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第31話『すれちがう』

 エシラ山の頂き、乱気流吹き付けるその山頂部にて私、狐火木ノ葉は、静電気少女ことノヴァと再開を果たした。

 ノヴァは、金色の髪に同じく金色の瞳。この寒気に耐えるモフモフした防寒着と手袋に、上から見覚えのある赤いマフラーを巻いている。普段は長い髪を結んでツインテールにしているところ、私たちの誤射によって髪止めが吹き飛び、解けてしまったのでただのロングヘアーになっているが、私はむしろこれはこれでありだと思っている。

 さて、私の隣にいるのはエシラ山に暮らすネイゲル族の少女、シルフィー。茶褐色の肌と白い髪、自然のような緑の瞳が印象的な女の子だ。ボロ雑巾のような薄汚れた布らしき素材と植物の蔓で作られた服を着ている。

 彼女のおかげで私はネイゲル族に殺されずに無事、山頂まで逃げ切る事ができた。そして、ノヴァを敵と勘違いして仲間撃ちをした仲である。

 追伸、ノヴァとシルフィー、二人の幼女に挟まれて幸福の真っ只中である。

 閑話休題、これからエシラ山を下山しつつ、追っ手を掻い潜って森を脱出し、麓の街へと向かう。山頂で狼煙代わりの巨大バーナーと、敵と間違えてノヴァに放った広範囲風魔法の影響で、キラーと呼ばれるネイゲル族の狩人がエシラ山へと集い始めているので、ただでは帰れないだろう。

「何がどういう訳で、あんたがネイゲル族と友好的になってるかは知らないけど……とっとと帰るわよ!」

「私、援護しますよ!」

 ふんふんとやる気満々のシルフィー。何だ、この無邪気さは。かつての私にもこんな頃があったのだろうかとまた、ノスタルジーに浸りたくなった。

「結構よ。ここまでの道中、狐火を助けてくれたようだけど、あんたも一応、私たちの敵、だから」

「いやいや、この子は私のためにーー」

「ネイゲル族に変わりないじゃない、どの道最後は裏切るに違いないわ」

 食い気味なノヴァ。鋭く冷たい眼光がシルフィーに浴びせられる。何年何十年、一体いつからなのかは知りもしないが、きっと平和ボケした私の頭では解決しようもない問題がそこにはあった。これがネイゲル族との壁だ。例え、シルフィーが友好的になった所で、他の人々がネイゲル族を受け入れる心がないのであれば、彼らはずっと『ネイゲル族』だ。少しだけ悲しい気持ちになってしまった。

 シルフィーも、ノヴァの反応を見て、歩み寄ろうとしていた足を止め、残念そうな顔をしている。

「どうやらあんたたちは、儀式の贄を欲してるようだから尚更よ」

 そこまで責められると、シルフィーは反論も説得もできず、半ば諦めて肩を落とし、黙り込んでしまった。

「で、でも、仮に敵だとしても、なぜ私を早く仕留めないの? わざわざ最後に裏切るくらいならとっとと殺しちゃえば良いのに」

 必死にフォローしてしまう私。

「力不足だから騙し討ちを狙ってるのよ。どこかで仲間と奇襲を仕掛け、確実に殺すつもりよ」

「憶測だよ」

「ええそうね、でもネイゲル族がフリューゲルの人々を襲い、命を詰んだ事は事実なのよ。そんな過去の上、憶測もするわよ」

 ノヴァは不機嫌そうに反論する。私がネイゲル族に肩を持っている事が気に食わないらしい。

 すると突然、ノヴァは私の手を握って無理やり連れて行こうと引っ張った。が、私の体は動かない。動くつもりがなかったし、ノヴァの華奢な体に持っていかれるほど幼稚じゃない。というか、触れる際に、地味に静電気が発生して痛い。

