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第10話『獣人村』

 ダンジョン地下五階層とある山林中腹、断崖壁前。私とエシの二人は、狼獣人の案内で獣人村を目指していた。負傷中の獣人スティルは狼獣人が背負い、その後ろをついて行く形。スティルは限界を迎えて眠りについていた。計四人の臨時パーティーが行く。しかし、到着した先は断崖の前。村どころか、人け一つない。

「到着って……何もないんですが」

 すると、狼獣人は断崖に近づいて、そこを指差した。

「人間に今の今まで見つからずに暮らしていけたのは、この仕組みがあるからだ」

 狼獣人は指差した岩壁に、自身の手を伸ばす。その手は壁に触れると止まる事無く、岩の中へと沈み込んだ。

「この中に村があんだわ、すげえだろ?」

 3Dグラフィックで岩肌のテクスチャを貼り付けているようだった。幻覚か魔法の類か、その擬態は精巧で、人の目には単なる岩壁。偶然触れたりしなければ見つかる事もないし、まず急峻な山林によって人は寄り付かない。セネゴレアと言う野生動物による、自然のトラップが山林には張り巡らされ、辿り着く者は限りなくゼロに近くなる。私たちのように偶然、獣人に巡り合わなければ機会すらない訳だ。……それを考えると、なぜ私たちは偶然、獣人と……スティルと出会えたのか。スティルはあの時、なぜ地下五階層の山林から離れた地下四階層にいたのか。

「それについてだが、スティルはちょくちょく村から脱走すんだ。年頃の男子は好奇心旺盛で大変なんだよ」

 私の心の音を読んだ狼獣人はそう答えた。清々しいよ、ここまで心を読まれてしまうのは。逆にね、むしろ逆にね!

「んじゃ、行くぜ。村に入ってからは、まず病院に行く。スティルも限界だ。それから、村長宅へ直談判だ! ま、ほぼ死んだも同然だろうけど、頑張れよ、人間」

 なんて笑って言う話ではない。武者でもないのに武者震いしてまう。などと下らん話をゴミ箱へ。我々一行は、壁の中にあるとされる獣人の村へと足を踏み入れるのだった。




 月が登り始めた風吹く街、フリューゲル。北部、集会所前通り。昨日の被災に巻き込まれた重軽傷者達が、スペース不足によって道路上にシートを引いて寝かされている。意識が戻らない者、路上生活に不服を唱える者、知り合いや友人・家族と暇を持て余す者、アイテム不足の事態で未だに治療を受けれていない者。区画分けがされていても尚、路上は人でごった返していた。

「なあ、この包帯、どうにかできないのか?」

 人波の中、頭や身体を包帯で巻かれている一人の負傷者は、しかめっ面である男性にそう訊ねる。質問を受けている男性は便利屋の店員で、被災によって不足するアイテムを無償で供給していた。その行動があってか、被災者たちからは責任者のような扱いを受けていた。当の本人はただの一般人である。今日一日、出来る限りの支援はしたものの、精神的に疲弊していて、気だるそうな顔つきになっていた。

「それは無理だ。そういう仕様だと思ってくれ。背に腹は代えられないだろ」

 これで何度目かの質問を答え、負傷者は渋々元の区画へと帰っていった。皆が口を揃えて言うのは、発光し続ける包帯について。下半身に巻かれる分には影響はないが、上半身、特に頭部に巻かれていると、発光する包帯は睡眠を阻害してしまう。負傷者の全員が発光する包帯を使っている訳ではなく、通常品が巻かれている負傷者もいて、その違いによって言い争いが発生したりもした。その仲裁もまた、ただの便利屋店員である彼が行った。

 夜間になって若干落ち着きが取れ始めた所で、彼は集会所の外壁部に寄りかかって座り込んだ。その隣では、彼と同じく負傷者の看護等々を担っていたギルド嬢が、頭を垂れて座り込んでいる。疲労からか、ヨダレを垂らして完全に眠りについていた。

「はぁーあ……便利屋ってなんでも屋だったか?」

 大きくため息を吐いて独りごつ。その頭の上に、ひやりとした冷たいものが乗せられた。手に取ると、それは冷やされた缶珈琲であった。微糖である。

「珍しいな、そこまで疲弊した様は」

 女性の声がそう言った。便利屋店員に缶珈琲を渡したその女性は、便利屋店員の隣に座る。インバネスコートを着て、頭に鹿撃ち帽を被っている。右手には発光する包帯が巻かれていた。

