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第33話『空回りミステイク』

「止まれっ!!」

 風吹く街フリューゲル、その門前。左右には街を取り囲むように石造りの防壁が境界を作り出し、大きな鉄扉が侵入者の入街を防いでいる。その門前には二人組の門番が待ち構えていた。

 私はネイゲル族の少女、シルフィーと共に門前までやって来るも警告をされ、その場で立ち止まる。

「何をしに来た? ……いや、この際、それはどうでもいい事だ。それよりもまずはそこにいるネイゲル族についてだ」

「狐火さん……」

 シルフィーがギュッと私の手を握るその手に力が入るのが分かる。

「だ、大丈夫だよ、多分」

「どういう経緯でそこにいるかは問わないが、街には一歩たりとも踏み入れはさせない」

 番兵は手に持つ槍を構えて戦闘態勢を取った。

「シルフィーは、いい子だよ! 怪我をした私を看護して食べ物も分けてくれて、敵襲から助け出してくれたんだから!」

「そいつの性格などは関係ない。ネイゲル族、というのが問題なんだ。何せ、プロドティアニマに汚染されている」

「プロドティアニマ?」

「街に入るなら、そのネイゲル族民を置いてゆけ」

「本当にシルフィーは良い子なんだって!」

 どうにか必死に説得しようと釈明を試みるが、まるで聞く耳を持たない門番。

「もしや、ネイゲル族に加担しているのか? だとするならば今すぐにここでーー」

 門番が何かを言いかけるその時だった。突如、何を思ったか、シルフィーが踵を返して森の中へと駆け出した。

「ちょっ……シルフィー?!」

 すぐさま追いかけ、森の中へ戻る。シルフィーの小柄な身体では足力もそこまでなく、すぐに追いついて、シルフィーの手を掴んだ。

「どうしたの?」

「……もう、いいよ」

 背を向けたまま、小さく呟く声は、風にかき消されそうになるも何とか耳に入る。

「もう良いって……。だって、ここまで来たのに……それに、戻ったら戻ったでまたーー」

「良いの! ……私の事なんか……狐火さんは早く街に」

「何でさ?! 行こうよ!」

 焦燥感が体の芯を突き抜ける。目的の安全圏はすぐそこなのに、辿り着けずにいる現状。

「このままじゃ……狐火さんは街の人に殺されちゃうんだよ……」

「でも、シルフィーを置いて行けないよ。仲間に逆らってまで、私を助けてくれた命の恩人を見殺しに一人助かるなんてーー」

 その時、背を向けてたシルフィーが突然振り返ると、私に抱きついた。ギュッと小さな身体がくっついて温もりを感じる。

「……元気でね、狐火さん」

 震える声と、涙でぐしゃぐしゃな顔が上目遣いでそう呟く。心臓が締め付けられるような苦しい感情が沸き起こる。何も言葉が出なくなってしまった。

 と、シルフィーはそれだけ呟くと森の中へと再び駆け出すのだった。私はというと、その背を前に、呆然と立ち尽くすだけしかできなかった。お腹辺りにじんわりと染み付いた温もりを感じたままで。


「狐火? そんなとこで何やってるのよ? あの女の子は?」

 用事を終えたのか、先行していた私に追いついたノヴァが、街寸前の所で一人突っ立ってる様を見て声をかけた。応答はなし。ただ黙ったままで背を向けている。

「ちょっと?! 無視なんて酷いじゃなーー」

 私の前へと回って来たノヴァはその様を見て言葉を詰まらせた。

「…………ノヴァ」

「あ、あぁ〜、あの……ほら、街まであと少しだよ? 頑張ろ、ね?」

 妙な優しさを引き出すノヴァは、私の手を握って先導する。私はその手に連れられて門の前へ。先程の門番が訝しげに二人組を睨みつつも、ネイゲル族の存在がなくなったためか、無事門をくぐる事ができた。




