第15話『餞』
フリューゲル被災から四日目の朝。隣町へ申請していた救援物資を載せて、十台程の魔法車が街に着いていた。東の巨大な門を潜り、魔法車はフリューゲル北部へ。不足していた医療アイテムや生活用品を供給。被災地の瓦礫回収班数十名を移送。フリューゲル南部地域の瓦礫の回収を開始した。
「……お、支援物資か?」
北部へ続く大通り、その広場にあるベンチに座り、通過していく魔法車を眺めながら、ルフはボーッとしていた。風通しの良い広場で一人、何も考えずに頭を空っぽにする。朝に弱い訳ではないが、一旦思考をクリアにする事で、それ以降の脳の働きを活発にさせる、そう言った魂胆だった。
「ルフ、おはよ」
そう声をかけられ、無意識から引き戻されるルフ。そこにはウィンディーネの姿。汚れた身体や髪は綺麗に洗われ、被災でボロくなった服は新しい物に変わっていた。昨日に意識が戻ったばかり、魔力を酷使した副作用が残っている為、休養中である。
「あぁ、おはよう、ウィンディーネ」
ウィンディーネはルフの隣に座る。ふと、ルフはウィンディーネの髪の変化に気づく。髪が傷んだせいか、普段より艶が落ち、心做しか色合いが薄暗くなったように見える。
「……髪、大丈夫か?」
「髪? 何か変ですか?」
「あ、いや……まあ、気のせいか」
気のせいにしておくルフ。気のせいじゃなくとも、あまり女性に対して髪などをとやかく言う事じゃないと判断したからだ。では、端から聞かなければ良いのに。
「ルフ、ありがと」
「な、何だよ、急に」
突然のお礼に戸惑い、照れ隠しで顔を逸らしたルフ。
「ルフのおかげで、私は自分らしくいられました」
「俺の、おかげ?」
全く心当たりのないお礼に疑問が浮かぶ。
「それに、ルフがいなかったら私、死んでたかもしれませんからね」
ニコリと物騒な事を言うウィンディーネ。それを聞いてようやくお礼の意味を理解した。ウィンディーネを背負いながら被災地を回り、一緒に負傷者を救い出した事を思い出す。ウィンディーネは、自分が動けなくなって意識を失う寸前まで魔力を酷使し、負傷者に回復魔法を施した。その足をルフが担い、最終的にはルフがウィンディーネを背負って北部へと避難した。
「なあ、ウィンディーネ」
「はい」
「……例えば、なんだけどよ。例えば、お前の回復魔法でさ、欠損した部位を修復、なんて事はできないのか?」
そんな質問に、一瞬だけポカンとするウィンディーネ。単に回復魔法とは無縁のルフからの、興味本位の質問なのかと飲み込む。
「できません。切断した部位同士の接合はできますが、無いものは回復魔法だけじゃ作れませんので」
「ふーん、そうか」
ルフは何か思う所があるのか、ゆっくり溜めるように言葉を吐き、ベンチの背に後頭部を置いてもたれかかった。そこでウィンディーネは思い出す。数日前の被災にて、ルフが背負っていた負傷者の姿。両足が吹き飛び、熱傷を負った男性。ルフが焼却止血を施したと言っていた事。何があったか不明だが、ルフは負い目を感じているように見えた。
そして、ウィンディーネは決意を固める。
「私、夢があるんです」
「おぉ、どんな?」
「幻の素材を手にして初めて作り出せる魔法薬。月光樹の花粉、不消の火の粉、幻妖の鏡命水。その三つを合わせて生み出された魔法薬は、どんな病も傷も完全に治し、失った命すらも蘇生できると言われてます。私は、その伝説の魔法薬を作るのが夢なんです」
「全く聞いた事ねぇけど、かなり難しそうだな」
「その魔法薬があれば、欠損した部位ですら修復ができるんですよ!」
そう言うウィンディーネは無邪気に目を輝かせる。天性のヒーラーだった。思えばいつかの薬草切れの時も、ムキになって薬草を買い占めようとしていた。薬草関連になると途端に理性を失うらしい。比較すると怒られそうだが、この瞬間だけは狐火木ノ葉とタメを張る爆発力だった。失礼だな、主人公だそ!
