第1話『疲労回復に努めよ』
「……………………」
青い空の下、優しく肌を撫でるそよ風が心地良く吹き抜ける。私はただ、突っ立ったままでその景色を見つめていた。ここは、風吹く街、フリューゲル。年中、止まない風は過ごしやすい気温を作り出し、四季を忘れさせる程、気温差が生まれない街として有名である。
その街を突如襲った被災により、南部地域は壊滅。多発する竜巻によって家々は瓦礫に生まれ変わり、巻き込まれた住民は数知れず。負傷者は、北部地域に位置する集会所を一時避難所として利用し、その広い空間へと搬送するも、その数故に収まりきらず、外の大通りにシートを張って空間を作るしかなかった。青空病室と言わんばかりである。大通りは、寝かしつけられている負傷者で覆われていた。
その一つ、シートの上に横にされた一人の少女を、私は黙って見つめていた。朱色のクセのついた髪、工業系の人間なのか着込むは厚めの作業着。所々が解れたり、擦り切れてボロボロに使い込まれている。問題はそこじゃなかった。その少女の全身は、発光する包帯のようなもので巻かれて、例えるならミイラのような姿となっていた。人体を縦に真っ二つにするように、顔から胸の辺りまでの包帯から血が滲んでいる。少女は息をしているものの、その傷は処置後の包帯で視認できずとも見るに堪えないものだった。
彼女はフィノ。私にとっての、師匠的な存在であり、大切な仲間の一人だ。私を庇って傷を受け、この状態に陥っている。
「友人かい?」
突っ立って黙る私を見兼ねたのか、一人の男性が話しかけてきた。
「うん……何もできなかった」
「それは皆が皆、そうだろう。今は切り替えてけ。命を紡ぐ事が大切だ。できなかったらできなかったなりの、できる事はある。彼女も、かなりの重症だったが、こうして一命は取り留められたんだ。誰かは、誰かは知らないが、負傷者の処置をしてくれた人物のおかげだよ。その光る包帯を巻いてくれた奴さ」
男性の言葉は、申し訳ないが耳を通さなかった。いや、通ったが通り抜けたように、脳に残らなかった。それほど、精神的にきている。疲労と相まって、私は今にも気絶してしまうかと言うくらいだ。
「狐火っ!」
聞き馴染みのある声がして、ハッと声のする方へと顔を向けると、そこに一人の少年の姿があった。茶髪をした男の子、その幼い顔は中性的で、服装が服装なら女の子にも見えるような、そんな男の子。銃士のルフである。
「無事だったのか、おまっ……」
こちらへとかけて来たルフは私へと声をかけるも、目の前で寝かされているフィノの姿が目に入った途端に、その言葉が途切れた。
「……何があったんだ、これは?」
フリューゲルの被災が収まるまでの間、私とルフは一度も会うことは無かった。フィノの傷の原因も知らない事だろう。私は事の経緯を説明する。
「死ななくて良かったよ、狐火も、フィノも」
含みがあるような言葉。どこか哀愁のあるルフの顔に、何か違和感を感じた。
「ルフ、ひょっとして何かあった?」
「あ、その……ウィンディーネが──」
「生きてるんだよね!! 無事なんだよね、ルフ!!」
ウィンディーネについて、何かあったのだろうけど、話題としてウィンディーネが上がった瞬間にはもう、口が吐いて止まらなかった。これで悪報を聞こうものなら、私は恐らく失神してしまう。
「お、落ち着けよ!」
ルフの肩を掴んでグワングワンと揺さぶってしまう私を、ルフはなだめようとする。その様を見てた、男性が助け舟を出す。
「ウィンディーネという少女の事なら、無事だぜ?」
それが聞けた私は、男性がなぜウィンディーネを知ってるかを疑問にすら思わず、ホッとしてルフを離した。ルフは若干酔ってフラフラしていた。
「……ま、まあ、生きてはいるんだが──」
「怪我っ、怪我して、意識不明の重体で、とかじゃないよね、ね、ねえ?! ねぇってば、答えてよ、ルフ!!!」
「あばばばばばばばばッ!!!」
グワングワンを再開する。
「魔力の使い過ぎで眠ってる。命には別状は無いが発熱が酷かったな。恐らく、心身に過度な負担をかけた事が原因の、心因性の発熱だ。解熱薬が必要だが、支援物資はまだ来ない。薬草も底をついてる。ただの発熱とはいえ、治療の一つは必要だな」
