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第29話『葛藤の末に』

 夜闇の空を緑の線を引きながら魔女のように空を行く。茶色の髪とズタボロで泥だらけな服に身を包んで、長さ170センチ相当の長筆に跨りながら飛行する私は、当小説の主人公こと狐火木ノ葉。恐らくこれを読むあなたも住んでいる日の丸国で、一人暮らしをスタートした矢先、謎の電波ジャックを喰らい、なぜだか異世界転移をしてしまう。正確には、パラレルワールドの私ことレイナと入れ替えでこの世界に来た。不本意だが不本意じゃない。不本意だ。

 それから、異世界に順応するためにダンジョン攻略を始めた。そしてジョブを魔術師に決めた結果、誰の手違いか、筆使いというマイナーで不格好かつ、ランク5の高難易度職に就いてしまう始末。仕方なく長筆をもらって戦闘を習う。

 そして、色々なアクシデントや様々なイベント、出会い別れを繰り返し、今。トラヴァーという国のフリューゲルという街へ向かう最中の森林に彷徨い、仲間と合流するために目的のエシラ山頂を目指している、というわけだ。長々と失礼。

「あの、狐火さん……誰と話しているんですか?」

 背中から少女の声。私の背中にはネイゲル族のシルフィーという少女が乗っている。ボロボロの布素材の服、茶褐色の肌と白い髪が特徴的な女の子。彼女の背中には狩猟に使用しているのだろう、弓と矢筒が担がれている。

「はっ?! また心の声が漏れてしまった!」

 こればかりは癖で治らない。クラス内では『狐火木ノ葉は嘘をつかないから信用できる』とまで言われるほどには心の声漏れ漏れ過ぎてオムツを履こうか悩み所だったが、信用どころか一周回ってバカにされているのでは無いのだろうか。

 さて、一通りの自己紹介とこれまでのあらましを説明したとこで、私たち一行は目的の山頂部へと飛翔している。エシラ山と言う急峻な高山で、標高約2500m、山頂部は白化粧に包まれている。山頂は一軒の小屋が設置されて、見張りのネイゲル民族が一人配属されているとのこと。

「多分、もう見張りの人に見つかってるかも……」

 背中にしがみつきながら、シルフィーは心配そうに声を曇らす。

「そっか……」

 安心してと、胸を張って言いたいとこだけど、不安なのは情けなくも同様だった。山頂部に着地する際、見張りをまず倒さなければならない事、後の着地作業による衝撃緩和、エネルギー調整を一連の流れで行う。

 と、狡猾な脳で策を練っている最中、前方から見張りの放っただろう矢が飛んできた! それはシルフィーの波動『風の恩恵』によって周囲に形成された風のバリアで弾いたが、距離がだいぶ近くなってきたので、考えている暇はなさそうだ。不安は解消されないが、やらなくてはならない。

 ただこの期に及んで、私はまだ迷っている。


《どーした? 何を迷う? 分かっているだろう、答えは》

 

 こいつ?! 直接、脳内に?! などとネタ発言をする余裕はない。人を殺す事に抵抗があるのは誰だって当然で当たり前だ。イカレサイコ野郎ならば無縁だろうが、俯瞰して見ても自身はまとも……だろう、そうなのだろう。


《ふざけた戯言だ。この世界は死ぬか生きるか。殺せない奴に生きる明日はない》


 わざわざ殺さずとも再起不能にすれば良い。威力を弱めてどうにか。


《時間はない。出力もまともに調整もできないお前が、加減などすればどうだ? 着地は疎か、敵一人すら無力化もできず死ぬのはお前だ、違うか?》


 頭に直接話しかける声は、愚弄するような口調で私を揺さぶる。聞かされるまでもなく分かってはいた。


 長筆で空を飛ぶのにはフル出力で魔力を放つだけ、調節の『あ』の字もないし、『あ』の字はない。バーナー系の技は出力調整はできず、毎度の事ながら自身が反動で吹き飛ばされて全身打撲必須。仮に今回調整が成功したとこで、着地の衝撃緩和を鑑みても、出力を弱める事は落下死の確率を高めてしまう。どのみちフル出力で攻撃を繰り出す事しか、今のすっからかんな脳で思考できる限界。殺すしかないのだろうか。


