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第23話『希望への足枷』

 日が昇り、また今日が始まる。死線を潜り抜け、完全に油断していた私は顔面ゆるゆるの弛緩顔でヨダレダバダバでぐーすぴーだった。つい昨日、ゼロという偽ウィンディーネに寝込みを襲われて攫われたというのに。いや、だって昨日はあんなにズタボロボンボンにされたんだから、今日ぐらいはゆっくり休みたい。などと考える余地なく、夢の世界で英雄として一つの物語を終えようとしていたその寝顔へとーー

「レインステート最大放出っ! くらえー」

 ゆったりとした声がして、ステータスが私の首筋の横へと突き刺さった!

 ゲーム内において重要とされるステータス。体力や攻撃力、持ち物、エトセトラエトセトラ、などを数値化して表示したりする『機能』のことだ。それを現実に干渉させ、具現化したステータスで直接物理攻撃を加える、この世界にて唯一無二、規格外の少女による、攻撃。空中に突如出現した無数のステータスが突き刺さるように一点の箇所に襲いかかる。それはぐっすりすりすりお眠りモードの私へと、突き刺さる。

「おはよ、木ノ葉ちゃん」

 フィノちゃんの無邪気な声が朝を告げる。

 私はと言うと、奇跡的に一撃も当たらず、目覚めた。非常口に描かれているピクトグラムごときポージングで、ステータスによって固定されてまさしく私は展示物だった。

「あ、あはは……ちょっとこれ、デジャブなんですが?!」

「あははは!! 何を言ってるんだい? それはこれから先に起きる話であって、現在はまだ一回目のお目覚めドッキリだよー」

 それは非常にメタに尽きた発言だったが、もうこの下りも飽き飽きだ。誰が目覚まし時計に爆弾を付けるのだろうか。今日くらいはゆっくりしたいとこだったが、無理やりステータスで体を持ち上げられて、起床。

「さあて、木ノ葉ちゃん!!」

 ヤケにテンションMAXなフィノちゃんが私の胸ぐらを掴んで、グイッと顔を近づける。キラキラした瞳と、ハリツヤのある幼い肌。寝起きとはいえ、ついドギマギしちゃっていた。

「……え? 何するの?」


 寝癖をままに、フィノちゃんに引っ張られて私は、ナチャーロの模擬戦専用のフィールドに連れてかれた。無料で利用できるそのフィールドは連日、パーティーなどが訪れるらしいが、早朝で誰もいない。朝っぱらから普通、戦闘なんてしない。

「聞いたよー、ルフからー。大活躍だったらしいじゃーん、お手柄♪」

 ふんふん楽しそうなフィノちゃんに対して、私は長筆を杖代わりに重心を任せていた。寝起きに弱い私の炎はまだ灯らず。

「……何か、したっけ?」

「フェンリルへの猛攻撃、最終的にはフェンリルの集団を魔力なしで消し去ったってね!」

 事実だったが、私自身もあの時は何が起きていたのかが分からなかった。ルフの話によれば、私の真下あたりから影のようなものが広がって周囲を一瞬にして闇に包み込んだ。闇が晴れるとフェンリルが消え去っていたとの事。ルフもたどたどしく話していたらしく、外から見ても理解に悩んでいた。

「それはねー、十中八九、長筆の黒色インクの力だよ! と、このフィノが分析したー!」

 つまり、フィノは私が発現させた黒いインクを自在に出せるよう訓練をするらしい。フィノちゃんにも隠して密かに使えるようにしたデバフ系インクの『幻想色彩(フィクションカラー)光熱(パライズ)』に加えて、また新しいインクが使えるようになるとの事。この事実に、私の心に火種が発芽する。

「ふはははは!! ならば貴様に後悔の味をたっぷり味わわせて……味あわせて? あじわわ……とにかく食らえ!」

 私は長筆を背後へと構え、スイングの予備動作へ。完全に舐めプのフィノちゃんはニコニコしながら無防備に突っ立っていた。

幻想色彩(フィクションカラー)夕景(フレイム)!」

 先手、私のフルスイングが赤い火属性のインクをフィノちゃんへと撒き散らす。それは当然まんまと避けられた。すかさずフルスイングの勢いをそのままに、身を翻してからもう一周、長筆を振るう。その筆毛の色は青。