男性が再び、ルフを揺さぶる私へとそう答えた。その言葉で私の手は止まり、ルフは推進力のままに尻もちをつく。
「っだぁ?! ……いてぇえ、冷静になれよ、狐火!」
「わ、私に今、できる事は……」
「んー、そうだなー。狐火、と言ったな? お前さん、ダンジョン捜索をした事はあるかい?」
男性は私へと一つの提案を投げる。
「今、フリューゲルは負傷者の嵐だ。治療に使うアイテムが行き届いていない。隣街へ支援物資を送って貰うよう伝えてはいるが、それも届くのに時間がかかる。数も足りるか計り知れない。ならば、ダンジョン捜索で治療薬の素材集めをしたらいい。クエストの発注はギルド嬢がやってくれるだろう。なあー、そうだろー?!」
「──あ、はいっス!! お願いしまぁあああす!」
負傷者看護中のギルド嬢が、少し遠くの所から叫び返した。
「って訳だ」
「任せて! この狐火木ノ葉、是非とも力添えさせてもらう候!!」
こうしてギルド嬢を経由し、フリューゲル集会所に緊急でクエストが発注された。今回の被災にて、街長が亡くなってしまい、集会所の取締役がいなくなったので、ギルド嬢が臨時的に街長の役割を担っている。
「ならば、早速ダンジョン捜索に向かう! 付いてこい、ルフ!」
「はあ? おい、待てって。今から行くって──」
善は急げのスタンスで。私は集会所へと足を向けるも、何も無いような平らな地に足を引っ掛けて、ド派手に顔面スライディングをかましてしまう始末。フリューゲル被災元であるモンスター討伐に全力を尽くし、身体には疲労が蓄積されているのを忘れていた。
「あ、あはは……とりあえず、一旦休もうかな」
「狐火にしては賢い判断だな」
「人をまるで脳なしか何かみたいな言い草ね」
「事実じゃん、馬鹿女」
「酷いッ! そうやって人を馬鹿にする子に育てた覚えはありません!!」
「育てられてねぇからな」
久しく、ふざけたやり取りをしたような、日常に戻ってきた気がして、少し嬉しくなってしまう。いや、異世界にいる時点で、日常には全く戻れてすらないのだが、もはや異世界の生活が日常と思わせる程に、私の身体は異世界に馴染み始めていたらしい。
「風呂でも入って飯でも食って、万全になってからだ。じゃねぇと、ダンジョンで死んじまうぜ?」
ごもっとも。善は急げ、でも急がば回れ。まるで相反した二つが既在するのはケースバイケースであり、結局は時と場合が優先される為だ。所詮はことわざ、自分の体調に合わせてマイペースに。これが一番である。マイペースで行った結果、店を燃やしたり、自分自身を燃やしたり、海底神殿を燃やしたり、集会所を燃やしたり、乗り物を燃やしたり、山を燃やしたりしてしまったのが事実だが。学校内で『火に好かれた女』と言われるだけはある。火災を起こしかけた事は忘れてしまいたい。
「東部地域は被災の範囲外だ。飲食店や銭湯は通常営業中だろう。行ってみると良い。君たちの友人は俺たちが看病しているから、ゆっくり疲れでも癒してくると良いさ」
男性はそう言う。その言葉に甘え、私はルフを連行して銭湯と飯屋を目指す事にした。
ミッション『疲労回復に努めよ』
「で、何で俺も?」
「ルフちゃんもめちゃくちゃ汚れてるからね。銭湯に行って汚れを落としたら良いじゃん? 一緒には入ってあげられないけどね」
「それは良かったよ」
東門まで伸びる大通りを、砂埃に汚れた二人組が銭湯を探しながら歩く。ルフは私の素行に相変わらず呆れたと言う表情をするも、今回はしっかりついてきてくれた。
「お前に無理やり連れてこられたんだよ」
「今日も今日とてしっかり心を読まれていくぅうー!」
嘘を無効化する特殊能力を常備しているとまで言われるほど、校内では心を読みやすい単純な女として有名だった。失礼極まりないが、裏を返せば正直者と言える。そう言い返すと『お前に正直者って表現は何か癪に障るよなあ』って言われたり『お前に正直者って表現は贅沢過ぎるだろ』なんて言われる始末である。皆、私の事が好きで堪らないと言ったところだ。