 店員は渡された缶珈琲を開けると、それを一口飲んで、ため息を吐いた。

「どの口が言ったんだ、ルプス?」

 ルプスと呼ばれた女性は負傷者なのか、服は所々が擦り切れ、砂に汚れている。

「お互い元気で何よりだ」

「馬鹿言え、店は物理的に潰れちまったぞ」

「命あっての物種、店など何とでもなるさ」

「言ってくれるよ」

 小話を程々に、ルプスは煙管で一服する。隣で店員も貰った珈琲を口にして、しばらくの間、互いに無言の時間が過ぎていった。目の前の区画されたシートの上で、負傷者たちが話し合ったりする光景が流れる。

「こんな所で油売りでもしようって魂胆か?」

 店員は、飲み終わった珈琲の缶を見つめながら訊ねた。

「君も悪い人だ。私が仕事を蔑ろにしない事くらい、分かっているだろう?」

「いつか言っていたポリシーか」

「ああ、こう見えても仕事の最中だ。依頼人の意識が戻るまでは待機せざるを得ない」

 そう言いつつ、煙管をまた吸うルプス。すると突然、噎せて何度か咳き込んだ。そんな姿を店員は目を丸くして見ていた。

「ルプス……随分、重傷じゃないか」

「ゴホッ、見ての通りだ」

 汚れて傷だらけの服装に、負傷して包帯を巻いた右手。濃いクマが浮かぶ目、良く見ると、着衣の下から光がうっすら貫いていて、胴体にも発光する包帯を巻いているのが分かる。まさしく見ての通り、ルプスは弱っていた。

「五十……いや、もっとか? 全く、その身体で良くやるよ」

「何の話だ?」

「包帯だ。負傷者から苦情が来てたぞ? 光が煩わしいなんてな。処置を受けられるだけマシだろうに」

「発光は性質だ。どうにもしようがない」

「わーってんよ」

 店員の男は首を回して気だるそうに返答すると、飲み終わった缶を潰した。ルプスは煙管を吸い終わると、それをバッグにしまいこんで立ち上がった。

「またサポートを頼む」

 ルプスはそう言い残すと、安定しない足取りでどこかへ。疲労の溜まっている店員は壁によりかかったまま、目を閉じて仮眠を取る事にした。




 その村には獣人が住んでいる。高さ三十メートル程の岩壁に囲まれた円形の村。ダンジョン地下五階層の急峻な山林、頂上部の広大な一枚岩の内部に作られた、獣人の村である。岩の内部に存在する村、当然、見上げれば岩の天井が見えるはずだが、そこには岩ではなく夜空が広がっていた。山林を上空から見ても獣人村の姿は目にする事ができない。獣人村の天井部は時空が歪み、遥か上空と繋がっている。ダンジョンの地下に空が存在する原理と同じらしく、獣人村を作った人物が時空間を歪めて空を引っ張ってきたと言われている。

 私、狐火木ノ葉とエシの二人は、狼獣人に案内されて獣人村へと足を踏み入れた。入って最初に見えるのは、木材で作られた家が幾つか並ぶ集落の姿である。そして、数人の獣人が歩く様も。犬や猫、豚、馬など、様々な動物が組み込まれ、二足で歩く獣人。フリューゲルのようなブロックで作られた街とは違い、木材を主として作られ、獣人が歩く村はまさしく、異世界を彷彿とさせて胸が踊ってしまう。

「わあ〜ぁ、やばい、興奮してきた」

 好奇心には歯止めが効かないとは今昔言われるものだ。目の前に広がるファンタジックに、私は生唾でナイアガラの滝を作る。辛うじて水面に浮く理性が、駆け出しそうな足に枷を付けて何とかなっていた。

 その私たちの姿に気づいた村人は、目を見開いて硬直する。獣人の村に人間が侵入している、過去一度もないだろう経験に頭がフリーズしているらしい。狼獣人が付き添っていなければ、真っ先に殺されるか通報案件である。

「いいか、人間。下手な事するなよ?」

 狼獣人は一釘打つ。それから私たちは狼獣人の元、獣人村を歩き始める。なるべく人目の付かないよう迂回、村人に存在が見つかる度に狼獣人が説明を入れる。それを幾度か繰り返して、とある家の前に付いた。見た目は木造の一軒家。ここが獣人村唯一の医師のいる家らしい。

