第24話『災難』
青空と広大な緑が広がる。時間帯は正午を回ろうとしていた頃、森林を眼下に、空を一枚の板が浮遊していた。薄くて半透明のそれは板と言うよりは、ステータス画面と言った方が良く伝わる。そう、人の数値を記録して表示する、あのステータス。ゲームにおいては必ずと言っても良いほどに組み込まれる仕組みなのだが、そのステータスを現実に反映させて具現化する、規格外の能力を持つ女の子の力によって、ステータスは飛行している。
森林の緑と空の青に反して赤い髪、風避けのゴーグルをつけている、フィノと呼ばれる規格外の女の子。進行方向を眺めて、障害物や敵襲に構えている。その背後で、
「フィノちゃん、どーかした?」
私、狐火木ノ葉は声をかける。今は違和感を感じなくなった、背中に長くて太い筆を背負っている。長筆を背負うためのリュックのような留め具があるので、歩いて動く事はできるが、やはり重さがあるために肩が凝りやすい。
「あはは、別に何もー。ほら、これでも食べてなよ」
フィノはポケットから袋に入った食料を取り出して投げ渡した。ポケットから出てくるサイズじゃない。
「なんか、食べ物渡したら黙るだろ的なペット扱いやめてよね!」
でも言われてみれば、フィノちゃんに飼われるのもまたアリなのかと思ってしまう。いっその事、私と一緒に暮らしてしまえばいい。
「それは断るね、あはは」
安定の心読みだ。もはやテレパシーで会話しているのではないだろうか?
「でも諦められないのさ」
と、カッコつけて袋に入った食料を齧る。
「あ、そう言えば、そのポケットどーなってんの? ド〇えもん的な事?」
興味はポケットへ。その言葉は伝わる以前の問題だが、これほどまで知名度のあるワードはもはや著作権云々じゃないかと、開き直りすぎてアジの開きになりました。
「そうそう、そのネコ型ロボットみたいな事だよ。アジの開きは買ってないからまた後でね」
このフィノとか言うやつ、人の記憶にも干渉するから、異世界にて通じないだろう地球での話すらも伝わってしまうのだった。というか、この世界にはアジなどいないでしょうが。
「君たちの買った食料などはみんな、このポケットに入れてあるよ、アジの開き以外はね。これはね、風属性の性質を利用した道具なんだよ、ひみつ道具」
まだ某タヌキロボットの話を延長してくるフィノ。程々にしないと殴られかねない。あのジャンケンで敗北率100パーセントの拳によって。
「風属性の性質?」
「そ。風属性の性質は膨張と圧縮、つまりは質量変化、かな? このポケットに使われてる風の性質で、入れた物体のサイズを小さくしてるんだよ」
「へー、質量保存の法則も丸潰れなのね」
異世界にて質量保存の法則が適応されないのは当たり前か。
「今の木ノ葉ちゃんならノーベル賞取れるかもねー」
「あっは! そしたらフィノちゃんの事をこんな所からこんな所まで調べ尽くしちゃうからね」
「その前にね、今回は木ノ葉ちゃんに風属性を覚えてもらうよ?」
フィノちゃんの明るい声で告げられた言葉に、私は戦闘への恐怖を思い出し、表情が少しだけ暗くなってしまう。それを察してか、フィノは話の方向を変えた。
「……木ノ葉ちゃん、知ってる? 身体強化の魔法って?」
「……え、あ、知らない」
話が変わり、私はすぐ気を取り戻してそう返す。
「思い出すのはキツいことだけどね、木ノ葉ちゃんの右腕の傷の事」
それは『ナチャーロ』で受けた高難易度クエストにて、討伐目的であるフェンリルに噛み付かれた傷の話。 傷はフィノちゃんの魔法で完全に治ってはいるものの、一昨日の事でまだ鮮明に恐怖や痛みがフラッシュバックしかけていた。何とか気持ちを落ち着かせようとしていたが、腕が震えて収まりそうになかった。
「ここに一本のナイフがある」
フィノは急にポケットから刃剥き出しのナイフを取り出すと、突然、自身の右腕に向けて振り下ろした! 突然の事で、咄嗟に目をつぶってしまう。しかし、そのナイフはフィノの肌に当たった瞬間、弾かれて折れてしまった!
「だーいじょうぶだよ、あはは。ごめんねー、ちょーっと刺激強めだったかな? これが身体強化魔法だよ」
これが地上波だったならば規制されかねない。いや、これで規制されていたら、戦闘シーンはほぼモザイク処理をかけなければならないだろう。ぜひとも、アニメーション会社には変態作画で美しい戦闘シーンを描いて欲しいものだ。
フィノが使った魔法、それは魔力を自身のステータスに反映させる強化魔法だ。属性や職業は全く関係なくて練習さえすれば全人類が使用出来る魔法らしい。
「どう、木ノ葉ちゃん? ナイフも貫けない鋼の身体。ナイフが無理なら牙もまた然りってね! 痛みの恐怖は、防御力の欠如だよ? 木ノ葉ちゃんは猪突猛進で攻撃全振りなんだもん、あははは」
フィノちゃんは私に、身体強化魔法を教えてくれるらしい。確かに、あれだけ固い肌があればフェンリルなんて敵じゃない!