そんな無駄話を読者に繰り広げていると、私は砂埃で汚れたルフの姿に違和感を覚える。見慣れた茶色の髪とジャケット。太ももに付けられたホルスター。何か足りない気がして、その違和感にすぐ気がついた。
「あれ? ルフ、いつも付けてたマフラーは?」
ルフのトレードマークと言ってもいい、長めのちょっと古めかしい赤色のマフラー。季節感皆無で、寒くても暑くても首に巻いていたそれ。何か大切なものなのか、肌身離さず付けていたはずのそれが、今のルフにはなかった。違和感を覚えさせるくらいには、印象の強い部品。
「……あー……どっかに、落としたんだよ。……ほら、結構ボロかったしな! そろそろ替え時ってもんだろ?」
先刻まで巻き起こっていた暴風。今はもう止んではいるが、確かにあの風力であればマフラーの一つ、風に飛ばされてしまいそうではある。ルフは愛想笑いか乾いた笑いで誤魔化しているが、嘘をつくのが下手くそだ。お前が言うなって突っ込まれそうな気がしたから、先に布石は置かせてもらった。
「……ふーん、そっかあ。買ってあげようか?」
「あ、いや、いいよ、うん、いい、いいよ」
控えめに言って断られた。何がいけなかったのか。私のファッションセンスを疑われているのか。私がキモすぎるのか。ルフは私の事が嫌いなのか。そう考えた途端、私の心にはモヤのようなものが差しかかって、少し死にたくなってしまった。私は非常に重い女であった。
「い、いや、そういうつもりじゃないって言うか……いいんだよ、俺なんかにはもったいないだろ?」
もはやテレパシーで会話してるのかってくらい心を読んでくる。なぜかルフは卑屈だった。もったいないなんて思いもしない。むしろ、私は出世払いで飯を奢られた身である。お返しのひとつもしても、バチは当たらないだろう。なんておじさん風味がする物言いな事は、金輪際どうでも良い。
「じゃ、じゃあ、銭湯代と飯奢れよ、狐火」
「ほほおー、言うようになったじゃあないか」
「お前の目には俺はどう映ってんだよ?」
「可愛い男の子」
「……」
黙り込まれました。
なんやかんやで銭湯につき、汚れを落として湯に浸かり、疲れを排水溝へボッシュートである。やけに早い話の展開について、読者は今更何の謎も浮かぶまいと言う程には呆れられている当小説ですが、君たちは私の、もしくはショタっ子のお風呂姿を見たいと、そう言うつもりであるまいな?
そうこうして、銭湯から出る二人。汚れと疲れを流して綺麗さっぱり。青空の下で心地よい風が吹き込み、湯上りの身体をゆっくりと冷ましていく。清々しい事この上ない。休日の午前中に早風呂してからゆったりと街を観光するような、そんな雰囲気だ。というか、まさしくその通りであった。
「はあ〜……ひひひっ、たまには銭湯もいいな、狐火」
なんて緊張の解けた素の笑顔でこちらに話しかけるルフの姿を見て、私は夢心地そのものだった。
「そうだね! さ、なんか食べに行こうか!」
「ああ、何が食いたいんだ、狐火は?」
そう聞かれて、私が真っ先に思い浮かぶものは某有名カツ丼チェーン店のカツ丼特別仕様のやつであったが、異世界にカツ丼がある訳はないし、異世界初心者の私に食の知識は皆無と言える。ここは一つ、質問を質問で返す事にした。
「お、俺か? んんー、そうだなあー…………」
長考が始まる。『何を食べる論争』は、異世界でも地球でも良くある話。面倒臭い系彼女とか相手に、何を食べたいかの返答で『じゃあ○○はどう?』なんて聞くと不服そうな癖に『君は何が食べたいんだ?』なんて聞こうものなら『それは男が決めるもんでしょ!』なんて激昂するもんだから実に厄介である。結局、内心では食べたいものが決まっている癖にこちらへ委ねてくるスタンスに、虫唾が走って腹は立つ。ソースはない。そもそも私は女であるから腹を立てられる側では無いのかというツッコミは受け付けておりません。作者自身も彼女がそもそも居ないのだから、ただの憶測に過ぎない。そう、悲しい人間である。
(作者:うるせーよ、おめぇ)
Shut up!! Get outta here!!!
