第11話 ダンジョンと少女4
デミリッチがいるというボス部屋は、魔法陣がある部屋からすぐだった。
そこだけ洞窟の天井が高くなっていて、とても大きな扉が立っていた。
扉の上までは十メートル以上ありそうだ。
小さなドラゴンのピーちゃんが飛びあがり、扉の数か所にちょんちょんと触れた。
私だけなら、とてもそこに手が届かなかっただろう。
ゴゴゴゴゴ
少年漫画の効果音になりそうな音を立て、扉が開いた。
私とピーちゃんが部屋の中に入ると、再び音を立て扉が閉まる。
『あそこ、分かる?
部屋の中央に大きな棺桶があるでしょ』
『大きいわね』
『もうすぐあそこからデミリッチが出てくるよ』
ピーちゃんがそう言い終わらないうちに、巨大な棺桶の蓋がズルリとずれた。
できた隙間から、まっ黒な雲のようなものが吹きだしたかと思うと、巨大な人型の何かになった。
「なにか」というのは、もやもやした黒雲は、形が定まっていないからだ。
ただ、全体を見ると、紛れもなく大きな人型をしていた。
クゥオオオオッ
口らしいところが開くと、そんな音が聞こえた。
気が弱い人なら、それだけで気絶しちゃいそうだ。
ピーちゃんが、ヒューっと飛んでいくと、小さな口から凄い炎を吐いた。
火炎放射器のそれを何本も束ねたような炎が、デミリッチの全身に襲いかかる。
クゥオオオオッ
デミリッチが、再び叫び声をあげた。
ピーちゃんの炎が止まると、少しだけ小さくなっていたデミリッチが元の大きさに戻る。
巨大な手が、ピーちゃんに向く。
デミリッチの黒い手が、ビューっと伸びる。
ピーちゃんは、ぎりぎりでそれをかわした。
ピーちゃんのお腹にあった刺し傷は、あれが原因かもしれない。
短剣と盾を『赤い棘』のリーダーに盗られた私は、ギルマスに作ってもらったナイフを手にした。
ダークウルフの牙で作られたそれは、日頃、調理に使っているものだ。
私は後ろからデミリッチに近づくと、足だと思われるあたりの黒いモヤモヤにそれを突きさした。
手ごたえがないだろうと思っていたのに、なぜかそれは、グサッという感じで何かに刺さった。
クゥオオオオゥ
デミリッチが一際高い叫びをあげると、大きな手を広げ、私のからだに巻きつけた。
巨大な黒いモンスターに握られた形になった私は、息ができないほどの握力に、ジタバタするしかなかった。
動く方、つまりダークウルフのナイフを持った方の手で、胸の所を押さえつけているデミリッチの手を突きさす。
だけど、ナイフはなぜかデミリッチの黒い手をすり抜け、自分の胸に突きささった。
ひどい痛みが私を襲う。
「ううっ!」
『メグミーっ!』
薄れかける意識にピーちゃんの声が聞こえてきた。
私の体は、大きく開いたデミリッチの口近くまで持ちあげられる。
意識を失いかけた私が目にしたのは、闇が渦巻くデミリッチの内側だった。