《そうだ、死ぬか生きるか、それだけだ》


 勝手に脳内でゴチャゴチャとうるさいな。


《殺せ、殺すんだよ》


 頭の中に、狂喜の声が私に殺人を強要し続ける。

「うるさいうるさいうるさいうるさい!」

「き、狐火さん……?」

 突如、声を荒らげる私を訝しげに見つめるシルフィー。私が殺らなければ、運命を共に歩んでくれた背中にいる彼女も死へ誘う事に。


《仕方がなかった、誰かのためだと、理由付けも甚だしい。答えは単純だ、殺せないやつは殺される。死を踏み台に、命は成り立っているんだからなあ。そこの女もそう言っていただろう?》


 脳内に反響する煩わしい声は、そう言い放つと途端に静まり返った。誰が何のために送ったテレパシーかは知らないけど、こうする他はないのだろうと、電波ジャック犯の言葉云々関係なしに、今の私は思う。


「シルフィー! 着地は任せたよ!」

「え?! え、え、あ、はい!!」

 急な委任に、シルフィーは戸惑いつつも肯定する。突然の頼み事で申し訳ないが、彼女の風の恩恵に頼る事にした。今の私は誰かの力がないと何も出来ない。だから、決意した。

 山頂部へと距離が詰まる。私は跨っていた長筆から降りて出力をゼロにする。慣性の法則により余っているエネルギーに身を任せて、斜め下へと放物線を描いて山頂部見張りのいる所へ自然落下していく。当然、見張りもただただ傍観してるだけじゃなく、弓に矢を番え放ってくるが、シルフィーのバリアがあるおかげで矢の軌道はずらされて死なずに済んでいる。スカイダイブによる重力と雪山の寒い空気に身体が強ばっていた。

「狐火さん!」

 シルフィーの声で活が入った。長筆を握る手に力が籠り、不思議と熱量が上がっていく。

「分かってる! 食らって吹っ飛べ!! 幻想色彩、いやーー」

 構えた長筆に、風の魔力を収束させる。高出力かつ遠距離で攻撃をヒットさせる、今できる最善策はーー

「ーー突風長筆(ブラストステッキ)!!!」

 火柱長筆(バーナーステッキ)の応用。収束した風を直線状に、見張り役へと向かって放つ。収束した風を拡散させずに纏めたまま放つその一撃は、着弾の瞬間に弾けて膨張し、その一帯を刮ぎ取った。一撃をもろに受けたネイゲル民族は、旋風に血飛沫を舞わせてその命を終えた。白い雪上に鮮血が滲む。

 ーーと、言うのが本来あるべきシナリオだった。その一撃は緑色から一変し、赤い光を放ち始めて火属性のバーナーへと変化してしまう。その炎はネイゲル民族の身体を焼き払った。風属性のバーナーは失敗に終わってしまったが、結果として敵を焼殺する事で策は成功してしまった。

 失敗に気落ちする余裕も、罪悪感に苛まれる暇もない。突風長筆もとい、炎柱長筆の反作用で自身の落下の勢いは少し弱まっている。そこに、シルフィーの風の恩恵による上昇気流。雪や血肉を吹き飛ばし、まるでヘリコプターが着陸するように風を巻き起こして着地。しかし、勢い余り、二人は燃え盛る木造の小屋に墜落して屋根を突き破った。バキバキと小屋の中へ転がり入った二人は、そこに設置されていた枯葉と布で作られたベッドにたまたま落ちてクッション代わりとなり、無事不時着となった。それは果たして無事と言うのだろうかという質問は黙秘します。

