第27話『風吹く街、フリューゲル』
風吹く大陸、その街はそう呼ばれていた。年間を通して、その街に吹き込む風は止むことがない。春には心地の良い暖かな風を、夏には魔界側から吹き込む冷気の風を、秋には草原地帯を通してナチュラルな乾いた風を、冬には大陸を越えて海の向こうから暖気の風を運ぶ。その大陸は寒暖差が小さくて、世界一、過ごしやすい大陸とも大袈裟に言われていたりもするが……現在、暴風が吹き荒れ、空を巨大な灰黒い積乱雲がぶ厚く覆っていて、異常気象に見舞われていた。
フィノはステータスにルフとウィンディーネを乗せて、その街に着いた。風吹く街『フリューゲル』は、夕方に差し掛かっていて、普段であれば夕焼けでオレンジに染まるはずのその街並みは、光をほとんど通さない積乱雲に覆われてしまい、薄暗い街並みと化している。
気持ち暗めな街中を、集会所を目指して歩いていく。そこで、待ち合わせをしている人物がいる。
「すげー、ヤバそうな空模様なんだが」
天を見上げながらルフは呟いた。空を渦巻く黒い雲。今にも竜巻にでもなりそうな、大穴が空いているが、青空は顔を覗かせない。
「狐火さん、大丈夫ですかね……」
「だいじょーぶだよー、木ノ葉ちゃんは強いからねー」
同じく空を見上げて、不安げに言葉を漏らすウィンディーネの、その頭を撫でながら、そう答えた。
暴風が吹き荒れて髪が風になびく。冷たく乾いた風で、冬季でもないのに鳥肌が立ちそうだった。フリューゲルの人々も皆、季節にそぐわない長袖やマフラー、寒さ対策の服装を取っている。ルフがマフラーを常備しているのに不審感が打ち消されている。
「なんかムカつくんだけど……」
その時、前方から風に飛ばされたのだろう、一枚の新聞がウィンディーネの顔に張り付いて、ウィンディーネは体勢を崩して尻もちをついた。
「わぁあ?! なに、なに?!」
「おー、そんな漫画みたいなことが起こるんだねー。まあ、これも小説だからねー。おっと、口が滑った」
わざとらしく口を滑らせているフィノの言葉は風と共に流された。これが創作物の都合の良い所だけど、そんなメタ発言に反応するのは当小説の主人公と、規格外の少女一人だけなのだろう。
それはそうと……という都合の良い言葉で話を切り替える小説作家。
それはそうと、ウィンディーネは顔に張り付いた新聞を剥がして、それを目にした。一枚の写真と共に、見出しの記事にはガルモーニャの暴動についてが纏められている。
「……フィノちゃん、これ」
「あはは、それねー。今ガルモーニャで起きてる事だよ」
ガルモーニャで起きている記憶喪失の件。人々から記憶が次々と失われていく原因不明の事件と、それに伴う人々のパニックと暴動の発生。ガルモーニャは今、機能していないのと同然で、まるでスラム街のようになってしまっているとの事。写真には荒れ狂う人々と、街が崩壊しかけている様が映されていた。ルフも、その新聞の写真に目をやる。
「……そこの後ろのベンチに座ってるやつは何だ?」
ウィンディーネの持つ新聞に指を指すルフ。暴動の写真の中、広場だろうその場所のベンチに、一人の男性が場の空気を全く読んでいない、落ち着いた様子で腰をかけている。まるで昼下がりの日常を見ているような、場違い感を醸し出していた。
「あ?! 図書館長ですよ、これ! 私、良く図書館行ってたから分かります! 大丈夫ですかね……? 自分が分からなくなっちゃってるのかな?」
ウィンディーネは心配そうにそう呟いた。
「あはは! まあ、問題ないよー、うんうん」
何を根拠にそう答えたのかは不明だが、フィノは呑気に笑っていた。
「ま、今は図書館長さんより木ノ葉ちゃんが心配なとこでしょー? さ、行こうか!」
らしくもないフィノの猛進振りに違和感を感じる間もなく、進み出してしまうフィノの後を二人はついて行くことに。新聞紙は再び風に流されてどこかへ。
