第1章 「01」 完璧 ベクトル 絶望
所変わって、とある田舎の道端で...
「-------俺は『完璧な生活を送っているぞ!-------」
『橘 悠人』はそう叫ぶと、日が沈みきった壮大な星空を仰いだ。彼の住む、町の夜空にはいつも通り、星たちが美しく瞬いていた。
身体能力が周りより少し秀でていることを除けば、学力、容姿とも『The 平均値』の高校1年、いわゆる普通少年... しかし、生まれた家はそこそこ裕福だったし、周りの人間とも上手く接していた。恋人がいないことがたまに傷だが...気にしない。
「ちょ、ちょっと! そんな大声出したら近所迷惑じゃない!」
悠人の横を歩く少女は、顔を赤らめて恥ずかしそうに異議を唱える。
「奈月は心配性だなぁ。この辺りの家はみんな顔見知りだろー。」
「---そういう問題じゃない!--- もう8時半! 夜なの! よる! お兄ちゃんはもう高1なんだから... しっかりしてよね! あと、制服のボタン...外れてる...」
そう言うと、悠人の妹『橘 奈月』はそっぽを向いた。
肩までのばした麗しい髪が風に靡き、静けさが辺りを覆った。
悠人の1つ下、中3の奈月は容姿端麗で、成績優秀、友達や先生からも慕われる、兄とは少しかけ離れた『優等生』であった。普段は厳しいが、兄のことをいつも気にかけてくれる可愛くて優しい妹だと、悠人は思う。
「8時半かぁー。ちょっと遅くなっちゃったから、母さんに電話しとくか...」
その時だった...
体の内側からくるような激しい痛み。倒れたのだろうか...視界の上下が逆になったかと思えば、ぼやけ始め、一瞬で黒に染まる。
「うぐっっ...ぁあッッ...」
息が苦しくなり、うめき声をあげる...
喉を通っていく熱... 体が引きちぎれそうになる感覚が悠人を蝕んでいく...
-----俺はどうなるんだ...死ぬのか?...-----
どこからか、声が聞こえる。聞きなじみのある...
「お兄ちゃん!お兄ちゃん! しっかりして! うっっ お兄ちゃん-----!!!」
今にも泣きだしてしまいそうな...
-----ああ、奈月の声だ...-----
奈月が呼んでいる。奈月が呼びかけている。
しかし、その声はだんだん遠く、小さくなっていく... そして、完全に聞こえなくなった...
---同時に、悠人の意識も深い闇に飲まれていった---
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