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第41話『意思の持つ力に苛まれた世界にて』

 フリューゲル北部集会所。被災に巻き込まれて動く事が困難な負傷者たちを搬送し、その広い空間に大勢を保護していた。ほとんどの負傷者が意識不明で寝かされ、大小あれど中には身体欠損や内臓損傷など、生死を彷徨う重傷者もいる。そこへ濁流の様に次々と運ばれてくる負傷者たち。スペースはあっという間に埋め尽くされて、外の大路地すらも寝床に利用しなければ間に合わない始末であった。ネイゲル族民侵攻の影響により、集会所付近の北門前通りには住民の遺体が転がり、無数の矢が散らばっていて惨劇を物語っていた。劣悪極まりない環境下である。

「これで今うちにある在庫は全部だ。残りは全て潰されてお釈迦さ」

 集会所前で、重たそうなダンボールを運んできた男性。頭や身体に包帯を巻き、明らかに負傷者ではある男が持ち運んできたのは、回復薬や包帯などの救護アイテムの数々。この男性は便利屋の運営者で、今回の被災に対して便利屋で販売していたアイテムを無償で提供してくれているのだった。しかし凡そのアイテムは、被災の影響により潰されてしまった店内に埋もれて使い物にはならず、今運んできた品は、掘り起こした中でまだ使えそうなアイテムを厳選したものとなっている。負傷者の数に対して、そのアイテムの量は明らかに不足していた。

「あ、ありがとうございますっス!!」

 集会所に取り残されていたギルド嬢は、便利屋の店員から渡されたアイテムを手に、負傷者の看護をする。

「……足りないですね……どうしましょうか」

「隣街に救援物資を送って貰うよう通達はしたが……まだ時間がかかるだろうしなあ」

 男性は隣街へと物資供給を依頼しているらしいが、届くまでには半日はかかると言う。重傷者優先で看護していくギルド嬢だったが、やはり全ての負傷者には行き届かない。

 そんな所に、一人の男の子が負傷者を担いでやってきた。茶色の髪と砂埃で汚れて、ボロボロになった服を着ている男の子。背中には、負傷者だろう青髪の女の子を担いでいる。

「な……なんだ、これ……」

 その凄まじい状況に唖然とする男の子。それもそのはず。彼は北部でのネイゲル族侵攻について知らない。いざ来てみれば、北門前大通りに遺体の数々。集会所に収まりきらない負傷者たち。空いた口が塞がらないのも当然の話。

 その男の子の姿に気づいた男性店員は、男の子に声をかける。

「大丈夫か、坊や?」

「……俺は問題ないが、こいつを手当してやってくれ。負傷者の救援に魔力を使い切って眠ってんだ」

 そう言って、背中に担ぐ女の子を視線で指し示した。息はあるようだが、見るからに衰弱していて、頭からも出血した痕が残っている。男性店員は彼女を見て、ふと思い出した。

「ああ、君はあの時の……」

「え、あぁ……ウィンディーネの知り合い、なのか?」

「命の恩人だよ。彼女に助けて貰った身でね。災害で店が潰されて生き埋めになり掛けてたんだが、この子が瓦礫を払い除けてくれたのさ。しかし、まさかそのまま今の今までずっと救援に出ていたとは……」

 男性店員は少年を連れ、道の端っこ側に引かれたシートの上に案内する。緊急で外の道路上に作られた粗末な休息所だ。

「悪いな。負傷者が多くて、ほぼほぼ外で寝かせるしかなくなっていてね。命の恩人にこの扱いは心苦しい所だ」

「……地べたよりはマシだ」

 少年は背に担いでた少女をゆっくりと下ろし、簡易的に作られた休息所のシート上に寝かしつけた。少年と同じく、砂塵の中を駆け回っていた少女の服は砂埃で汚れ、所々破れたり切れたりしてズタボロになっている。男性店員はポーチから何かを取り出すと、それを少年に渡した。

「負傷者が多すぎて、救護アイテムがなくなっているんだ。処置して上げたいが、それすらできない。だから、それをやる」

「これは……?」

 透明な液体の入った小瓶。一見すると、単なる水にしか見えない。

「そいつは千変万化の溶解液だ」

 千変万化の溶解液。単品では単なる水と同じもので、飲んでも何も起きる事はない。この溶解液と別の素材を合成すると、様々な薬品に変化を遂げる。回復薬にもなれば爆薬にもなれる、流通する事はなくほとんど目にかかる事もない貴重なアイテムだ。