 狼獣人は扉をノックし、中へ。私たち二人もその後に続く。

「ちょっと厄介になるぜ、ノスタル」

 中に入るとリビングがあり、奥に机があって、そこに一人の獣人の姿があった。白い毛並みに、医療従事者を示す白衣を着込んでいるが、下半身は獣の骨格上の問題からか、ズボンを履いていない。二メートル程の巨大な犬の獣人だ。

 ノスタルと呼ばれたその獣人は私たちを見て、当然のように驚いていたが、狼獣人の背負っている負傷者のスティルを見て、すぐに怪我の処置へと切り替える。

「えっと、とりあえず机に」

 ノスタルの指示で、狼獣人は机上にスティルを下ろして寝かせる。見た目から性別は判断できないが、その重低音の声で男性だと分かった。

 ノスタルは、スティルの身体に巻かれた包帯について狼獣人に訊ねる。

「そこの人間が巻いた包帯だ」

「ふふーん、事情は後で聞くよ。ちょっと待っててね」

 そう言われ、狼獣人と私たち二人は、入口付近に設置された椅子に座って待つ事に。

 ノスタルはスティルに巻かれた包帯を刃物で切って外し、傷の具合を確認する。それから、身体から発光する糸のようなものを生成して、それを自在に操って縫合を始めた。うねうねとしたそれが、スティルの身体に入り込み、内部の損傷部位を着実に縫い付け、ものの十分ちょっとで縫合が終了。発光する包帯を作り出し、それをスティルに巻き付けて処置が終わった。

 ノスタルは処置を終え、私たちの前へ。のしのしとゆっくりした足取りで近づいてくると、狼獣人に負けずとも劣らない筋骨隆々な巨躯に圧倒された。

「まずは、君たちに感謝だね。ありがと、助かったよ。応急処置のお陰様で失血死は間逃れたようだからね」

 重低音で頭に響いてくる声質、それに似つかわずフランクな話口調。見た目からの厳しさからは考えられない、どこか女性らしさも感じられる様にギャップを感じた。

「テディルタが許してくれたのが信じられないけど、なぜ村に連れてきたのかな、隊長さん?」

「教え子の頼みでね。これから村長の所に行ってくるぜ」

「なるほどぉー……」

 ノスタルはじーっと私とエシの姿を見つめ、それからニヤリと笑みを浮かべた。

「ようこそ、獣人の村へ」

 ノスタルはそう言った。歓迎か、それとも皮肉を込めたものかは不明。ただ、笑顔が怖くて身体が引きつった。

「僕が思うに……昨日の災害からすぐ、君がダンジョンに乗り込んでいるのは、負傷者たちの回復アイテムが底を尽いてるから、その補充要員かな? それとも、仲間のウィンディーネやフィノの為か、そのどっちもか、かな?」

 ノスタルはそんな事を口にした。見ず知らずの人物に、自身の行動が把握されている。おまけにフリューゲルの被災の件にまで話は及んでいた。まるで、私の内を見透かされたように。もしや、また口を零してしまったのだろうか。

「僕にそんな能力はないから安心して」

「いや、さっそく心が読まれたんですがそれは」

「話は聞いてるよ、狐火くん」

 名前まで知られていた。個人情報流出の件は、私の脳内タイムラインでトレンド入りを果たす。一体、どこの馬の骨か分からない人間によって私の情報が、ダンジョン地下五階層の閉鎖環境にまで。何が目的で私の情報が飛び交っているか知らないが、どこぞの誰かに目を付けられないか心配である。もうニコニコしていられない。

「フリューゲルの英雄だってね、凄いなあ」

「は、ははは、どうもね!」

「僕は君になら信用を置いてもいい」

 ノスタルの口から出た言葉に、狼獣人は驚かされていた。私も、まさか一見だけでそんな事を言われるとは思わず、同じく驚いた。

「ノスタル、それはどういった了見だ?」

 狼獣人は含みのある声色で訊ねる。表情こそ笑顔のままだが、空気が一瞬固まったのを感じた。

「君ががっつく事じゃないよ。少なくとも、彼女は獣人差別をするような人間じゃない事は、僕が保証する」

 その信頼はどこから来るものなのか、計り知れない。ノスタルはなぜか、私という存在を知っている。そこから来るものだろうか?