「ルフ! 私はあなたの力になりたい! だから頼ってくださいね、いつでも!」
ウィンディーネはルフの手を取り、ニコリと笑顔を見せた。数秒、ルフは頭が完全に空になり、ボーッと目の前の光景を見つめて固まる。そして我に返ると目線を明後日へ。
「あ、あぁう、わ、あ、ありがとうな、うん、頼むよ、うん」
急にぎこちなくなるルフ。くそっ、じれったいな。私、ちょっとやらしい雰囲気にしてきます!!
(作者:お前は少し黙っていろ、狐火木ノ葉!! 今、いい所なんだから!!)
そう言って作者と私、二人して茂みから二人の様子見に入る。警察がいるのなら、今すぐにでも逮捕してもらいたい人材なのは確かだが、そんな事はどうでもよかった。
「あ、あぁ……な、何だか腹減ったなー! そろそろ、朝食にしようかなー! じゃ、ウィンディーネ、またな!」
白煙を上げながら慌ててベンチを立ち上がるルフ。取ってつけたような都合を提示してその場から去ろうとしていたが、ウィンディーネに引き止められた模様。
「そうだ、ルフ! 一緒にご飯でも食べに行きませんか?」
「お、おぉ……おぅ、いいいい、行こうか」
そうして二人、仲良く朝ごはんを食べに行ったとさ。その二人の背中を見送りながら、私と作者は涙をハンカチで拭うのだった。ついて行こうとする私の手を作者は引き止める。これから先を盗み見るのは野暮というもの。私たち外野はここらで立ち去ろうでは無いかと。私は作者の言葉に賛成して、その場を立ち去る事に。そもそも、なぜ私がフリューゲルに戻っているかは作者のみぞ知る。さあ、そろそろ本編に戻るとしようか。
「師匠ッ!」
「んあぁ? 不発?」
「いや、かなり良いのが腹に決まりましたよ……」
村長宅、乱雑に荒れた布団の上。エシの呻き声を目覚ましに眠りから覚めた私。横を見ると、エシが腹を押さえて具合悪そうにしていた。話を聞くと、寝相の悪い私が技名を叫びながら、エシの腹部を思い切り蹴ったと言う。確かに、夢の中で何かと戦闘中だった気がする。
「師匠、今度から寝る時は縄で縛り上げたら良いかと思いますよ」
腹を押さえながら言うエシの言葉は震え、静かにフツフツと怒りが煮えている気がした。
「は、ははは……ごめんて」
獣人村三日目の朝。本日も寝癖で跳ねた髪はままに。一足早く起きていた村長がタイミングを計ったのか、朝食の準備を終えていた。エプロン姿で卓上へ出迎える姿はさながらお母さん。
「お寝ぼけさんと被害者さん、おはよう!」
「どうも、加害者です」
「師匠、いい蹴りでした」
そう言われて一体、どう反応すれば良いものか。そう言えば、小中高と足だけは一端を抜けて早かった。同級生には『逃げの木ノ葉』なんて呼ばれるに至るも、なんか屈辱感は拭えなかった。逃げ足だけの奴的な、はぐれメタル扱いが許せん。私ははぐれメタルよりスライムベス派だ。
半寝の頭でそんな事を妄想しながら席につき、今日も村長のスネをかじらせてもらう。かじるのは朝食だが正味、村長のスネをかじるのも美味しそうだとか思った。人狼ではありません、断じて。
「お二人共、そろそろ村を出ても良いかなって考えてるけどさ、どう?」
朝食を取りながら、村長はそう訊ねる。獣人村、居心地が悪い訳では無かったが、長居する程暇かと言うとそうでもない。一刻も早くフリューゲルに戻り、ウィンちゃんとフィノちゃんの容態を確認したい所。
「ちょっと寂しいけど、出れるなら出たい」
「師匠に同じで」
「オッケー、見送りに行くね」
こうして、私達は獣人村を離れる事を許可してもらった。村民はその判断を良くは思わないかもしれない。村長直々とは言え、異例の措置。当人の私達は、秘密事項の漏洩をする気は毛頭ないが、他人の気持ちなど他者が読み取る事なんて出来るわけが無い。ただし一部キャラは、勝手に私の脳内を読み取ったりするが。
「私が責任を持つ。だからねぇ、頼むよ、お二人さん? ここの事は内密にね」