「そんなもん、貰っちまっていいのか?」

「礼にもならないもんだが。単体だと何の力もないし、今使えるもんじゃない。何か合成できる……例えば、薬草とか、角や皮とかがあれば回復薬だったり解毒薬だったりに変化させられる。何か持ってたりするか?」

「俺は銃士だからな……。あっても火薬とかばかりだ」

 少年は自分のバッグを確認するも、めぼしいものはやはりないようだった。そこで、少年は何か可能性を見出して、寝かせた少女のバッグを申し訳なさそうに漁り始めた。

「……ウィンディーネは、ヒーラーだ。それに、薬草が切れた時にはすぐにでも入手しようとするような呆れた奴なんだよ……」

 そうして漁っていると何か見つけたらしく、それをバッグから取り出した。ふわふわした感触から薬草類かと思われたそれは、白くて艶やかで整えられた白い毛束であった。質感からかなり上質で、衣服に使われれば高級な物となりそうな、そんな素材だ。それが

なぜ入っているのか、用途が何かも分からない。ただ、千変万化の溶解液との合成素材にはなりえそうも無い事は確かである。

「生物の毛束、それも上物。見た事のない素材だが、これは一部衣料系産業には価値のありそうな品だ」

 便利屋として、日々様々な雑貨を取り揃えるその性か、男性店員はこの状況下、つい職業病を発症してその毛束の価値を測っていた。

「他には特にない……か。良く考えれば、仮に回復薬とか薬草があっても、あの状況、ウィンディーネなら惜しげも無く使い切るだろうな。……バカなんだよ、こいつ。自分の事を何も、何も考えてねぇんだ」

「……」

 少年は、何もしてあげられない無力さ、やり切れない感情を零す。男性店員も、その言葉に心当たりがあるのか、無言で黙ってしまう。少年と同じく、何もできることの無い自分に、その返答の権利がないと思ったからだ。唯一あるのは、未だに止まない暴風の騒がしい音のみである。




「やあ、おはよう、狐火くん」

「…………は?」

 先程まで自分が何をしていたのか、そもそもこの空間はどこなのか、何もかも分からずにただ、目の前の誰かにその答えを聞く事だけが今できる事だった。確かに、目に映るものが人であり、空間があると理解しながら、認識だけが出来ていないような感じが、奇妙で不気味で気持ち悪い。主人公の容姿に言及がなく、主観で物語が語られていく為に、人柄だけが先行して姿形が想像の範疇を越えない小説のような、ぼんやりとしていて情報だけが与えられている感じがした。

 恐らく眼前にいるだろう何者かは口を開く。

「違う色を混ぜると違う色になるよね? でも、いずれは澱んで最後は真っ黒だ」

「何? 何の話?」

 唐突に語りかけられた話の意味は読み取れず、ただクエスチョンマークだけが浮かぶ。

「三原色って事。考えを変えるんだよ、考えをさ。全てを合わせる必要はないけど、全てを合わせてみたいなら、アプローチを変えてみるのさ」

「いや、本当に何の話か分からんって。私も読者も置き去りよ?!」

 まさに真理だ。作者の都合で開かれる物語に読者も、主人公の私ですら置いてけぼりにされている。学校一、空気の読めなくて皆を置いてけぼりにする事に定評のある重酸素人間の私が、まさか置いてかれてしまうとは思いもしなかったし、そんな話は置いておくに越した事はない。

 目の前の何者かは、そんな事は露知らず続ける。

「混ぜなくたって、合わせられる。水と油のように、合わないものを無理に合わせなくても。それでも、時には合わないものに向き合わなきゃならない、そんな時もある。だから、変えてみるんだよ」

「……?」

「『混ぜる』じゃなく『同居させる』イメージかな? 例えば、水と油は混ざらないと世間的には思われてるじゃん?」

 水と油、ことわざにも使われるように、この二つは性質上は調和しない為、混ぜても混ざらずに二層に分かれてしまう。それは誰でも知ってるような常識だ。だが、私は日々ようつべに命を掴まれている。饅頭に顔が付いている謎の生命体が、様々な知識や哲学を解説してくれる動画を良く見る為、無駄な知識だけは持ち合わせていた。水と油、相反する二つを纏めるには、界面活性剤が必要となる。界面活性剤は水と油の間を取り持ち、分離しにくくする力があるらしい。無駄な知識で使う場面もない話だったが、ここに来てその話が無駄ではなかったと知る。