こうして作者を無理やり帰宅させる事も、懐かしいやり取りである。そんな下らない思考回路を巡らせていると、ルフが長考から口を開いた。
「パンが食べたい」
ポツリと呟いたその言葉に、私はキュンとするのでした。どんなジャンキージャンキーしたやつが来るかと思ったら、まさかのパン。こちらを見上げて、上目遣いでそう言うのだから、その可愛さと来たら言葉で表すに足らず。上目遣いを生み出した神に盛大な感謝を。
「パン、パンかー。パン屋さんでも行ってみようか」
「うん」
テンションが低くなったのか落ち着いたのか、コクリと頷くルフ。しかし、目の奥はキラキラと光っているのが分かった。興奮をあまり表には出さんとする姿勢。ウィンディーネもそうだったが、なぜか大人振るその振る舞いが逆に子供らしいなってホッコリした。ルフはパンが大好物なのかもしれない。
ひとまず私たちは大通りを散策する。フリューゲルには来たばかりの旅人、土地勘は無いので探し回るしかない。だが、その苦労は必要なかった。パン屋は案外すぐに見つかったからである。
石材ブロックで建てられているフリューゲルの家々とは少しデザインが変わり、木材も組み込まれてオシャレな建造物となっていた。石材のみの家と比べて、木材の取り込まれたその建物には、なんとも言えない温かみを感じられる。
扉を開いて、私たちはパン屋に入店した。扉を開けるとすぐさま、香ばしい匂いがふわりと漂い、鼻の中に幸せを呼び込む。たちまち空腹の虫が暴れ始めた。眼福ならぬ鼻福、香りの暴力、合法麻薬とまで言い表せられる程の圧倒的な芳しい香り。そう、パンは人を幸せにする。私はなぜここまでパンに魅力を感じるのか。
店内には数人の客たちが、ケースや棚に綺麗に整列されたパンを吟味している。ルフは早々、入口に設置されたお盆とトングを手に、パンを選び始めていた。無意識か、トングをカチカチしていて、気分が高揚しているのが見て取れた。私もその後に続き、並んでいる商品を吟味し始める。学校終わり、駅前にある個人経営の小さなパン屋に足を運んで、夕焼けに染まる帰り道、ゆったりと一人帰るのが好きだったのを思い出した。
「うわぁ〜、いっぱいあるなあ! どうしよーか!」
子供帰りしているルフ。いや、子供なのだからこれが普通だ。戦闘のない平和な世界線では、ルフは無邪気で活発的なただの男の子だったのだろう。
「狐火? 選ばないのか?」
「……はっ?! 手は出てないからセーフだよ、うんうん、セーフセーフ!」
「何の話をしてんだよ、お前?」
危うく、パンでは無いものまでテイクアウトしてしまいそうな所、理性の踏ん張りが効いた。ドギマギしながらパンを選び始める。
さて、今日私がいただくのは、澄んだ湧き水が有名なラブカラクの清水を使用。品質や味を低下させずに飽和脂肪酸を低くした高級酪農バターと、食べれば脳が麻痺して言葉が出なくなるとまで言われる程に甘いがしつこくない程良いホワイトスノウ糖を、ふんだんに練り込んだクロワッサンです。火加減に最善の注意を払い、外はパリパリ中もっちりの黄金比率を実現。一口食べれば頬が落ちて、入院待ったなしの当店自慢の一品とか謳われている。もう何か良く分からんが、良しッ!