 風吹く大陸、その街は巷でしばしばそう呼ばれている。年間を通して、安定した風が吹き、気温が高くも低くもなく、居心地の良い街として有名だ。

 しかし、現在は突如発生した積乱雲の影響により、暴風に見舞われ、加えて肌寒く、フリューゲルでは例を見ない異常気象らしい。

 石造りの家々が並び、街灯が舗装された道を明るく照らす夜の街には、普段と比較して人気は少ない。

「念の為に魔力浄化を受けてもらう。特に長筆の女、お前だ。付き添いのお前も感染の可能性があるから一応、受けてもらう」

 門番にそう告げられて、私たちは集会所へと連れていかれる事となった。暴風に吹き付けられながらその道中を門番の後についていく。その間にノヴァが魔力浄化について説明をしてくれた。

 エシラ山へと足を踏み入れた者達が再入街する際に必ず受けなければいけない決まりとなっているらしく、身体に付着した魔力を浄化魔法で洗浄をするらしい。ノヴァも受けるのは初めてとの事。具体的に何をするかまでは理解していなかった。

 街灯に照らされる街中を門番の後をついて行く。その最中、私とノヴァは上空に光るそれを目にした。空に浮く何か小さなものが二つに分離して降下し始める。

「……え、ええ……え?! 嘘でしょ?!」

「……ノヴァ……あれは?」

「魔昇船よ! 私の助手が乗船してる船よ!」

 魔昇船に付いた照明具が光を放ち続け、夜空に二つの光源が視力で認識できる。それは元々一隻の魔昇船だったものが中央部で断裂し、分離してしまったらしい。暴風吹き荒れる上空、本来ならば運航中止の天候。風に煽られて壊れてしまったのだろうか。

「そ、それはマズイんじゃ……」

「あの船にはルフとウィンディーネ、あとフィノが乗ってる!!」

 何がどういう理由で魔昇船に乗船してるかは分からないが、とにかく私抜きで三人でノヴァの助手と上空へフライアウェイしてたのは事実だ。山で遭難していた私からしたら羨ましい限りである。

「……………………っえ?」

 自分が何を考えていたのか分からなくなった。

「何があったかは知らないけど、このままだとこの街に墜落して大惨事よ?!」

 やっと街について一呼吸吐けそうだった矢先、またしても問題が発生する。イベント多すぎて体力が持たないよ異世界。

 何が故にあの三人組が魔昇船で空の旅に出ているのかはさて置き、生存確認と落下物処理が最優先だ。

 そこで扱わせてもらうは遠感魔法。前にもノリでやってみたらできたからできるだろう。

『聞こえますか、ウィンディーネ。私は今、あなたの頭に直接話しかけています』

『な、なんだ、あ、頭に直接、声が?!』

『え、めっちゃノリ良いじゃん。そんなキャラだったっけ?』

『お声かけになりました、ウィンディーネは現在不在のため、返答できません』

『もしかしてフィノちゃん?』

『無事戻ってきたみたいだね、木ノ葉ちゃん』

 混線でもしたのか、ウインディーネではなくフィノへと繋がる遠感魔法。数時間ぶりのフィノの声。たった数時間がまるで数週間ぶりに聞いたような、その緊張感一切ない声に、表情が弛緩してしまう。と、脱線していた……というか出だしから脱線スタートだった話を本線へと戻す。

『今、落下してる魔昇船の真下にいるんだけど、ひょっとして、まだ乗ってる?』

『乗ってないよ。壊れた勢いで投げ出されたからね。あー、搭乗者はしっかりキャッチしといたから、安心してねー』

 呑気にそう答えるフィノ。だとするなら、フィノちゃんのステータス具現化能力で上空を飛行している事だろう。

『今からさ、魔昇船壊すけど良いよね?』

『あっははは! じゃーんとやっちゃいなよー!』

 遠感魔法を終える。生存確認は問題なし。あとは墜落しつつある魔昇船を迎え撃つだけだった。恐らく、魔昇船に気づけたノヴァは、この悪天候の中、魔昇船を飛ばす用事があったのだろう。ノヴァの助手が魔昇船に搭乗してたのが証拠だ。故に、いち早く魔昇船落下に気づけた。日常生活の中で空を見上げることなんて、空を見たいと思わなければない事だろう。今現在、街中で上空から落ちるそれに気づけている人物は私とノヴァの二人のみ。ならば、残りの魔力を捻り出してまでも、やるしかない。夜の街並みの中、墜落する魔昇船の破壊。