口元に人差し指を当てて、黙秘のアクションで言う村長。
「毎日味噌汁作ってください」
「師匠?」
なぜかエシと村長は、私へと懐疑の眼差しを向けている。数秒間、私は吐いた言葉と思考が真逆になっている事に気が付かなかった。どうやら、心の声を間違って言葉にしてしまった模様。慌てて言葉を重ねる。だが、毎日味噌汁作って欲しいのは事実だ。
「じゃあ、お弁当でも作ってあげよう!」
そういう事になった。心うちでは『村長のご飯が恋しいから出発は明日にしよう』なんて思うも、思い留まる。善は急げのスタンスで。私には、帰りを待ってくれている仲間がいる、と勝手に思い込んでいる。名残惜しいが、準備が出来次第、獣人村を出る事にした。
村長が昨夜に洗濯してくれた衣服に着替え直す。地下四階層で採集した薬草を詰めたバッグを確認。エシも同じく出発準備を整える。
「これ、作ったから後で食べてね!」
村長は私たちに拵えた弁当を手渡す。懐かしい気持ちになった。中学時代、良く母親に弁当を作ってもらっていた事を思い出し、心が少し温かくなる。やはりこの村長、母親味が強い。
「村長ぉーっ!!」
「おぉっと!?」
私は村長に飛びつき、ギュッとハグを交わす。村長は突然の奇行に驚くも、私の体をしっかりと抱擁してくれた。細身の割には体幹が強く、私の飛びつきに対して全く倒れる気配はなかった。さりげなく獣人族の身体能力が発揮されている。
「おやおや、どうしました、狐火さん?」
「村長ぉ〜……」
数日とは言え、同じ灯りの元で暮らした仲。別れを前に、寂しさを覚えてしまった。アットホームで、まさにお母さんそのもののような存在だった村長。その温もりに触れ過ぎてしまったらしい。ホームシックが再発してしまった。
「村長、無理だって分かってるけどさ……」
「うんうん」
「またいつか、ここに戻ってきても……いいかなあ……?」
その問いに、村長は目を丸くする。それから微笑むと、子供をあやすように私の頭を優しく撫でた。
「君は心に素直過ぎ。ふふ、そうね……私はいつでも歓迎するよ。もちろん、エシくんもね」
「ああ、感謝するよ、ありがとう。色々と助かった」
「それじゃ、御二方を村の出口までご案内しましょう!」
それから村長の後をついて、獣人村出口へ。その道中、幾人かの獣人たちが、私たちの帰りを見送ろうとついてきた。出口に着く頃には十数人の集団となり、賑やかで軽いお祭り騒ぎになっていた。
「師匠、随分と好かれたもんですね」
「私の魅力に気づいちゃいましたか。やれやれ、人気者は大変だねえ!」
嫌われ者の人間が、こうして獣人たちに囲まれている。一人の存在として認められたような気がして誇らしい。
そんな集団に揉まれながら、一人の獣人が飛び出してきた。犬獣人の子、スティルだ。その脚力に物を言わせ、飛び上がると私に飛び付いた。
「デジャブフッ!?」
モフモフの毛並みがくっつき、独特な香ばしさが香る。
「お姉さん!! もう行っちゃうの?! もう少し後にしない?!」
そんな提案をされる。始めは殺意を剥いていたスティルが、これだけ好意を寄せてくれるようになるとは。内心では残っていたいと思ってしまう。でも、いつまでもお世話になる訳にもいかない上、私にはまだやるべき事がある。だから、この期に及んで犬吸いをしておく。スーハースーハー。
「ごめんね、スティル。お姉さんはまだ、やらないといけない事があってね」
「また、また戻ってきてね! 待ってるから! 絶対ッ!!」
あ、もう泣く。
スティルの身体に顔を埋めてこっそり泣いておく。
「おぅおぅ、盛り上がってんな!」
集団を割って、狼獣人が現れた。相変わらずその巨体からは圧を感じられて、身体が勝手に縮こまる。狼獣人はひっつき虫と化したスティルを引き剥がすと、自分の肩に乗せた。
「名前、聞いてなかったなあ、人間!」