フリューゲル集会所に着いた。木材と石材を組み合わせ、魔力による硬質化を掛けた大きめな建造物で、二階建てになっている。魔力で頑丈にされている木扉を押し開けて、三人組は足を踏み入れた。内部は風の魔法をかけて空間が広がり、ホールになっていて、十数名の住民たちが休息中らしい。
身長の低くて幼体の三名が入った途端に物珍しそうに注視された。恥ずかしそうなウィンディーネとルフを引き連れて、堂々としたフィノはカウンターへ。そこに居座っている、同じく小柄な一人の女の子へと話をかけた。煌びやかな金色の長髪ツインテールと、赤褐色のマフラー、寒気対策の分厚い防寒着を身にまとっている。
「やあー、おまたせー」
「……あ、遅いよ?! 全くもう!」
少女はフィノの頭にチョップをかました。フィノはステータスでガードする。
「気にすんなよ、あんたら。ノヴァは俺と今さっきここに来たばっかだからな」
女の子の隣に座る助手の男が割り込み、図々しくノヴァと呼んだ女の子の頭をツンツンと人差し指で小突き、手で弾かれた。
「……ノヴァ?! どういう事だ? こいつに何用だよ、フィノ?!」
ルフは面倒くさそうな顔をして、フィノにそう問い詰めた。ノヴァはルフの姉に当たる人物で、可愛くもマフラーはお揃いでお互い肌身離さず首に巻いている。
「本当はー、木ノ葉ちゃんに会わせる予定だったんだけどねー、予定変更だからさあー」
「あれ? あの自暴自棄の不器用女はどうしたのよ?」
ノヴァはフィノに訊く。当作品の主人公こと私、狐火木ノ葉を指し示している。酷い言われようだ。名前も呼んでくれやしない。人がいないからってそうやって陰口付きやがって、静電気女。全部聞こえているぞ。
「そうそう、頼み事があってねーー」
フィノはノヴァへとあらましを伝える。山中で、私とはぐれてしまった事などなど。事情を知って、ノヴァは少し顔を暗くしていた。
「ーーという事があった訳でねー、会って早々だけど、君の力を借りたいんだよー。君ならこの場の誰よりも早く、あの山へまで行けるでしょー?」
フィノはノヴァへと、私の救出を依頼する。
「良いわ、任せて。でも、あんた程の力があれば、私に頼まなくても行けるんじゃないの? ステータス変えられるんでしょ?」
フィノの能力、ステータス改変の力があれば、ほぼ何でも可能ではあった。
「まあね。ただ、負担だってあるからねー。できればステータス変更は最小限に抑えたいんだよー。それにー、君が一番エシラ山の事を知っているでしょ、元ネイゲル族のノヴァちゃん?」
「……あはは、バレてたのね」
少し驚きつつ、目を右往左往させつつ、微笑するノヴァ。
「この目は騙せないよ。もちろん、君がネイゲル族だからと言って、この街から追い出すつもりも、情報を漏らすつもりもないから、安心してねー。口硬いから」
「平気で敵の情報をバラす奴の口が硬いかどうかは定かではないけどな」
ルフの的確なツッコミに対して、理不尽なフィノの腹パンが襲う。
「なんでぇええーーぐふぁっ?!」
「木ノ葉ちゃんがいない今、そのポジションを補うのは君の役目だからね」
「火属性の面しか補えてねぇよ……」
さて、ルフは放置しておき、ノヴァは席を立った。カウンターに飲み物代を置き払いし、マフラーを巻き直す。
「狐火木ノ葉に関しては私に任せなさい! その代わりにやって欲しい事があるの。詳しくは助手から聞いて! それじゃあ!」
無い胸を張って自信ありげにそう伝えるノヴァ。余計な表現のせいで少し涙目になってしまったが、可愛いから良し。別に貧乳だから悪い事はないぞ? 幼女は貧乳ぐらいが良いんだよと、作者の偏見と性癖を暴露させてしまう。
「おいおい、ノヴァさんよお。この三人に何か出来ることあるのか?」
カウンター席に座る助手の男は訝しげに三人組を見定めている。
「ソンナニジロジロミナイデヨオー、ハズカシイー」
