第11話『人芝居打ってみた』
どうも、狐火木ノ葉です。風吹く街と呼ばれてるフリューゲルが災害に見舞われ、大勢の負傷者が発生。医療アイテムの底を尽かし、緊急クエストが発注された。負傷者の治療に使用する為の薬草類を採集するクエスト。私は弟子のエシを引き連れ、採集へとダンジョンに乗り込んだ。
地下四階層草原地帯にて薬草を採集している最中、私たちは獣人の子スティルとエンカウントして戦闘になる。スティルは何者かによって胸部に裂傷を負っていた為か、出血で力尽きる。私たちはスティルの傷に応急処置を施した。
そこに、保護者である狼獣人が現れ、戦闘となってしまう。尋常ではない身体能力に圧倒された私たちはピンチに陥っていたが、その間をスティルが割って入り、狼獣人を説得。狼獣人からの提案で、私たち二人は獣人村へ招待されてまう。
そしてダンジョン地下五階層のとある急峻な山林へ。獣人村の門番、テディルタに道を塞がれるも、何やかんやエトセトラエトセトラ。いちいち説明させないでおくれ。テディルタは納得し、狼獣人引率の元、獣人村への入場を許可してくれた。
獣人村へ着いてから、スティルの怪我の処置を優先。医者である犬獣人ノスタルの家へ。スティルを処置してもらう。
ノスタルはなぜか私の存在や事情を知っていて、私たちの味方になると言い出た。私とエシ、狼獣人とノスタルの計四人は村長宅前へ。時刻は夜を迎えて月が登り始めていた。
ごく普通の木材で作られた一軒家の前、私たち一行は立っていた。獣人村、その村長が在宅する家である。
狼獣人はさっそく、扉をノックした。しばらくして、扉が開くとそこに一人の人間の姿。四肢も体格もごく普通の人間の女性。赤毛の長髪と整った顔つき。服やスカートを着ていた。一瞬、人間かと思ったものの、頭部に生えるケモ耳と後ろに垂れる尻尾が獣人の証明をする。
「村長、中入るぜ?」
「おぉお、びっくりしたあー! 身体がでっかいんだよ、狼さん」
村長は160センチ程度、狼獣人とは50センチは違う。狼獣人を見上げて驚きを見せていた。
「村長がちっさいんだわ」
「うっさ! こいつうっさ! プライバシーがなってない! それでも教師か?!」
「ん? デリカシーの間違いだろ」
「全くデリカシーのない狼め! 何をしに来たのよ?」
何やら賑やかにやっていた所、狼獣人は扉の前から身を避けて、後ろの景色を見せつける。巨体の為、後ろの私たちを視界に入れていなかった村長は、その目に映すと固まった。いるはずもない人間の姿がそこに。
「一旦、中に入れてくれよ」
「は、はへぇ……」
村長宅、ダイニングテーブルに座らされた私とエシ、狼獣人とノスタル。四人と対になる位置に、気まずそうに目線を右往左往させる村長。座ってから数十秒の空白を置き、狼獣人が先手を打った。
「人間を認めてくれるか?」
何もかもを端折って真っ先に要件を伝えた。端折りが過ぎる。村長はビクッと身体を震わせた後に、手弄りしながら言葉を選び始めた。
「……えぇー、その……なぜ?」
当然の答え。狼獣人は説明を始める。まず、事の発端であるスティルについて。教え子の意思を優先し、人間を獣人村へ招待。獣人についての一切の情報を機密に保持し、他言無用を約束して、私達の命を生かせないかと。
村長はそこまで聞くと、机上の一点を見つめ始めて長考の後、口を開いた。
「私は村長として、みんなを守ってあげないと。普通なら申し訳ないんですけど、二人を殺さないとダメなんですが……。悪そうじゃないんだよねぇ……なぁーんで、獣人に出会っちゃったのよ、二人は」
大きくため息を吐いて、額をペチペチする村長。村長という肩書きだけで厳格なイメージをしていたが故に、目の前の言動幼げな姿に気が抜けてしまう。
「俺がスティルと口喧嘩になんなければ、こんな事にはなんなかったんだよな」
狼獣人はそう言う。スティルが獣人村を出てダンジョン地下四階層まで登ってきていたのは、口喧嘩によりいじけてしまったスティルの突発的行動だった。元々、外の世界への興味が強くて脱走癖があったスティル。勢いに任せて村を離れすぎた為に、出会うはずのない人間と出会ってしまった。
「村長、多めに見てあげてよー。狐火くんはフリューゲルと無縁で、大陸の向こう出身なんだよ?」
気が滅入っている村長へと、ノスタルが補足を入れる。
「んんー……村の皆を納得させる何か、こう、言い訳じゃないけど、獣人たちに信用されないと、難しいんよー……」