「おい、ナイフ刺さったんだけどよ……」
背後からかわいい声を聞く。そこには、茶色の髪と緑の瞳を持つ、かわいい男の子が座っていた。赤いマフラーがかぜになびいている。ズボンにはホルスターを巻き付けて、そこに拳銃を収めていた。そして、頭に折れたナイフが突き刺さっていた。
「あっははは! ごめんね、ルフちゃん」
ルフはナイフを引っこ抜くと森林へ投げ捨てる。
「ったく、まあ俺も身体強化してるから、あれぐらいなら何ともねぇけどよ」
「ほら、木ノ葉ちゃん、勉強になったね」
「いや、ルフの件は偶然だったし、下手したら私に刺さってたよね?! 刺さるのはキューピットの矢だけにしてよね?!」
「これから身体強化魔法を覚えたら、君はもうキューピットの矢が刺さらなくなるわけだね」
「遠回しに失恋ルート?!」
それに関しては大の問題なのだが、どうでもいい。今現在、目の前にいるこの小さくて可愛いフィノちゃんが私と同棲生活を共にしてくれるので、今更キューピットに手をかけさせる必要も無い。
「あっははは、お断りで」
失恋フラグ回収した所で、フィノちゃんに身体強化魔法のイメージを教えてもらう。身体強化魔法と言っても効果別で複数あるらしく、その中の『装甲付与魔法』と呼ばれる表皮面に魔力のバリアを纏う魔法を教えてくれるようだ。イメージは魔力を汗のように全身から放出して纏う。これが難しかった。妄想癖のある年頃の女の子が無理なのだから、相当難しいのだろう。
「いや、そこ因果関係ねぇだろ」
的確なツッコミだった。
「ま、薄皮一枚程度にはなろうね、木ノ葉ちゃん」
それいつになったら防刃ジョッキになるの?! 薄皮一枚程度ができないんですが。薄皮饅頭より薄いんですが。いや、そもそも魔力ゼロだったわ、はははははは!!
「あ、そうだ、フィノちゃん。私の魔力ゼロなんだけど」
「知ってるー。木ノ葉ちゃん、君は一体どこから魔力を練ってるんだい? ちょっと試しに火属性の魔力を練ってよ」
路線がズレた。フィノちゃんはステータスを改変させて、自身の職業を入れ替える。その能力で私の魔力が一体どこから発生しているのか把握するらしい。
「行くよ、幻想色彩・夕景!」
長筆を引き抜き、火属性の魔力で筆毛を赤く染める。そんな私を、フィノちゃんは目元に設置したステータス越しにサーチする。
「へぇー、何これ?! すごいよ、木ノ葉ちゃん!!」
キラキラした瞳ではしゃぐフィノ。何を見たのかは知らないけど、とにかくこんなにはしゃぐフィノを見るのは、初めて会った時以来だろうか? あまりに興奮して嬉しそうなフィノを見て、なんか私はすごい癒されて筆毛の色が赤色から薄緑に変化してしまう。
「わわっ?! 何っ?!」
筆毛が薄緑色に変化したのはこの瞬間が初めて驚き、咄嗟に魔力を遮断した。
「その反応、初めてだね、木ノ葉ちゃん。前に話した筆の歴史の話、覚えてるかい? その薄緑色はね、ランダム効果のデバフだよ。風属性と色が近いから間違われやすいんだけどね」
意思と反して出現した新たなデバフ属性にワクワクが止まらなかった。また一つ、新しい世界が見えそうだ。あ、今の名言でしょ?! ファンブックとかできたら掲載してもらおう。
「あ、ランダムデバフなんて戦闘向けじゃないし使わないと思うよ」
なんそれ?! じゃあ、何ゆえのインクなん?! 私の興奮を返せ! そしてなぜそんな設定で作ったんだよ、作者?
(作者:でも、ここからが見所なんです)
Shut up!! Get outta here!!!
(作者:その作者ログアウトさせる時のそれなに?)
「そんな事よりさーー」
と、フィノちゃん。そんな事より、らしい。いや、そんな事か。
「ーー木ノ葉ちゃんの魔力だけどね! 木ノ葉ちゃんは魔力を練ってない!」
「「は?」」(作者:は?)