「あー、私の名は狐火木ノ葉! こっちはエシ!」
「良し、覚えておくぜ! 元気でやれよ!」
狼獣人は私たちの前に拳を突き出す。私とエシはその拳に拳を当てた。狼獣人も、その言動から私たちを認めてくれているようで、それもまた感慨深かった。
狼獣人はそれから私たちに顔を近付けると、口元を隠して小声で耳打ちする。
「レポリ奴が人見知りでなあ……。ほら、端っこのとこに見えるだろ?」
こっそりと指を差す狼獣人。その方向を見ると、集団の中に紛れる小さな背丈が目に入った。兎獣人の子、レポリだ。ちぎれた右耳は、光る糸のようなもので縫合され、無事に処置された模様。軽く手を振ってみると、レポリは目線を逸らし、どこかへと行ってしまった。
「じゃあな、狐火木ノ葉! エシ!」
「ばいばーい、お姉さん、お兄さん!!」
狼獣人とスティルは別れを告げる。それから狼獣人はスティルを肩に乗せたまま、どこかへと消えていった。
「愛されてますねぇー」
村長が私の横で、ニヤニヤといやらしい笑顔を振りまいている。シンパシーを感じました。
そして、岩壁の前に立つ私とエシ。この先を抜けると山林に出る。外までは村長も同行してくれるとの事。最後に一度、振り返って村を目に収めておこう。そうして振り向いた先、集団の中から一人の獣人が鬼の形相を貼り付けて飛び出してきた! 一瞬で縮まる距離、遅れて身体が反応するも、その獣人の手を交わすには遅すぎた。瞬間、私と獣人との間に巨体が割って入った。私は風圧に尻もちをつく。背を向けてたエシも、その風圧に背を押されて地面に転がった。
「矛を収めろ」
私たちの前には、二人の獣人が激突していた。大顎を持つワニの獣人と鋭利な爪を持つ虎獣人。虎獣人は私たち人間に向けて鋭い目つきで睨みつけている。どうやらこの虎獣人、背を向けている私たちに奇襲をかけたらしい。そこをワニ獣人が割って入り、その奇襲を防いだ模様。動悸がして血の気が引く。もし、ワニ獣人が防いでくれてなければ、今頃、虎獣人の屈強な腕に打ちのめされていただろう。想像するだけでゾッとする。
「デイノス! なぜ邪魔すんだ?!」
虎獣人は、デイノスと呼ぶワニ獣人へ叱咤の声を上げる。
「秩序を乱すなと言っている。村長が認めた彼らを、私怨で手にかける事は俺が許さない!」
そう言うデイノス。獣人村に来た当初、私たちを殺そうとしていたワニ獣人が、今は私たちに味方し、守ってくれている。彼自身、人間への私怨が渦巻いているはずだ。それを飲み込んで味方してくれている。申し訳なさと感謝、計り知れない恐怖が不安を駆り立てた。
「それこそ外に出しゃあ、村崩壊の危機ってもんだろうが!!」
「言っただろ、村長が認めた人間と! 村長の決定は掟と同義。ここで彼らを殺めようものならお前は、掟破りの裏切り者だ! 規律に遵守し、お前が処罰を受ける事になるぞ」
睨み合う一対。村長はオドオドと気まずそうな顔をしていたが、ぬるりと二点間に割り込む。
「シルギット、一旦落ち着いてくださいね?」
シルギットと呼ぶ虎獣人の腕を掴み、ニッコリと愛想笑いを浮かべる村長。
「村長も、アンタも……なぜ、冷静になれんだ!? 忘れもしない、人間への怨恨! アンタらは良く知ってんだろ! 家族を冤罪で失ったアンタらこそ!!」
血反吐を吐き出す勢いで叫ぶシルギット。怒りのあまり、握り拳に力が入って爪が刺さり、血がポタリポタリと垂れていた。
「そこの人間が良い奴かどうかは関係ねえ! 人間である事だけで十分だろ! 獣人はそうして殺されてきたんだ!」
今にも飛びかかられるのではないかという気迫。空気がビリビリとひりつく。デイノスは万が一を考えて、私たちの前へと移動すると壁として立ちはだかった。狼獣人に引けを取らないその体躯は、守られる立場としては安心感が凄い。
村長は小さくため息を吐くと口を開いた。