村長の口振りからは既に私たちを認めるような雰囲気が出ている。問題は他の住民が、村長と同じように私たちを認めてくれるかどうかに至る。村長宅の道中で既に、住民の一人に牙を剥かれていた私たち。他住民が簡単に認めてくれるとは到底思えない。信用に値するだけの行いを、住民に見せ付ける必要がある。狼獣人やノスタル、獣人村の門番であるテディルタ。彼らのように、信用できる要因を持たなければ納得などさせられない。小規模のコミュニティと言えども、ここを欠かせば崩壊の種が芽吹く。そして、成長した芽はいずれ村を壊滅へ誘う。それだけの重大な一件。
そこで策士が生きる。
翌日早朝の獣人村。貯水池に人集りができ、何やら賑やかにやっていた。というのも昨日、獣人村に初めて足を踏み入れた人間が貯水池に手を加えていたのだった。貯水池は獣人村唯一の水場で、急峻な山林を往復して湖から直接運んで溜めてきたもの。水源が存在しない獣人村にとっての重要なものであり、それを人間に弄られようものなら頭が沸騰案件である。しかし、獣人たちは人間を止めようとはせず、むしろその様を見て歓喜の声を上げていた。野次馬のようなマイナスの集いではなく、ファンなどのようなプラスの感情で集い、騒いでいるのだった。
「ししょーーーっ!! さすがです!!」
「ふふふ、見よ、これが師匠の力よ!」
私は考えた。獣人村に不足する水源。それが満たされる事は、獣人たちに安息を呼ぶのでは無いのかと。そして、私には貯水池を満たせるだけの力がある。前にダンジョン地下四階層草原にて焔液流動が発生した際、膨大な水を生成してその火を鎮火させた事があった。それに比べれば、五十メートルの四角形、高さ三メートルの空間を水で満たすのは容易い。
私は長筆を手に、水属性の魔力を込めて貯水池に放った。水属性は苦手な項目だったが、それはあくまで戦闘面の話。ただ生成するだけであれば、威力など気にせず垂れ流しにするだけ。垂れ流しと言うと、まるであたかも私が立ちションしているような雰囲気がして不快だ。
そうして朝から貯水池に水を溜めていく私。人間というだけで、人目を集めるには十分だった。すぐに獣人たちは集まり、そして今に至る。ドバドバと水を放出し続け、水深が二メートルを超え始めた。そこに、
「お姉さん!」
「ん? その声は!」
人混みをかき分け、茶色い毛並みの獣人が飛び出した。発光する包帯が巻かれたその姿は、犬獣人の子供、スティル。スティルは水を補填中の私にしがみついた。モフモフがモフモフで実にモフモフである。
「すごいね、お姉さん!」
「えへ、へへへ、そりゃあもう、お姉さんは英雄だもの!」
なんて誇らしげに鼻でもすすったる。私の肩を噛み付いて抵抗を見せていたスティルが嘘のように、翌日には自らくっついて来てくれるようになって非常に嬉しい限りだ。
「傷は大丈夫かい?」
「まだ痛いけど大丈夫! お姉さんも、ごめんなさい。肩、痛かったよね」
スティルは申し訳なさそうにペコリと頭を下げた。別にスティルに恨みなんてなかったが、こうして改めて謝られてしまうと、なぜか感極まってしまう。そうか、これが我が子の成長を見守る母の気持ちなのか。
私はスティルの頭をぐしゃぐしゃに撫でたった。
「ごめんなさいができて偉いね! 心配しなくていいよ! かすり傷みたいなもんだって!」
そうして獣人と戯れる人間の姿は、自然と他の獣人たちの心の鍵を開けていく。しかしその中で、私の行動を良く思わない獣人もいた。
「人間! 今すぐそれをやめろ!」
一人の獣人が私へと言い放った。それに対し、他の獣人は私の行いに対して肯定派と批判派で別れ、言い合いになり始めた。
「こいつはせっかく溜めた水に毒を盛っているかもしれないんだ!」「だったら白昼堂々とやんねぇだろうがよ!」「隠れてやってる方が怪しいからじゃね?」「証拠もなしにそれは酷くない?」
まるでネット掲示板のやり取りのような論争が勃発。ダメだこいつら、どうにかしないと。なんて思いながらも水を放出し続ける最中、タイミングを図ったようにノスタルがその場にやってきた。村唯一の医者、ノスタル。皆がその存在を認知している。論争の中でも、ノスタルの登場で目線が集約した。
「んー、医者の僕から言わせてみれば、彼女の生成水に毒物は混ざっていない。一目見れば、そんな事はすぐ分かるからね」
ノスタルが毒物混入疑惑を一瞬にして晴らしてくれた。現実目で見ると、毒物が含有していない根拠がどこなのかと聞いてみたい所だが、そこは異世界の医者ならでは能力や何かなのだろう。医者のノスタルの信用は分厚い。その存在が放つ言葉は重く、獣人たちはすぐさま収まって納得した模様。