 水と油を纏めあげる界面活性剤のように、物や人、様々な事象にも、時と場合に適した役回りがあるのだ。語りかける人物の言いたい事は凡そこんな所だろうか。

「そうそう、それそれ。合わないなら、合わせられるように工夫を凝らすんだよ」

 めちゃくちゃ心を読まれていた。

「じゃあ、そろそろ時間だから」

「……え? いや、何も分かんないんですけどぉっ?!」

「脳の片隅の端っこの角っこの所にでも置いておいてよ」

「それ、限りもなく無なんですが────




────はっ?! 私は誰?!  私はどこ?! 結婚したのか、私以外の奴と?」

 起床即起立から、はっちゃけるだけの気の余裕が生まれている私であった。先程まで何か夢を見ていたが、全くもって思い出せなかったし、そんな事は恐らくどうでもいい事だった。

 それよりも、今一番大切なのは、フリューゲルの現状。ガスター討伐に失敗した私は、上空から自由落下する最中に、謎の人物によって……。

「あれ? 何だったっけ?」

 ぼんやりとする頭と記憶。強く頭を打った訳でも、寝起きだから脳が回ってないだけでもない。何かあったのは確かだったが、どうしても思い出すに至らない。そんな思考はすぐに脳のどこかに転がって、目の前の景色に心を奪われた。

 足下一面に広がる雲海と、眩い陽の光に鮮やかな蒼の空。雲の生成限界高度を突き抜けた頃の、飛行機の窓から見える景色そのものだった。山頂のような澄んだ空気と、ポカポカと春のような暖かい陽光。欠伸のひとつも出そうな、のんびりしたくなる様な、そんな環境下に頭お花畑真っ盛り。雲の上に立っている事に驚くも、そんなのどうでも良くて、ただただ心地が良かった。目を覚ます以前まで、ガスター討伐戦に全力を尽くして疲労困憊だった事も忘れてしまう程に、この空間にはチルい空気が充満している。

「何をしに来た?」

 チューバの重低音のような声が脳に入り込んできて、ゆったりしていた私は一気に全身に力が入った。目前の広がる景色に声の主を探すも見当たらず、背後を振り向いた私は、その目に映るものに戦慄して甲高い叫び声を出してしまった。

 まるで山のような巨躯をしたドラゴンが私の前にいた。爪だけで人一人分程の長さ、そのサイズ感で全身は見て取れないが、例えるならピラミッド一つ分くらいの高さを持っている。その背に生える翼は空を覆い、己が身体に日陰を差し込んでいた。全身は黒よりの深緑をしていて、寝室一つ埋まるのではないかという程に大きく頑丈そうな鱗に覆われている。蟻から見る人間はこんな感じに見えるんだろうなと思う程の心の余裕は、一瞬にして削り取られてしまった。こんな化け物が目前にいるだけで生きた心地はしない。

「……な、何をって……気付いたらここに」

 そうとしか言いようがない。

 目前の巨龍は私の脳へと言葉を投げる。自身の喉からではなく、テレパシーのように頭の中へと直接。

「人間の分際で、私の化身を壊した事だけは評価に値する。いや、アリスの使いなのだから、当然の力と言えるか」

「……? 何? 化身? アリス?」

「なぜ貴様がメア様に認められているかはこの際、問うつもりはない。私が問うは一つ。私の空域に侵入して、何が目的だ?」

 それは私が訊きたいよと、そんな事言えるわけもない。ない知能で脳を回して最前の回答を考え出す私。早く答えを出さないと、目の前の巨龍に殺されそうだ。

 巨龍の言った『人間の分際で化身を壊した』と、この言葉にふと私は因果関係を結び付ける。

「……あのー、なんて言うか……フリューゲルを壊すの、やめてもらってもいいですか?」

 フリューゲルを襲った気体質の翼竜、ガスター。その様は風と、その風によって巻き込まれた雲で構成され、物理攻撃をものともしない謎の生物。それが、今目の前にいるドラゴンの化身であると。つまり、このドラゴンがガスター本体なのだと、私は推測に至った。

「自業自得だ。人間は空域から魔力を奪い過ぎた」

 ドラゴンの言葉は、その意図が理解に及ばないものばかりだ。異世界初心者かつフリューゲルに来たばかりの私に、その辺の事情は知りえない。

「……えーっと、ガスターさん? で、良いんですよね? ちょーっと、詳しく説明してもらってもよろしくて?」

「私はガスターではない。それは人間が化身に付けた名だろう? 私の名は、ダウナー。メア様に仕える者だ」

「ダ、ダウナー?」

 何かめちゃくちゃ暗そうな名前だと言う事はこの際、心の奥にしまっておこう。ダウナーのその発言は核心を突いている。やはり、ガスターの本体はこの巨龍で確定だ。であれば、ガスター自体が無敵なのも説明がつく。本体が無事なら幾らでも復活だってするし、増殖も想像に易い話。この手の敵キャラを幾度となく相手してきたのだ、主にゲームの中で。