「それでは何も変わらないわ。我々は、こんな場所で止まってはいられないんよ。行く行くは、人間と共存していかなきゃいけない。こちらが拒んでいては、何億年を過ぎても無理な話よ! どちらかが歩み寄らなければ、現状は何一つ変われない。そして彼らは、人間と獣人を繋ぐ、始まりの鍵。獣人を知り、獣人を認めてくれる人間。じゃあ私たちもそんな彼らを認め、友好関係を紡ぐ。獣人族の未来を守る為には、怨恨の一つも捨てる。そうでもしないと、本当に守りたいものも守れないわ!」
ここ三日間、村長と暮らしていて初めて見るその姿。少し前の、申し訳ないが頼りなさそうに見えるへっぴり腰だったのが、今は一人の『村長』としてこの場に立っていた。なるほど、なぜひ弱そうな彼女が村長なのか、その主張を聞いてしっくりときた。などとどの目線で言っているのだろうか、そんな私は狐火木ノ葉。
「全責任は村長である私が持つ。彼らを殺したいと言うならまずは、私の命から潰してもらうよ、シルギット」
「村長、それは酷な話だ。シルギットも俺も、誰も村長に勝てた試しがない」
デイノスはそう言った。どうやらこの村長、見た目からは考えられない程、戦闘面も強いらしい。到底そうは思えないが。
「い、いやぁ、あくまで責任の話であってね? 最悪、そうなる時は抵抗せずに殺られるつもりよ?」
一気に緊張が解けて頼りなさが戻る村長。数秒前の人物とはまるで別人。見慣れたフレンドリーな村長がそこに。
シルギットは村長の意思を蹴る気はないようで、その場は拳を収めるも怒りの矛先を失い、やり切れなさに身体を震わせていた。
「人間ども……命拾いしたな。良いか、良く聞け。お前らがもし、告げ口をして人間を寄こそうもんなら、俺が命に替えても人間を滅ぼしに行くからなぁッ!!」
シルギットは抑えても溢れてしまう殺意を目に映し、鋭利な牙を見せる。怒りのあまり、体表の毛が逆立っているのが良く分かった。
「それには俺も同意する」
デイノスは振り向き、大顎を開いて釘を刺した。二体の獣人から送られる殺意は、心身を氷漬けにさせる。息を吸う事すら忘れてしまう程に。
私はもう全力で顔を縦に振り続けていた。隣のエシもさすがに堪えたのか、引き攣った笑顔を見せていた。
パチンッ!
「はいっ! 一同解散! 後は私が送るからね!」
村長は凍り付いた空気を拍手で割くと、一連の話に終止符を打った。そして、私とエシの手を取ると、岩の中へと連行して半強制的に山林へと脱出させるのだった。その場の勢いに飲まれていた私たちは抵抗の気にもならず、村長の成すままにまんまと引っ張られていた。
村長に連れられて岩壁の中から山林へと出る一行。
「それじゃ、ここでお別れよ」
そう言って、掴んでいた私たちの手を離す村長。ニッコリと笑顔を向けるも、少し悲しげに見える。それは私の心が別れという場面において、不安定になっているせいだからだろう。また会えるとも限らない。できれば、また会いに行きたいが、これが最後かもしれない。そう思うと、ギュッと心が締め付けられた。
そんな時、
「人間を外へ連れ出すとは、これ如何に」
聞き覚えのある声と共に、空から一人の獣人が落下してきた。獣人村の門番、竜の顔と翼に尻尾を持つ、半竜半人の獣人テディルタである。ぶわりと翼をはためかせ、私たちの前へと着地した。
「ジャクトゥ、ご機嫌よう」
「何を考えている?」
細目でジトッと村長を睨みつけるテディルタ。
「そこまで門番を演じなくても、ね?」
村長はテディルタの肩を数回ポンポンと叩く。テディルタは頭を横に振ってため息を吐き、落とした肩を戻して覚悟を決めると、私たちの前へと出てきた。
「……昨日は助かった、ありがとう」
その神妙な面持ちから出た言葉は感謝だった。昨夜のスティルとレポリの捜索の件だろう。
「あの時、君たちの手を借りていなければ、最悪は見つからずに、子供たちを失っていたかもしれない」