「っ……狐火!」

「……少なくとも、私が……私一人の記憶の中にいるネイゲル族のシルフィーは、一度たりとも私に危害を加えたり、敵視したようには見えなかったよ」

 引っ張ろうと力を入れていたノヴァの腕が止まった。

「……だから?」

「シルフィーを連れて帰る」

「「え?!」」

 ノヴァとシルフィーが全く同じ様なリアクションを被せてきた。

「シルフィー! ネイゲル族なんかやめちゃおうよ! さあ、私の手を取って! 世界はこんな森一つに収まるほど詰まらなくないんだからね!」

「忘れてた……止めても止まらないタイプだったわ、狐火は……」


 それから数分間、私とノヴァの反対論争が続き、最終的にノヴァが折れ、半ば敵視しつつもシルフィーを連れていくことを了承した。

「少しでも狐火に手を出そうとしたらすぐに心臓麻痺にしちゃうから!」

 シルフィーに指を突き刺してプンスカしながらノヴァはそう声を荒らげる。

「う、うん……分かった」

「それと! 私は狐火の意思に従じただけで、あんたを仲間だとは思ってないんだからね、勘違いしないでよね!」

 ツンデレキャラのテンプレートが炸裂したところで、ノヴァはどこかへ一人歩き始めた。下山するのかと後に続く私とシルフィー。ただ、下山するのであれば、行く行くは必ず、ネイゲル族のキラーたちと鉢合わせになるだろう。

「そんなのは分かってるわよ」

 あれ? この期に及んで心の声を読まれてるんだけど?!

 ノヴァは山頂を少し下ったとこの、剥き出しの岩肌と雪が積もる斜面にやって来た。その積もる雪に指差して、火属性魔法で雪を溶かして欲しいと要求してくる。心の声を読まれる挙句に、ノヴァの意図は読めないコミュ障ガールは長筆を構えた。

「幻想色彩・夕景」

 雪のように白いフサフサの筆毛に火属性の魔力を染み込ませる。赤く変色したその筆毛をノヴァの指差す先、地に積もった雪の中へと突っ込んだ。軽い爆発が起きて積もっていた雪がポップコーンのように四散、地表が見えるようになった。

「これは……洞窟?」

「こんな所に洞窟なんてあったんだ……」

 不思議そうに開いた洞窟を覗くシルフィー。ネイゲル族の彼女ですら存じ上げない様子だ。なぜノヴァがこんな秘境の洞窟を知っているのだろうか。

「さあ、ちゃっちゃと行くわよ!」

 何の躊躇なしにズカズカと洞窟入りをするノヴァに、慌てて後をつける一行。

 洞窟内は雪や風の影響を受けず、気温が若干暖かくて、天井からは雪山から浸透してきた水分が滴り落ちている。光は一切入らないため、私は長筆に火属性の魔力を通して灯火にし、道を照らしていた。恐らく人工的に掘られたのだろう洞窟は、地面が躓きにくいよう、凹凸ができるだけ削られて歩きやすくなっていて、山頂部から延々と下り続きになっている。時折、謎の昆虫や多足類の虫が這い回っているのが精神的に辛いとこではある。寒気が降りている時はこのように、生物の温もり所になっているらしい。

「予め計画でも立てていたような都合のいい抜け道だね、これはこれは」

「ふふん、あたしを舐めないでよね」

「是非とも舐めさせて頂きたい所ではあるが、それは心の内に秘めておこう」

「……それはわざとやってるの?」

 はっ?! しまった!! 久々の仲間との合流で安堵してしまった勢いで心の声が漏れてしまった!

 と、一人暴走している私は安堵しすぎて足元を掬われてしまい、まんまと躓くのでした。

「いったあーっ! 整備するならしっかりしといてやぁ!」

 地面に突出した岩に引っ掛けたらしい。が、足元を照らしてみると、そこには一匹のイタチのような細長い四足歩行の生物がこちらを睨んで佇んでいた。

「うおわぁあああ?!」

 あまりの突拍子の動物との対面で叫び声を上げてしまう私。洞窟リバーブが効きに効いて山彦のように叫び声が反響し合う。その声に、その生物は驚いてどこかへと逃げ去っていった。噛まれずに済んでホッとする。