幻想色彩(フィクションカラー)深海(アクア)!」

 水属性の青いインクを回転するように360度に散布するが、それも当然回避されてしまう。

「グルグル回ってるだけじゃ、当たらないよー?」

「それだけ、ならね! 幻想色彩(フィクションカラー)光熱(パライズ)!」

 もう一周回転してフルスイング。オレンジの光を放つ筆から放たれたインクは、フェンリル相手にも使った、麻痺属性を帯びたデバフ系インク。

「聞いたよー! それが新技ね!」

 浮遊させたステータスに乗ったフィノは意図も容易く散布されていくインクを避ける。地面がどんどん某ゲームのようにカラフルに染め上げられていく。

 私はフルスイングを止めて、長筆を上に向ける。柄部分を地面に垂直に構えた。こうすることで、次に放つバーナーの勢いを地面で殺す事が出来る。

「燃え尽きちゃえ!! 大炎柱(フルバーナー)!!」

 火属性、筆毛が高出力のバーナーに変貌し、その火力は一直線に天井へ。しかし、フィノの真上にいる訳では無いので、当たるものも当たらない。その炎は天井に衝突すると、発散して私を中心に火の雨を振らせた。

「考えたねー、木ノ葉ちゃん♪」

 既にステータスを頭上に張ったフィノは笑顔で火の雨を眺めていた。赤いインクがフィールドに散らばっていく。

「……これで良し!」

「……? 何か策ありって事かなあー?」

 呑気に浮遊するステータスに乗って、私を見下しているフィノ。私はフィノちゃんに光熱(パライズ)のインクを投げつけて目潰しにかかる。暖色の光を放つインクはフィノの視界を一瞬だけ遮る。その一瞬の隙で、私はフィールドの端へと後退。そして、全身全霊の魔力を振り絞る。

「さよならだよ、フィノちゃん!!」

 デタラメに散布したインク。地面、側面の壁、天井、全体に塗りに塗りたくってやった。赤、青、橙。穴は多少あるが、それぞれが合わさって今、フィールド内を包むようにインクが繋がっている。フィノちゃんはまだ分かってないはず。一度技を放ったインクをリサイクルできるなんてね!!

全方位幻想炎柱(オールフィクションバーナー)!!」

 全てのインクに再び火が灯り、フィールド内全域にバーナーの炎が襲いかかる! 攻撃が当たらないのであれば、避けれないように全域を攻撃するまで!

 その膨大な熱量で風圧が発生し、私は壁に叩きつけられた。爆煙が辺りを包み込み、私は身を屈めて呼吸のできるよう煙下へ逃げる。フィールドの天井にある電光は届かず、薄暗いフィールド内。フィノちゃんを認識できない。

「……勝った?」

「ビビったよぉー、木ノ葉ちゃん」

 その声は背後から。あの全方位攻撃を避けたのだった! 咄嗟に振り返ろうとした、その私へとフィノのステータスによる攻撃が加えられる。その瞬間、私の脳裏に昨日の光景がフラッシュバックした。歯を剥き出しに襲いかかろうとしているフェンリルの姿を。そして噛みつかれる瞬間。絶望、激痛、後悔、怖い、嫌だ、死ぬ、〇ぬ〇ぬ死ぬ!!

 私は絶叫する。仰け反って奇跡的にステータスの攻撃を避けたが、涙目でその場に蹲った。恐怖、それだけが私を支配していた。

「……あぁ、そっかあ」

 爆煙が薄くなって明るくなる。そこには私が小さくなってガクガクと身体を揺らしている、数秒前の私とは同一人物なのか疑われるくらいに憔悴した私がいたのだった。気がつくとフィールド内では雨が降り注ぎ、私はびしょ濡れになっていた。感情がマイナスに落ちた事により、先程までの炎が消えて水属性に変化したからだろう。

「木ノ葉ちゃん、大丈夫?」

 フィノは珍しく心配げに、私の側へ寄ろうとしたか、私は恐怖に包まれてしまい、パニックになっていた。死への恐怖、戦闘なんてものは向こうの世界では無用で体験もしない非日常経験。フェンリルとの戦闘で、私は無意識下、心に障害を負ってしまっていた。

「……PTSD、かな」

 近づくのをやめて、フィノはそっと私に気づかれないように私の頭上へとステータスを展開し、傘の代わりを作ってくれた。ステータスに雨が跳ね返る音と微かに私の掠れた声だけがしていた。


