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第25話『風の恩恵』

 風吹く大陸と呼ばれている街『フリューゲル』の付近、緑の生い茂る高山。冬季になると真っ白なベールに包まれて美しい高山だが、冬季は吹雪で荒れて視界が遮られてしまう。それには関係せず、この高山は人々から恐れられて、登山する者は誰もいない。なぜならば、この高山には『ネイゲル族』と呼ばれる民族が住んでいて、部外者を排除するからだ。

 そんな森林の中へと、私、狐火木ノ葉は落下してしまった。遠のく意識の中、誰かに声をかけられて、そして意識を失う私。


 パチパチと炎が木々を燃やす音が耳について、私の意識が戻る。恐らくは私の放ってしまった火が森林火災を誘発してしまったのだろう。なぜか奇跡的に未だ焼死せずに生き延びてしまったらしい。

 薄暗い中、まぶたを開ける。ぼやけた視界が鮮明になると、その目には焚き火が入った。森林の中、倒れていたはずの私は、どこかも分からない暗い洞窟の中で寝かされていた。身体を起こすと、落ち葉を繋いで作られただろう、毛布のようなものが掛けられていて、カサカサと音を立てた。

「痛っ……」

 右腕に激痛を覚える。着地の際に強打して骨が折れていた。

「おきた?! 大丈夫?! どこか痛いとこない?!」

 その声に反応した誰かが声をかける。焚き火の側に、一人の少女の姿。こちらへと駆け寄り、私へと声をかけた。彼女が私を助けてくれたのだろう。

 ボロボロで薄汚れた布のような素材で作られた服とズボンに身を包んでいる。何かの植物の蔓を利用して縫われているようだ。茶褐色の肌と白い髪が印象的な、小さな女の子だった。緑の瞳が私を捉えている。私のロリコンメーターが80パーセントまで上昇している事は言うまでもない。

「……多分、骨が、折れてる……右腕の」

 そう声に出すと、少女は私の右腕に手を向けて、

「風の恩恵よ、今一つ、尊き生命に力を」

 そう呟くと、少女の手のひらから緑の光が放たれて、光に触れた右腕の折れた骨が瞬間的に治癒した。痛み一つなく正常だ。

「あ、ありがと……」

 つい、言葉が詰まるほどに、目の前の少女に魅入られてしまった。緑色の綺麗な瞳に釘付けだった。まさしく尊き生命とは彼女の事だろう。私に毎日味噌汁を作ってくれ。

「……味噌汁? それが何か分からないけど……お腹、空いた?」

 こくりと頷く。

「待っててね!」

 笑顔でそう言うと、少女は洞窟の壁に触れる。また緑色の光が手のひらから放たれると今度は、壁を突き破って植物が飛び出してきた! それは見る見るうちに成長すると、一本の木となり、花を咲かせ、そして実をつけた。

 少女はその木の前で座り込み、両手を握って祈る。

「犠牲は紡がれる生命の為に。紡がれる生命は犠牲の為に」

 その言葉を言い終えた途端に、目の前の木は瞬く間に朽ち果て、果実を数個落として跡形なく消えてしまった。それを手にし、私の元へ。

「はいどうぞ!」

 受け取る。それは、赤くて艶のある、林檎のような果実。

「それはメアの実だよ。甘くて美味しいの。ここの森では良く採れるの」

 ニッコリと笑う彼女。あまりにも優しくされ過ぎて、私はつい泣きそうになった。地球が懐かしいな、なんて思っていた。昔は良く病気の時、お母さんが林檎を剥いてくれてたっけな、なんてノスタルジーに浸ってしまう。

「あ、あのさ……助けてくれて、ありがとね」

「いえいえ! 無事で良かったです!」

「お友達が今、私を探してるはずで、今すぐ行かなくちゃいけないの」

「だめ! 今はだめ!」

 両手をバッと開いて大の字に、少女は立ち上がろうとする私の前に立ち塞がった。小さい身体で必死そうな姿にキュンキュンするけど、それどころではない。ただ、何かしら問題がありそうな雰囲気がしている。敵には見えないけど、良く良く考えると、倒れた私を彼女一人の力でここまで運んでくるなんて考えられず、お仲間さんが他にもいるのでは、なんて事も有り得る話。助けてくれた時点で敵ではないだろうし、何か事情があるなら訊いた方が良い。などと珍しく頭が回っている。