 ノヴァへと、搭乗者がいない事、フィノが生存者を運んで脱出している事などを説明し、そして提案をする。

「あれ、壊すの手伝ってよ、ノヴァ」

「……ふふ、バカね。もちろん上等よ」


 立つはフリューゲル街中広場。標的は上空数千メートル先、分断された魔昇船。夜間、広場に行き交う人々は少なく、安全を考慮した上のステージ。距離を空けてお互い安全圏を作る。引率役の門番には事情を話し、広場の端っこで待ってもらう事に。何やら暇つぶしに読書をしているが、そんな事はどうでもいいし、良い趣味だなと思うばかりだ。

「疲れた……これが終わったらご飯食べて風呂入って寝る、これ絶対だから」

「そうね、私もそろそろお風呂に入りたい頃よ」

「じゃあご一緒にどうですか?」

「……………………嫌よ」

 ふられた。

 さてさて、そんな余談はさておいて、こちとら長筆ふるう準備はできている。が、長筆は今回は振るわない。振る舞うは高火力の火柱。頭上の魔昇船へと向けて、地面に筆の尾骨を突き刺し垂直に構え、今出せる残滓を全て魔昇船に捧げるのみ。頭上を見上げると、暗い空を二つの光源が目に入る。分断された魔昇船は刻一刻と街へと落ち続けていた。垂直に立てた長筆に魔力を供給し、炎柱の準備をする。

「左側は私に任せて。狐火は右側をお願い」

「任されちゃうよぉ! さあ、始めようか!」

 魔昇船との距離が目に見えて近くなり、いよいよ墜落寸前間近となった。私は長筆に火属性の魔力を溜め込む。普段放つ炎柱ではなく、魔力を充填しきってから、全身全霊の一撃を放つ。

 と、筆毛に魔力が溜まり始めて赤く染まった頃だった。その横で破裂音が響き、閃光が散った。ノヴァが電撃を放ったらしく、二つあるうちの魔昇船の一つが爆散し、白煙を吹かしながら跡形なく消え去ってしまった。その間、たったの五秒。

「はっ……早すぎだって!!」

「こんなの朝飯前の夜ご飯よ」

「日にち跨がないで?!」

「ほら、早くしないと潰されて死んじゃうわよ?」

 ノヴァに煽られ、すかさず頭上へ目線を向ける。もう頃合いだろう。長筆は火属性魔力を溜め込み、赤から金に変色して眩い光を放っている。

「ねじ伏せる! 私を苛む運命、境遇、ありとあらゆる障害、不平、不満、加えて食欲、性欲、睡眠欲、総じて人類三大欲求、全てをねじ伏せて私はやるんだ!! 行くよぉぉおおおおっ!!! 消え爆ぜろ、最大火力!!! 大炎柱(フルバーナー)!!!」

 瞬間、光を放つ筆毛は高出力のバーナーと化し、一直線に空へ向けて炎柱が打ち上げられた。轟々と強火力の炎が音を立て、まるで噴火山のように、その炎柱は魔昇船へ。

「いっけえええええーーーっあっつ?!!」

 あまりもの高火力により付随した周囲への熱放射で手が熱され、その熱量に思わず掴んでいた筆を離してしまう私。そのまま安定のしない長筆は自重で傾き倒れた。手を離してしまったことで、炎柱は魔力が途切れてしまい、その一撃は魔昇船を掠めとっただけで終わった。そして直下、広場にいる私へと魔昇船の一部が墜落する。

