第2話『迷走か迷想なのか瞑想か』
フリューゲル東部地域、どこかの小道。私、狐火木ノ葉は、ショタっ子銃士ことルフの二人と迷子の迷子の子猫さんである。
「私のおうちはどこですか?」
「知るか、俺が聞きたいわ」
追跡者の撹乱を目的に、脇道をデタラメに抜けていった事が災いした。その追跡者もただのインタビュアーでしたというオチ。なんなら、なぜ記者と別れる際に帰り道の一つも聞かなかったのか。過去の自分を殴りはしないが、しっぺの一つは必要だろう。でもしっぺも痛そうなので頭ナデナデで許してやろう。さすれば、道は開かれん。
「いや、道は開けてねぇんだよな」
疲労が溜まっている、寝たいが寝れない。早めに帰路に着いて惰眠を貪りたい。
ひとまず二人で、テキトーに道を巡る事にする。運良く大通りに出られたらという希望的観測。土地勘の無い我々の出来る唯一の駄策である。そして迷子のマインドである。
一時間後。
「空のひとつでも飛べたら良いのによおー。なあー、狐火。お前、飛んでみろよ」
青空の下、日が差さらない薄暗い小道で私たちは未だに遭難していた。
「そんなヤンキーの恐喝みたいに言われても。飛べなくはないけど、飛んだら着地できないし」
私の課題である、炎柱による飛行。飛べるだけの推進力を持つものの、着陸方法を持ってないため、死への羽ばたきと言える。
住民に訊ねるのが最も早くて効率の良い方法なのだが、この道中で人に巡り会う事はなく、大通りの賑わいはどこへ行ってしまったのだろうかと、そう思わせてくれる静かな小道、フリューゲル東部。
「とか、どうかな?」
「……お前、疲れてんだよ、狐火」
句読点と文章構成を再度見直した方が良いまでに、疲れ切っている作者。作者の分身と言える狐火木ノ葉の疲労がフィードバックして、同じくらい疲労困憊である。早く帰れ。
「じゃあ、帰らせてくれませんかねえ!!」
「うっせ、ばーか! 急にキレんな!」
作者の都合が含まれた途端に、急に口喧嘩に発展する私とルフ。こうなったのは全て作者のせいである。ギャーギャーとカラスの言い合いを繰り返す二人。
十分後…………。
「ぜぇぜぇ……」「ぅー……」
意気消沈の至り。
「やめだ、やめ! 俺が悪かったよ」
「いやいや、ルフたんに業を背負わせる訳にはいかないわ! この私こそが相応しい!」
「……………………ま、まあ、じゃあ、そういう事にしとくわ」
烏の輪唱は止む。結局、事は何一つ変わる事はなく、ただ平和な空と建物の海に囲まれ、島の一つも見えはしない。
「そこで天才は閃いちゃうんですねー、これが」
「おっ、いい案でも思いついたか!」
異世界駆け出し勇者は、遠感魔法なるものをノリで取得している。何か試したらできた的な天才のノリ。ノリに乗っている私は、その遠感魔法を利用して、仲間内にテレパシーを送れる。
ここで対象者の有無だが、現在負傷中で眠っているフィノ、ウィンディーネの二人には、遠感魔法は届いたとしても応答できる身ではない。ルフは隣にいる。あと、候補に上げられそうな人物と言えば、先のガスター討伐戦にて遠感魔法を通して会話をした、フリューゲル観測士のツンデレ、ノヴァくらいだろう。
『こちら狐火、狐火。方角をロストした。すぐさま戦地へ帰還する。現在地周辺についての情報が必要だ。応答を願う』
謎の戦闘機パイロット風のノリで、脳内へと直接会話を流し込む私。しかし、その返答が帰ってくる事はなかった。
「…………ね、寝てるの、かな? 繋がんないや」
「……ってことは?」
「終わった」
策士策に溺れる。我々一行は、建造物の海に完全に飲み込まれてしまった。という訳だ。
「クソッタレが! こんなんだったら方位磁針の一つも持っていれば良かったよ……」
道端の小石を蹴り上げて、ルフはそう吐き捨てた。溺死寸前の策士、ここでもう一つの策を思いつく。
「……方位磁針! 方位磁針があるじゃん!」
「マジか!」
方位磁針なんてものはない。年頃の女の子が、そんなキャンピング要素豊富な小道具を常備はしない。キャンパーは論外として。それでも、現代の社会にて、誰しもが常備しているだろう、とっても便利で罪な人類の結晶がそこにはある。