モジモジしながらフィノは恥ずかしがっている演技をしているが、助手の男は呆れた顔を向けている。フィノの背後でウィンディーネは赤い顔で背中に隠れてしまう。
「カタコトすぎて唆らねぇわ。それに心配するな。幼女趣味はないから」
「舐めたらいけないよ。この三人は多分貴方より優秀よ」
「ははっ、そりゃいいや」
「じゃあ、後はよろしくね!」
瞬間、ノヴァの身体からバチバチと電気が放たれたかと思うと、瞬きの間にも満たない一瞬にしてその場から消え去ってしまった。身体を電流に変化させて高速移動を可能にした『俊敏性強化魔法』をノヴァの能力でリメイクした『電流体転送』という隠し技である。フィノペディアより転載。
「さてと、自己紹介でもしよーか。俺はロッド。そこのお前のめんどくさいお姉ちゃんの助手をやってるもんだ」
空が暗くなる頃、フリューゲル集会所を出て、ノヴァの助手に案内されながら街中を歩いていくフィノ、ウィンディーネ、ルフの三人。普段はまだ人々が行き交うはずの街並みは、厚く浮かぶ積乱雲の暴風によって皆、家に籠ってしまっている。四人は風に煽られつつも、目的の場所へと歩いていく最中。
「めんどくさいは余計だろ」
街並みを眺めながら、ルフはロッドの言葉に対して少し嫌そうに呟く。
「おっと、失礼。まあ、何だかんだ言って、あの嬢ちゃんには助けて貰ってるよ。お姉ちゃん想いの良い弟さんだなあ」
「俺が兄だ!」
意地を張っているルフをからかいつつ、不敵な笑みを浮かべながらロッドは続きを話す。
「俺らは観測士として日々、自然変動を観測、対策を行っている。突如、フリューゲル上空に出たあいつを調べに行き、分散させるのが今回の仕事だ。本来は、ノヴァの能力でプラズマ化させるつもりだったが……」
その当の本人は私、狐火木ノ葉を救いに旅に出てしまいましたとさ。そこで、フィノ、ウィンディーネ、ルフの三人の力で積乱雲を直接分散させるため、魔昇船を利用して上空へと向かうらしい。ロッドの言うには、突如発生した積乱雲が、地上の空気中に含まれる魔力を上空へと吸い込んで膨張を繰り返しているとの事、原因は不明。
「それらを含めて調査しに、お天道様を拝めに行くって事だ」
「あははは、おもしろそーだねー、お天気お兄さん」
敢えてからかうような呼び名をするフィノに、ロッドは呆れ顔で微笑する。
「そうだな、面白いよ、全く……」
それなのに、この小説は一向に詰まらないわけだ。詰まる話よりはよっぽど良いと作者は微笑するのだったが、そんな事はどうでもいい。なんなら現在進行形で詰まっている。
「先生、私たちはどうすれば良いんですか?」
ビシッと挙手をし、ウィンディーネはロッドに質問を投げる。プラスで呆れるロッド。
「お前もそのポジションなのな。あと、俺のポジションはお天気お兄さんなのか先生なのか統一してもらえないか?」
今年も終わってしまう焦燥感に囚われて、何をするにも何もしていな気がしています、星野夜です。
それなのに、この小説は一向につまらなくて、そしてストーリーは詰まっている。と、詰まる談議はさて置いてーー。
小説とは別に活動している音楽活動が活発になって、小説執筆が疎かになってしまって、投稿頻度も月一、悪い時は一年近く停止してしまう私事ですが、この小説は絶対に第7章まで続けてやろうという意思があります。というか、その辺りまでのストーリー構成はできているのに、いざ文字起こしで詰まってしまう人なのでした、おしまいおしまい、チャンチャン。
そして今回は作者推しキャラのノヴァちゃんが登場致しました。生まれつきの帯電、放電性の身体と、雷属性に富んだ才能を持つ観測所勤務の女の子。彼女は鉄製品を触れる度に高確率でえげつない静電気が発生してしまうらしく、静電気恐怖症という設定です。ちなみに、作者も静電気恐怖症です、といういらない情報を投げつけておいてサヨナラです。
それでは、次話の後書きで会いましょう。