「あれは……エスウィールですね! きっと洞窟の地面に擬態してたんですよ」

 シルフィーが転けた私に手を貸しながらそう説明をしてくれた。エスウィールと呼ばれる擬態能力を持つイタチらしく、このエシラ山に生息していて、環境に応じて自身の背中を様々な物質に変化させて擬態をするという。何気に可愛らしかったので是非ペットとしてお迎えしてもいいかなと思う反面、繁殖させてレアメタルに擬態してもらってレアメタル大量生産という非人道的な金稼ぎができそうだなとも思ったが、そんな事はしないし、そんな事はどうでも良かった。それよりも、シルフィーのぷにぷにして柔らかな手のひらの温もりこそが『私の幸せそのものなんだなぁ』なんて色紙にマジックペンで書き記して玄関に飾ろうと思った今日この頃、敬具。

 ハッとして気がつくと、無言で睨みを効かせるノヴァの気配を背に感じた。まだシルフィーを信用していない様子か、もしくは妬いているのだろうか。妬くほど好いてくれるのは嬉しいので我尊死。シルフィーもその視線を感じとって私の後ろに隠れてしまった。

「……」

「だ、大丈夫、です! 何も、しませんから……」

「あっそう、知らないけど」

 冷たくあしらうとプイッと踵を返し、ノヴァはそのまま進み始めた。フリューゲルとネイゲル族の対立、私がどうこうできる話ではないが、あまりにも冷た過ぎる対応に物申したくなってしまうクレーマー心を前述の舐めたい衝動と共に心の内に秘めておく。


 私の放つ狼煙に気がついたネイゲル族のキラーたちが無人の山頂部に集い始めた。倒壊した見張り番用の小屋と無惨に焼き尽くされた遺体一つ。周囲の警戒をしつつ、キラーたちはいなくなった私を必死こいて探していた。しかし、結局捜索の末、見つける事ができなかったのだろうキラーたちは敵が下山をしたと推測して、二人一組に分散。それぞれが再びエシラ山から下山を始めていた。

 その中でとある二人組が、下山するキラーたちを背に立ち尽くしていた。一人は毛皮の外套に身を包む猫背の男。茶褐色の肌と顔が隠れるほど長い黒髪を持ち、前に垂らした髪の隙間から赤い瞳が覗いている。もう一人は同じく茶褐色の肌に、ボサボサしたショートカットの緑髪をしている女。草木で作られたピンで前髪を止めている。そして、植物を編んで作られた服を着込んでいた。

 猫背の男はジトっとした目付きで地面を見つめている。それを不思議そうに女は訊ねた。

「何をずうーと眺めてるのさあ? もう分かってるんでしょお?」

「いやいや、そこは問題じゃないんだよな。わざわざ、雪で足跡を消すくらいならな、なぜ、雪を掘った跡を残しておくんだろうな?」

「そおんなの馬鹿だからでしょお? いいから早く行こおよ、向こうにさあ」

「そうだな、追跡開始だな」

 ニヤリと不気味な笑みを浮かべ、猫背の男は緑髪の女の後を着いて行き、下山するキラーたちとは真逆の方向へ。


 暗闇を照らしながら洞窟を下へ下へと下っていく私とノヴァ、そしてネイゲル族のシルフィー。湿度の高い中で灯火を使う私は汗だくになりながら歩いていた。途中、いくつかに道が枝分かれしていたので、炎の揺らぎを頼りに風の吹き込む出口を選んで下山してゆく。先頭はノヴァが、電気で作った光源の球体を宙に浮かせながら暗闇を突き進み、最後尾のシルフィーは気まずそうに私の背につく。フリューゲルのノヴァとネイゲル族のシルフィーの対立関係を、何も知り得ない私が二点間に立って仲裁している。

 ノヴァはフリューゲルの人々のように無差別にネイゲル族を襲う事はしないが、私の存在がなければ今すぐにでもシルフィーに手を出すだろう。私は考えていた。シルフィーをこのまま連れ出したところで彼女は本当に幸せなのだろうか、これからフリューゲルを目指す私について行く事は、彼女からしたら自殺行為なのではないのだろうか、脳足りんなりに考えを巡らしていた。どちらにせよ、他族に加担した彼女の居場所はここにはないだろう。