「話は、聞いてないようだな。まあ良い……。空域は魔力が枯渇している。これも全て、固有魔力物質を刈り取り、空に穴を開け、好き放題した人類の過ちだ。その罪を精算する時が来たのだ」

 全く理解できない。が、ダウナーの言い分は空域の魔力枯渇問題である。その原因が人間側にあり、その落とし前を付けろという話らしい。頭が痛くなるような難しい内容を無理やり解釈して噛み砕く。

「……えーっと、その、魔力がなくなってるから、人間を殺している訳ですか?」

「結果としてそのようになっている。その原因を作ったのは他でもない貴様たちだ。空域の魔力枯渇は避けなければならない。大勢の同胞の命が脅かされているこの惨状を、メア様の使いとして、見逃す訳にはいかない」

 空域魔力枯渇問題の原因が人間にあり、このままではダウナーの仲間たちの命が危ない。だから、原因となる人間を排除して問題解決をしようとしているらしい。本当に、それだけが解決策になるのか。魔力枯渇を解決できれば、人間の排除は必要ない、フリューゲルは壊されなくて済む。つまり、ダウナーにガスターを止めてもらうには、その問題の解決が必要不可欠。今の私の持ち得る知識だけでは到底、解決策も思いつくはずもない。そもそも、解決できる問題かも回答できるわけない。

「あー……何が理由でそうなってるか分からないんだけどさ……他に解決策とか……」

「アリスが力を貸すなら早い話だが、そのつもりはないから貴様たちが代わりに来たのだろう? 今更、人間に何ができる? 元通りに戻せると、消費し続けてきた貴様たちがそれを口にするのか?」

 その言葉に、私は他人事では無いとハッとする。それは異世界だけの話じゃない。地球でも似たような事は起きている。身近なところで言う、地球温暖化が近しい。生活に必需である電気、それを生成するのに大量の燃料が使われ、消費されていく。それだけではない。地球温暖化の原因とされる二酸化炭素、それを吸収する森林も伐採され、より地球温暖化が加速していると言える。それならば、

「元に戻せる。その問題がこうして判明したんだから、あとは解決策を練るだけ! 確かに、知らず知らずのうちに空域とか生命を陥れたのは、反省しなければならないよ。でも、問題が明らかになったなら、対策も改善も、私たちにならできるよ! 人間は失敗を繰り返して成長してきたんだからさ!」

 空域の魔力枯渇がどれほど深刻で、難しい問題なのかも分かってはない。全ては地球温暖化をソースに捻り出した、らしくもなくまともで真剣な答えだった。責任は取れない。けど、無理じゃないと信じたかったのだ。人の可能性は無限なのだから。

 ダウナーはその言葉を訊き、しばらく黙り込んだ。目の前の巨龍の、無言でこちらを睨むような瞳に、私は震えていた。黙られると本当に恐ろしい。無言の圧の擬人化、いや具現化、実体化、何でも良かった。サイズ感だけじゃない、オーラと言うものか、溢れ出る風格に当てられて、金縛りのように地に足が吸い付く。いや、足下は雲なんですが。

「都合のいい話だ」

「お願い! 今一度、チャンスを貰えないかな?!」

 引き下がりたいくらい怖いけども、フリューゲルの被災を止めるのはこの瞬間の今しかない。嘘を言うつもりもないが、ダウナーには今一度、その矛を収めてもらわなければならない。問題解決はその後にいくらでもやりようがある。

「良いだろう。メア様に認められた貴様が、それを望むのであれば猶予を作ろう。次、私が眠りから目を覚ます時までに……1000年後くらいにしようか。それまでに改善が見られない場合は、問答無用でメア様の指示の元、一度、人類を滅ぼす」

「……あ、あはは……ありがとう、ダウナー」

 ホッと胸を撫で下ろす。元凶のガスター、その発生源のダウナーを、戦闘ではなく対話に持ち込み、無事解決した。戦闘しなければならなくなったら、絶対的に負けると分かる。こんな巨大な龍を私一人で倒せるわけないし、人間には勝てない、対峙してそう思わせるだけの圧倒的絶望感がある。対話によって、新たに別問題が発覚したが、それはまた後で専門分野の誰かに頼めばいい。1000年の猶予があれば、何かしら策の一つくらいは出てくるだろう。フリューゲルの被災は、これで終わる。