「え? それってどういうことですか?!」
フィノの言葉に、空を眺めていた青髪の女の子は会話に混ざる。彼女はウィンディーネという名前の、かわいらしい私の彼女です。
「いつ狐火さんの彼女になったんですか?」
「え?!」
「その驚きようにこちらが驚きなんですけど……」
フィノと二股になるのは全然気にしてないよ、私は。
「いえ、そこじゃないんですが……」
ウィンディーネとこうして馬鹿みたいなたわいない話も久しぶりだなって感傷に浸る。そして安定の心を読まれる主人公。
フィノは三人に向けて話をする。私の、魔力ゼロなのに魔法が使えるという今世紀最大の謎が今、明かされようとしていた。
「木ノ葉ちゃんの筆が魔力を練っているんだよ!」
ルフとウィンちゃんはその言葉をインプットするのに時間がかかっている模様。私の身体には確かに魔力は存在せず、今の今まで、私がカッコつけて放っていた技たちは皆、この長筆から錬成された魔力を利用してたに過ぎない、そう言う事らしい。
「そんな事、あんのかよ?」
「いいや、そんな事はないよ、ははは」
そんな事はないらしい。ただ、フィノは納得していた。魔法初心者の私が、魔力を練って、すぐに魔法を、しかも高火力の魔法を意図も容易く放てる理由が。
「木ノ葉ちゃんが、妄想からイメージを膨らませて魔法を放てるのは、イメージ内で直接、長筆を想像してるからだね! ナイス相性ってわけだよ!」
魔力を練るイメージは湧かず、魔力が魔法として発現した状態を長筆と一緒に想像しているから魔法が完成しているらしく、必要魔力は長筆が賄っているらしい。が、武器が魔力を賄うなんて事例は聞いた事がないとの事。かくして、今世紀最大の謎がまた一つできてしまったのだった。
それから数時間、浮遊するステータスに乗って風を感じながら昼食を取ったり、暇潰しにウィンちゃんをいじったりしながら、時折、新技開発の為の妄想や身体強化魔法のイメージ練習なんかしたりしていた。とても平和な時間が過ぎていき、昨日までの騒がしい喧騒が嘘かのように思えてさえ来ていた。それから地球での思い出に浸ったりと、学校内ではポジティヴ擬人化と呼ばれたりしていた私からは考えられないような落ち着いた時間を過ごしていたのだった。優雅にティーブレイクでもかましそうな程にはスマートな……雰囲気はあるはず。さて、今頃、向こうの私はどうしているのだろうか。日向大地がいるから何とかなるかな? レイナ、がんばれ。
レイナ、それはこの異世界転移の際に入れ替わりで地球へ転移してしまった、パラレルの私。一度、メテオ討伐戦の際にスマートフォンで話し合った事がある。私の声がスマートフォンからしていた。そもそもスマートフォンが繋がる現状もおかしいのだけども。私は私の話を聞いてーー
「……あれ? 何の話だったかな?」
「あぁ? なんか言ったか、狐火?」
「いや、いつもの」
「そっか」
暇すぎて反応してしまうルフ。いつもの、で通じるの何? 心の声が漏れてしまう、私あるあるだ。というか、こいつら勝手に人の心読むんだから、私が漏らさずとも漏れてるもんなんだけど。いや、私はそんなに尿道ガバガバじゃないんですが!
「誰も、んな事、訊いてねぇよ」
これ。また読まれる心。んな事、を聞かれてしまうわけだ。プライバシー保護はこの異世界にて通用しないらしい。
私は考え事を続けていく、そのうちに、いつの間にか目蓋が重くなって接着剤でも付けたように開かなくなる。という体。作者に眠れって指示された。時期に、意識が朦朧としてきて、私はぐっすりすりすりお眠りモードに入った。そして、当主人公の睡眠と作者の関係はありません。これはフィクションです。関係があるとすれば、フィノとウィンディーネの御二方、加えてショタっ子ルフちゃんも外せない。
夢を見た。いや、段落の変え方下手くそか。一行空く前にネタとメタ突っ込んでおいて、急にシリアスに移ろうとするのは無理がある。
しかし、主人公には移らねばならない時がある。そして夢を見る事となった。
一本の角の生えた白い子馬、恐らくは天馬と呼ばれる生き物だろう。白い毛並みが艶やかで美しい。例えるなら、上質な氷で作られたかき氷のようにふんわりとした白い毛並みだった。翼もないのに、天馬は宙に浮かんでいる。その近くに二人の子供。薄暗くて理解しづらいが、どこかの海辺にいるらしい。
《時間は永遠じゃない》
その声は頭に直接響いてくる。テレパシーというものだと思われる。なぜか聞き覚えがある声をしていた。そしてその声は天馬から発せられているのだと、直感で分かった。
「何の話?」
子供の一人がそう質問を投げる。