「あ、あは、はは……助、かった……?」

 燃え盛る小屋の中、私はすぐさま飛び起きると、先程の失敗を踏まえて、一旦心を落ち着かせつつ、小屋に燃え移った炎を消化するために、水属性の魔力を長筆に込める。筆毛は青へと変色、今回はしっかりと水属性の魔力が込められている。そして思い出す……深海のように深い青を。

幻想壁(フィクションウォール)深海(アクア)!」

 長筆を大振りし、部屋一面を青に染め上げた。幻想壁は一面を塗装するのに向いている。もっと技術を上げればきっと、全色を使ってペインティングもできるのだろう。水属性のインクが染みた筆の放ったインクは木材全面に滲むように広がり、小屋に引火した炎を収めていく。

「……まさか、失敗しちゃうなんてね……」

 今回、試そうとした風属性のバーナー、突風長筆(ブラストステッキ)は今後、練習が必要そうだ。

 少し浮かれていたのだろう。異世界転移してすぐに魔法が使えるようになって、思いのままに魔力を操れるようになった。風属性の魔法も意のままに操れると思った矢先の失敗だ。命が助かっただけ良かった。

 落胆する私が放ったインクが周囲を消炎しきると、ボロボロの小屋を這い出て外へ。引火したのは木造の小屋のみで、雪に覆われていた地面は雪を溶かして地盤を露出させた程度。そこに真っ黒焦げの遺体が一つあるだけだ。シルフィーは複雑そうな顔で、その遺体を眺めていた。

「シルフィー……私は……」

「犠牲は紡がれる生命の為に。紡がれる生命は犠牲の為に。……この人の代わりに、狐火さんが生きている、ただそれだけなの」

 そう呟くと、シルフィーは遺体に手をかざした。すると、その遺体から白煙が立ち込め、間もなくしてそれは一つの芽に変わった。小さな双葉の芽が風に揺らいでいる。

「命はまた命を育んでくれるの! だから、狐火さん! そんな暗い顔はダメだよ?」

 シルフィーはニコリと笑顔を見せてくれた。演技も偽りもない、純粋無垢なその笑顔に、私は唖然としてしまった。

「ははは……」

 ぎこちない笑顔を見せる私。シルフィーの中では悲しみ惜しむ事はなく、仲間殺しを庇い、遺体を弔う。価値観の違いなのだろうが、私は戸惑っていた。シルフィーはこれで本当に良いのか。確かに私は生きたいと思うが、他人の命と仲間の命は同義だろうか?

 モヤモヤした心を隠して、計画通り長筆を地面に積もる雪へ突き刺し、狼煙を上げることにした。火属性の魔力を長筆に込める。火属性の魔法に関しては失敗する事なく出力は安定している。

薄暗い夜空に山頂部からの炎柱が煌々と燃え盛れば、フィノちゃん達はきっと気づいてくれるだろう。

炎柱長筆(バーナーステッキ)

 筆毛に込められた火の魔力が解放され、巨大なバーナーになって、空へ火柱が打ち上がった。月明かりのない曇り空の下では、その炎の狼煙は良く目立った。恐らく、森林にいるネイゲル族のキラーたちは皆、この狼煙に気がついているはず。高山とはいえ、敵に囲まれるのは時間の問題か。

 その間、寒さを凌ぐために長筆を焚き火代わりに使う。地面において、爆発しない程度の弱火を長筆に灯して、シルフィーと一緒に暖を取った。

 見張り台というだけあって、高山からは森林が一望でき、森林の先に街明かりが見える。登山中のキラーの姿は今の所、肉眼では確認できない。

 登ってくるネイケル族を警戒しつつ、仲間との合流を期待して時間が過ぎるのを待つ。その間、私はシルフィーを話相手に暇を潰す事にした。


 一方、フリューゲルからエシラ山へ、私こと狐火木ノ葉を救出しに、静電気少女のノヴァは向かっていた。

 自身の身体を電流に変化させ、雷のように空を裂く。上空をグルグルと周回するようにエシラ山の麓から森林を観察するノヴァ。元ネイゲル民族のノヴァの視力は夜間の森林の中から、ネイゲル族のキラーの姿を認識しているが、一向に狐火木ノ葉の姿は見つからない。