「君たち、これから村長に認めて貰いに行くつもりでしょう? じゃあ、僕もついてく事にするよ」

 負傷者のスティルはベッドに寝かされて別れ、代わりにノスタルが同行する事になった。巨躯の狼獣人と犬獣人に挟まれる構図となって圧迫感が増したが、私たちに味方してくれる獣人の存在は心強い。

 そして、四人は村長宅へと向かう。

「その前に、君たち。傷の処置をしよう」

 ノスタルはそう言うと、私の肩の噛み傷とエシの四肢の擦り傷を処置し、包帯を巻いてくれた。非常に慣れた手付きで即座に終わる。

「おっけー! お待たせ、先生」

「ん、そう言えばだが、俺もテディルタと戦闘して傷ができていたなあ」

 なんて冗談めかしに呟いた狼獣人を無視して、ノスタルは私たちを連れ出した。まるで時が止まったように、静まる室内に狼獣人一人。


 村長宅への道中、岩を掘って作られただろう貯水池を横切った。深度三メートル、幅は五十メートル程の真四角に掘られた貯水池。その中には水が三十センチ程度溜まっているが、貯水池としては干上がりかけていた。狼獣人に聞くと、それは村内で唯一の貯水場所との事。獣人村には水源が存在せず、雨天時に溜まる雨水と、山林を下った先の麓にある湖から直接運んだ水だけ。しかし、急峻な山林を下って水を運び出すのは、かなりの重労働かつ効率が悪く、貯水池が満水になった事はないらしい。水の魔力を持つ者が魔法で水を生成する方法も考えられていたが、魔力量と需要が合わなかった為、その方法は断念された。結果、獣人村では水は貴重なものとなっているらしい。

「秘境が故の欠点ってな訳」

 狼獣人がそう説明を終えた時、付近の住居の物陰から突如、武器を片手に住民が飛び出してきた! ワニのような大顎を持つ獣人だ。狙いは人間である私たちへ。振り下ろされるのは、人一人分くらいの重さがありそうな鉄のハンマー。突然の出来事に私もエシも回避行動に移ることはできなかった。そこに、狼獣人が素早く前に立ちはだかり、ハンマーを両腕で受け止めた! 鉄を打ち付けたような音が響く。

「させねぇぜ?」

「そこを退けッ! 人間を殺す!」

 大顎を開き、私たちに殺意の眼差しを向ける。狼獣人がいなければ、今すぐにも噛み砕かれそうな程の怒りがそこにはあった。

「なぜ人間を連れてきた!? なぜ人間と馴れ馴れしくしている!? 日和が過ぎておかしくなったか!!」

「確かに今日は月が綺麗だな。せっかくなら美女と戯れさせちゃあくれないか?」

 狼獣人は受け止めたハンマーに一撃、拳を叩き込んで弾いた。持ち手の獣人は重みで仰け反って転けたが、一瞬で立ち上がると、再び私たちへと飛びかかろうと身構える。狼獣人がそれに合わせて進路を妨害する。

「退け! 自分が何をしているのか、理解できないのかッ!?」

 血反吐を吐き出しそうな血相と猛勢で、ワニの獣人は叫ぶ。周辺を歩いていた獣人たちが、何事かと集まり始めていた。

「そうなんのも理解できるが、落ち着け」

「落ち着け? お前だろ! 人間に加担しようなんて外道、気が狂っているに違いない!」

 狼獣人の言葉は届きそうにない。現状、人間の味方をする狼獣人たちの姿は、ワニの獣人が言う通り、獣人村で初の出来事で、気が狂っていると言われても仕方がなかった。

「……あぁ、アンタら、どうかしてるよ」

 集まってきた野次馬たちが、同様に騒ぎ始める。一人、また一人と声が強くなり始め、集団化した批判が襲う。

「うるせぇえええっ!!! 外野が首突っ込んでくるんじゃねぇ!!!」

 狼獣人は、腹の奥底から吐き出した絶叫で周囲を一蹴する。後ろにいても鼓膜が破れるのではないかというくらいに、ビリビリと空気を震えさせた。瞬時に野次馬たちが静まり返る。

「何がそんなに憎い? おい、お前らだよ、野次馬ァ。獣人村ができて早二十数年、フリューゲルの人間から、お前らが何をされたって言うんだよ、なあ? 会った事すらないだろ。そんな奴が、こいつら人間にとやかく言える立場かよ? 人種が違うってだけで退け、石を投げ、問答無用に刃を向ける。それこそ、お前らが散々罵ってきた人間と、何も変わんないだろうがよ」