「電流槍砲撃。私がいて良かったわね、狐火」

 二度目の破裂音。私の攻撃が外れたのを確認したノヴァが先程放った技を再び魔昇船へと目掛けて撃ち、その木片を瞬時にプラズマ化させてしまった。

「はははは……ありがと、ノヴァ」

 手のひらがヒリヒリと痛む。こんな事は初めてだった。確かに、普段から火属性を扱う際はほんのり暖かさを感じる事はあったが、反射で手を離してしまう程の熱を感じた事はなかった。

 地面に転がる長筆を火傷しない様に一瞬だけ柄に触れ、問題がなかったのを確認してから持ち上げる。

「どうしたのよ?」

「……ううん、何でもない! さ、行こっかあ!」


 役職を忘れ、読書に勤しみ過ぎて魔昇船破壊作業にすら一切気づいていなかった呑気な門兵に一声をかけ、門兵引率の元、集会所へと向かう私とノヴァ。

 夜間の集会所、基本的にこの時刻にクエストを受注するパーティーはほぼいないため、集会所内は人気が少なく閑散としている。門番は受付に話を済ませ、私とノヴァの二人を受付に任せて現場へと戻って行った。

 それから受付に案内されて、一つの部屋に通される。そこには一人の男が紙にペンを走らせていた。

「……あぁー、魔力浄化の件?」

 細目で気力がまるでない男が手を止めてそう訊ねる。

「そうよ、私たち二人共」

「分かった」

 男はペンをペン立てに入れて紙類を纏めあげると、椅子からゆっくりと立ち上がり、私たちの前にやってきた。

「魔力浄化を始める」

 男は私たちの頭に手をかざすと、手のひらから魔法陣を展開する。

「照射開始」

 魔法陣が光り、スポットライトのように私たちを照らし出した。全く身には何も感じる事はなく、ただ光を浴びているだけだった。痛みも、暖かさも、感覚すら刺激を受けず、まるで何もされていないのと同等の様に感じるが、これが今、魔力浄化というものを施行しているのだろう。

「お疲れ様。魔力浄化を終えた」

 それだけ言うと、すぐさま椅子に座り直して、再び紙に何かを筆記し始めた。

「……」

「狐火、行くわよ」

 無言でただ黙り込んで呆然としている私を見かねて、ノヴァは私の手を握って無理やり部屋を出てホールへ向かう。その間、私はまた、ネイゲル族のシルフィーの事が脳内で過り、やり場のない怒りを噛み締めていた。

 それから集会所のホールへと連れていかれると、丁度良いタイミングで集会所に見覚えのあるパーティーがやってきた。四人組のパーティーで、うち三人が血に塗れ、大怪我を負っている。服もズタズタに裂かれてなお、軽い足取りで私たちの前へ。

「やあ、お二人さん。イチャついているとこ悪いけどー、お邪魔するよー」

 相も変わらず抑揚のない感情を失ってしまったような口調で、場違いなテンションでお邪魔する赤髪の幼女、フィノ。

「どこをどう見ればそう見えるのよ? そんな事より、一体何があったのよ、三人共?! その傷、ロッドはまだしも、ルフも、おまけにフィノまで……」

 ロッドとフィノの服が切り裂かれ、血が滲んでいた。ルフも服は切られていないが、血で服が真っ赤に染まっている。

「そこの、お嬢ちゃんのお陰様で船一隻の犠牲で済んだよ」

 と、ウィンディーネの頭をポンポンと上から気軽に手を乗せているロッドのデリカシーの無さに飛び蹴りを決め込んでやろうかと思ったが、なぜかシンパシーを感じてしまう私だった。当のウィンディーネはヒーラーとしての役目を全う出来て照れ恥ずかしそうにしている。その可愛げな顔を見れただけで生きていて良かったとまた感傷に浸れり。