 それからいつの間にか眠ってしまった私。フィノちゃんがフィールド裏の休憩室へと運んでくれたらしい。またしても休憩室にお世話となる私。悪夢にうなされて飛び起きた。

「おはよ、木ノ葉ちゃん」

 横に座り、にこりと笑うフィノちゃん。心做しか、少し悲しそうに笑ってるように見えた気がした。

 悪夢にうなされて動悸がドキドキなんて冗談を言えるくらいに余裕はない。全身汗だくで気持ち悪い。

「……さぁてと!」

 フィノちゃんの元気な声にビクリと身体を震わせてしまう。

「木ノ葉ちゃん、怖かった?」

「……っ!」

 動悸が止まらない。フィノちゃんの質問へ応答しようとする意思に反して、身体が拒絶反応を起こし、喉が締め付けられる。声が、出せない! 息が荒くなっていく、怖い、怖い!!

 私が過呼吸を引き起こしているのに気づいて、フィノちゃんは焦った様子で落ち着いて息をすることを促してくれて何とか収まる。私自身が意味不明で初めての感情に戸惑う。

「いいよ、ごめんね。何でもないからさ、あはは。ウィンディーネ、起きたらしいからさ、行こうか」

 普段のフィノからは想像つかない程に冷静でかつ落ち着きのある声が、私の背中を押してくれる。

 私はひとまず、フィノちゃんに縋ってウィンディーネに会うことにした。今は何かしてないと不安だった。


 私とフィノちゃんの二人は再び集会所を訪れる。昨日の事件で、集会所内はやや人が多い。その中に、暇そうなルフが席に座ってあくびをしていた。その横で、ウィンディーネも眠そうに頭をカクンカクンしている。

「ウィンちゃん!」

 自然と身体が動き、駆け出した私はウィンディーネに飛び付いた。寝ぼけていたウィンディーネは突然の衝撃にビックリしていたが、私が泣きながら抱きついてるのを見て、安心したように頭を撫でてくれた。心が癒されていく気がした。

「おはよー、ウィンディーネ」

「おはよ、フィノちゃん、狐火さん」

 聞き心地の良い柔らかな声。無事、ウィンディーネを取り戻せて、一気に力が抜けそうになる。

「じゃあ、行こっかあー」

 フィノちゃんがそう言う。

「どこへ行くんだよ?」

「帰る前に、観光したいなってね♪」

 これからガルモーニャへと帰還する前に、寄り道をして行きたい所があるらしい。それは風吹く大陸と呼ばれ、一年間、春夏秋冬、その大陸は風が止むことなく吹き続ける。春には心地の良いそよ風を、夏には涼しげな魔界側の冷気の風を、秋には草原からのナチュラルな乾いた風を、冬には人口密度の高い大陸からの暖気の風を運ぶ。常に人体に負担のかからない常温を保つ大陸との事。

「フィノ、お前、それ観光じゃなくて旅行じゃねぇの?」

 風吹く大陸と呼ばれるのは『フリューゲル』と呼ばれる街の事で、それは『トラヴァー』という国の中にある。今いる『ナチャーロ』や私たちの故郷『ガルモーニャ』は全て『クルィーロ』という国の中の街なので、街跨ぎ所か、国跨ぎである。寄り道所か、帰り道ですらない。

「まあまあ、息抜きだよー。戦ってばっかで疲れたでしょー?」

「まあそれはそうだけどな。いいや、ついでにあいつにも用があるからな」

 という事で、私、狐火木ノ葉とルフ、フィノとウィンディーネの一行四人は風吹く大陸『フリューゲル』へと向かう事になった。




 カタカタと機械に何かを打ち込む音が響く施設内部。

「どーしたって言うんだよ、いきなりいいい!」

「そんな事言ったってしょうがないでしょ! さぁ、真相解明よ!」

 パネルに目をやりながら二人の男女は話し合っていた。

「モジュールも効かないとなると、いよいよだぞ?! あの膨張し続ける積乱雲をどーにかしないと俺たちに未来はない!」

「たかが積乱雲程度、ちょちょいのちょいでーー」

バチンッ!

「っいだぁああああああああああっ?!」

 今日は眠いので寝ます。後書き楽しみにしていた人にはすみません。

 良い子は寝よう、と言いつつこの時間帯に投稿する悪い子でした、おやすみ、すやあぁ。

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