「狐火木ノ葉、貴様に空域の運命を託した」

 ダウナーはそう言った。なぜ名前を知られているか、尋ねようかと口を開くより先に、目の前の絶景が白く光を放ち始め、私はその光に飲み込まれた。眩しい光に目を開けてはいられず瞳を閉じると、ふわりと浮遊感と身体を包み込む暖かい空気によって、自然と意識を持っていかれてしまった。そして、ダウナーとの会話はこれが最初で最後となるのだった。




 天気は快晴、長く続いていた暴風は収まり、そよ風が街を通り抜けていく。いつの間にか寝落ちしていた私は、目を開けて青空をその瞳に映した。分厚く空を覆っていたはずの積乱雲は跡形なく、雲一つない青い空の下。ただただ心地の良いそよ風に浸っていたかった。開いていた瞳を閉じて、二度寝にでも洒落こんでしまう。平らな地面であれば、どこでも眠れてしまうのが私の特技であった。ひとまずフリューゲルの被災が終わったのをその静けさで悟り、安堵と達成感で包まれていた。

 しかし、緊張が完全に弛緩したからか、収めていた不安が心の奥から滲み出し、私は悪夢から目覚めたように飛び起きる。

 フリューゲル南部被災地域の、瓦礫の海の中に私は倒れていた。空域でのダウナーとの会話、その後は寝落ちてしまった為、なぜここで寝ているか不明。むしろ、今の今までが夢で、何かしらの要因で重力落下から救われたのでは無いのか。そんな勘違いをしそうだったが、ダウナーとの話し合いは確かに現実だった。

「……フィノちゃん!」

 焦燥に駆られて走り出す私。もたつく足で瓦礫を越えて、被災地域を周回し始める。ガスター討伐戦にて、私を守ってガスターの攻撃をまともに喰らい、地上へと落下していったフィノの生存確認。今はその事で頭がいっぱいになっていた。その道中で、幾つもの『人』だったものを見る。あまりの悲惨さに、吐き気と不安が強くなり、先程まで心の中にあったはずの安堵は完全に殺された。縦に真っ直ぐ切りつけられ、血液を飛散させて落ちていったフィノの姿が、頭の中にくっきりと植え付けられている。生きているとは考えづらい状況で、それでも、生きていると思いたかった。だからこそ、今すぐにでもその姿を目に焼き付けて上書きをしておきたい。

 息絶え絶えに、南部地域を走り回るが、そこにフィノらしき人物は見当たらない。むしろ、見当たらない方がいいのかもしれない。案外ひょっこり出てきてくれると、そんなあるわけも無いだろう希望を湧かせる。

「君! 大丈夫か?!」

 瓦礫の影から一人の人間が出てきた。砂埃で汚れた白衣を来ている様から、医療関連の人間だろうか。

「……私は大丈夫」

「負傷者の移送を手伝って貰えないか?! 人手が明らかに足りない! 動けるか?」

 断るはずはない。この人は恐らく、被災地域のまだ息のある生存者たちの救護をしているのだろう。私は彼について行き、担架に乗せられた負傷者の移送を手伝う事に。よく見ると、所々で他にも数名の白衣を来た人間と、住民たちの存在を確認できた。同じく、生存者捜索と救護をしているみたいだった。もしかすると、誰かが落下するフィノを救護しているかもしれないと、希望を胸に抱く。心の中ではフィノ生存確認を最優先にしたいが、負傷者を北側へと移送していく手伝いを最優先に。私が不安なように、他の誰かもまた、誰かの帰りを待っている。善行を積むとか、そういうつもりはないけど、積めるなら積まさせて欲しい所だった。その善行とフィノの生存を引き換えて欲しい。

 医療従事者の一人と共に、負傷者を乗せた担架を持ち上げ、瓦礫に足を取られないように安全第一で移送を開始する。学生時代の保健の授業以来の担架持ちだった。フィノであれば、こういう時にステータスボードを利用して複数人を一度に容易く、搬送してくれるんだろうなと私は思うのでした、終わり。

 こんにちは、真島茂樹です。フィギュアが踊るよぱーぱー(ry


 ん? あ、すいませんね。ちょっとようつべに釘付けでした。さて、皆様、こんにちは。どうも、星野夜です。今回は第二章最終話をお送り致しました。どうでしたか? 意味が分からなかった人も、単純に満足してくださった方も、新着投稿で首を突っ込んで見た方も、初回から全話読んでくださった方も、総じて読者の皆々様方に盛大なる感謝を。こんな馬鹿げた文章にお付き合い頂きまして、ありがとうございました。

 第二章後半戦、ガスター討伐戦は以上にておしまいです。そして、第三章が幕を開けます。




 人は何度でも過ちを犯す生き物だ。

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