 しかしながら、軽快に笑うロッドと、その横にいるフィノ、二人の服がズバッと刀で切り付けられたように裂かれ、血が滲んで赤く染っているそれが、一体何が起きたのか気になる所だった。私が全力でぶつかっても、へらへらと軽くいなし、傷一つ付けさせないフィノの無敵とも思えるステータス操作能力。よほど油断でもしていない限りは、こんな真正面からの大傷、滅多に付けられるものじゃない。

「そんでそちらさんは、十数年ぶりの故郷の味はどうだったよ、ノヴァ」

 半ば皮肉るような言葉をかけるロッド。

「ええ、もう最高よ。例えるなら、樹液を啜る黒剣虫(くろつるぎむし)になった気分よ」

「かっかっかっ! そりゃあ、さぞかし良い経験ができただろうなあ、観測士になって良かったな!」

 ニコリと似合わない作り笑いで挑発をかけるロッドの横腹をルフの拳が襲う。

「そうね、船一隻弁償しなきゃいけなくなったけどね。……で、一体何があったのよ? あなたの力を侮ったつもりはないわ。その傷、ただ事じゃないよね?」

 ロッドはノヴァへと一連の出来事と調査報告をする。積乱雲に吸い込まれて蓄積し続ける魔力の拡散が失敗に終わった事、そして積乱雲から排出された気体質の翼竜によって魔昇船が撃墜されてしまった事を。その際に翼竜の一撃に巻き込まれて怪我をした、と。

「ーーとまあ、その翼竜と気候に因果関係があるかは知りもしないが、どちらにせよ、その雲野郎を討伐しなければ仕事にすらならない」

「……、……? …………いや、ありえないわ、そんな事」

 動揺で目を右往左往させながら、ポツリと心の声を漏らすノヴァ。まさに悪天候のごとく表情を曇らすノヴァの前に、ホールの座席に座る一人の人物が突然立ち上がって声をかけた。

「……ガスターを……知っているのか、お主は?」

 掠れた弱々しい老婆の声にノヴァが振り返ると、そこにはフリューゲルでは浮いた服装をした人物が立っていた。古布で取り繕われ、露出が全くない服を着込み、どこか胡散臭さが滲み出ている。恐らく高齢なのだろうか腰が曲がって低姿勢で、補助具に一本の杖を突いていた。その顔にはお面を付けているため、顔や表情は見て取れない。

「……誰よ、あなた?」

 冷静を装いつつ、ノヴァは左手を隠しながら腰に納刀している一本のナイフの柄を手で触れて、警戒態勢を取る。

 老婆は周囲に気を配りながら、私たち一行にのみ、見えるようにお面を少しだけ外してズラし、顔の半分を顕にした。その顔にはフリューゲルで見る事のないだろう、茶褐色の肌がある。と、老婆はすぐさま、お面を被り直して顔を隠した。

「……ちょっと席を外すわよ」

「ああ、ガキの引率は任せろ」

「アンタもよ!!」

 ノヴァはそう言うと、助手のロッドの服を掴んで引っ張り、無理やり老婆と共に集会所を出ていってしまった。取り残された私、狐火木ノ葉とウィンディーネ、フィノ、ルフ、計四人。

「いやあ、お疲れさんねー、木ノ葉ちゃん。無事生きて帰ってきてくれて、嬉しいよー」

 話題はエシラ山を遭難した私に流れた。ふと、忘れようとしていたシルフィーの事がまた、脳裏に浮かぶ。一時的に別問題を抱えていただけで忘れるはずもない、小一時間前の情景。

「…………さっき、魔力浄化を受けてきたんだけどさ、フィノちゃん。そんなの必要なのかな……」

「ふふーん、それはもちろんだよー。エシラ山にはプロドティアニマが溢れてるからねー」

 抑揚のない、まるで感情がないような平坦な声でフィノはそう答える。全く納得はいかない。シルフィーの声が、その手が、温もりが、フラッシュバックしてきて、考えれば考えるほどに胸がどんどん苦しくなっていく。広場でノヴァと冗談言い合っていた自分が自分じゃないようだ。

