギルドの外が騒がしくなる。

 彼女は、すぐに待合室から外へ飛びだした。


 道を行く人々が空を指さし、何か叫んでいる。

 サウダージがそちらを見上げると、鳥のような何かが飛んでいる。

 それが、みるみる大きくなると、身体をくの字に折った少女がその下にぶらさがっているのが分かった。


「な、なんだっ!?」


 鳥のような何かは、ギルドのすぐ前に着地した。


「もう!

 ピーちゃん!

 私、高いところ苦手なんだからあ」


 泣き声交じりの声がする。

 それは彼女が心配していた少女のものだった。


「メ、メグミっ、無事だったかっ!」


「あ、ギルマス、ただいまー」


 のんびりしたメグミの声と安心で、サウダージは腰が抜けそうになった。

 しかし、実際に腰が抜けた人もいたようで、ちょうどギルドの前を通りかかった人の多くは、地面に腰を落としブルブル震えていた。


「あんたら、どうし……」


 どうしたんだ、と尋ねようとしたギルマスの口が開いたまま凍りつく。

 彼女は、目にしたものを信じることができなかった。


 ド、ドラゴン!


「もう、次にやったら承知しないからねっ!」


 メグミが叫ぶとドラゴンがしゅんとうなだれている。

 どういうことだ?


 少女は、丸くなったドラゴンを腕に抱くと、サウダージに近づいてきた。

 ドラゴンを目と鼻の先で見たギルマスは、ぺたりと尻もちをついた。本当に腰が抜けてしまったのだ。


「ギルマス、どうしたの?」


 メグミが心配そうにサウダージにかがみこむ。

 彼女が抱いたドラゴンの顔が、サウダージの顔すれすれまで近づく。


 パタリ。


 ギルマスが白目をむいて倒れてしまったので、メグミはドラゴンを抱えたまま、ギルドの中に駆けこんだ。


「だ、誰か、サウダージさんが倒れちゃった!」


 ギルドの中は、天地がひっくりかえるほどの騒ぎになった。

  

 ◇


 冒険者たちに囲まれ、私はギルマスのサウダージさんからお説教されていた。


「いい?

 ドラゴンは、そんなに気安く扱っていい存在じゃないのっ!

 だいたい、なんですか「ピーちゃん」って、ドラゴンをそんな名前で呼ぶなんて!」


「ギ、ギルマス、話が逸れています」


 受付のお姉さんに指摘されたサウダージさんが、少しだけ冷静になる。


「で、あたいとした約束はどうしたんだい?

 依頼を受けるなら銀ランク以上が三人いるパーティと行くこと。

 出かける前にあたいに知らせること。

 この二つだったね」


 サウダージさんは、手を私の顔ぎりぎりに突きだすと、指を二本折った。


「は、はい、出かけるのを知らせなかったのは、ごめんなさい。

 でも、銀ランクが三人以上いるパーティとダンジョンに行きました」


「どのパーティーだい?」


「『赤いとげ』です」


 冒険者たちが、一斉に部屋の隅を見た。

 そこには、ドラゴンを目にして腰がぬけ、身動きが取れない四人の女性がいた。

 サウダージさんがゆっくり立ちあがると、お尻を床につけている「赤い棘」四人のところに近づく。

 私はそれを見て、まるで虎が獲物に近づくみたいだと思った。


「あんたら、メグミの事は知らないって言ったな」


 ギルマスの静かな言葉に、「赤い棘」の四人がブルブル震えている。

 

「全員銅クラスのあんたらが、この子をどこのダンジョンへ連れてった?」


 えっ!? あの人たち、銀ランクじゃなかったの?


「ラ、ラ、ラストークでしゅ」


 リーダーのグロスさんは、ギルマスの前で、舌を噛むほど怯えている。


「ラストークだって!?」


「おいおい、ランクさえ付けられねえ『死のダンジョン』だぜ。

 いくらなんでも、そりゃねえだろ」

「嬢ちゃんを殺す気だったな」

「ああ、間違いない」


 冒険者たちが騒ぎだす。


「メグミ、こいつらに何された?」


「そのグロスさんに、武器と防具を取りあげられ、最下層に行く魔法陣に乗せられました」


「「「なんだって!!」


 冒険者たちは、最初、青い顔になり、そして次にまっ赤になった。


「なんて奴らだ、殺人そのものだぜ!」

「嬢ちゃん、よく生きてたな!」

「ラストークの魔法陣を踏んで帰ってきた者はいねえぞ!」


「お前たちをどうするかは、そこのドラゴンに決めてもらおう。

 メグミ、ピーちゃんを連れてきな」


「はい」


 私に抱えられたピーちゃんが10cmくらいの距離で「赤い棘」四人の目を覗きこむ。

 彼女たちは、一人一人、白目を剥いて気絶した。下が濡れているのはお漏らししたせいだ。


 サウダージさんが何も言わなくても、冒険者のおじさんたちが、四人を縛りあげてしまった。

  


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