「ジャーン!! これが『情報凝縮通信機器』様々だぁあ!!」
私はポケットからスマートフォンを取り出す。異世界に削ぐわぬ近未来感のスマートなフォルムと機械的デザイン。SFと書いてスマートフォンとは良く言ったものだ。薄くて軽い、その小さな板の中には様々な情報がしまわれて、必要な時に人に知恵を貸してくれる賢者である。ルフはそれを物珍しげに見つめていた。この世界に一つだけしかない、貴重品だ。
「……スマートフォン? 聞いた事ねぇもんだけど……それが方位磁針なのか?」
私はスマートフォンを起動すると、方位磁針のアプリケーションを使用する。黒い画面の中に浮かび上がる方位磁針。異世界でもしっかりと起動してくれる辺り、さすがはジョ〇スと賛美だ。不思議なのは、この世界でのスマートフォンはなぜか充電切れを起こさない。もう半年以上は充電してないが、バッテリーは一向に減る兆しがない。そう、〇Phoneならね。
ルフはその液晶画面に移された方位磁針を不思議そうに見つめ、画面に手を突っ込もうとしていたが、指が画面にぶつかるだけだった。
「なんかすげーな! どーなってんだ、それ?! ステータスボードみたいなもんか?」
初めて見る道具に興味津々なルフ。子供らしい一面を見れてホッコリとする。
私たちはその方位磁針を頼りに、東部から北部へとざっくりした進路で向かう事に。方位磁針の意のままに、指し示す北側へ。薄暗い脇道を何回か曲がってしばらく歩いていると、すぐに大通りに突き当たった。私たちの必死の一時間は何だったのだろうと、そんな事は考えるだけ無駄だ。私たちは大通りにようやく戻ってきた。それだけが紛れもない事実。左右を見やると、右手に見えるは巨大な鉄門の姿。フリューゲル東門前のようだ。門前には二人の役人が配置され、門の開閉を担っている模様。この門を通して、外の世界へとクエストに出撃したり、物資搬入口や入街口になったりと、行き来が繰り返されている。
「東門じゃねぇか。んな所まで来ちまったんだな」
「へえー、でっかいね! 是非ともその開閉を拝みたいとこなんですが、もう疲労が困憊でコンパイルよ。再起動させて欲しいとこだから、今日のところはログアウトですわ」
相変わらず何を言っているのか分からない私も、自分で何を言っているのか分かっていないのだから、これはもう救いようがない。
かくして、私たち一行のぶらり途中輔車の旅は無事大通りからの帰還で幕を閉じた。
その道中にて。私は今夜の寝床を探すべく、ルフに宿泊施設への同行を懇願していた。他に誘える人間はいない。一人で宿泊しに行けなくもないが行きたくは無い。心細いし、何より一人になると今日の事で思い詰めてしまって寝るものも寝れない。誰かと一緒にいたい、それだけなのだ。
しかし、ルフは乗り気ではなかった。フリューゲルに入街した際にも、ルフへと旅館に誘ってはいたが、その時も断られていた。何がそんなに嫌なのか。私は嫌われているのだろうか。なんてメンがヘラってしまうのは、精神的にも疲労している証拠である。
「お前と一緒だと余計疲れそうだし」
「いや、シンプルな悪口っ!」
そう言われてまた傷付けられるも、これだけ罵詈雑言を吐いてくれるのは仲が良い証拠であると、自分に言い聞かせてメンをケアる。
そして困る。やはり一人宿泊コースか。この世界にもネカフェなるものが存在しているならば、そこで夜を更すのだろうが、陰キャコミュ障腐女子には優しくない世界である。さするは、単独にて宿泊施設への特攻は止む無し。何が怖いかと言うと、スタッフに『一人で宿泊マジ寂し過ぎて腐』とか思われていないだろうかと言う、陰湿的でいかにもネガキャラの考える思考の至りそこにありけり。お得意のポジティブシンキングは何処へやら、今の私が持ち得るは負のオーラ。一人で寝泊まりしようものなら、深夜のトイレは不可避である。恐るるは連れションできぬ事。何を隠そう、私、狐火木ノ葉は幽霊が怖くてお花畑に花摘みにも行けぬのである。
「くっだらねぇ、そんくらい一人で行けよ」
「辛辣過ぎて泣いちゃうよ、いいの?! 泣いちゃうんだぞ? いいのかあ?!」