「シルフィー、死ぬのって怖い?」

 私は振り向かずに歩きながら背後のシルフィーに話しかける。突然の脈絡もない物騒な話題に、シルフィーは戸惑いを顕にする。

「……私、やっぱり……死んだ方がいいのかな……」

 質問に対して質問のような応答をされて、危うく『質問を質問で返すな』と発言しそうだった、私ではなく作者。




 なぜだろうか…………胸が苦しくなった。

「……私は死ぬのが怖いし、痛いのは嫌だ。自分に及ぶ危害があるなら排除したいし、生きるためなら敵に危害を加えるよ。シルフィーはどう? 私を殺すか自分が死ぬかなら、どっちを取る?」

 それは最低で最低な二択。前提として、私がシルフィーにとっての敵である扱いとしての質問。誰か知らない人が私に突き付けた二択だ。

 誰に入知恵されたのだろうか、シルフィーはきっと、ネイゲル族とは違う。だからこそ、今後の人生を生き抜く上で自身の立場をハッキリさせなければならない。応答次第では、彼女は…………。

「……わ……、私はーー」

 その瞬間だった。背後から異音が響いた。石ころが地面に落ちたような音が背後、かなり遠くから響く。その音に反応して足を止めて振り向くノヴァ。その顔は苦虫を噛み潰したようなと在り来りな表現が良く似合う顔をしている。青汁でも飲んだのかと言うくらいに見た事ない顔だったが、そんな事はどうでもいい。今は、質問の答えもネタ発言もメタ発言もさて置いて、それより背後の音の正体が大事だ。

 立ち止まる一行。異音が動物によるものか、はたまたネイゲル族の追っ手なのかを測り兼ねている。と、その耳にーー

「やれやれ、ようやく見つけたな……」

 知らない男の声が耳に入る。それはすぐ耳元で囁かれたようでゾッと悪寒が背筋を伝った。振り向くも、そこに気配も存在もない。ノヴァとシルフィーもその声に気づいている。

 どうするかノヴァに尋ねようとする私の口より先に、ノヴァが動き出し、瞬時に困惑するシルフィーの首を掴んで押し倒した!

「ノヴァ?!」

「やっぱりそうなのね!! 残念よ、シルフィー!!」

 金色の髪が電気で寝癖のように逆立ち、今にもシルフィーに電撃を流そうと身構えているノヴァ。シルフィーは首を締め付けられて苦しそうにノヴァの手を掴んでいる。

「ノヴァ! まだ分からないよ!」

「分かるわよ!! 憶測通りの奇襲ね! 約束通り心臓麻痺にして殺してやるわ!!」

 恐ろしい剣幕だった。らしくないと思ってしまった。……いや、これが本性なのだ。これがフリューゲルとネイゲル族の対立関係。

 バチバチと電流をチャージし始め、ノヴァはシルフィーの胸部に手を添えた。シルフィーはバタバタと息苦しそうに暴れているが、馬乗りで押さえつけられて動けそうにない。

「時間もない! 今ここで殺す!」

 電撃を放つ寸前のノヴァの手を、気がつくと私は掴んでいた。

「……離して」

「離すのはノヴァの方だよ」

 ノヴァは黙り込むと、締め付けていた首から手を離した。呼吸ができていなかったシルフィーは苦しそうに咳き込んでいる。

幻想壁(フィクションウォール)

 私は灯火として扱っていた長筆を持ち、赤いインクを来た道の方へと飛散させて、赤い幕で覆って洞穴を遮断する。それから、咽ぶシルフィーに尋ねた。

「……答えを聞いてなかったね……死ぬのは怖い?」

「怖い……怖いよ……」

 バリアとして張った幻想壁に何かがぶつかる音がした、すぐそこに敵が迫っている。

「そっか……」

 私は長筆をノヴァに渡して倒れるシルフィーを背中に担いだ。

「さあ、逃げるよ!」

「いやいや、逃がしはしないからな」

 敵の声だろうか、また耳元から囁かれたように響く。

「特に裏切り者のお前はな、逃がさないからな」

 私はそれを聞きながら全速力で洞窟を駆け出した。長筆を持ちながらノヴァも後を追う。ノヴァの電気を頼りに、また転倒しないよう地面を見ながら慎重に俊敏に。その最中に、私はニヤリと笑みが溢れていた。

 どうもこんにちは! 星野夜でした!

 ん? おい?! お前、やめ、やめろーーーー

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