パン屋で各々が好きなパンを購入。異世界にはコロナウイルスの影はなく、広々としていて落ち着く、カフェのようなテーブル席で白昼堂々とイートインする。パンのお供に、店内で別売りされてたミルクやコーヒーもご一緒に。ルフと二人、モーニングのようなランチをカフェらしく。オキトキシンマシマシハッピーセットで語彙力はゼロよ。
優雅な昼食を終え、胃の虫も泣き止んだ所で、私たちは店を後にした。二人で計500オズ、コストパフォーマンスも郡抜だ。お財布にも優しくできる、パン屋が擬人化したら付き合いたいくらいには良人になりそうだとか、くだらない事を考えるに至るほど、脳内がのほほんとしていた。これが俗に言う頭お花畑である。
「ごちそうさん! ありがとな、狐火」
「なーに、狐火お姉さんはいつでも奢ってあげるんだからね」
「いつかは出世払いがどーのこーの言ってたのにな」
なんて冗談を吐かれてニヤニヤされてしまう。
それから私たちは、公園などの休憩出来そうな場所を探して大通りを練り歩き始めた。フリューゲルの被災の範囲外である東部地域は、多少砂埃が散ってはいるものの、ほとんど街並みが普段通りで、まるで悪夢でも見ていたのかと思うほどに平和が屯していた。被災地域へと救援に向かう者や野次馬などが一部、被災地域側へと走っている姿が見えるも、大凡の住民はいつも通りの日常をこなしている。
しばらく歩いていると、公園のような開けた場所を見つけた。私とルフはその開けた広場の設置されているベンチへ、そこに腰をかけてしばらく休憩でもする事に。銭湯に浸かって癒されても、全身に溜まる乳酸は裏切らない。ベンチに座った途端に全身の力がフッと抜け、サルバドール・ダリの絵画の如く身体が溶けていく、そんな脱力感に覆われた。
「ぁあ〜……ルフルッシュ、私はもう疲れたよ」
「誰がルフルッシュだ」
両腕を背もたれに引っ掛け、足を組んだ体勢で溶ける私。疲れ目でボーッと広場を眺める。昼間の広場では、幼い子供たちが甲高い声ではしゃぎ立てながら爆走していた。
ふと、目線を隣のルフに向けると、ルフはカバンから小道具を取り出して何やらやっていた。
「…………ルフ、なにしてんのー?」
疲労と眠気で怠惰が進行し、感情が失われて抑揚のない、まるでフィノちゃんらしい棒読み感でテキトーに訊ねる。
「んあ? 魔弾のストック作ってんだよ。今回で弾切れしちまったからな。またいつ何が起こるか分かんねぇし」
小さな真鍮の筒に、粉状の何かを詰めながら、目線はそのままにルフは答えた。どうやら、魔弾を作っているらしいが、まさか一発一発が手作りだったとは思いもしなかった。
「普通は購入するもんだけど、戦地とかでいざと言う時に弾切れを起こすか分からねぇから、銃士はみんな、弾丸を手作りできるんだぜ」
「ふーん……」
ルフは魔弾制作に熱中し、着実に一発一発ストックを増やしていく。と、ある一発を作り終えた時だった。ルフが目線を向けずに、私へと小声で話しかけてきた。
「……誰かに見られてんぞ」
「……はぇ?」
ルフは何をする訳なく、カバンをガサガサ探る振りを取っている。ルフが言う『誰か』に対して、気づいている事を悟られない為の行動だ。それを察して、私も夏場の溶けたアイスになり切り続ける。
「さっきからずっと俺たちを観察してる奴がいる。向こうの看板の方の、帽子被ってる奴、ちょっと遠いか……分かる?」
ざっくりした説明を受けて、私は視線だけ向けて広場を舐め回すと、恐らくその人物らしき人間を見つけた。距離が空いてる為、具体的な容姿は分からないが、明らかに怪しい雰囲気が漂っている。確かにいるが、その人物がこちらを目的として観察してるとも言いづらい。広場の人間の誰かに向けられた目線でもおかしくない。それでも、こちらを見てるような視線が、危機感を覚えさせられる。
「みっけ。見たところウォーリーではなさそうだね」
「誰だよ」
目深に帽子を被り、スーツを身に付けてカッチリした服装。手前に置かれている看板に身を隠し、顔を半分だけ覗かせて広場を監視している。一見するとストーカーにも見えなくもないが、私服では無い様を見るに恐らく、何か仕事中なのだろうか。刑事や探偵、そう言った事業であれば辻褄も合う。仮にそうであれば、この広場に被疑者となる疑いがある人物がいる事になる。まだ断定してないからこそ、隠れて様子見しているのかもしれない。刑事よりは探偵の方がしっくりくる。
