「06」 花楓の笑顔
「悠人様、着きました。」
『着いた』という語彙に疑問を抱きつつ、花楓の声で目を開けた。
突然の出来事で、思考が追い付かなかった。ただ目をパチクリさせ、辺りを見回す。
悠人が驚いたのも無理はない。
目に映ったのは、煌々ときらめくビル群が立ち並んでいる光景だった。
正面にいた逸戯どころか、暗い部屋さえ跡形もなく消え、遠くの方に『Itugi corporation』の文字が輝いているのが見える。
「さっき...ていうか、今まで建物の中にいた...よな...?」
「はい。テレポートしました。」
そんな簡単な口調で言われても困る。手を繋いだのはその為だったのか... 恥ずかしながら少し期待してしまった。
-----ゲームの中では結構やってたけどなぁ...テレポート... いざ体験すると...なんか感覚がおかしくなりそうだ-----
「あぁ、そうだ... テレポートと時間軸の移動って何か縁がありそうだよなぁ~...」
遠まわしに、『ここに来た...否、この時代に来た理由』を聞き出そうとした... しかし...
花楓は髪を耳にかけると、唇に指を当てて微笑んだ。
言葉にはしないものの、
「その話は後です。逸戯さんにも同じことを言われましたよ。」 ...みたいなことを言ってそうな表情をしている。 感づかれてしまった...
しかし、花楓の一つ一つの仕草がとても可愛らしかった。
それはそうと、この場所には見覚えがあった。
悠人の真横には真っ赤な顔をした『酔っ払い』がいびきを立てながら気持ちよさそうに潰れていた。
そう、この場所は悠人が30世紀に移転させられ、初めて立った地であった。
-----オッサン... まだここにいたのか...-----
「やはり観光はここ! 『第一区 中央プラザ』からに限ります!」
天を指さし、唐突に花楓が口を開いた。違ったのは、さっきまでの冷たい声を感じさせない、活気のある温かい声だったことだ。
観光がそんなに楽しみなのだろうか... 今までのフラットな性格とは正反対だ。
案内する側が楽しんでるなぁ... と思いつつも、なんだか表情が綻びた。
そして、笑っている花楓を見ることができて嬉しかった。
瞳を輝かせ、幼子のような笑顔...
しかし、その『笑み』の中に隠れた『悲しみ』を悠人はまだ知る由もなかった。
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