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第8話『死戦』

「よぉ、お仲間が世話になったなあ!」

 ダンジョン地下四階層草原、夕暮れで赤みを帯びる空と禿げかけの草原の上にて、私、狐火木ノ葉と弟子(仮)のエシは、目の前に現れた敵一人を前後で挟み撃ちしていた。いや、正確に言うならば敵によって個々に分断されてしまったとも言える。

 そして、近くには茶色の毛並みをした子供だろう獣人が、突然の出来事に驚いて目を開いていた。彼は胸部の傷が酷く出血死の恐れがあった為、私たちが包帯で処置をし、今は休息中である。

 目の前にいる生体は、体長二メートルを越える巨体、グレーの毛並みをした獣人が両腕の鋭爪を構えて立っている。突然、私たちを襲ってきた存在。その体躯をものともしない俊敏性。私はその存在を視認して、心拍数が跳ね上がるのを感じた。長筆を持つ手は震え出し、背に冷たい汗が走る。記憶にまだ新しいトラウマが脳裏に蘇ってくる。目の前の存在は明らかに狼を模していた。治ったはずの傷がズキリと痛み出した。

「わざわざ殺されに来たか、死にたがり!」

 エシは狼獣人の背に向けて煽るような発言を投げつける。

「よぉし! 分かった! お前から殺してやるよ! 死にたがりがぁああッ!!!」

 狼獣人は瞬時に旋回すると、地面を抉るように一蹴りしてエシへと距離を縮めた。豪脚の一蹴りは後方、風圧と共に土砂を巻き上げ、巻き込まれた私はコンビニ袋のように吹き飛ばされた。

「早っ?!」

 狼獣人の拳撃が数センチまで迫り、エシは紙一重で身体を沿って避けると、スライディングの要領で巨体の両足をくぐって背後へ。長筆で足に一撃を入れる。

「ってぇッ! 鎧でも着てんのか、こいつは!?」

 エシの一撃は全く通じてないらしく、狼獣人は体勢を崩す事無く平然としている。一方で、長筆を振るったエシの手は反動で軽く痺れていた。

 狼獣人はまたも瞬間的に旋回し、スライディングの残余で立ち上がりきっていないエシに向けて爪を凪ぐ。低い姿勢のエシへ、上から振り下ろされる剛腕。長筆を横に持って防御姿勢を取るが、その威力は受けずとも察しがつく。例え、防御していようと無事では済まない。そこに、

幻想色彩(フィクションカラー)夕景(フレイム)!!」

 私は長筆に込めた赤インクを狼獣人へと振るった。宙で火を伴って飛翔するインク。狼獣人は攻撃動作から身を水平に回転して、私の攻撃を容易くいなした。人ならざる身体能力は、蝿を爪楊枝で潰そうとするように、まるで攻撃が当たる気がしなかった。

 一瞬できた隙に、エシは体勢を立て直す。私は、エシから離れた狼獣人へと追撃を入れる。今なら火力を上げてもエシを巻き込む事はないだろう。

「第二景、紅葉(プロミネンス)!」

 長筆に込めた赤インクの火力を上げ、フルスイングした。着弾と共に火柱を上げる高火力の火属性攻撃。集会所の天井に穴を開けてしまった事は忘れない。

 しかし、その一撃も距離を取られて不発し、地面を焦がして終わる。

「久々に滾るねぇ、えぇ?! 三割だ、頑張れよ、人間ッ!」

 そう言うと、狼獣人は息を深く吸い込み始めた。エシはその隙を見逃さず、狼獣人の顎を下から打ち上げる。全く微動だにしない狼獣人。吸い込みを止めると、吸った息を一気に吐き出し始めた。それと同時に、身体が萎んでいく狼獣人。

「師匠! 割とピンチ!」

 攻撃が効かないと悟ったエシは、私の元へと戻ってきた。その間も、狼獣人は息を吐き出して少しづつ萎んでいく。体長二メートル程あった身体はみるみる内に萎んで180センチ程に。