「偶然だったけど……でも二人共、無事で良かった、いや、無事じゃなかったけど、見つかって良かったよ。レポリも、耳ちゃんとくっついてたし」
すると、テディルタはこちらへと手を差し出した。
「私は君たちを疑い続ける。疑い続けるが……信用を置く事にした」
そう言うテディルタ。ようやく認められた気がした。差し出された手を握り返す。
「不器用でしょ、テディルタさん?」
そう訊ねると目線を逸らすテディルタ。図星か。
「……狐火木ノ葉、エシ。信用を裏切るような真似、しないでもらえると助かる。それが私の願いだ」
忠告か、そう言うとテディルタは、持ち場の山頂へと飛翔していった。やはり不器用なんだと思う。信用を置きながら疑い続けると言うテディルタに、内心それは半信半疑と言う事ではないかとツッコミしたくなったが黙っておく。
「良し、エシ! 行こっか!」
「はい、師匠!」
急斜面の山林を、慎重に少しずつ下っていく二人の背中を、山頂の一枚岩の上から見送る村長とテディルタ。
「……あれ、何で憑いてるのかしら?」
村長は目を細め、一点を凝視する。
「何の話だ?」
「ん、ぁいや、何でもないよ。所で、セネゴレアは?」
「麓に着くまでは待機命令をかけた。食われはしないはずだ」
それから、何事もなく無事に下山する私たち。エシの長筆によるマーキングを頼りに、ダンジョン地下五階層から地上へと帰還する。道中地下五階層岩場にて、たまたまエンカウントした翼竜に目を付けられ、二人して死ぬ気で逃げ切った。地下五階層はやはり、私には早いか。次、この階層に挑む時は、無敵のフィノちゃんを引き連れて行くと心に決めた。
そうして夕方頃、ようやく地上へと戻る事が出来た私たち。ダンジョン入口には、恐らく別のパーティーを送ってきたのだろう魔法車が一台止まっており、運転手が新聞を目隠しに眠りについていた。タイミング良く止まっていたので、パーティーの帰還に合わせて一緒に送って貰うことに。かくして無事に獣人村を去ることができ、ダンジョンから脱出する事が出来た。認められた実感や嬉しさ、別れの切なさ、しばらくフリューゲルに戻れなかった焦燥感と、色々な感情が入り交じって私は、車窓から流れる景色を無情で見逃していくのだった。空は赤い幕を下ろす。
どうも、星野夜です。金欠なので、キャベツを三枚ずつ剥がして料理に使う、ひもじい作家です。
金が入ったら、真っ先にモスバーガーを食したいと心に決めました。最近の物価高騰により、マクドナルドがモスバーガーと大差なくなってしまったので、勝手に上位互換だと思ってるモスバーガーを食べたい。でも、マクドナルドのジャンキーさは、唐突に食欲を刺激してくる謎の魅力があるよね。というか、僕自身がジャンキーなものが好きという致命的点があるからだろうか。
人間の欲は底知れない。
さあ、腹の虫を鳴らしながら後書きます今回は、ついに獣人村を旅立つ一行の話でした。狐火木ノ葉が実に羨ましい。僕もスティルをモフモフしたい。
しかしまあ、改めて思うことは……主人公と言う生き物は忙しいということだ。だから主人公たらしめるのだろうけども、狐火木ノ葉はどちらかと言うとダラダラ怠慢タイプだ。できる事なら今すぐ家に帰り、風呂に入り、綺麗さっぱりになってから、最新のゲームに没頭したいと思っているだろう。それを横目に、家でダラダラしながら執筆し、カフェオレを嗜む。狐火木ノ葉、お前にはこの境地に至るには十年早いね。
狐火「なに、この小説、あと十年は続くってこと? 冗談は顔だけ案件じゃん」
くっ、創作物ってだけでルッキング補正かかってるに過ぎない存在め。思い付きの気まぐれで過酷な道を辿らせてやろうか。
狐火「顔は心を映すってね。作者の顔はさぞ悪しきものよ」
これから先に巻き起こる冒険を、乞うご期待!! 首関節を増やしながらお待ちください。
以上、狐火木ノ葉処刑部隊隊長の星野夜でした。