「お、いいねー、君ー! 素晴らしいよぉー!」
拍手をしながら、その場に村長が現れた。まるで図ったようなタイミングだ。村長が拍手喝采を送る様は、ノスタルの知見と共に、私たちへの信用を後押しする。不信感を抱いていた獣人たちは、その全てでは無いが、過半数程は私たちに信用や期待を持ってくれたようだ。
一連の流れは全て計画通り。貴重な水の不足を補って言葉でなく行動で示す。それをノスタルが保証し、村長が認める。この光景を獣人たちが見れば『人間』ではなく『私』に対して信用が生まれる。過半数が期待を寄せたなら万々歳。それは少しずつ周りに伝播してくれるだろう。ついでにスティルがやって来てくれたおかげか、警戒の壁はまた一段低くなった。
「いやぁー、助かりますね、うんうん。我々は水が非常に貴重でねー。いつもは麓から運んでくるんだけど、こんなに水を生成してくれるんでしたら、是非とも村に残って欲しいもんですなあー!」
なんてあたかも初見のやり取りをする村長。
「いやー、照れますねー!」
事実上、魔力の全てを有するのは長筆自体で、私自身の魔力量はゼロ。長筆が魔力を練る能力があるとフィノちゃんが説明していたので、私は存分にその能力を行使しているに過ぎない。が、誇らしい。
そこに一人の獣人が近付いてきて、私に肩を組んで来た。あまりに突然の事でビクッとなる。
「景気が良いじゃねぇか、ねぇーちゃん! ありがとうなあ!」
ただの気のいい牛のおっちゃんだった。こういうフレンドリーなおっちゃんもまた、心の壁を払拭してくれるキーマンだろう。あと、申し訳がないんですが……少し酒臭い。
それから貯水池ギリギリまで水を溜め、長筆を収納。貯水池は獣人村が発足して初めて満水状態となった。しばらくは水に関しての心配はいらないだろう。
「お疲れさん! 良ければ、私の自宅に来ません? ご飯をご馳走しますよ?」
「是が非でゴチになりますとも!!!」
村長宅にお呼ばれになったが、既に昨晩は泊まらせてもらっている。晩御飯も頂かせてもらった。それがね、もうご飯が美味しいこと。実家を思い出したね。異世界転移しているのを思い出した自分に驚いたんだよね。え? 何か言いたそうな顔で文章を読んでいるが、それは読書感想文に取っておいてよ。
私とエシは再び村長宅でご飯を頂く事になった。あとついでにスティルが付属してきたが、スティルをオカズに、旨い飯を食い、旨い犬を吸う。こんな楽しい生活はないぜ。
目を覚ますと、そこには青い空が広がっていた。それ以外に瞳に映るものは無い。数秒、数分、薄い意識でただ、青色だけを見つめ続ける。次第に、身体の至る所にじわりじわりと感覚が戻り始め、ぼーっとしていた意識が鮮明になっていった。顔にマスクのようなものが付けられている事に気づき、自分が何かしらの処置をされていると分かった。身体中に走る痛みに顔を歪ませながら、マスクを外して身体を起こす。
フリューゲル北部集会所前の大通り。負傷者がシートの上に寝かされている。その中で負傷者としてその場に寝かされていたらしい。頭痛と霞んだ視界の中で街の様子を確認し、事態の終息を悟る。
青い長髪はくすんで、衣服も汚れて粗末だ。しかし、それよりもまず第一に、仲間の安否が心配で仕方なかった。必死で眠る前までの記憶を辿るも、身体に蓄積された疲労が思考を鈍らせる。
「ルフ、大丈夫かな……」
どうも、カフェオレに人生を握られた小説家、星野夜です。健康診断なんて暫くは行っていないので、血圧と糖尿病の恐怖に日々を支配され、気が付いた頃には喉をカフェオレが通行致します。カフェオレの奴、無制限通行許可証を発行しているらしい。咽頭兵や口頭兵を配備しようと、まるで意味を成さない。そうして今日も、カフェオレは胃を占める。
さあ、夏休みも後半戦に入って、絶望がじわりじわりと近付いてくる頃ですね。まだ二週間はあると思うか、もう二週間しかないと思うかで人間性は図られる。そんな事はどうでも良いけど、そこのお前。宿題まだやってないとか言わんだろうな? かく言う私は夏休みスタートの時点でほぼ全ての課題を終わらせるタイプです。そんで、読書感想文にお困りならば、この小説でも読んで書いたら如何でしょう。きっと、原稿用紙一枚に収まってしまう事間違いありません。
そんなくそ小説を飽きずにここまで読んでくれた貴方に、愛してる。
俺が糖尿病で死ぬか、物語完結が先か。さあ、命を散らしあおうじゃないか!