「エシ、一つ策がある」

 私は長筆を後方に構えて魔力を込めていく。白い筆毛に赤いインクを。早すぎて攻撃が避けられるなら、避けられないようにするまで。脳筋戦法である。

「『生体縮化30%』 楽しませてくれよ?」

 身長が縮みきった狼獣人は低姿勢を取った。牙を剥き、おぞましい笑顔をこちらへと向ける。私はその表情を見て、身体が氷漬けにされたように動かなくなってしまった。緊張で筋肉が強ばっているのか、金縛りのようにまるで動かない。相手側はいつでもこちらへ飛んでこれるというのに、溜めの姿勢で固まってしまう。

 あまりの緊張で過呼吸気味になり始めた私は、急に視界が薄暗くなった。それが視覚機能の低下ではなく、目の前に迫った狼獣人の身体と気づいた頃には、頭上に拳が構えられていた。ビクッと身体が震え、脳が回避の選択を促すも、拳が先に頭を叩き落とすのが先である。

 そして、衝撃を受けた私は世界を反転させながら倒れた。頭ではなく、脇腹に軽い痛み。そして、体温を感じた。ハッとして身を持ち上げると、私の身体の上には茶色の毛並みをした獣人がのしかかっていた。私を突っぱねて攻撃から身を逸らしてくれたらしい。

「先生ぇえ!! やめてくれっ!!」

 私を庇ってくれた獣人は、狼獣人へとそう叫んだ。私は、目の前の獣人の子が自分を守ってくれている状況が信じられず、喜びと戸惑いが混ざって頭が混乱していた。

「スティル……何してるか、分かった上か?」

「分かってるよ。でも、僕を助けてくれた人達だ!」

 スティルと呼ばれた獣人の子は、狼獣人にそう言い放った。無理に動いた為に、巻き付けた包帯から血が滲み出して赤く染まっている。それでも、スティルは私の前に立って庇ってくれていた。

「……まじ? それまじ?」

「マジだよ」

「まじか!?」

 急にアホみたいな空気が流れ始めた。

 狼獣人は吹っ切れたのか、その場に腰をついて大きくため息を吐いた。私とエシは、戦闘が終わった事を悟って、同じく大きくため息を吐いた。スティルは胸の傷を押さえて苦い顔のまま、ゆっくりと狼獣人の元へ。二人で何やら話を始めた。

「先生」

「事情は後でだ。それより人間の始末についてな」

「……見逃して、なんて無理?」

「分かってるだろ、スティル。人間にバレたら最後だ。どんなに良い奴だろうと、その息の根は止めなきゃなんねぇんだわ。俺らだけの問題じゃない」

 二人の会話を盗み聞くつもりじゃないけど、この状況では嫌でも耳につく。獣人同士、私たち二人の処分について話し合っているらしい。

 話を盗み聞く所によれば、獣人族はとある場所で隠れ住んでいるらしく、人間にその生存がバレないよう、今の今までひっそりと生きてきた。人間に存在がバレた際は、その情報を漏洩させないよう、人間を始末する。情報が流れてしまえば、害獣駆除と称して、フリューゲルのパーティーが再び獣人を殺しに来て、獣人族は滅亡の一途を辿る。

 つまり、その掟に沿えば私たち人間は今、この場で殺しておかなければならない事になる。

 傍から聞いていて、生きた心地がしなかった。今は休戦中だが、再び狼獣人と戦闘するのならば、次こそ命は無い。先の動きを見て確実にそう言える。私とエシの二人が手に負える相手じゃない。

「僕が肩に牙を突き立てても、あの人は反撃もせずに助けようとしてて、悪い人じゃないし、約束したら守ってくれるかも」

 スティルは私たち二人を庇うような発言をする。

「人間は人間だろ」

「先生、お願い……どうにかできないかな?」

「俺に、仲間殺しの節操なしになれって?」

「あの二人はなんか、違うと思うんだ」

「スティル、お前の口から人間を見逃してなんて聞く事になるなんてなあ……」

 狼獣人は立ち上がると、近くで待機している私たちの元へと近づいてきた。のそのそとゆっくり歩く様には攻撃の意思はない。しかし、やはりその体躯と目付きには恐れるものがある。