「……その何とかかんとかが何なのか、そんなの知らないけど……私が生きてここに立っているのは、その何かに感染しているはずの人のおかげだったんだ」

 拳に力が入る。今すぐにでも何か物に当たってしまいたい、集会所一つくらい軽く吹き飛ばしてしまえそうなくらい、ただただやり切れない怒りがあった。ムシャクシャして、関係ないのにフィノちゃんに強く当たりそうになる。

「何があったのかは知らないけどー、殺されなくて何より何より」

「…………何だったら私は、この街に殺されかけたんだよ、フィノちゃん。本当に感染してるのはどこの誰なんだろうね?」

 らしくない暗い顔で俯く私に、フィノは走りよってジャンプし、急に抱きついてきた。身長差のせいで、全体重が私にかかってきて、咄嗟にバランスを取ってフィノを抱える。

「フィノちゃん?!」

「……言いたい事は良く分かったからさ、今は抑えて。他の誰かに聞かれちゃまずいからさ」

 耳元でそう囁くフィノの声には普段の気の抜けたような話し方とは違う、珍しく真面目なトーンでそう語りかけるのだった。

「ここは『トラヴァー』という国の『フリューゲル』という街なんだ。木ノ葉ちゃんの住む『ガルモーニャ』の街とは全く別の国なんだよ。この国のこの街では、ネイゲル族の魔力に『プロドティアニマ』が含まれていると、信じ込まされているんだ」

 フィノは私にのみ聞こえるようにそう言い添える。

「で、でも……」

「木ノ葉ちゃん一人でどうこうできる訳じゃないよ。確かに、ステータス透視能力で嘘かどうか判断は付くけど、それを民衆に証明する事はできないんだ 。結論、ネイゲル族にはプロドティアニマが含まれているんだ。もちろん、そんなものは一切存在しないけどね。どこぞの権力を持った誰かの政策に踊らされているのさ」

 そう言い終えると私の体から降りるフィノ。言ってることも理解はできるし、そうすべきなんだろうと思う。だが、嘘に踊らされて失ってしまう命が正しいとは思えなかった。

 その、私とフィノのやり取りを不思議そうに眺めていたウィンディーネとルフ。

「なんかあったんですか、狐火さん?」

 心配げなウィンディーネの顔を見て癒されるも、今回に限っては癒されきれない。

「は……あはははっ!!! なんでもないよ! そんな事より、疲れたからお風呂入りに行くんだけど、ノヴァに振られちゃったし、四人で今から旅館にでも行って、一っ風呂と洒落こもうや!」

 空元気で普段通りの自分を演じてみせるが誇張しすぎて妙なテンションの私。不思議そうに首を傾げるウィンディーネだったが、気にせずその提案に乗ることに。その中で一人、場違いな空気を察知するルフ。

「……って、俺もか?!」

「え? そうだよ? 来ないの逆に?」

「何の逆だよ?!」

「ルフちゃんも可愛いから実質女の子じゃん? 別にルフとなら混浴でも気にしないけど?」

 と、暴論なまでの理論を繰り出す私に呆れるルフは完全に乗り気ではなかった。

「来ないんですか、ルフ?」

 ウィンディーネも、なぜかルフに歩み寄り、なぜか赤面したルフは慌てて集会所を飛び出してどこかへ。

 かくして、無事再会を経た私たちは長旅の疲れを癒すべく、旅館へと足を運ぶのだった。




 ありがとう……またいつか会えるのなら、その時はーーーー

 どうも、こんにちは! 夏過ぎて秋来るけど空調を付けて眠るは午前四時。お後がよろしくないようで、これにておしまい。


 さあ、閑話休題。第33話を読んで頂きました。無事再会を果たした一行と、心に傷を残した狐火木ノ葉のお話でした。自身のトラウマを乗り越え、成長するもまた一つ、傷を付けられ、それでも彼女は前へと進むしかない。その犠牲をもって、地球への帰還を果たすその時までは。


 次回は第34話、ゆっくりしていってね。

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