 周回中に、暴風で煽られたように扇状に木々が傾いている箇所、そして大きな円形に一帯が凍り付いている箇所を発見したノヴァはその付近に着地する。まるで雷が落ちたように、電流が空から地へと真っ直ぐ一筋の残像を映す。

 森林の中に落ちたノヴァは、異変の起きている場所の視察をする。複数人のネイゲル民族のキラーが戦闘不能にされていた。刃物で何度も切り刻まれたような傷を付けられている。

「……強いね、狐火。イレギュラーな環境で、キラーを一人でこんなに相手してたのね……」

 一帯が真っ白に凍らされている箇所には、氷河期のようにキラーたちが瞬間凍結させられてオブジェの一つになっていた。

 私、狐火木ノ葉の戦闘の痕跡を確認していると、ノヴァは遠くからこちらへ向かうキラーの足音に気が付いた。恐らく彼らも、この事態を察知して森林を徘徊しているのだろう。咄嗟に、ノヴァは木陰に隠れた。

「……今そこに誰かいなかったか?」

「いたね、微かに音がした」

 二人組の男たちはノヴァの存在を把握済み。木陰に隠れているノヴァと距離を取ると、男の一人が声をかけた。

「供物は取り揃えたか?」

 男はそうノヴァへと叫ぶ。元ネイゲル民族のノヴァはこの合言葉を良く知っていた。その返答の内容も。合言葉を投げるという事は、キラーはノヴァと仲間の区別できる程には視認できていないだろう。人差し指を自身の首筋に添えるノヴァ。その指から微弱な電流を流し、

「メアの鼓動を」

 そう答えた。その声はノヴァ本人とは違い、渋くて艶のある低音の男声。電流を自身の声帯に流し、自在に筋繊維を操作する事で変声を可能としている。その応答に男はつまらなそうにため息を吐いた。

「……そうか。随分と悲惨な事になっているが、ここは任せた。俺たちは山頂を確認しに行く。あの火柱は供物の仕業だと踏んでいるが、山頂にいるとは限らない。お前も気を張れよ、相手はかなりの強敵だ」

 男は陰に隠れるノヴァにそう告げると、連れと共に目的の山頂を目指して歩き始めた。遠ざかっていく足音を耳に、ノヴァは山頂に私、狐火木ノ葉がいることを確信する。

「……まさか、ね……。そもそもあれは伝説だし……」

 何やらぶつくさと呟くと、モヤモヤした心境のまま、再び自身を電流体に変異させて、山頂へと高速移動を始めた、吹雪くエシラ山へ。

 どうも、こんにちは。主人公の化身、星野夜です。

 シナリオ作りでキャラクターの過去の設定資料を執筆していたら、その凄惨な人生につい、自分で涙ぐんでしまいました。妄想癖の酷い小説作家です。


 さてさて、寒いです。エアコンの効いた部屋であったかお布団でぬくぬくしながら、だらだらと小説ネタを思考する日々です。

 失われた語彙力と感情を求めて、果てない旅路へと向かう、事はなく、日々を貪るだけです。


 と、自分語りも程々々に、今回は第29話! 狐火木ノ葉の葛藤と決意を描いた回でした。自分はこんな究極の選択を強いられたら時間切れになる事必須。

 一方で狐火救出の為に森林に侵入した僕の推しキャラのノヴァ。出ました、声帯操作。こんな技が出来たら声真似し放題だなと呑気に考えていました。


 さてさてさて、自分語りが止まらなそうなので本日はこの辺りでドロンさせてもらいます。次回、第30話! フリューゲル上空へ!

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