「スティルに話は聞いた。お前たちがあいつの傷を処置してくれたとな。傷については知らんけど」

 狼獣人は私たちの近くまで来ると、ゆっくりとその場に座り込んだ。スティルは傷が痛む中でも私たち二人が心配なのか、ゆっくりこちらへと歩いてきていた。

「見逃せってあいつが言うんだわ、困ったねぇ」

「はぁあ? まるでお前が俺らを殺せるみたいな言い分だなあ!」

「エシ、喧嘩腰になんないで」

「はい、師匠!」

 相変わらず敵に対しては口が荒いエシ。それを静止させる。今は戦い時ではない。

 狼獣人はエシの言葉は気にも止めず、続きを話し始めた。

「俺がお前たちを殺さなければ、獣人族を一人残らず殺しにくるだろ、なあ? 聞きたかったことがあんだよ、人間。一体何を思って俺たちを殺していたのかをよぅ」

 狼獣人の口調はフレンドリーで笑顔を向けているが、その内にフツフツと怒りが湧いているのが感じ取れる。狼獣人が聞いている事は十中八九、獣人の害獣駆除について。それを知るのはエシ、私はフリューゲル出身ではないので知るわけもない。

 狼獣人の質問に対し、エシはドブを見るような鋭い目付きで答える。

「進んで毒を含む脳無しなんていねぇ。害は排する、社会の基本だ。獣人、お前もそうだろ」

「…………スティル、弱みでも握られたか?」

 狼獣人の言葉に、首を必死に横に振るスティル。

「あのぉ……すっごい根本的な話なんですがー」

 ガン飛ばすエシと呆れた顔をする狼獣人の間を割るように、私は質問を投げる。3人の視線が一気に集まってなぜか恥ずかしくなったが、生死のかかっている中、恥もクソもない。

「その、人間と獣人の間で何かあった感じ? 差別とか?」

 そう訊ねてみる。雰囲気で勝手に決め付けるのは良くないだろうし、ここで一つ、獣人族との関係性を明確にしておきたい趣旨で。エシは私が獣人族を認知していると思い込んでいたらしく、無知だと言うことが判明して驚いていた。一方の獣人たちも、そんな質問が飛んでくるとは思わなかったのか、同じく驚愕といった顔をしている。数秒間、時が止まったように静まり返った。

「……ああー、おっけー、分かったわー。スティル、お前の言う通りだ。この女は無害だったんだろうな」

 頭の中にあった疑問が晴れたのか、納得するように頷く狼獣人。それから、私の質問について返答をした。


 今から二十年ほど前、フリューゲルには人間と他に獣人族が住んでいた。彼ら獣人族たちは、人族に差別を受けていた。

 獣人族には、人型獣人と獣型獣人の二種類が存在し、人型獣人たちは獣の個性が外見からは見て取れない為、ひっそりと暮らしていたが、一方の獣型獣人は理不尽な迫害を受け続けていた。

 獣人族というのは成長の過程で、その身に本来あるはずの波動が『(封印)』に置き換わり、身体機能の一つに変化する性質を持っている。爪や牙、四肢、様々な機能が強化され、異能が芽生えることは無い。

 人間は、獣人族たちに波動が存在しない事から『能無し』と蔑称をしていた。加えて人とは離れた獣の姿を、人々は忌み嫌って避けた。ある者は獣人族に石を投げつけ、またある者はありもしない罪を着せた。挙句には、獣人族がトラブルの一つ起こすと、無罪かどうかなど関係なく極刑に処された。

 そしてある時、獣人族の我慢が限界に達し、殺人事件を起こしてしまう。獣人の身体能力は人間を圧倒し、人を簡単に殺せるだけの力が備わっている。ある獣人は、その爪を人へと突き立ててしまったのだ。当の本人は、殺すつもりがなかった。理不尽に対する抵抗の一発だったが、獣人の力をまともに受けた人間は容易く死に至る。それが引き金となり、害獣駆除と称して獣人族を殲滅させる魔女狩りならぬ、獣人狩りが始まった。