「……今は? 後でなら良いの?」

「外でみんなが炎を消してる最中なの! だからだめ!」

「それなら私、水の魔法使えるから参加するよ。助けられたのにお礼一つもできない奴にはなりたくないからね!」

「だめ!!」

 ここ一番の強い押しだ。よっぽど何かまずい理由があるらしい。ちょっと涙目なのがまた尊すぎて仰げば尊死。

「あ、あはは……そっか。えーっと、理由、訊いていい?」

「私たちネイゲル族の事、知らないの?」

 肯定。

「部外者がこの領域に足を踏み入れるとね、私たちに殺されて食べられちゃうの」

「……じゃあ、君は何で私を助けたの?」

「私、の名前はシルフィー。ネイゲル族の一人だけど、私はね……本当はフリューゲルのみんなとも仲良くなりたいの。でもねーー」

 彼女は背を向けると、上の服を脱ぎ始めた。突然過ぎて、ドキッとしてしまったが、その生肌が視界に入ると息が止まった。そこには、右肩から腰にかけて斜めに大きな古傷があった。剣やナイフといった鋭い刃で切りつけられてしまったのだろう。私よりも小さな女の子に、容赦ない仕打ちだ。

「前に、フリューゲルに降りた時にね、街の人に切られたの。『ネイゲル族が降りてきたぞ、殺せ!』って。でもね、私はみんなと仲良くなりたいの。あなたを助けた時も本当は怖くて……でも、私たちから歩み寄らないと仲良くできないからって思ったから」

 何となく話を聞いて分かった。このネイゲル族とフリューゲルの人々は対立しているらしい。いや、ネイゲル族が一方的に遮っているんだ。その中、彼女だけはそれに抗っている。洞窟の外に出てはいけないのは、そのネイゲル族が火消し中で、見つかれば部外者は食される、つまり殺されるからだ。それを分かって、私を守ってくれている、という事らしい。その健気な姿にキュンです。

 シルフィーは上着を再び身に付ける。ふと、その姿に目をーーいや、下心とかじゃないよ?! 傷付けられてもなお、綺麗で可愛らしいその背中をさすって上げたいとか、古傷が早く癒えるよう舐めてあげようだとか、そんな気持ちさらさら無いからね!

(作者:満更でもないじゃん)

 ふと、その姿に目を向けると、ズボンからぴょこりと細い尻尾が顔を出していた。先端がスペードみたいな形になっていて、悪魔のような尻尾。いや、それが逆に良い!

「あ?!」

 私に尻尾を見られたのが恥ずかしかったのか、ズボンの中にスポリと隠して、顔を赤らめていた。

「見たでしょ、えっち!」

「あ、可愛い尻尾ですね」

 今にも恥ずかしさで爆発しそうな顔を手で隠して洞窟の端っこに丸まってしまった。可愛い、うん可愛い。

「……いや、待って。シルフィーはどうやって私をここまで運んだの?」

 この応答に対して、勘のいいガキは嫌いだよ、なんて言われたからには今すぐこの場を飛び出してでも逃げるが、他にシルフィーと同じ考えの人がいるのだろう。

 シルフィーは赤くなった顔のまま、こちらを見ずに答える。

「私、物を浮かす事が出来るの。風の恩恵のおかげ」

「さっき腕を治してくれたのとか、植物を生やしたりしてた力のこと?」

「そお! 風の神様からもらった力なの!」

 さっきまで恥ずかしそうにしていたシルフィーは飛び上がってニコニコしながら話してくれた。この民族は風の神を信仰しているとの事。

 優しくて可愛らしいシルフィーと永遠に一生過ごすのも悪かないとは思うものの、いつまでも彼女のお世話になるわけにもいかないし、それに死ぬ事はないだろうけど、フィノちゃんたちが私を探して森の中へ飛び込んできてしまう事が何よりもまずい。

「シルフィー。私、やっぱり行くよ」

「……だ、だめ、だめだって!」

「私の仲間が私を探しに来てるはず。このままだと、他の人に殺されるかもしれない。それに、シルフィーは私を庇ってる事がバレたらまずいんじゃないの?」

 その問いかけには答えず、暗い顔で俯いているのを見るに、図星なのだろう。

「ごめんね、シルフィー。助けてくれてありがとう。私、君の事が好きだよ」

 つい本音が漏れた。シルフィーが少し顔を赤くしてるのが俯いていても分かる。やばい、浮気判定になるか、これ?

 壁の所に、私の長筆が立て掛けてある。シルフィーが拾ってくれていたらしい。私はそれを手に、洞窟を出ようと足を踏み出した、その服をシルフィーが掴む。

「分かった、私も行く」

 シルフィーはそう言って、ニコリと笑って見せるのだった。

 眠い、寝たい、おやすみ。

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