「……誰か探ってるんじゃないの、あれ?」
「探る? 探偵か何かかよ? あんなひよっこ探偵とかいんのか? バレバレだろ」
酷い言われようだった。だが、正論である。一般人に見つかるような追跡をする時点で仕事にはならない。探られている人物が探偵の存在に気づいてしまう、これはあってはならないはずだ。だとするなら、探偵路線も薄いのかもしれない。
「なーんか、怪しいからどっか行こっか、ルフ」
「んぁ、そうだな。見られ続けんのも居心地良くねぇし」
ルフは荷物をあらかた整理し終える。それから私とルフの二人は、怪しまれないようにさりげなくその広場を去る事に。ベンチから立ち上がると同時に、看板に隠れていた人物はこちらへと歩み寄り始めた! たまたまタイミングが合ったか、もしくは私たちが目星なのか。
「……ついてきてるぜ? お前なんかやらかしたのか?」
「真っ先に私疑われるの酷くなぁい?!」
人集りのある大通りを歩く私たちを、同じくらいの歩速で後追う誰か。偶然同じ方角を目指しているのかとも考える。大通りなんて誰もが同じ方角を目指すもの。そこで、追跡されてるかどうか確認の為に、こちらから手を打つ事にした。
「……いっせいのーで、逃げよう。脇道に入って撹乱させてみようよ?」
「ああ、そうしよう。追跡されなければそれはそれ、追ってくるなら黒って事か」
そして、私たちはタイミングを合わせ、大通りから脇道へ差し掛かると同時に、一気に全力ダッシュで脇道へと飛び出した。脇道へと抜ける瞬間、一瞬だけ背後の景色が目に入ったが、やはり例の人物はこちらを追跡しているのか、同じタイミングで歩速を上げた。
「追われてんなあ、狐火!」
「厄介事はいらんですよぉ!」
脇道からテキトーに道を曲がり続け、追跡者を撹乱させる作戦を取る。大通りは人が多いものの、開けている為に避けた方が良い。ひとまずは追跡を切るまでは、小道脇道裏路地をがむしゃらに駆ける。
と、その時だった。ちょうど曲がり角を曲がった際に、突如目の前に現れた壁に顔面を大激突させてしまった。
「ッヘブシッ!」
「うぉ?! な、なんだ?!」
尻もちをつく私の後ろで、ルフは曲がり角の先にある壁へと警戒態勢を取る。そこには壁があったのだ。とてつもない絶壁である。
目深に被る帽子とスーツ姿。そこにいるのは、紛れもなく追跡者である。先回りをされていたらしく、タイミング悪く顔面をその絶壁にぶつけてしまったらしい。
「誰が貧相絶壁まな板女だ!!」
「そ、そこまで言ってないんですが?!」
被害妄想を拗らせる辺り、追跡者は自分の胸にコンプレックスがあるご様子。あと、シンプルに心を読まれていた。
「誰だよ、アンタ? 俺たちに何か用でもあんのか?」
右手でホルスターに手を付け、いつでも拳銃を引き抜けるように身構えるルフ。追跡者の女は両手を上げて不戦の構えを取る。
「いやいや、勘違いだ! 私はそこの英雄さんにインタビューがしたいだけなんだ!」
そう言う女は、事のあらましを説明する。何やら、私、狐火木ノ葉がフリューゲルにて英雄扱いされているらしい。というのも、先のフリューゲル北部にて起きたネイゲル族侵攻を、私がたった一人で迎撃したと言う。その姿が住民たちを通して噂となり、瞬く間にフリューゲルの英雄という形で認識が広まっていったと。
ルフはその説明を聞いて、敵意はないと判断して警戒態勢を解いた。
「英雄! あなたのお話を是非、お聞かせ願いたい訳です!」
女はすぐさま懐からペンとメモを取り出すと、完全に聞き取りモードに入り込んだ。これは探偵では無い、記者の類だ。
私は女の説明に一つも心当たりがない。何なら、ネイゲル族侵攻は今知ったと言える。だが、英雄扱いされてインタビューを受ける、これは悪くない気分であった。
「は、はは! 良かろう! なーんでも聞いてくれよ、お嬢さん!」
「……急に態度変わったな、こいつ」
「是非ともよろしくお願いします!」
こうして、記者とのインタビューが唐突に始まった。何気ない趣味や好物の話から、ネイゲル族についてや、戦闘技術についての話。そんな事聞いてどうすると言ったものも。意図は読み取れないが、まあ悪い気はしなかった。絶対人違いだろうなって思いながら出任せをばら撒くことに。