 一部人型獣人を除き、ほとんどの獣人たちは秘密裏にフリューゲルを飛び出し、人間の手が届く事のないダンジョン内のある秘境に村を作って、今もひっそりと暮らしている。


「それももう二十数年前、親を通して伝えられなければ、今の子供は知ることの無い話だ」

 狼獣人は獣人族について一通りを語った。私はそのろくでもない話を聞いて、とことん救えない社会だと思った。その話が本当であれば、獣人族を疎外した人側に問題ありと言える。いや、大元が発端かもしれない。ネイゲル族に続いて獣人族の差別。二種族の話を聞いて、フリューゲルの上辺がめくれていく。住みやすい街だと呼ばれるフリューゲル。その本質は、害として他種族を排斥して作り出した虚構。笑いの一つも出てこない程、腐敗していた。

「犠牲は紡がれる生命の為に。紡がれる生命は犠牲の為に。私を救ってくれたネイゲル族の一人が言った言葉でさ、命に大差はないと思ったんだ。人種とか関係なく、救える命を救いたい。だから、私は二人の味方になりたいと、ただそう思うよ」

 そう言って、私は狼獣人に手を差し出した。それを見て、狼獣人は牙を見せる。威嚇ではなく笑顔のようだが、やはり狼自体が苦手らしく、身体が震えた。

 狼獣人はしばらく黙ったまま、差し伸べられた手を見つめる。

「それは握る事はできない」

 断られてしまった。

「あー、違う違う! 断ったんじゃなくて、今その手を握ったら手を折っちまうからってだけだわ」

 さりげなく心の内を読まれてしまった。

 狼獣人は手の代わりに尻尾で、私の差し伸べた手を叩いた。灰色のふさりとした獣毛が優しく撫でる。

「百、信用はしないが、俺はお前を五十くらいは期待するわ」

「俺は疑い続ける」

「あぁーっとぉー……エシくん?」

「はい、師匠! 俺も師匠の味方なんで、味方します!」

 丸く収まった。丸く収めたと言うか、丸く押さえつけた感じになっているが、ひとまずはエシにも意思は伝わった。

 そして、狼獣人は提案する。

「そんだば、こうしょうかあ! お前たち二人、獣人の村にご招待だ!」




「「「は?」」」

 どうも、星野夜です。時は残酷な程に早く過ぎ去り、気が付けば7月さえも終わりかけています今日この頃。私は依然変わらないパフォーマンスを維持、何にも成長のない日々をのうのうと過ごしております。

 もう少しで夏休みがすぐそこに。浮かれ過ぎて一人で部屋の中、無性にダンスでも踊り散らかし、この世の全てを手に入れた男みたいな完璧で究極の力を持って全てをひれ伏させれるような錯覚さえしてしまう、7月後半。そんな時期が私にもありました。

 出された課題は即刻に終わらせ、夏休みを全力で謳歌したり。勝手に自由研究して虫を殺す毒薬を毎年作り出しては『ヘキサトキシン0719』とか名付け、その殺虫薬で甲虫を殺していました。子供とは残酷である。

 そんでもって、夏はやはり海。こればかりは切っても切り離せない。私は友人と共に海に繰り出し、遊泳開放と共に海に設置されている水上イカダを、数人の力で右往左往してひっくり返して、監視員に見つかっては注意されました。みんな、バカやるのはいいけどバカは程々に。

 なんて言っても皆さんの好奇心を止めることなどできるわけもない。夏というのはそういうモノですから。だから全力で楽しむ事だ、若人よ。犯罪だけはやめろ。


 さて、夏話に暑さ極まった所で、お次に圧倒的清涼感のそうめんを啜る〜! 殺すぞ〜!!

 キンキンに冷えた麺つゆの中には羽虫が入っており、さすがの星野夜も室内に篭ってしまいました〜!

 ちなみに、星野夜が夏バテしている様子は、次回後書きをご覧ください!

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