「お前って本当に寂しがり屋だよな」
それから、集会所のある大通り前まで戻ってくると、そこでルフとは別々になった。日は傾きかけ、夕焼けが鮮やかに街を染めていく。
私は、負傷者の海を監視役の男性に案内してもらうと、ウィンディーネの寝かされているシート前にやって来た。ルフに話は聞かされているが、やはり心配でならなかったので、様子を見に来た。ウィンディーネは頭に流血の跡があり、服も全身ボロボロになっていた。息はあるものの、その姿は処置が行き届いてない様に見える。半ば放置に近い状態だ。
「……今は寝かせてあげる事しかできない。ここまで、負傷者を嫌と言うほど見てきただろう? 物資が不足していて、彼女の手当には間に合わなかった。血は止まってるが、感染症などが心配だ」
案内してくれた男性はそう言葉を吐く。覚悟してはいたが、やはり胸に来るものがある。フィノと比べると外傷が少ない分、軽く見えるような怪我でも、中身はズタボロらしい。話を聞いた所、魔力を空になる寸前まで酷使したと言う。地球人の私にはそれがどれほど重いものか知らなかったが、男性曰く『飢餓と同等で、魔力がゼロになると欠乏症で死に至る』と。それを聞いて、いかに過酷だったかを察する。それと同時に、私は本日の寝床を決めた。
シートの上に乗って、ウィンディーネの横に寝転がった。本当に、単純なシートが引かれただけ。地面は大通りの石造りのまま、固くて寝床には不適切。それでも、ウィンディーネのそばに居てあげたかった。無論、私もそばに居たい。何も出来ないなりのできる事だ。
「お疲れ様、ウィンディーネ。話は聞いたよ? すごいなあ、君は本当に。私なんて何もできなかったんだから。早く元気になって、皆で一緒にまた、いつもの日常に……」
仰向けになり、上の空を見上げる。赤い空がどこか懐かしさを感じ、じわりと温かいものが込み上げてくるのを抑える。
ウィンディーネと二人で横になっていても、頭の中では今日の出来事を整理しようとしているらしく、考えるだけ無駄と分かってもぐるぐると反芻思考していた。
ガスターの出現
ガスター討伐戦
フリューゲル三銃士の応戦
フィノ負傷
観測士チーム参戦
最期の一撃
謎の女性
未知の空域
ダウナーとの対話
束の間の休息
勘違い
迷子
疲労困憊
『狐火木ノ葉、貴様に空域の運命を託した』
「……ひとまずノヴァに相談でもしてみようかー」
ダウナーの言葉を思い出して、私はそう結論に至る。事情も原因も知らないが、ダウナーが言うには空域の魔力が不足し、迷惑がかかっているらしい。ならば、人脈的に一番理想である人物は、観測士を生業にするノヴァ。観測士の仕事上、天候についての知見があると思われ、であるならば、空域の魔力不足の原因も何かしら因果を調べ出す事もできるはずであると言う、やはり希望的観測である。
明日はダンジョン捜索の件もあり、暇人は暇がないだろうから、帰ってきてから相談でもしようと、私は明日の計画を頭の中で整理しながら、いつの間にか寝落ちしてしまった。暴風の止んだフリューゲルは心地の良い風が吹き抜け、眠りの世界に誘うには不足はない。大通りでなければの話である。
こんばんは、星野夜です。
しばらく絵を描く事に全力を費やして、かれこれ数時間が経過。肩と手と目と関節節々、疲れが出始めたので小説を投稿します。それ、因果関係ありませんが。
さて、来たるは第2話。街中の迷走劇でした。どこぞの『歩くカーナビ』と呼ばれている女が見事、迷子から生還する事ができて偉いですね、偉い偉い。
お、道草が生えてますね。いただきます。
所で私、星野夜は方向音痴でございます。仮に私がフリューゲルの町に放り込まれようものなら、確実にその町に呑まれる事を自信げに報告してやります。スーパー田舎人ですので、東京は大嫌いです。人混みクソ喰らえ自然万歳。
まあ、その、どのみちインドアヒキニートなんで、田舎だろうが都会だろうが、変わらず部屋籠もり一択です。
そして、どうでもよかった。
さあ、次話を期待せずに首の骨格がズレて変形し、いずれキリンへと変わるまでお待ちください。そう、相変わらず執筆速度は遅い星野夜だった。