「──いやー、今日はありがとうございました! 良い話、聞かせてもらいましたよ、狐火木ノ葉さん!」
インタビューを終え、女記者は満足気にどこかへと消えていった。その間、ルフは暇そうに石ころで玉蹴りをしているのだった。
「……いやあ、英雄なんて嬉しいねー!」
「お前すげーな。一人で多勢を相手したのかよ、俺も負けてらんねぇな」
「いや、私じゃないよ?」
「……は?」
知らない小道にて、私はルフへと説明をする。まず第一に、フリューゲルの英雄とされている人物が自分では無い事。第二に、ガスターの本体であるダウナーと交渉をして災害の発生を止めてもらった事。結論として、ネイゲル族侵攻が発生していた時間帯、南部地域及び謎の空間に迷い込んだ私が、北部で発生していた侵攻を防ぐ事は不可能であるという事を。ルフはその話を半信半疑で聞いていた。
「じゃあ、誰だよ、英雄は?」
「さ、さあ……私に見間違えてたんだし、私に似てる誰か的なあれじゃないかな?」
「マジかよ、狐火なんてこの世に一人で充分だろ」
「そんなに私の事が好きなのね?」
「ばーか、冗談言えよ」
事実、私が英雄と勘違いされて記者がやって来るなら、英雄とやらは私似で間違いはないだろう。そんなに似てるのなら一度会ってみたいものである。
「て言うか、あの女……どうやって先回りしたんだろうな?」
ルフの何ともない一言。確かに、女記者を敵扱いしていた私たちは、小道をデタラメに縫って撹乱させるのを目的に逃げていた。右折なり左折なりは繰り返していたものの、逆戻りするルートを辿った訳では無い。先回りするなら、私たちがどこを目指すか推測する必要があり、土地勘無い私たちの目的地を推し測るのは難しい。それを考慮して、最速で回り込めるルートを選び、曲がり角にスタンバイする。心理戦も何もない運絡みだ。
そんな事を無い脳で思考していると、私は我に返った。
「それはそうと、ここどこ?」
デタラメに遁走していた。土地勘の無い私たちに、現在地を知る術は無い。分かるのは東部地域のどこかの小道という事だけ。さしづめ、帰路は行方知れず。ルフに希望の眼差しを向けてみるも、黙ったまんまで目をグルグルさせているルフに、もはや可能性はなかった。フリューゲル東部地域で、我々一行は迷子となったのであった。
星野夜、小説家さ。語彙力は時代の波に揉まれ、物語は時間の流れに流されて、そして私は何一つ成長しない頭を誑かす。そう、時間は残酷なまでに私を苛む。結果として、私は現実逃避に走る。それが、小説であり、小説なのだ。
ん、僕は今、何と言ったんだ? 少なくとも、前述を思い出すのに使う容量が勿体ないのでCPUにはお眠り頂くに限る事だけが確かだと言うことが今の僕に理解出来る事だ。
ん、僕は今、何を結論付けたのだ? 少なくとも、前述で似た工程を経た事は確か。
ん、僕はなぜ、後書きで迷走しているんだ?
あぁ、そうか。何も考えていないんだ、今。文法も文脈も文章もハチャメチャよ。
さて、切り替えが重要だと思われます。僕、星野夜。3章1話へ辿り着きました皆皆皆様様方、こんばんは。そしてありがとうございました。特段、後書く事のない後書き能書き書き垂らしの世界一無駄なお時間です。
最近は気力が完全に無になり、全ての行為に意味を求め始め、最終的には宇宙と一つになる、そんな今日この頃です。五億円が欲しいと、ここに書き垂らします。よく言うじゃないですか、願いは言葉に出しておくと叶うやらなんやらテキトーな話。七夕で短冊の一つも垂らしません僕は、こうして後書きに願いを書き垂らすのでした。織姫彦星の境遇は知りませんが、僕のような引きこもりニート万年ボッチちゃんにはリア充爆破案件でございます。とはいえ、年に一度しか出会えないカップルと考えると、それはリアルが充実している訳では無いとも考えられ、それは非リア仲間では無いのだろうか、そう思うけど、そんな事はどうでも良い。願いが叶うなら、貴方様がリア充であれども縋りましょうぞ! さあ、我の願いを叶えたまへ。
小説家として売れる事、より五億円をください。
(星野夜、心の排苦)