 狼獣人がそこまで言うと、野次馬たちはもう何も言わなくなった。

「……話を聞かせろ」

 ワニの獣人は牙を収める。私たちはワニの獣人を引き連れ、一旦場所を入れ替えた。野次馬が集まらないよう、人けの少ない村の端へ。光源が少ない薄暗い岩壁の前。三人の獣人と二人の人間。狼獣人は事情を一通り、ワニの獣人へと話した。人間が危害を加える時には狼獣人が殺すという事、それを前提で人間を連れている事、教え子のスティルの意見で人間を生かしている事、そして村長へ判断を委ねる事を。

「お前たちの『人間』に対する怨恨は良く知っている。知っているからこそ、怒りが収まらない。今すぐにでも、そこの人間に地獄を見せてやりたい気分だ」

 ワニの獣人は怒りに震えながらも、冷静を繕って言った。鋭い目付きで睨まれると、血の気が引いて風邪になりそうだ。

「しかし、先生。お前の言う通りだ。見る所、二十に満たない子供。彼らは今日に至るまで、一度も獣人に会うことがなかったはずだ。逆を返せば、獣人に危害を加える事ができなかった人間。それで、聞いた話によれば、獣人に味方をしたと。それが真なら、掟は置いて、今ここで殺すのは理にかなっていない」

「すまんね、デイノスさん」

 狼獣人が、デイノスと呼ぶワニの獣人に謝罪を入れると直後、デイノスは狼獣人に体当たりをして壁に押し付けた。

「やめろ! お前が何を謝る必要があった!?」

 激しい剣幕を見せるデイノスと依然笑顔は崩さない狼獣人の間を、ノスタルが割って仲裁する。それぞれの事情や意思が交錯しての事柄だが、その真意は私たち人間には知りえない。

 狼獣人は身体を震わせて背中の砂埃を落とす。

「人間! 今は手を出さないと約束しよう。だが、処分が決まった時は覚悟しておけ」

 デイノスは、私とエシを睨みつけながらそう言った。猛獣に狙い付けられているようで、喉が詰まって声は出なかったし、覚悟なんてできる訳もない。

 デイノスはその言葉を残すとその場を去った。

「お堅い事この上ない。外野が消えた今のうちにささっと行こうぜ?」

 微笑を浮かべる狼獣人は、私とエシの服を引っ張って乱雑に背負い上げた。唐突で心の準備ができてなかったので、情けない悲鳴が零れてしまう。

「おい! 急に何してんだよ、てめぇ!!」

 喧嘩腰が抜けないエシは、背中の上で狼獣人に叫ぶ。

「ノスタル、先に行くぜ?」

 狼獣人はエシの問いを無視してノスタルに一声かけると、外壁をその強靭な脚力で蹴り飛ばし、私たちを背負ったまま跳躍した。外壁はその一蹴りで、岩は薄く剥がれ落ち、周辺には高速移動による突風が巻き起こる。一瞬にして十メートル程上がると、放物線を描いて落下していき、とある木造の一軒家前に着地した。着地の反動を両脚で完全に受け止める。どれ程の距離を跳んだのか分からないが、百メートルは優に越える距離を移動した。その落下エネルギーを難無く減衰させながら反動をいなす着地。筋力だけでなく、身体のしなやかさや使い方も繊細だ。この作者でなけりゃ見逃してたね。

 そうして背中から下ろされる時には、私とエシは髪をボサボサにしながら呆然としていた。

「一秒遅れてノスタル到着ぅー!」

 背後からノスタルの声。ノスタルもまた地上を駆け抜けてここまで迅速に移動してきたらしい。そして四人、目の前の目的地である村長宅に立つ。

 どうも、死んだ生活を過ごした末に頭がパッパラパーになって執筆にストッパーがかかった小説家、星野夜です。以後お見知りおきを。

 噂のニコニコ動画が復活し、これから毎日ニコニコ本社爆破しようぜと意気込む今日この頃。私はYouTubeを見ています。以後お見知りおきを。


 さあ、狐火木ノ葉が獣人村に上陸しました。ダンジョン地下五階層秘境の地、人間たちは無事にご帰宅できるのか。それは神のみぞ知るとか言っておくけど、どうせ主人公は死なんでしょう? そんな事言わせないでくださいよ。主人公殺しますよ?

 そう、この物語のラスボスは私だ。小説を執筆し、物語を生み出し、人々を混乱に巻き込むストーリーテラー。さあ、狐火木ノ葉よ。私を止められるか?


劇場版『一人暮らしで浮かれてたら異世界転移したので厨病激発しちゃったりする話』

〜VS世界を司る者(ストーリーテラー)

coming soon……。

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