《これから先、過酷な道を歩む事になる。世界が君たちを淘汰しようとするんだ。だから逃げよう! 時間が経てば、忘れるはずだから。数百年先になるかもしれない》
「何の話をしてるの? ねぇ、答えてよ」
子供の声がそう訊くけど、天馬は答えようとしない。
《永遠なんてものはないんだよ。いつか見つけてくれる。ほら、そんな顔じゃあつまらないよ》
天馬は二人の子供の頭をポンポンと軽く叩く。
《君の笑顔をずっと守ってたいんだ、永遠に》
その瞬間、天馬を中心に吹雪が発生し、冷たい風に押されて私は吹き飛ばされてしまった。視界が白一色に染まり、目を覚ます。
「狐火!! 手を伸ばせ!!」
ルフの叫び声が私の眠気を取り払い、意識を鮮明にさせていく。ふんわりとした浮遊感と、冷たい風圧。目を開くと、ルフの必死な顔が映った。ルフとの距離が遠くなる。私の体は暴風によって、ステータスの上から吹き飛ばされてしまったらしい! 急な事でパニックに陥った。正夢とは正に。これが寝起きバンジージャンプというものか。なんて呑気な事が言えるほど安静を保ってはない。命綱のないバンジージャンプなんて、そもそもバンジーではない。ただの飛び降り自殺だ。
私は本能に身を任せ、咄嗟に背中に背負っていた長筆に手をかけて魔法を放つ。メテオ討伐戦でも使った、火属性のバーナー。筆毛から高出力の炎が放たれ、私の落下する身体に別方向の力を加える。長筆のバーナーに引っ張られて、私はまるで発射失敗のロケットのように、曲線を描いて森林の中へと不時着をする。木々をバキバキ突き破り、周囲に火を放ちながら地面に勢い良く転がり落ちた。木々がクッションになったので死には至らなかったものの、全身打撲で動けそうにない。バンジージャンプならぬ万死ージャンプという訳だ。……全然上手くも何ともない。
滑り倒しすぎて凍えてしまえば良かったが、バーナーの炎が森林火災を誘発している。バチバチと火力が増していく中、私は身動き一つ取れず、このままでは豚の丸焼きだ。誰がメス豚だよ、このやろー!
目線を動かして周囲を把握だけしてみる。火災で明るくはなっているものの、奥が薄暗いのを鑑みて、夕方か夜間だろうか。火のおかげで野生の生物に襲われる事は無い。
森林というステージが『コンキロス』のフェンリルを連想させてしまい、精神不安定になる。一人だからなお心細い。フィノちゃんたちは上空にいるし、森林に突っ込んだ私の場所を正確には把握できないはず。
「……動け……動け、狐火」
意識を手に集中する。あちこちが痛くて痛くて堪らないが、甘えてられない。が、動くことのない身体。甘々の甘ちゃん過ぎてじぇじぇじぇ。いや、今更そのネタは通じないのでは?
「……大丈夫?!」
声がした。視覚の外にいるから誰か分からないけど、仲間の誰でもない声。女の子の声だ。その声からは心配と焦りが伝わる。悪い奴ではないけど、なぜこんな街も何も無い森の中に、人がいるんだろうか。そんなこと考えていられない。
「た、たすけて……」
辛うじて声を出して助けを乞う。藁をも掴む思いとはまさにこれだ。いや、それはこの女の子に失礼では?! 藁も笑いも掴めないのか、私は。
「ま、まま、まっててね!! 今、助けるから!!」
慌て喚く声がする。もう限界だった。あの不時着で多分、どこかしら骨が折れた。痛すぎて分からない。その上、無駄な思考回路にエネルギー使い過ぎた。昔から節電するのは苦手だった。夏場に冷房を最低温度最高風量で稼働させて毛布に包まって寝るのが好きだったくらいには節電するのが苦手だ。冬場にコタツに入りながらアイスとか食べちゃうタイプだ。そうする事でプラマイゼロになるとか言う支離滅裂な発言をするんだろうな、私は。そして、気が遠のく。女の子の声が理解できなくなってきて、視界も暗転し始め、私はまもなく気を失った。
どうも、こんにちは。こんばんはの人はこんばんは! 星野夜というしがない小説家です。
さてさて、趣味でやってきました、小説と加えて、音楽やらイラストレーションなどに気を取られて更新が止まり気味であった小説執筆が珍しく持続していて自分に関心と言った感じです。将来的には自身の小説がアニメ化でもしてくれたら嬉しいなんて未来を見据えてまた虚しくなるわけでした。
今回はナチャーロからフリューゲルへの道のりを書かせてもらいました。
そこでハプニング発生、突如吹き荒れた暴風に、眠っていた狐火木ノ葉は吹き飛ばされてしまう。そんな話でした。
今回で、狐火木ノ葉の謎が一つ改名し、また新しい謎が増えました。そして色んな伏線が増えました(自分で言うな)。
さぁ、次回は狐火木ノ葉、危うし!




